ベスト・バリューの実際(ブレーンツリー)
今日は,最後の訪問先・ブレーンツリーを訪ねた。37あるベスト・バリューのパイロット自治体のひとつである。
| (ブレーンツリーの概要) エセックスの北東に位置し,昨日訪問した県都・チェルムスフォードから列車で,20分程度の距離にある。イギリス的な田園風景が続く田舎町。パリッシュと呼ばれる多数の集落からなる。人口は,13万2千人。駅を降りるとすぐ住宅街で,そんな人口を抱えるまちには見えない。集落が分散しているためだ。中心のブレーンツリーというパリッシュは,5万5千人のまち。今回の訪問には,ひじょうに好意的で,駅までの送迎をはじめ大変親切な対応であった。担当のマネージャーは,7年前まで化学メーカーの品質管理を担当。転職した経歴の持ち主。みずからTQMの著作もあるMBAである。 |
「成果指標とは,きわめて政治的なものだ。政治家とじっくり話をしなければ設定できないもの」という言葉が,イギリスの政治風土を象徴している。議員の主導権が強いお国柄ならではの考え方だ。
政治的に正しいか。
自治体にとって本当に必要か。
自治体が行うべきか。
最終的には,この3つの視点で議員との議論のなかで決定するのが成果であると語っていた。「政治的に正しいか」とは,政権党の考えに沿っているか。一方,「社会的に正しいか」という言葉がある。これは,一般市民だれがみても支持することかということが判断基準である。労働党と保守党と言う2大政党制からくる考え方で,政治風土の異なる日本に直接あてはまることではない。しかし,最後は政治的な判断と言う点では変わりがない。判断を行政が代替するのが日本のやり方であろう。その過程に市民のニーズや意向をいかに汲み取っていくかが求められている。
成果の考え方を3つの例から説明してくれた。
この街にある街頭のケーブルテレビの話題がでた。犯罪を抑止するため,街角のあちらこちらにテレビカメラが設置され監視している。トラブルがあれば警察に通報がすぐ行く仕組みである。常にテレビをみていなければならない。大変な作業である。この効果は何かと考える。犯罪の抑止効果を数値化はできない。しかし,市民が求め,あることによる安心感がもたらされる。効率性を追求すればはなはだ疑問の事業だろう。政治家(市民のニーズを代表いている)が必要性を感じている。行政のサービスは,物を生産する場合とは異なる。極めて政治的だと言った意味はここにある。
また,福祉の例を挙げて,福祉の目的は地域の人がすべて福祉サービスを受けることではない。究極的には,誰もが福祉サービスを受けなくてもよい社会にすることだ。この究極の成果はとても実現できるものではない。それでは成果をどこに置くのか。福祉を受けなければならない自体を最小限にすること。受けなければならないときにいつでも公平に迅速に受けられること。それが成果である。
埋め立てが主体のゴミ処理を行う英国では,不法投機が大きな問題。投機があれば,迅速に1日で片付けること,または厳格に対応して告訴をするめることでは行政の対応がことなる。告訴まで考えると監視や証拠の収集までしなければならない。どこまでを行政の役割と考えるかで成果は異なる。以上のような説明をしてくれた。
それでは実際の作業はどのようにするのであろうか。ベスト・バリューの以下の問いかけの作業は,課単位で行う。マネジャーの考え方で,マネージャー自身が行う場合,アシスタントにさせる場合など課の主体性に任される。これで記述された事項は,長がサインして責任者となる。これを基にチーフエグゼクティブまで協議を経て,最後は議員と直接話し合いを行い最終的なパフォーマンスプランになる。評価シートのようなものはないが,以下を基本にまとめる。
基本は,業績評価手法と変わりはない。違いは,説明責任を果たすのは誰かが明確であること。日本の場合は,誰が決めて責任者なのかあいまいなまま行政評価を導入していることにある。
次にコストの計算について聞いた見た。I&DeAではコスト計算は,減価償却も考えるという話を聞いた。しかし,施設の運営などは,運営経費を利用者一人あたりで算出して比較するが,減価償却は含まないということだ。運営経費は,自治体監査機構の標準的な計算方法で行い,全国のトップ25%自治体のコストと比較する。かなり大雑把で,日本なら全国の平均など,気候,物価など諸条件が異なり無理と思われる。しかし,標準タイプで計算することに何ら疑問を感じていないようだ。ひとつの基準で,高い安いの比較ができればよいという割り切りだ。仮に標準より高い場合は,自治体監査機構から指摘を受ける。ただ,標準をかなり上回っても特別な地域の事情があれば,問題にされることはない。
さらに,組織への浸透の問題について聞いてみた。ニューハムでは,担当以外のメンバーも加えた開発チームを結成して,計画づくりを行っている。一方,パイロット自治体ではないエセックスでは,ベスト・バリューの担当部局がまとめてしまっている例と両極端を見てきた。これに対して,ブレーンツリーは,作業を各課に投げかけている。その後は,各課の主体性にまかされる。日本の行政評価の現状に似ている。現場の関心の度合いは,まちまちである。ただ,ブレーントリーの場合,20年以上前からQC活動の伝統がある。マネージャークラスの研修は実施していて,意識は高い。現場までの浸透は弱いようである。
市民の意識調査などは,他の自治体と連携して行う予定だが,現在は未実施。政治的には無関心層が多い。地方議員選挙の投票率が20%程度ということ。したがって,ベスト・バリューについて直接の声は聞かれない。今後,政府のガイダンスにあった顧客満足調査が協議の中心になるようだ。
ブレーンツリーもかなり詳細なベスト・バリューのマニュアルを構築している。資料はいただいたが,現場への研修などはこれからで,組織にシステムとして根づいているとは言えない。また,政治家も同じ。ベスト・バリューで優先度を決めても,そのとおりにはいかない。従来の予算配分は,議員,チーフエグゼクティブなどが声の大きいところに付けるシステム。ベスト・バリューができてもその体質は変わらない。市民が関心をもって,計画の内容を注目してくれるようになって,予算とベスト・バリューがリンクできるシステムになるだろうと話してくれた。
(終わりに)
今回は,ベスト・バリューを中心にヒアリング調査を行った。2つのサポート組織,3つの自治体を回ったが,それぞれに温度差を感じた。ベスト・バリューは,日本の行政評価と同様に,導入段階と言える。様々な問題を抱え,解決を模索している。その問題は日本との共通項が多い。解決方法は今後も日本にとって有効な情報と言えよう。
一番,日本との相違を感じたことがある。責任には3つの種類があるということだ。説明責任,賠償責任,執行責任。日本はこの3つを一緒に考えている。評価システムを導入したとき,評価者はだれなのか。その成果と成果に対する説明責任を果たすものは誰なのか。イギリスでは明確で,責任を果たすことに躊躇はない。むしろ責任を果たすことが,自らのステータスであり,喜びであるというふうに思えた。これは,日本の責任の解釈が異なるから。腹切り文化の日本は,責任=責められるという意識が強い。だから,業績評価手法で最も大切な成果指標の設定と目標が明確にならない。
説明責任という言葉がわが国でも一般的になってきた。しかし,説明責任の「責任」はやはり「腹切りの責任」と見てしまう。欧米の枠組みだけを導入しても,内に有る精神を浸透させなければ機能していかない。それを再認識した旅でもあった。
ベスト・バリューは,サッチャー政権の行革路線を見直して導入した制度。見直しが過ぎて,品質が低下した英国の鉄道にのって,サッチャー政権の残した問題点の一部を見たような気がする。成熟しきった英国で,次々に更新時期を迎えるインフラ整備を意識したPFI。効率性重視で低下した行政サービスで,品質向上を目指すベスト・バリュー。しっかりと将来の変化を見据えた大英帝国の戦略が見えてくる。
今回のレポートは,お話を聞いた一部を紹介したもの。いただいた資料やマニュアルの分析はこれから。日本の行政評価に参考になる情報は多い。今後,内容を十分検討して,成果を報告書にまとめ,このページで紹介したい。旅の過程でまとめたレポートで,誤字脱字,そして分析の不十分さが多かったが,今後,しっかりとした報告にまとめることでご容赦いただきたい。
最後までお読みいただいた皆様に感謝いたします。
今日は,ロンドンの最終日。明日は,帰国の途に着きます。あっと言う間の2週間が過ぎました。慣れないイギリスでの研修にちょっと疲れを感じながら,大変有意義な研修でした。
研修にあたりましては,群馬県庁の稲澤様にロンドンの経験を生かしていろいろアドバイスいただきました。また,行政経営フォーラムの皆様から示唆に富んだ情報提供をいただきました。厚くお礼申し上げます。
この間,全国各地から励ましのメールをいただいた。札幌市の職員の皆様,行政経営フォーラム,甘木市事務事業評価システム研究会の皆様などの励ましが,この研修の糧になりました。どうもありがとうございました。
最後に,この研修の機会を与えてくれた札幌市及び札幌市自治研修センターの皆様,心良く送り出していただいた職場の上司・同僚の皆様,そして留守を守ってくれた妻の恵子,娘の佳那に感謝を申し上げます。
帰国後が,この研修に多大な税金を使っていただいた市民の皆様への「Value
For Money」が試されるとき。ヒアリングの結果やいただいた資料は帰国後に詳細な検討を行って,報告書にまとめます。そして,自らの今後の役所生活の仕事の進め方に生かすとともに広く札幌市及び全国の関係各位のナレッジとして共有をはかりたいと思います。
毎日,多くの皆様に私の稚拙な文章をお読みいただきました。この場をお借りして謝意を表して筆を置きます。ありがとうございました。
2000年11月24日 ロンドンにて
札幌市職員 長谷部英司
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