01logo.jpg (7551 バイト)  「機能的な参加型評価システムのあり方」


第1章 序 論

  1 行政評価ブームの背景

 今,自治体では,行政評価の導入ブームである。総務省の調査[1] によれば,平成15年7月末現在,約21%の自治体が行政評価[2] を実施または試行中である。このように自治体が行政評価を導入する背景には,@右肩上がりの経済の終焉,A地方を含む政府へ信頼の低下,そして,Bニュー・パブリック・マネジメント[3] (以下「NPM」という。)という考え方の普及,などの影響がある。

 「失われた10年」という言葉が象徴するように,日本経済は,行き詰まりを見せている。現代社会は,経済の拡大という共通の価値観を失い,複雑性を増し,閉塞感さえ漂っている。また,国や地方は,莫大な債務を抱えながら,閉塞状態を解消する糸口さえ見出すことができない。相次ぐ「政府の失敗」は,国はもとより自治体への国民,市民の信頼を低下させている。

 こうした社会経済情勢を背景に,自治体は,NPMに影響を受けた行政システム改革を積極的に進めている。この改革は,下部組織への権限委譲,業績基準の測定や成果の重視などを基本として,従来の手続き・法令重視の行政のあり方から成果・顧客志向の行政への転換を目指したものである。

 1995年,三重県は,北川知事の下で事務事業評価を導入した。同県は,事務事業評価をNPM改革の中核に据えているが,その真意は,職員の意識改革にあったという [4] 。評価調書を記述することは,すべての事務事業を目的から問い直すことでもあったのである。こうした取り組みがマスコミにも取り上げられ,同県の真意を理解したかどうかは別にして,後発の自治体に少なからず影響を与えていった[5] 。その後,静岡県の業務棚卸表や北海道の「時のアセス」[6] などが注目を集めていったが,現在の行政評価ブームのきっかけは,これらとともに,三重県の取り組みによることが大きいと言えよう[7]

[1] 総務省「地方公共団体における行政評価の取組状況」2003年調査。
[
2]
前傾の調査における行政評価の定義は,「政策,施策,事務事業について,事前,事中,事後を問わず,一定の基準,指標をもって,妥当性,達成度や成果を判定するものをいう。また,『政策』とは大局的な見地から地方公共団体が目指すべき方向や目的を示すもの,『施策』とは政策目的を達成するための方策,『事務事業』とは施策目的を達成するための具体的な手段としている。」という考え方を採用している。
[
3]
ニュー・パブリック・マネジメント= NPM(New Public Management)。民間企業の経営手法や成功事例( ベスト・プラクティス) を行政経営に取り入れて, 行政の効率化や活性化を目指す公共経営の考え方。従来の行政の管理者を経営者に置き換え,市場競争原理を導入しようというところに特徴がある。大住荘四郎「ニュー・パブリック・マネジメント」1999年日本評論社を参照。
[
4]
導入に携わった梅田次郎(当時三重県総務部行政改革審議監)は,「事務事業評価が,こうした三重県独自の改革全体を推し進めるエンジンの役割を担ってきた」,三重県の行政システム改革は「ニュー・パブリック・マネジメント(NPM)といわれる公共理念や手法がほぼ当てはまる」とNPMの影響を自ら述べている(古川俊一編「行政評価ゼミナール」2003年ぎょうせい,1143頁)。
[
5]
行政評価の導入がすべて三重県のようにNPMの考え方に基づくとは言えない。先進地の取り組みに,「削減ツール」としての期待した例もあろう。例えば,「行政評価の実施に関しての疑問と悩みに関する調査」によると,都道府県,市区741団体を対象に実施し,導入目的に回答した277件のうち,「職員の意識改革」(223団体),「無駄な事業,補助金の削減」(200団体),「住民に対する説明責任」(198団体)が回答の上位3つを占め,特に一つだけ選ぶと何かでは,「無駄な事業,補助金の削減」(73団体)がトップであった(上山信一ほか「実践・行政評価」東京法令2000年,8頁参照)。
[
6]
業務棚卸表,時のアセスについては,13-14頁参照。
[
7]
全国の自治体の評価調書は,三重県との類似性が極めて高く,目標管理型業績評価タイプのものが多い。

 2 市民との合意形成が重要

 行政組織は,社会や市民のニーズを満たし,社会の課題を解決するために存在する。その使命を果たすには,行政の活動を様々な視点から検証し,改善し,人,モノ,お金という諸資源の最適な配分を行うマネジメントが重要である。行政評価は,社会の課題とその解決方法,具体的な政策・施策・事業の内容,そして目標とその達成度などを具体的に記述する。評価結果は,意思決定や政策判断に資する重要な情報を提供する役割を果たしている。また,行政活動を市民に説明するとともに,新たな課題や改善の方向などを気づかせてくれる。行政評価は,このような多様な役割をもったマネジメントツールである。

 とりわけ行政の活動は,広く市民のニーズを探り,議会やステークホルダーといわれる利害関係者など,多様な主体とのコミュニケーションをはかりながら,その組織目的の実現を図っている。市民からの意見集約や合意形成を行い,協働していくことは,行政のマネジメントにとって不可欠な要素である。

 このような考えによる行政のマネジメントのあり方は,図表1のようにイメージされる。行政活動のあらゆる場面で透明性が確保され,市民参加が保障され,行政と市民がともに考え,行動することが社会の課題を解決するあり方として望ましい。また,適時適切な情報提供は,参加するための当然の前提である。さらに,行政の情報を分かりやすい形で発信し,行政と市民で共有し,コミュニケーションを進めること,市民のスキルアップを支援し,政策形成と実施の各場面に応じて,制度として適切な市民参加を保証することは,参加を進める条件である。

 3 なぜ,参加型評価なのか

 行政評価の広がりは,ガバナンス[8]論とも関連している。ガバナンスは,「共治」と訳されることも多い 。この言葉の原義は,船の「舵取り(steering)」である。従来,この「舵取り」は,政府が担ってきた。いわゆるガバメントである。しかし,現代社会では,政府主体の従来の仕組みによる「舵取り」が機能不全をきたし,多様な主体間の相互作用による新しい社会システムを構築しなければならないとする動きが強まってきている。

 論者によってガバナンスは,様々な捉え方がある[9] が,共通しているのは次の点である。「現代社会においても,公共[10] の重要な担い手は政府である。しかし,公共は,政府の独占物ではない。地域や市場を含めた社会全体が,公共を担っているのである。市民は,政治に参加する主体である。と同時に,行政に参加する主体でもある」。こうした考えから,自治体では,その主体にふさわしい様々な市民参加のシステムづくりが進められている。行政活動のあらゆる場面において,市民の参加を重視していくことは,もう後戻りができない社会の必然である。

 行政評価は,行政活動を検証し,評価し,改善や次の政策に生かしていこうというツールである。多くの自治体は,行政評価を市民とのコミュニケーションツールとしても捉えている。総務省の調査結果 は,自治体が行政評価を導入した主な目的の共通項として,行政の説明責任や透明性向上など,行政の施策内容や結果を市民に対して明らかにし,説明するという観点を指摘している[11]

 コミュニケーションは,一方的なものではない。双方向性を備え,市民が参加できてこそ,行政評価は,真に“コミュニケーションツール”になり得るのである。そして,公共の担い手である市民が,社会の課題の解決について,それぞれが自律的に考え,ときには行政と協働していこうとするとき,それらの情報を正確にかつ的確に知り,意見を反映できてはじめて参加したと言えるのではないだろか。

 本論文では,市民が何らかの形で評価に参加する行政評価の方式を「参加型評価」と捉えている。最近は,行政の内部評価だけではなく,外部評価として,パブリック・コメント,住民意識調査,外部評価委員会などの市民の参加手法を駆使したいわば参加型評価がわが国の自治体で取り入れられている。こうした市民参加による評価は,市民とコミュニケーションをはかる上でもますます重要になってきている。

[8] ガバナンスを「共治」あるいは「協働による共治」と表現する例が少なくない。例えば,吉田民雄「都市政府のガバナンス」2003年,61頁。
[
9]
例えば,@今村は,ガバナンス特有のエッセンスついて,「複数主体の共存(coexistence)と相互の協力と(cooperation)を促す<協働>である」と指摘し,社会の問題解決の方向として,「異なる主体間のコミュニケーションにエネルギーを割き,互いの自律性にゆだねられる領域を確認し合いながら,相互調節の努力を傾けあうことが要請されることになる。」と述べている(今村都南雄編「日本の政府体系」2002年成文堂,16-17頁)。A森田は,「『ガバナンス』が,権力に基づく統治ではなく,構成員の主体的な参加と彼らの自己決定による共同体運営のあり方を意味する概念ならば,その中核的な要素は,構成員自らがその共同体のあり方を決定しそれを実施するという意味における「自治」であるといってよいだろう。」と述べている(森田朗編「分権と自治のデザインーガバナンスの公共空間」2003年有斐閣,同著第1章,1頁)。B古川は,「中央政府だけでなく,地方政府,住民,企業,NPO・NGOなどが共同,協働,対立しつつ,権力を分有して,統治を行う状況をさす。」と定義している(古川俊一・北大路信郷著「公共部門評価の理論と実際」2001年日本加除出版,13頁)。C山本は,「統治者が一方的,トップダウン的に被統治者を統治するというものではなく,両者の信頼関係をはじめ,社会の諸構成員の協力や合意によって統治することという意味合いを強くもっている。」と信頼関係と合意を強調している(宮川公男・山本清「パブリック・ガバナンス」2002年日本経済評論社,10-11頁)。
[
10]
公共性理論,公共空間論などの論考は様々であるが,公共=publicと捉えた。
[
11]
総務省「平成14年度地方公共団体における行政評価についての研究会報告」,17頁。


4 本論文の構成―情報発信型と意見集約型評価

 行政評価の導入効果には,多大な期待が集まっている。しかし,行政評価を担当する多くの自治体職員の間において,実際に行政評価が十分機能しているという声が聴えてこない [12]。制度は組織内へ浸透せず,多様な視点を盛り込んだ緻密な評価調書を設計しながら,単なる書類作成の作業と化している。

 このような現状をいかに改善するかを探ることが本論文の目的である。
 まず,第2章で行政評価導入の経過を概観し,自治体に導入された行政評価の類型と特徴を整理する。第3章では評価が機能しない理由を明らかにしたい。その上で,多様化,高度化が進む行政評価が機能するには,@明確な目標をもった戦略的な計画を策定し,権限委譲を進め,具体的な活用法を明確にして評価の制度設計を行うこと,A評価を担う人材育成やノウハウを蓄積すること,B組織文化の変革の必要性を指摘する。加えて,評価を機能させるため,市民参加を進めることの重要性を論じる。

 次に,参加型評価の現状について,参加の要素を含む外部評価事例を取り上げ,第4章においてわが国における自治体の動向を概観し,第5章では海外の事例についてそれぞれ特徴などを整理する。第6章では,西尾勝ほかの研究者による理論的な分析を比較検証し,第4章,第5章の具体的な事例を参考に,自治体の実務者の立場で,参加型評価の分析・評価を行う。
しかし,これまでの参加型評価は,幅広い市民意見を反映する方法として,また,市民と行政の協働に結びつける機能として,まだまだ不十分であることが明らかされる。行政評価に用いられる参加手法や対象は,非常に限られている。

 このため,第7章では,今後の参加型評価の方向として,“情報発信型評価”,“意見集約型評価”という2つの方向を設定し,その具体的な提案を盛り込んでいる。評価情報を活用した情報発信の方法を示すとともに,専門家や市民で構成する常設した外部評価委員会,庁内の二次評価組織の活用を提示する。その上で,市民のエンパワーメントを図りながら,幅広い市民意見を反映する参加型評価のあり方を論じていく。また,補論として行政と市民の意識の距離が遠いといわれる大都市を題材に,地域別,テーマ別の市民会議を活用した参加型評価を提案する。

 最後に,第8章においては,参加型評価は,あらゆる行政活動を一つの方法で一律に評価することは困難であり,評価の対象,時期,内容などに応じた多元的な参加型評価を実現すべきことを結論づけていく。

 以上のとおり,この論文は,自治体のマネジメントで重要な役割を担う行政評価に着目し,“ガバナンス時代”にふさわしい市民の参加や関与がどうあるべきかを明確にしながら,機能的な参加型評価システムあり方を考察するものである。

[12] 自治体の職員など500名以上が参加するメーリングリスト・甘木市事務事業評価システム研究会では,平成11年度から5000通以上の行政評価に関係するメールが交換されている(15年11月末現在)。http://www.city.amagi.fukuoka.jp/life/ml.htm 参照(過去のやりとりは会員のみ公開されている)。
※ホームページのアドレスは,平成15年12月1日現在のURLを掲載している(以下同じ)。

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