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    札幌市バランススコアカード研究会報告(概要)

 札幌市では,12年夏に庁内で札幌市バランススコアカード研究会を設置して,総合的なマネジメントシステムとして期待の大きいバランススコアカードの研究を行った。このほどその研究成果がまとめられたので,報告書からその概要をまとめてみた。

※個人の解釈であり,文責はすべて筆者にあるので,予め申し添えます。

1 はじめに

 厳しい時代に対応して様々な経営管理手法が導入されている。今後は,導入したツールをどう使いこなし,機能を向上させて組織に浸透させていくかが課題である。経営とは組織がその使命を果たし,行政課題の解決に貢献していくために不可欠な要素である。個々のツールが連携しながら,組織の使命を達成するために効果的な経営情報を提供してこそ,戦略的な意思決定につながる。こうした問題意識から,体系的かつ戦略的なマネジメント・システムとしてバランススコアカードに注目して,札幌市への導入可能性を検討したものである。

2 BSCとは,経営管理システムである。

 バランス・スコアカードは,ビジョンと戦略をブレークダウンし,評価するための視点として,「財務」,「顧客」,「内部ビジネスプロセス」,「学習と成長」の4つの視点を設定している。これまでにない多元的な評価を可能とする評価システムとなっている。 むしろ様々な経営管理情報を提供して,マネジメントに資する経営管理システムと言えよう。 他の評価システムとの比較

財務の視点 「財務」は,株主の立場に立った評価の視点を示している。企業の場合,財務的な成功が投資家としての株主の立場に立った場合には,もっとも重要である。このような観点から,財務的に成功するために,株主に対してどのように行動すべきかが示される。
顧客の視点 「顧客」は,企業の製品やサービスのユーザーの立場に立った評価の視点を示している。いわゆる顧客満足(CS)を高めるための評価の視点と言い換えてもよい。戦略を達成するために,顧客に対してどのように行動すべきかが示される。
内部ビジネスプロセスの視点 「顧客」は,企業の製品やサービスのユーザーの立場に立った評価の視点を示している。いわゆる顧客満足(CS)を高めるための評価の視点と言い換えてもよい。戦略を達成するために,顧客に対してどのように行動すべきかが示される。
学習と成長の視点 「学習と成長」は,組織やその構成員の能力を評価する視点である。戦略を達成するために,どのようにして変化と改善のできる能力を維持するかが示される。

 さて,企業での視点をそのまま当てはめることはできないが,多目的な行政にこそBSCの多元的な評価が適している。4つの視点は,行政では次のように各視点を読み替えることができる。企業であれば,最終的な目標が財務であるが,行政では市民満足の向上が最終目標であり,顧客の視点が最上位に位置される。

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 組織目標の達成には中心となる要因があり,これを伸ばすことによって成功に導かれる。バランス・スコアカードは,組織のビジョンから導かれた「顧客」,「財務」,「内部ビジネスプロセス」,「学習と成長」の各視点に戦略目標を設定する。それぞれの目標を達成する重要成功要因である業績指標をモニターすることで,組織目標の達成を評価するものである。行政のBSCにおいてもこの重要成功要因を特定することがポイントになる。

◆ 戦略目標:ビジョンと戦略に対する,4つの視点ごとの具体的な目標を示す。
◆ 重要成功要因(CSF):戦略目標を達成するためのキーになる要因を示す。
◆ 業績指標:CSFとなる具体的な指標。顧客の視点であれば顧客満足度や成果指標,財務の視点であれば利益率など。ただし,一つのスコアカードにおける指標数は,一つの視点につき,3〜4指標,多くても全体で20程度に抑えるべきとされている。
◆ 業績目標(ターゲット):実現を目指す指標の数値目標。業界内の最高水準などとして設定される。
◆ アクション・プラン:目標及び指標のターゲットの実現に向けて,必要な取り組みを示す。バランス・スコアカードの実例では,省かれているケースも多いが,目標の達成方策が位置づけられている点が,単なる業績評価の仕組みとは異なる点である。

3 BSCの機能

 ア 組織内のコミュニケーションツールとして優れている

 ある組織のバランス・スコアカードは,必ずその上下の組織の戦略目標・計画との連動性の中で決まることになる。従って,異なる階層の組織管理者が相互の目標の関連性について,コミュニケーションをとることが可能となる。

 イ 各システム間の情報共有のプラットホームとして機能する

 バランス・スコアカードは,組織のビジョンや戦略との結びつきが明確であり,1つの課題に対する多面的な分析や評価ができることから,他の経営システムを有機的に関連づけ,総合的な効果を発揮させることができる。

 ウ 戦略立案のフレームワークとして機能する

 バランス・スコアカードは,単なる目標管理型の業績評価システムであるだけではなく,ビジョンを実現するための戦略立案のためのフレームワークとしても機能する。

 エ 組織のPDCAサイクルの形成を促進する

 バランス・スコアカードは,ビジョンと戦略を前提として,行動レベルの目標を設定し,その成果と実現プロセスを一体的に評価する枠組みを備えており,効果的な計画推進ツールとして機能する。同時に,PDCAのマネジメントサイクルの形成を促進する。

4 札幌市におけるバランス・スコアカードの具体的な枠組み

 (1) 札幌市での利用

 バランス・スコアカードは,長期総合計画に基づいた政策,施策を単位に導入することも可能である。しかし,行政は長期総合計画で示されたまちづくりのビジョンを実現するために,実際の行政活動を組織単位で実施しており,また,導入の目的の一つでもある局マネジメント・システムの強化を考えると,札幌市におけるバランス・スコアカードは,組織を対象とした目標管理型の業績評価システムとして構築することが最も効果的である。

 (2) 札幌市におけるバランス・スコアカードの構成

 ア 組織のミッションを明確にし,ビジョンを最上位に位置づける

 局・部など組織を対象とした組織の総合的なマネジメントに資する新たな業績評価システムとして構築する観点から,バランス・スコアカードの最終的な目標として,組織のビジョンを位置づけることが望ましいと考えられる。

 イ 評価の視点

 評価の視点は,オリジナル版バランス・スコアカードの4つの視点を自治体に合うように解釈し,「顧客」,「財務」,「内部プロセス」,「学習と成長」から構成することが適当と考えられる。すなわち,組織のビジョン実現の観点から,「顧客の視点:目標の実現に向けて顧客にどのようなサービスを提供するべきか?」,「財務の視点:財政運営は健全か?」,「内部プロセスの視点:業務の進め方は効率的で効果的か?」,「学習と成長の視点:改革の取り組みを継続できるか?」の4つの視点から評価する構成が考えられる。なお,評価の視点の充実は,試行などの結果も踏まえ,今後の課題である。

 ウ 目標へのアプローチ(改革方策)を明確に位置づける

 札幌市のバランス・スコアカードでは,目標へのアプローチ(改革方策)を明確に位置づける。事業評価システムを始めとして,これまでの行政評価システムは,評価に注目するあまり,評価結果を踏まえた改革方策まで目が回らない面があった。札幌市のバランス・スコアカードでは,むしろそれぞれの視点に立った戦略目標の達成方策として,改革方策をリストアップすることが重要であると考えられる。

 エ 組織ビジョンとあわせて戦略マップを整理することで,問題と対応策を構造化する

 バランス・スコアカードの作成にあたっては,戦略マップとして,構成指標や目標達成方策の相互関係を整理し,問題と対応策を構造的に捉えられるようにすることが重要である。これによって,戦略的な目標の達成方策が明確になるとともに,原因分析を行いやすくなるからである。

 オ 評価指標のイメージ

 バランス・スコアカードでは,4つの視点ごとに,戦略目標及び目標に対応した評価指標と目標値が設定される。「顧客」の視点については,部門ごとの指標設定が必要である。また,「財務」,「内部プロセス」,「学習と成長」については,全市的な目標との関わりも踏まえて設定することによって,部門としての寄与度も評価できるようにすることが望ましい。

バランス・スコアカードを用いた評価指標の構成(例)

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 カ 既存のシステムとの関係

 バランス・スコアカードによる評価システムは,既存のシステムと組み合わせることにより,既存のシステムの問題を解決し,実用性を高めるための仕組みとすべきである。

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札幌市のバランススコアカード案 

 (3) バランス・スコアカードのシミュレーション ここをクリック

 ※単なるシミュレーションで正式なBSCではない

5 バランス・スコアカード導入に向けて

 (1) 期待される効果

 バランス・スコアカードによる評価システムは,事業評価システムなど,既存の経営管理ツールと組み合わせることによって,既存システムの問題を解決し,実用性を高めるための仕組みとして有効であると考えられる。

 ア 組織における経営マインドの醸成,パフォーマンスの向上

 組織における経営マインドを醸成し,パフォーマンスの向上に資することである。組織を対象とした業績評価システムとして,バランス・スコアカードを構築することによって,庁内の分権化を支える基礎的な経営情報が整理されることになる。組織目標とその達成方策の明示を通じて,目標達成重視型の組織文化が形成されることが期待される。

 イ 評価情報の共有化促進

 各種の経営情報の共有化を促進するプラットフォームとして機能することである。行政の場合,経営管理関連部門が財政,総務,人事,企画など多様である。その結果,それぞれの部門の評価結果を相互に共有することが難しい状況である。この点,バランス・スコアカードの評価の視点に各部門の評価の視点を関係づけることによって,評価情報の共有が促進されることが期待できる。さらに,評価の視点が明確になることから,職員,市民にとっても情報を共有しやすい。

 ウ 事業評価システムの機能性の改善

 これまでの事業評価システムは,対象が細かい事業レベルであり,評価の位置づけが分かり難い,評価の結果がどのように活用されるのか分かり難い等の問題点が指摘されていた。この点,バランス・スコアカードは,個々の事業を束ねた施策や,それを扱う組織(局や部)を対象として,目標設定を踏まえて評価を行う仕組みなので,評価の位置づけがわかりやすいといえる。また,目標達成のための方策が明示されていることから,評価結果を用いた改革も行いやすいと考えられる。このほか,バランス・スコアカードの構築作業を通じて,政策形成能力の向上などの人材育成や情報のプラットフォームの役割を担うなど様々な成果がもたらされる。
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 (2) バランス・スコアカードを成功に導くための諸条件

  ア 組織風土・文化の変革

 バランス・スコアカードを組織に根づかせ,その効果を引き出すために最も必要なことは,業績評価の公平性及び明瞭性を重視する組織風土であり,責任の所在をあいまいにせず,結果ないし成果を正しく評価する組織風土を培うことこそ真っ先に取り組まなければならない課題である。

 イ トップ・マネジメントのコミットメント

 トップ・マネジメントの強力なコミットメントも,バランス・スコアカードによる組織マネジメントを成功に導く重要な要素である。

 ウ 戦略及びビジョンの明確化

 行政は,公平性や平等性を強く求められるあまり,事業の選択と集中(裏を返せば事業の見直し・廃止)といった戦略的な思考に慣れてはいない。 しかし,明確な戦略やビジョンを持つことも,バランス・スコアカードマネジメントの重要な要素である。

 エ 人材育成と負担の軽減

  バランス・スコアカードは政策形成と評価を統合したシステムある。参加する職員には,分析力,洞察力,戦略的思考など政策形成能力が不可欠である。評価というとともすると評価シートの記入に眼が奪われる。しかし,最も大切なことは戦略的な思考と意思決定である。このため,人材育成を意識したシステム導入が必要である。また,戦略的な思考に時間を割けるように,IT化によるデータ収集や作業時間の短縮など負担軽減が求められる。

 6 本格実施に向けての方向と課題の整理

 今後,この枠組みと事例に基づき,さらに作成例を増やし,全庁的なモデルとすることが重要である。バランス・スコアカードの位置付けと枠組みの精査,導入後の運用方法及び執行体制の明確化,導入シナリオの明確化,計画とのリンク及び予算への活用などの課題が挙げられる。

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