イングランドの中部・Nottinghamに向かう列車の中でこのレポートを書いている。すっかり冬めいた雰囲気の車窓から眺めるイギリスの田園風景がちょっと寂しさを醸し出している。先月の列車大事故後の点検で,全国のレールに亀裂が見つかり,水害と重なって列車はいつでるか駅に行かないと分からない有り様。でも,何とか列車に乗ることができた。
明日は,ノッティンガムのPFIについてヒアリングする。その前に,英国のPFIの現状に触れておこう。
さて,イギリスのPFIの基本は,民間へのリスクの移転とサービスの購入という特徴がある。契約の種類として主なものは,次の4つである。これは,民間がどこまでするかということを示している。イギリスの地方自治体が行う形態は,設計・建設・資金調達・運営と民間企業に多くのリスクが移転するDBFO型を基本としている(政府が決めている)。
*設計・建設・資金調達・運営=Design Build Finance and
Operate(DBFO)
*設計・建設・経営・資金調達=Design Construct Manage and Finance(DCMF)
*建設・所有・運営= Build Own and Operate(BOO)
*建設・所有・運営・譲渡=Build Own Operate and Transfer(BOOT)
また,PFI手法は,下表のとおりに整理できる。
| 類 型 |
特 徴 |
事 例
|
| 公共サービス提供型 |
設計,建設,資金調達,運営を民間セクターに託す。契約期間中,公共セクターは利用料(影の料金=Shadow
Toll)を支払,サービスの提供を受ける。 |
道路,刑務所,学校,病院,庁舎など |
| 自 立 型 |
公共は,事業許可と計画などに関与。民間事業者は,利用料のみで事業をまかなう。
|
有料橋,博物館,駐車場など |
| ジョイントベンチャー型 |
公共からの補助を受けて,民間セクターが建設,運営を行う。 |
英仏海峡トンネル連絡鉄道などの鉄道事業,都市開発プロジェクトなど。 |
イギリスに到着時に載ったヒースロー・エキスプレスや今回訪問するノッティンガムのライトレール(路面電車)はジョイントベンチャー型
である。
PFIとは,公共の債務を縮小して公共資本の民間所有を促すことが本質にある。効率性を追求し、リスクを管理し、責任体制を明確にして,公共主導の事業手法を民間手法主導に進めることにある。この点,アウトソーシンクが,「公共がサービスの仕様を決めて,公共資金から支払を受ける仕組み」であるのに対して,PFIは「設計,建設,資金調達、管理や運営まで可能な限り民間にゆだねる」ことに両者の根本的な違いがある。アウトソーシンクがコスト削減を主目的にしているのに対して,PFIはコスト削減や効率性、民間のノウハウを活用した質的な拡充,資金調達の多様化などが期待できる。
PFIの特徴は,施設を購入することではない。サービスを購入することと言われている。訪問先のライトレール(路面電車)で言えば,電車とレールそのもではなく,「市民を短時間に目的地に輸送する」というサービスを購入することになる。また,そのサービス水準や質は,「運行は何回」ではなく,「乗客の停留所でも待ち時間は10分以内」などサービスの結果を重視しているのが特徴だ。概して日本は釘ひとつの仕様まで決めている。PFIの特徴は,性能を求めることにあると言える。このため,契約にはサービスの水準を明記したアウトプット仕様書が最大のポイントのひとつである。
こうしたPFIにも問題は少なくない。多くの企業が複合して関わることが多く,調整に手間取ること。また,総合的なマネジメントがかける恐れがあることだ。今日の英国の鉄道が麻痺しているのは,鉄道の所有会社,運行会社,貨物会社などが多数の企業が存在して総合マネジメントを担う機関がない。それがマヒを大きくしている。英国鉄道はPFIいではないがその例が問題点を如実に示している。
こうした問題点は,労働党のブレア政権が発足した1997年,ベイツレポートが指摘。大蔵省に設置したタスクフォースが,問題解消のため技術指導などを積極的に行っている。PFIのマニュアル作成,相談,PFI図書館の設置,インターネットでの情報提供,研修などのサポート活動など多彩。単に導入を決めるだけではなく,円滑に進むようサポート機能を充実するのが何につけても英国流と言えそうだ。
ところで,地方自治体でのPFI導入の歴史は浅い。1997年の地方自治法改正により道が開かれた。自治体の場合,タスクフォースの設置した「評価チーム(Project Review Group)」の承認を受けることが前提である。99年末で英国全体で90前後の事業が承認を受けている。今回訪問のノッティンガムはその草分け的な重要事業のひとつ。自治体の例は,まだまだ少ない。年間6〜7千億円と言われる全国の投資額の約4%に過ぎない。英国のPFIも未完成の手法。PFIの数だけ考え方があると言われる。
こうした英国のPFIの現状を踏まえ,自治体での取り組み事例を明日ヒアリングしてきたい。守秘義務の関係で,すべての資料は出せないと予め言われている。しかし,日本の第3セクターの失敗のようにはしたくない。そんな思いを抱きながらノッティンガムへやってきた。
(はじめての英国鉄道に乗って)
今日はちょっと不安な旅だ。ダイヤが乱れているとは言え,駅に行くまで列車の時刻が分からないなって初めて経験である。個人旅行の醍醐味かもしれない。駅でディスプレイの時刻表示をみてほっとした。午前中には2本,ノッティンガム行きの列車があった。
イギリスの鉄道チケットも各種ある。金曜日には使えないチケット,早朝に出発して,夕方の着く場合しか使えないチケットなど。一番安いチケットにした。往復は,Returnという。確かに往復を買った。33ポンドだった。列車にのって,もう一度パンフレットを読んだ。片道33ポンドと書いてある。窓口の人が間違ったのだ。発車の後で,気がつくのが遅かった。係の人には悪いが,ちょっと得した気分。今日は豪華ディナーにしよう。
10時,定刻どおり発車した。ようやく一安心。ゆっくり車窓を楽しんだ。でも,生憎の雨で景色がすさんで見えるのが難点だ。この鉄道の車両はひじょう狭い。私にはちょうどよいが,向かいの席の大学生は,シートから体がはみ出している。席の間に大きなテーブルがある。パソコンや新聞も広げられそうな大きさだ。VAIOを使っていたら,向かい側の学生が「良いパソコンだ。いくらするの」と話し掛けてきた。ノッティンガム大学の学生。こちらの学生は勉強熱心。乗っている間,設計の計算をし続けていた。今は,パソコンの時代なのにと思った。
ロンドンを出で30分もしないうちに,田園風景が続く。車窓からの眺めを楽しむのは久しぶり。紅葉の名残が,枯れた木々に茶や黄色の葉を残している。初冬のイギリスの風景は,どことなく物悲しい。牧草地のようだが,羊や牛の姿は見かけない。レンガ造りの跨線橋があちらこちらにある。いかにもイギリスの風景だ。目的地の中部地方まであまり大きな都市は見かけない。最初は雨で,小高い牧草地の虹がかかり美しい。こちらの列車は携帯電話が禁止でないらしい。車内のあちらこちらで携帯がなる。バッキンガム宮殿の衛兵が携帯電話禁止になったのが理解できる。仕事中の衛兵の携帯が何回もなり,エリザベス女王が激怒。つい最近禁止になったそうである。
予定の時刻を過ぎても目的地はまだまだ。車掌に聞いても後1時間。さっきもそう言ったではないか。と思いながらきがきではない。車窓から初めてホルスタインと羊が見えた。北海道の風景と同じだ。列車は1時間半遅れて,ようやくノッティンガムに滑り込んだ。遅れても車内アナウンスで何も説明もなく,何も謝罪しない。これが英国流なのだろう。何はともやら目的地に着けた。これが4時間,列車の旅の初体験だ。

駅から5分のノッティンガム城が中世の世界へ誘う。
ロビン・フットの故郷にふさわしい佇まいだ。
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