2 行政評価の導入状況

 (1)   行政評価の類型と特徴

行政評価は,行財政危機への処方箋として主にNPMの考え方に影響を受けて欧米で発祥し,日本国内において国,三重県をはじめ全国の自治体へ加速度的に広がりを見せている。
 民間の企業経営の手法をできるだけ行政に取り入れるこの考え方は,表2−1のキーワードに整理される。

表2−1 NPMのキーワード
  • 市場競争原理
  • 権限委譲
  • 成果志向アカウンタビリティ(説明責任)
  • 顧客志向


 行政は,サービス産業と言われる。顧客は,税という対価を支払う市民であり,税に見合う成果を求めている。一方行政は,常に税の使い途や成果について顧客である市民に説明し,成果を達成する責務を負っている。
 行政評価の根底には,このような成果志向や顧客志向などの考え方が脈々と流れていると言っても過言ではない。
 さて,行政評価は目的,対象,評価の時点,手法などにより様々に分類できる。主に,実施主体による「内部評価と外部評価」,評価の時点による「事前評価,事中評価,事後評価」,対象による「政策評価,施策評価,事務事業評価」などに分けられる。
 グループとしては,特に注目できる題材を,表2−2「行政評価の類型と特徴」に整理してみた。
 評価の目的に応じて様々なタイプが見られる。

 まず,行財政危機に対応して,停滞した事業などの見直しのために行う再評価タイプがある。代表的なものが北海道の「時のアセス」,札幌市の事業再評価などが挙げられる。
 次に,費用対効果,費用便益分析など科学的な手法を用い,大型公共事業の可否を評価する公共事業評価は事前評価の代表例と言えよう。
また,全国的に有名な三重県の事務事業評価は数値目標に対して達成度を測る目標管理型で,静岡県の業務棚卸表は,目標に対して業務の無駄・問題を発見し,適切な手段を設定するもの。
 ベンチマークは米国オレゴン州が発祥地で,行政の基本課題を把握して数値目標を設定し,達成度の経年変化を測るものだが,市民参加,市民と行政の協働が大きな特徴である。
 このほか,事業の効率性に着目した執行評価,行政サービスの質を問うものが挙げられる。
 さて,以上のような事例は現在進行形の手法であるが,次項でその特徴を詳細に検討して札幌市への導入,活用の可能性について考えてみたい。

 表2−2行政評価の類型と特徴

 (2) 行政評価の事例紹介

表2−2に整理した行政評価から次の事例を取り上げて詳述する。 

@       オレゴン州のベンチマーク

ベンチマークは企業の経営手法のひとつである。これは,目標とする他の組織や自らの水準(数値目標)に対して現状を評価して,経年変化を見ながら客観的に比較・分析して改善を図るものである。
 オレゴン州は
1980年代にこの手法を取り入れ,知事と市民の代表からなるプログレスボード(独立委員会)を設置して市民との協働作業により目標設定や評価,改善を行う独自のベンチマークス評価を構築した。
 これは州の戦略計画と一体の数値目標を,30回近いタウンミーティング*5,郵送によるアンケート調査,面接による意識調査や専門家の評価などを経て,州と市民が設定しているのが特徴である。
 さて,ベンチマークを整理すると次の4つの利点が挙げられる。

  • まちの課題と方向が数値目標で明確

  • 市民に分かりやすい簡易性

  • 市民に共感を呼ぶ指標で高い共有性

  • 市民と協働する行政経営


 ベンチマークは,社会,経済,環境,教育などの諸分野の状況を指標で捉え,成果に焦点をあて,結果志向を継続することで,何がまちにとって重要か,有効かを知ることができる。
 また,指標の達成度を測ることで,問題を発見し,改善への方策を探る。個々の事業ではなく,全体の最適な状態を目指すため,政策目標の管理に有効と言えよう。
 さらに,成果が一目瞭然で,優先的・重点的になすべきことが容易に判断できる。評価そのものとともに,プロセス(問題発見―分析―改善)を今後の行政運営に活用できる科学的管理手法として優れている。

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A       三重県事務事業評価

三重県が先駆的に取り入れた事務事業評価は,数値指標を設定して達成度を図る目標管理型のシステムである。簡便で専門的知識が不要なことから,全国の自治体に波及している。

札幌市で試行している事務事業評価もこのタイプで,具体的な評価のポイントは次のとおりである。

表2−4 目標管理型の評価のポイント
  • 目的を明確化する(対象,意図,結果)

  • 目的の達成度(=アウトカム*6)を示す成果指標を設定

  • 数値目標と成果(目標達成度)を比較

三重県の評価システムは,政策評価であるベンチマークに対して,図2−1のとおり,事務事業と施策を対象範囲しているのが特徴である。

事務事業の相対比較を行い,@重点的に資源配分するもの A目的や方式を再確認し,更なる成果向上,コスト削減に努力するもの B事務事業の統廃合を行うもの Cコストを削減し@へ資源を振り向けるものに4分類し,基本的な改革方向を決定する。評価を意識して策定した総合計画と評価システムが大きなツリー状態に体系化されている。

事務事業からはじまって,ボトムアップにより上位の施策,政策の連鎖をつくり,互いの貢献度を比較し合うことができる。また,事務事業を目的(「何,誰を対象に」「どういう手段で」「どういう状態にしたいか?」)から見なおして,成果という具体的なアウトカム=成果指標で測り,特に予算,所要時間というコストと効果を比較し,事業を評価していくシステムと言える。

■図2−1 

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評価表の項目は表2−5のとおりで,目標管理型の行政評価を導入している自治体のモデルとなっている。 

■表2−5三重県事務事業目的評価表の主な項目

1.        成果と目的

 対象,意図,結果,根拠法令,財源内訳,全体計画,事務事業の指標(活動指標,成果指標),総合計画の目標,予算及び所要時間等の推移

2.        環境の変化

  開始当初または5年前と現在の環境の比較,今後の予測

3.        評 価

公共関与の妥当性, 県の関与の妥当性,意図の妥当性,手段の妥当性,事務事業のポジショニング など

4.        改革案・予算要求案

改革の方向性,方法改善等の概要,改革後の事務事業の概要,改革による予想効果

B       静岡県・業務棚卸表

静岡県に代表される業務棚卸表は,係単位で進める作戦を簡潔かつ体系的に文書化して,組織の目的と手段,達成目標を明示するとともに,成果を評価して経営改善のための分析を行えるようにしたものである。
 評価対象が事務事業ではなく政策・施策単位で,職員・組織単位が一定期間内で業務を通して,何をどのようにして実現させるかを把握することがポイントである。
 業務の「目的・手段の樹木的(連鎖的)構造」が特徴で,漠然とした日常業務を体系化することによって目的と手段が明確となり仕事を分析するのに役立つシステムである。

   ■     表2−6 静岡県業務棚卸表(抜粋)2.h3.gif (10189 バイト)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

表2−7業務棚卸表で分かること

  • 行政の目的 「何のために仕事をしているのか」

  • 目的を達成するための仕事 「どのような仕事をやっているのか」

  • 目標と達成状況=数値「どこまで進んでいるのか」
    ※静岡県HPから作成

C       イギリス―市民憲章,地方自治体業績指標

イギリスは,税金に見合う成果という視点で市場競争原理を導入したり,全国の統一した指標を設定して,市町村のサービスを同じ土俵で競わせるなど,中央主導のシステムである。

 まず一つが1991年導入した「市民憲章(Citizen's Charter)」で,政府が提供するサービスの水準や質を国民に約束する制度である。地方自治体にも広がりを見せ,運輸,教育,健康など様々な公共サービスにも及んでいる。

 約束するサービス水準や質は数値で示され,目標を管理する点で行政評価と言える制度である。事前に約束した数値目標の達成度をモニタリングして,結果を公表することは,ベンチマークと同じである。しかし,行政と市民の共有した目標ではなく,行政の市民に対する約束である点が異なっている。

次に,イギリスは地方自治体の外部監査機関として自治体監査委員会を設置しているが,監査の対象が全国の自治体と幅広い。自治体業績指標は監査委員会と自治体が合意した指標で,全国が共通に比較できる制度である。委員会が毎年公表するため,自治体間のサービスの善し悪しが一目瞭然となる。これが自治体間競争を生み,サービス向上の呼び水となっている。いわばベンチマークであるが,情報公開と競争が成果をあげるインセンティブになっている。 

D       定性評価事例
 
 このほか,成果指標を設定する目標管理型に対して,評価の視点を必要性,緊急性,重要性,優先性などの視点で5段階,
ABC評価するなど,ある程度の基準を設定して定性評価するタイプの評価システムも一部の自治体で導入している。

成果指標と事業の結果について,因果関係を実証することが困難な分野も少なくないことから,行政改革における見直や成果指標を補強するものとして活用されている。

■表2−8 定性評価(評価視点の点数化)事例

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E       外部委員会による評価

 行政評価を外部評価,内部評価に分類すると,前者の代表例がオレゴン州のベンチマークである。内部評価は自己評価で甘くなり,信頼性の面で,また評価の客観性を確保するために外部の第三者機関を設置する例が少なくない。

 同州では,知事と市民で構成する委員会を設置し,ヒアリングや意識調査,アンケートなどを実施し,市民主体に指標の設定を行うプログレスボードが有名である。北海道の政策アセス委員会も,評価のみを行う外部委員会タイプで,このほか県レベルでは大型公共事業を評価する委員会の例が数多く見られている。

 (3) 行政評価の傾向

 @ 評価対象

全国の多くの自治体では,三重県の目標管理型の行政評価を導入しているが,対象としては個別の事務事業評価から取り組むのが主流である。我々グループが119月,106の自治体(市と特別区)対象に実施した「行政評価導入に関するアンケート」(以下「アンケート」という)では,64%が事務事業を評価の対象にしているという結果であった。自治省の行革大綱も事務事業の見直しを要請していたこと,また,効果が見えやすい対象であること,厳しい財政状況を反映して,予算削減を目的とした事業見直しに重点がおかれていた事情もある。

しかし,近年では計画や導入当初から政策や施策を視野に入れた評価も目立ってきた。自治体の方向性を市民に分りやすく示すため,個別の事務事業評価を政策や長期計画に活かす試みと注目される。

  A 評価表

評価を実施している自治体のほとんどが,評価表を使用している。アンケートでは,53件中36件・約68%の自治体が表を使用し,使用していないと回答した6件も「試行段階で対象が少ない」,「検討中で評価表ができていない」といった理由であった。

担当者が統一した評価表に記入することで対象事業の内容を整理してその意義を再認識する。評価指標を自ら定義しデータを収集して評価結果を導き出す。この作業を通して職員に担当している事業を見直させることが狙いとされている。また,評価結果を取りまとめやすく,市民にも公開しやすいといった利点も使用されている理由である。

図2−2 評価の視点53自治体の複数回答)               

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B 評価の視点

次に,事務事業評価で評価指標を使用している自治体が32あった。

具体的指標では,どれだけの行政資源を投入したかを測るインプット,その資源を利用しどのような活動をしたかを測るアウトプット,得られた成果を測るアウトカムが主に使用されている。

なお,アンケートで多数を占めた評価の視点は,「費用対効果」(27件),「必要性」(23件),「成果」(21件),「効率性」(20件),「目標達成度」(19件),「有効性」(18件)「優先性」(16件)という結果であった。

事務事業執行の効率化・事業の再評価といった財政状況悪化を反映して事務事業評価が導入された背景が窺える。

また,「市民意識・満足」(18件),「水準」(6件),「事業の質」(5件)といった事務事業の中身を問う視点も見られた。一方,「事業量」(9件),「投入量」(8件)も多くインプットを測る事項もある。現在作成されているの評価表は投入量と効率性・成果重視を意識した設計といえよう。 

  C 評価主体

評価は行政主体で行われている。行政に係る詳しい情報を有しているのは行政機関自身であるし,行財政改革や職員の意識改革,アカウンタビリティの向上を重点的に視野に入れて評価制度が導入されているからである。

数値データを用いて定量的評価を行うことで自己評価に客観性を持たせるよう各自治体が工夫を凝らしているが,本来,行政活動は市民を対象としている。その意義より,自主的に市民参加の外部評価を導入しようとする自治体も現れており,アンケートでも評価にあたっての市民参加の有無については「有り」が12件となっていた。

一般的には,学識経験者や市民代表からなる外部委員会を設置して行政内部で評価した事務事業評価の結果を審議してもらうといったケースが多い。他にも行政評価制度の設計に市民や学識経験者の参加を求めたり,評価の過程で市民代表者からなるグループを組織して行政問題について討議し,その結果を評価に反映させる自治体もある。市民参加による客観性を担保した外部評価を目指す動きが加速してきている。

また,顧客志向の行政が叫ばれている現在,行政評価に市民の視点を導入することは不可欠である。反映させる手法としては従来の市民モニターや市民アンケート調査などがあるが,その結果を指標化している自治体は少ない。これからは市民意識やニーズを調査・分析し,その結果から得られる満足度を評価指標に反映させることが必要である。 

D       公開方法

結果の公表については,アンケートでは「有り」が17件で,手段は「議会報告」6件,「閲覧」「インターネット」各5件,「広報誌」4件,「その他」7件となっている。また,評価の途中経過を公表するところは4件あった。公表についてはあまり積極的でないといえる。理由としては,「評価制度がまだ確立されていない時点での公表に抵抗がある」,「評価結果を市民に公表することについて行政内部でコンセンサスが十分に取れていない」など自治体の慎重な姿勢が窺える。     

E       評価結果の活用

評価結果の活用について,「事業の見直し」30件,「予算に反映」25件,「その他」7件というアンケートの回答。評価表には「Plan-Do-Check-Action」の概念が記されているものが多く見直しが強調されている。評価結果を予算査定に活用されることも少なくない。 

F       研修・認識

どんなに良い評価システムを構築しても,その意義を職員がしっかり理解しなければ,内部の事務改善には反映されない。制度導入にあたって職員対象の研修を行っている団体はまだ多いとはいえない(アンケートでは20件)。評価表とその解説の配布だけで担当者に記入させている団体も多いといえる。研修の対象は総じて管理職となっているが,職員全体に研修して意識改革を図っている自治体もあり注目される。

導入について職員に浸透度が低く,システム構築担当者からは,「評価担当部局と事業担当の現場は意識の乖離が見られる」,「評価表作成手法自体が未完成」,「業務負担増」といった声が聞こえている。

なお,行政評価の傾向を次表に整理した。 

■表2−9行政評価の傾向
  • 目標管理型の評価で,見直し志向が主流である。
  • 市民参加度が低い。
  • 公開方法が不十分である。
  • 体系的な研修が不足し,職員へ浸透していない。

(4) 行政評価の課題 

 @ 評価内容・システムづくり

 まず,行政評価の導入目的を明確にする必要がある。三重県は「職員の意識改革」や「目的意識の醸成」の手段,北海道は「事業目的と手段の明確化」としている。自治体内で統一された理念を基に評価制度を構築しなければ,職員に理解されず浸透しにくい,また,評価表の記載事項=評価の視点の絞り込みもできない。自治省からの行革大綱によるとか,事業縮小・予算削減だけでは効果的なシステムの構築や維持は難しいと言えよう。

 行政活動の改善,アカウンタビリティの確保,職員の意識改革など評価制度への首長の明確なビジョンの提示が求められる。現在の行政評価は,主に内部評価型の事務事業評価で予算削減の手段としての色彩が濃い。今後は,政策体系である「政策−施策−事業」に合わせた総合的な評価が必要であり,費用やコストをトータルに勘案し予算や人員・組織など行政資源を効率よく分配して,事業の改善へつなげることが大切である。

 また,関連事務事業の評価結果をまとめて施策評価へ,そして,政策へと発展させなければ効果的な評価は難しい。特に政策評価の分野は,まちづくりの方向性を示すもので,首長直属で外部評価委員会を設置するなど市民の視点を直接取り入れ,市民とともに考える「まちづくり」の手段としての利用が求められる。

 評価表は様々な視点が盛り込まれており市民が見ても分かりづらい構成が多い。簡潔な様式で,かつ,政策体系の把握から目的・手段の確認,指標作成や市民ニーズ・コスト把握から導き出される改革案までの評価体系に沿った評価表へ発展させる。そして,市民の声を反映させ,顧客満足手法を用いた市民満足を測るシステムづくりが必要である。

A 評価主体と取り組み

 市民満足向上や情報公開が叫ばれている現在,市民が参加する評価へと移行しなければならない。対象が細分化された事務事業は行政機関の自己評価とすべきであるが,評価結果の分析や改善への提言など市民の意見を反映する評価システムの設計を進め,市民と行政の「協働」を考えていくことが今後の方向である。

 二度手間にならないよう予算調書と評価表の統合の必要性が高い。職員に負担が多ければ,評価担当部局と事業実施現場との溝が深まり意識の共有を妨げることになろう。既存のデータをうまく活用・共有し簡潔な評価表でスムーズに職員に浸透させること,評価システムの導入計画を明示し,職員のノウハウを高めながら制度の定着を目指すべきものと考える。

 導入成功のためには,事務事業の実施に当たる現場レベルから事務に対する意識改革が求められよう。担当している事業が政策のどの位置にあるのか認識し,事業をどのように改革すれば市民に効用があるかを常に意識すること,職場での議論の中から小さな改善を積み重ねて市全体の改革へ進めていくことが成功の鍵を握っている。

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