01logo.jpg (7551 バイト)  「機能的な参加型評価システムのあり方」


第2章 自治体の行政評価の現状

1 わが国の行政評価導入の変遷


 自治体の行政評価は,わずか7,8年の間に急激に全国に広がり,高度化,多様化が進んでいる。まず,行政評価とは何かを明確にするとともに,この数年の流れを振り返ってみよう。

 (1) 行政評価とは何か

 行政評価という用語は,わが国独特のもので定義が極めてあいまいである [13] 。評価には,大別すると業績測定(performance measurement)とプログラム評価(program evaluation)の2つのタイプがある。業績測定は,事前に設定した目標に照らして業績を測定するものである。プログラム評価は,政策に関する目的,目標,プロセス,成果や効率性などを明らかにする体系的な調査・研究である[14]

 わが国の行政評価は,一般的にいうと前者のタイプである。基本的な評価として,自治体の総合計画の政策―施策―事業という枠組みにしたがって,政策評価,施策評価,事業評価と階層構造をとるタイプが基本的である。

 このほか,行政サービスの質を評価するもの,特定の観点から対象を補助金,団体,研究に絞って評価するもの,組織の経営品質を評価するものなどへと多様化が進み,それらは総じて行政評価と呼ばれている。しかも,プログラム評価の系統である政策評価(policy evaluation)と同じ用語で,ベンチマーキングなどの政策レベルの業績評価を「政策評価」と呼ぶなど,用語の使い方に混乱が生じている。本論文では,行政評価を主として業績評価のタイプとして捉え,論じていきたい。

[13] 例えば行政評価の定義として,@「行政機関の活動を何らかの統一的な視点と手段によって客観的に評価し,その評価結果を行政運営に反映させること」(小野達也ほか「行政評価ハンドブック」東洋経済新報社2001年,5頁。A「政策,施策,事務事業について,事前,事中,事後を問わず,一定の基準,指標をもって,妥当性,達成度や成果を判定するものをいう」(総務省「地方公共団体における行政評価の取組状況」2003年調査)。B「行政機関と住民との間に情報のやり取りを加えることにより,行政の計画,予算化,執行の枠組みを住民の視点でチェックし,組み替えるためのコミュニケーションツール」(「行政経営フォーラム海外調査会「行政評価による地域経営戦略」1999年東京法令,まえがき」。C「行政に数値による目標管理の考え方を導入し,民間企業の改革のノウハウを行政にも導入しようという手法である」(上山信一「行政評価の時代」1998年NTT出版,1頁)。などがある。
[
14]
龍慶昭・佐々木亮「政策評価の理論と技法」2000年多賀出版,8−9頁,及び古川俊一・北大路信郷「公共部門評価の理論と実際」2001年日本加除出版,29-35頁参照。

 (2) 評価の黎明期

 1995年三重県は,北川知事の下で,「事務事業評価システム」[15]  を導入した。このシステムは,事務事業目的評価表という評価調書を用いること,事務事業の目的そのものを確認するところから作業をはじめること,目的を「成果指標」で表現することが特徴である。その後,施策・事業の基本指針となる総合計画を策定し,計画の政策体系の中で個々の事務事業の位置づけを確認し,より高い視点からの見直しを行うシステムへと改善がされていった。同県が先駆的に取り入れた事務事業評価は,簡便で専門的知識が不要なことから,全国の自治体に波及し,行政評価ブームのきっかけを作ったものと言えよう。

 また,静岡県に代表される業務棚卸表[16] は,組織単位で進める作戦を簡潔かつ体系的に文書化して,組織の目的と手段,達成目標を明示している。成果を評価測定し,経営改善のための分析を行えるようにした独自ものである。この評価は,対象が事務事業ではなく,政策・施策単位とし,職員・組織が一定期間内で業務を通して,何をどのように実現させるかを把握する。業務の「目的・手段の樹木的(連鎖的)構造」が特徴である。日ごろ目的を意識せずに漠然として取り組んでいた業務を体系化することで目的と手段を明確にし,仕事を分析することに役立つシステムである。その後,総合計画とも整合をとり,計画指標とも連動するなど高度化を図っているが,普及は少数の自治体に留まっている。

 北海道が1997年から実施した「時のアセス」[17] は,計画された施策で「長期間停滞していると認められるもの」や「施策の価値または効果が低下していると認められるもの」などを対象に,再評価を行う仕組みである。これは,時の経過によって必要とされた社会状況や住民要望などが大きく変化したことから,施策に対する当初の役割や効果について改めて点検・評価を加えるものである。実際には,大型の公共事業など9事業が対象になり,施策の中止や計画変更が決定されている。「時のアセス」という言葉自体が,「現代用語の基礎知識」の今年の新語・流行語トップテン(1997年選定)を受賞するなど,名称のインパクトも大きく,全国的な注目を集めるにいたった。

 さらに,評価の黎明期には,何がなんでも成果指標(アウトカム)の設定が必要という思い込みから,評価になれない自治体職員が目標の設定と指標をどう選ぶかに悩んだ時期でもあった。地方財政が逼迫する中で,自治体では,“アウトカム信仰” [18]に苦労しながらも,数値化した成果指標などを事務事業の評価,進行管理に活用し,従来の予算主義,事業量偏重の行政の進め方から成果の向上を目指したシステムへ変革していこうという気運が高まっていった。

[15] 三重県ホームページ(以下「HP」という。)http://www.pref.mie.jp/GYOUSEI/plan/jimu00k/gaiyou.htm 参照
[
16]
静岡県HP 
http://www2.pref.shizuoka.jp/all/gyotana.nsf/ 参照
[
17]
北海道のHP http://www.pref.hokkaido.jp/skikaku/sk-ssnji/toki/tokiindex.htm 参照。
[
18]
行政評価が導入された自治体では,活動量を測る活動指標・アウトプットではなく,どんな事業にもアウトカムを設定しなければならないという考え方が主流であった。このため,実際に測定できない指標や無理に複雑な計算をしてアウトカムを算出しようという動きもあった。これを筆者が独自に“アウトカム信仰”と表現した。

(3) 評価の高度化,階層化

 その後,評価システムの高度化が進み,数値目標の設定や住民満足重視の仕組みを志向した仕組みが登場した。2000年,長期総合計画に政策指標を設定した東京都政策指標(チェックアップ・リスト) [19]は,日本でのベンチマーク [20] の先駆けと言えよう。

 特に注目されるのは,青森県政策マーケッティングブック[21] である。これは,民間企業のマーケティング(市場調査・活動)手法を取り入れて指標を設定していることが特徴である。評価は,県民の代表や専門家などで構成する第三者機関「政策マーケティング委員会」が主体的に実施している。「マーケッティングブック」は,近い将来(5年後)に実現すべき県民生活の水準を「めざそう値」(ベンチマーク)として示している。この指標は,国,県,市町村や県民など誰がどの程度の役割を果たすべきかという「分担値」も設定し,外国にも例のない青森県独自のものである。関係する主体が目指す政策の成果は,「めざそう値」の達成度で測定し,それぞれの次の行動に反映させ,いわば社会の協働を目指したものと言えよう。ただ,参加型評価の一形態であるが,県民に定着したとは言いがたく,具体的な成果は今後に期待される。

 こうしたベンチマークの取り組みは,全国的にも広がっている。例えば,地域性にこだわりをもって指標を設定している「しがベンチマーク」(2000年から作成,滋賀県)[22] ,既存計画に指標を後から設定した「第三次北海道長期総合計画」 (2001年に設定)[23],子供にも分かりやすく,近未来をストーリーで語りながら,対応する指標と社会像の達成状況を示す「美しい兵庫指標」 (兵庫県2002年策定)[24] などというユニークな取り組みがある。

 また,1999年には組織全体の包括的な評価である三鷹市の「行政経営品質評価」[25] といった外部評価が登場してきた。「経営ビジョンとリーダーシップ」「業務プロセスの管理」「市民の要望・期待の理解と対応」「経営戦略の策定と展開」など,8つの評価項目から,市政運営の仕組みや成果について自ら記述し,これを外部機関がヒアリングを行い,総合的な行政運営のレベルを評価するものである。
評価対象では,体系的評価を志向し,当初の事務事業評価から,施策評価へ,そして政策評価へといった動きが加速し,評価システムの高度化や階層化がしだいに広がっている。

[19] 東京都のHP http://www.chijihonbu.metro.tokyo.jp/keikaku/2000/souron/5shihyo.htm 参照
[
20]
基準となる指標(ベンチマーク)を設定し,継続して実績値と比較することで達成度を評価する手法のこと。
[
21]
青森県のHP http://www.pref.aomori.jp/koutyou/marketing/index.html 参照
[
22]
滋賀県のHP http://www.pref.shiga.jp/gyokaku/mark2002/ 参照
[
23]
第3次北海道長期総合計画では,道民への意見募集もしながら既存計画に成果指標と数値目標を設定している。
[
24]
兵庫県のHP http://web.pref.hyogo.jp/vision/uhs/ 参照
[
25]
三鷹市のHP http://www.city.mitaka.tokyo.jp/evaluation/ 参照

 (4) 評価の多様化

 最近は,評価の経営への活用を目的にし,戦略経営を志向した三重県の「政策推進システム」 (2002年に導入)[26] などが生まれた。また,個別具体的な,いわば“セグメント評価(分野別評価)”,さらには外郭団体の経営評価も取り組まれはじめるなど多様化が進んでいる。

 セグメント評価の代表的なものとしては,宮城県の「補助金総点検」[27] ,京都市の「公の施設評価」[28]  などがある。「補助金総点検」は,県が支出している補助金について,補助の妥当性,運用の在り方などについて総点検を行い,広く県民から意見を聴取して,補助金を再検証するとともに,補助金制度や手続きの改善のほか,補助金に代わりうる施策の検討なども実施している。

 また,「公の施設評価」は,公の施設を対象に,公共性,行政関与の妥当性,受益者負担の妥当性などのほか,目標達成度評価,効率性評価,受益者負担の適正性評価などを経て,一次,二次にわたる総合評価を行うものである。二次評価は,有識者からなる外部評価委員会が提言し,施設の具体的な改革,改善に生かしていくシステムである。

 外郭団体の経営評価では,北海道の「関与団体点検評価」などがある。これは,団体の効率的運営や効果的な活用など,関与団体の運営状況や道の関与のあり方などについて点検評価し,団体の効率的運営や効果的な活用を図るものである。

 こうした自治体の評価システムの多様化については,図表2−1「自治体の評価の類型と特徴」に整理した。最近は,民間企業で活用されているバランス・スコア・カード [29] という多元的な業績評価も導入がはじまっている。今後,自治体においては,さらに多様な評価システムの導入が予想される。

[26] 三重県のHP http://www.pref.mie.jp/GYOUSEI/plan/jimu02k/system/ 参照
[
27]
宮城県のHP http://www.pref.miyagi.jp/gyoukaku/hojokin.htm参照
[
28]
京都市のHP http://www.city.kyoto.jp/somu/gyokaku/page0136.html参照
[
29]
BSCといわれ,財務,顧客,内部プロセス,学習と成長の4つの視点から評価する多元的な評価システムでハーバード大学のR.S.KAPLANなどが考案した。ロバート・S・キャプラン,デビット・P・ノートン「バランス・スコア・カードー新しい経営指標による企業変革」1997年生産性出版参照。自治体では三重県立病院改革へのBSC活用などの事例がある。
 

(5) 評価の外部化

 自治体の評価システム導入の経過を概観したが,一部を除いて行政内部の自己評価が中心である。内部評価は,お手盛り評価になりがちという批判もある。このため,より客観的な評価を目指して,外部の視点を取り入れた評価に取り組む自治体が増加している。

 外部評価の事例については,第4章以降で詳述するが,主として委員会形式で外部の意見を聴くタイプや市民満足度調査を取り入れたタイプなどがある。外部評価は,評価対象も政策,施策に限定するものから事務事業まで様々である。

 いずれにしても,市民参加が叫ばれる今日,何らかの形で外部評価を導入することは,行政評価の重要な要素になりそうである。

2 行政評価の問題点

 自治体が行政評価を導入する理由としては,政策,施策,事務事業のレベルによって異なるが,「行政活動の成果向上」「資源配分の改善」「住民とのコミュニケーション」を掲げるところが多い(三菱総合研究所の調査 [30]による)。

 しかし,それぞれの目的に対する成果はどうかと言うと,市・区においてはレベル,目的の内容に関わらず,成果が「まだわからない」と回答した自治体が大半という結果であった。

 また,ホームページ上に行政評価の職員アンケートを公開している自治体の中で,評価システムを導入して3年目の“A市”の例を取り上げてみよう。

 「あなたがかかわっている仕事について,市民に説明できますか(複数回答可)」という設問の回答では,「@サービスの内容を説明できる」が25.9%,「A誰のためのサービスか説明できる」が22.7%,「B目的(何のためにやっているか)を説明できる」が32.5%,「Cどのような成果が期待できるか説明できる」が14.9%などという結果であった。また,「仕事をしていて,市民との意識のずれを感じたことがありますか」という設問では,84.6%が「ある」という回答であった。ここには,仕事の目的が何かを理解していない,また,市民に対する説明責任も十分果たすことできない,市民の意識と遊離した行政職員の姿がある。

 これらを一般化することは問題かもしれないが,「行政活動の成果向上」「資源配分の改善」「住民とのコミュニケーション」という行政評価の目的を果たすことがいかに難しいかを示している一例と言えよう。

[30] 株式会社三菱総合研究所「地方自治体における行政評価への取り組みに関する実態調査2002年調査結果」

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