イギリスの自治体改革とベスト・バリュー
時差ぼけなのか,早朝に目覚めてしまった。ホテルがハイドパークの近くで散歩にでかけた。数ヘクタールの公園に人影もまばら。思い思いに,ゆったり,悠然と散歩する人々の姿に,大都会にいることを忘れ,いかにもイギリス的な感じがある。
しかし,その静寂も7時を過ぎると一変した。月曜日なので通勤客の人並みと自動車の騒音があわただしい日常を伝えてきた。
今日は,明日と明後日のヒアリングに備えて訪問先の下見,資料の収集,ロンドン(訪問先のニューハム)の散策を楽しんだ。街角に漂う長い歴史や伝統に触れ,頑なに古きを守るイギリスの空気に,明日からの訪問にちょっと不安が頭を過ぎった。
さて,1998年に出されたイギリスの自治体改革白書・「Modern Local Government In Touch with the People(現代の地方自治体―市民とともに)」の序文に,要約すると次のようなことが記述されている。
自治体の改革は,品質の高い行政サービスを人々に供給するためにある。地方自治体を近代化する我々の課題は,ビジョンと指導力をもって,身近なところで,様々な課題に対処できることが重要である。我々の目的達成へ貢献し,行政の品質を高めるために,他の自治体,民間,市民とのパートナーシップを進めなければならない。
このため地方自治体は,古い習慣と態度を改革する必要がある。国内では,多くの地方自治体が既に新しく創造的な評価手法を採用した。大切なことは,地方自治体中の文化の基本的なシフトが不可欠である。地方自治体が外の変化に敏感であること。これにより,地方自治体がいたる所で人々の幸福に,人々の権利に貢献させるだろう。
新しい体制は,共同体のリーダーにより一層適合した地方自治の方法を開くだろう。議員の役割,キャビネットシステム,直接選出される経営者市長からの分離,地方選挙のための革新的なアレンジメントを十分に試しながら,地方の民主主義は改良されるだろう。
評価指標と効率測定にリンクされ,最も良い値を得る地方自治体,そして,良い地方のサービスを開始するために一生懸命働いている人々は感謝に値する。我々は,十分動機づけられた人々とよく訓練されたスタッフの正しい仕事を応援する。
この白書は,変化の道筋の1ステップにすぎない。地方自治体は,多くの変革への課題を持ちながら,地方のレベルで何がそれらの領域に最もよく適合できるかを既に計算し始めている。我々はこの過程が続いて,
成長して欲しい。こうした変化を捉え,あらゆる自治体がその役割を果たして近代化を成し遂げたとき,勝利は,わが国の人々にもたらされるであろう。
さて,この白書の序文には,次の4つのキーワードが含まれている。
権限委譲
パートナーシップ
組織文化のシフト
ベスト・バリュー
「身近なところで,様々な課題に対処できる」。日本よりもさらに中央集権的な自治制度にある英国もやはり権限委譲が地方自治の課題で,分権の世界の潮流を示している。
PFIは,パートナーシップのひとつの形と言える。イギリスの資料には必ずと言ってよいほど「Consult(協議)」という言葉が登場する。これがパートナーシップ推進のもとになっている。
組織文化のシフトは,日本の国や自治体でも最大の課題だが,イギリスでもやはり同じ。訪問先で,「いかに職員の意識を変えたのか」を尋ねてみたい。
ベスト・バリューは,今回の最大のテーマであるが,事前に資料を読むにつれて,イギリスの国や自治体の並々ならぬ決意を感じさせられるものがあった。
英国の自治体改革は,スコットランド議会の創設,ロンドン市長の公選,イングランドにおける8つの地域開発公社の設立など矢継ぎ早である。ベスト・バリューは,37自治体のパイロット事業を経て,本年4月から本格実施に移されている。
※英国の主な改革の系譜
明日からのヒアリングの前に,ベスト・バリューのアウト・ラインを紹介しておこう。
「Modern Local Government In Touch with the People(現代の地方自治体―市民とともに)」の第7章に,「最も価値の高い地方のサービスへ改善すること」としてベスト・バリューの導入について述べている。
現状でどのぐらいの量と質のサービスを提供しているかを測定して,将来のサービス向上の具体的な目標を設定し,毎年評価していくベスト・バリューの仕組みの原型が以下のレポートにある。
※以下の引用はサマリー部分です。
地方自治体のより質の高いサービスが人々の生活を豊かにする。地方自治体はその提供の義務を負っている。国などが設定する効率,
費用および品質のための新しい業績評価指標について,それぞれが目標を定めなければならない。現状から向う5年のわたるサービスの基本的な改善見通しを明らかにしなければならない。
そのレビューには次の評価を行うこと
- サービス供給がどのような手段で,どのような理由で行われるかを評価すること
- 他の自治体などとのサービスを比較すること
- サービスの改善について納税者,サービス提供者,民間企業などと協議すること(地域の利益を向上)。
- 効率的で有効なサービスを提供するため競争を行うこと。
自治体は,新しい業績目標を設定すること,そして毎年達成の度合いを報告すること。
新しい監査と点検を行う.外部の監査役は,,これらの結果が正確であることを保証する。そのため,すべての地方のサービスの定期的な点検の客観的で独立した監査を行う。
自治体の重大な失敗や不作為には,政府は迅速に是正に介入する。. |
最後に,こちらの説明の方がわかりやすいかもしれないが,イギリスの環境交通地域省でもらった市民向け(?)の小冊子にあったベスト・バリューについて引用する。
地方自治体は,学校,道路清掃,ホームヘルパー派遣,住宅および公園,駐車場に至るまで,コミュニティにとって重要で必須のサービスを提供し、私達すべての信頼に応えてくれます。そしてさらにより良いサービスを目指して熱心に働いています。政府は,それらを助けて、促進するために、ベスト・バリュー政策を取り入れました。
ベスト・バリューとは?
- 地域の住民によりよい品質を妥当なコストでサービスすること
標準的方法
- 地方自治体は,5年以上のすべての行政サービスをレビューする。
- 難しい目標を立て、それらを改善することを課する
- どのようにそれを達成するかの計画を策定する。
協議をするためサービスをレビューする
- 私達がこれを行なう理由はなにか?。私達はそれよりよい方法はできるか?
- 地域の住民,団体に相談しているか?自治体職員には、どのようにすれば、それらをよりうまくすることができると思いますか? サービスを提供できる他の組織はないか?
- 他の自治体,同様な組織と比較する
- 委託できないのか,パートナーシップのために他の公共団体、企業,NPOに機会を与えているか?
地域の人々に発言する機会を与えます
- 自治体は地域の住民・団体に相談しなければならない。あなたがそれらのサービスをどう見なし、どのようにそれらが改善できるかを提案することができる。
- 自治体はそれらのベスト・バリュー業績計画を策定する。よってあなたは、彼らがどんな進歩をしたかが分かる。
- ベスト・バリュー業績計画は監査される。独立なチェックがあるのを意味する。
関係する
あなたの発言をお寄せください。自治体の議員に連絡してください。相談とアンケートに答えてください。多くの自治体は、公衆のために開いています。自治体は、居住者と企業にビジネスに情報提供を行う。多くの自治体はインターネットでベスト・バリュー業績計画を公開します。そして、すべての自治体はベスト・バリュー業績計画のキーポイントの要約を提供します。
なお,具体的なベスト・バリューの実施についての詳細は,今後のヒアリングの過程で報告していきたい。
ニューハムを訪ねて
今日は,観光客の行かないロンドンの一面を見てきた。15日にニューハムを訪問するが,ヒアリングは2時間のため,事前にまちの資料を調べるために図書館などを訪ね,まちの様子も”視察”してきた。
ロンドンに来て買ったLondon A to Z(観光客お勧めの地図)には,タウンホール(区役所)の位置が表示されておらず,最初は隣まちのBrarkingの方へ間違っていってしまった。間違ったついでにベスト・バリューのパンフレットをもらってきた。パンフレットというと怪訝そうな顔をしていた。10ページぐらいなのだが,ブックレットと言うらしい。
ニューハムはその目と鼻の先,二キロもない距離にある。歩きながら様々な驚きに遭遇した。まず第一に,イギリス人は塀をつくるのが好きらしい。サッカーなら3面ぐらい取れそうな芝生だけのレクリエーショングランドを塀が取り囲んでいた。また,16世帯ぐらいのアパートも庭に頑丈な鉄製の柵があった。よくみるとニューハムが開発した低所得者向けの住宅。駐車スペースや庭も広く,下の写真の住宅とは大違いだ。暮らし,働くためにエキサイティングな場所というまちのキャッチコピーが示すとおり快適な住宅づくりを進めているようだ。
歩いていると下の写真のような住宅によくお目にかかる。ロンドンでは典型的な庶民の住宅で,うさぎ小屋といわれた日本の住宅と遜色はない。賃貸の公営住宅かと思っていら,買取らしい。イギリスは,持ち家の促進を政策にしていたのでその名残であろうか。1階がLDK,2階がベットルーム。計58平方メートル。いくつかの家が,8万ポンド=1千300万円ぐらいで売りにでていた。都心部から地下鉄で25〜30分,駅からは徒歩圏内でこの価格。高いか安いかは別にして狭さが気になった。

あちらこちらで見かける住宅
まちの施設ではないが,Jobs Centreを見つけた。本業が生活保護だからちょっと気になって覗いて見た。労働教育省の管轄で職業安定所のようなもの。雇用保険(?)の書類を受け取り,向いの郵便局で換金するため結構長い列をつくっていた。イギリスの失業者の一旦かもしれないが,やはり覇気がない様子。センターの中は写真撮影はだめと言われたが,求人票などを見せてもらった。求人票を見て,カウンターの職員(相談の担当は8人)に相談して,紹介の書類をもらい面接にいくのは日本と同じようだ。雇用保険の担当らしい人も4名ほどいたが,雇用保険という英語が分からず聞けなかった。
パートタイムの求人が多く,スーパーの店員やベットメイクで,時給3.8ポンド(約630円),コーヒーショップのコックが時給11.5ポンド(約1900円),ホームケアアシスタント8.5ポンド(約1400円)など。店員などは,札幌の水準より低い。東京に比較したらもっと低いと言える。ロンドンは結構物価が高いので,生活保護の経験が長い職業がら,低所得者の生活が気になった。常勤は,カウンセラーのアシスタント年15000ポンドのほか,ほとんどが15000ポンド以下(他は具体的な職業はわからない単語が多く省略)。

立派に見えないが,中はカウンターにコンピュターがならぶ。
あちあこちら見て歩いてようやくニューハムのタウンホールにたどり着いた。

雰囲気は教会のようなタウンホール
隣に図書館があったので,まちの資料を閲覧した。受付の職員に中国人かとまた聞かれた。気さくな感じだが,プロレスラーが似合いそうなタイプ。一人で貸しだし・返却を担当しているが,月曜だというのに客が多く大変そうだ。閲覧コーナーで資料を見ていたら,お年寄りに話し掛けられた。ベスト・バリュー・パフォーマンス・プランを調べにきたといったら,聞いたことがないらしい。受付の職員にも聞いてみたいと思ったが,15日のヒアリングの前なのでやめておいた。
タウンホールの受付で,まちの概要のブックレットをもらった。エントランスには議会の日程表が掲示されていたが,1年間の日程が決まっている。議会はCouncilと言われる。ほとんど無給に近い職。選挙で選ばれるが,議会はいくつかの小委員会に分かれ,委員会後ごとにスケジュールが書き込まれている。それぞれの委員会は,月1日程度。すべて7:15PM(一部土日が昼から)の開催。議員だけの小委員会もあれば,市民の参加したパネル(市民意見を行政に生かすために,意見や要望を吸い上げる参加型の組織)などのほか,職員も参加するベスト・バリューワーキンググループも議会日程(Council
meetings)に掲載されいた。15日に内容を尋ねてみることにする。
いよいよ明日から訪問調査。今日は,ウォーミングアップに環境交通地域省などにも立ち寄って資料をもらってきたが,ニューハムと異なり,ちょっと緊張が走る。長旅とロンドン市内を歩きまわった疲れが多少残っている。今日は,せっかくのロンドンでもったいないがニューハムのブックレトでも読みながら早寝することにしよう。
(イギリス一口余話)

ニューハムで面白い横断歩道を見つけた。中央部にコンクリートの支柱(写真中央の黄色の柱)が横断歩道を挟んで設置してある。途中までわたって立ち止まっても安全ように配慮しているようだ。まちの至るところにこのような支柱がある。信号機がないところにも設置してあり,この支柱を上手に使って横断する姿をあちらこちらで見かけた。それにしてもイギリスの人はほとんど信号を守らない。安全は自己責任というお国柄のようだ。
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