第4章 わが国自治体の外部評価
1 評価への市民参加事例
最近,自治体では,市民や専門家が評価に参加する外部評価が増加している。外部評価を取り入れる目的としては,@一般的に内部評価よりも評価の規律性が強化されること,A評価結果への客観性,信頼性が担保されること,そして,B市民の視点でのチェックが行えることなどが指摘できる。
この章では,外部評価に市民が評価に参加もしくは関与している全国の自治体の事例から,市町村では,旭川市,白老町,志木市,板橋区,杉並区,横須賀市,名古屋市及び京都市の事例を,また,都道府県では,北海道,秋田県,宮城県,三重県の事例をそれぞれ取り上げて,具体的な市民参加,市民関与の内容・方法などを明らかにしたい
。
なお,自治体ごとの外部評価の内容は,図表4―1に整理したが,以下簡単に特徴を概観する。
(1)市町村の外部評価例
(旭川市)
旭川市の事例は,行政の自己評価について,市が指名した外部の専門家と市民で構成する「行政評価委員会」を設置して意見を聞くタイプである。平成13年度から外部評価を導入している。直近の14年度は,今後想定される財源不足等に対して,すべての事務事業をゼロベースで見直すこととし,全事務事業(1,040件)を対象に事務事業評価を実施している。
事業担当部局が評価し,企画財政部などの職員とともに構成するリノベーションプロジェクトチームと調整・協議を行った後,各事務事業の評価を整理している。さらに,「行政評価委員会」の意見を聞いた後,助役と庁内のメンバーで構成される行政評価検討会議において,最終的に確定するプロセスを踏んでいる。
(白老町)
北海道の白老町
は,市民参加のまちづくりに先駆的な取り組みをしている町である。行政評価の導入にあたっては,組織・職員状況や既存システムに合わせたシステム改善をすすめること,
総合計画を対象とした財務・人事・条例との連携を図り一体的なシステムづくりを行うこと,そして,わかりやすい情報提供と徹底した情報公開により住民・職員参画を図ることを目指している。このほか,住民・職員との議論や検討の機会,意見聴取を増やし,ニーズ把握などを充実させ,政策の質の向上を図っている。行政評価はコミュニケーション手段として捉え,住民に対する説明責任を果たし,住民参加型行政を進める上で基本的な制度と位置づけている。
このため,住民の有識者に加え,一般住民が公募委員と参加した「行政評価制度外部評価委員会」を設置している。また,評価の過程で町民アンケートの結果を活用して,常に町民意見をフィードバックしていることが特徴である。
(志木市)
志木市
は,向こう20年間,原則として正職員の新規採用を一切せず,毎年10人から30人の退職者の1・5倍を「パートナー」で補う「行政パートナー制度」を導入していることで有名である。市民との“究極の協働”を目指し,市民委員で構成する「市民が創る第二の市役所」を設置し,市民及び市が協働し,市民自らが行政の運営に関して必要な提言や調査研究を行っている。この第二の市役所との協働により,市の事業をすべてゼロベースで検証するなど,長年の市民参加の伝統を生かした取り組みも行われている。
外部評価委員会については,評価委員の区分で,行政評価に識見を有する市民2名と市政に関心の深い市民3名となっている。すべて公募の市民で構成することが特徴である。評価や委員会の設置は「志木市行政評価条例」に基づいている。14年度は新規事業の事前評価18事業,継続事業の事後評価27事業を評価しているが,再検討や見直しの評価が続出している。事業担当課の自己評価を踏まえ,委員会が外部評価し,さらに市長の評価も添えて新年度の予算へ反映しているシステムである。
(板橋区)
板橋区
の行政評価には,主管課の自己評価(一次評価)と,区長を本部長とする再生経営改革推進本部が行う最終的な二次評価がある。「行政評価委員会」は,公募委員と学識経験者,専門家混合で,この二次評価の前に,特定の分野,課題に絞って評価を行う。あくまでも二次評価の前段階に位置する。委員会が主管課のヒアリングをすることが特徴である。14年度は,施策評価は28施策すべてを対象とし,事務事業評価は147事務事業の中から,それぞれの施策ごとに中心となるものなど56の事務事業を選定し,評価を実施した。すべての委員がすべての評価表に目を通すことを原則としたが,実際の評価にあたっては,時間的制約や理解の限界を考慮し,公募の委員2名を含む6名の委員が分野を決めて分担している。
(杉並区)
杉並区
は,外部評価として区長の指名による学者や有識者という5名の専門家からなる外部評価委員会を設置している。政策レベルの評価は,市民参加によって設定した30指標で構成する「杉並区政チェックリスト」を活用して評価する方式である。また,施策,事業レベルの評価は,コンパクトにまとまった評価調書を使用するが,外部評価としては,政策,施策,事業の各評価から評価委員会が任意に抽出して「抜き出し検査」を行う方式である。市民参加の点については,システムの構築時に市民の公募委員もはいった委員会で検討を重ねてきた経緯があり,政策,施策評価の指標には,市民アンケートによる満足度指標も一部取り入れている。
(横須賀市)
横須賀市
では,総合計画の実施計画の進行管理と行政評価が一体化しており,計画の目標達成度や進捗の管理は,行政評価を活用して行うシステムである。評価は,部局内の自己評価である一次評価,庁内横断的な組織の行政評価プロジェクトチームによる二次評価,さらに市民による三次評価と三段階で実施される。しかも,三次評価は,「市民コメンテーター」と「まちづくり評価委員会」の二段構えになった組織で行われる。前者は公募市民のみで構成され,ワークショップなどを通して特定の課題を見つけ,「市民の生活感覚」に基づいた評価を行い,そこで集約した意見をさらに後者に提案する。
後者は,専門家,市民の指名委員,公募委員で構成して,必ずしも前者の意見に拘束はされないが,行政評価プロジェクトチームによる二次評価に対して三次評価を行う。また,政策・施策評価と事務事業評価の体系的な評価がなされるが,政策・施策評価では,市民満足という視点から「市民アンケート」による視点も取り入れた評価になっていることが特徴である。
(名古屋市)
名古屋市
の評価は,事務事業を内容に応じてソフト事業,施設の建設,整備事業などの6類型に分類して評価する仕組みである。「行政評価委員会」は,学識経験者,専門家などのチームで公募の市民は入っていない。外部評価結果は,事業そのものの評価というよりも,各事業に行政資源を投入する際の優先順位を表している。単に書面審査ではなく,評価委員が自ら事業部局をヒアリングしていることが特徴である。15年度は,実に23日間に渡って担当部局からヒアリングしている。外部評価は,内部評価に対する普遍性と客観性の付与し,財政再建を果たすために不可避な一定の「事務事業の見直し」への寄与を目的としている。15年度では,外部評価を実施した1826事業のうち,1414事業について改善・見直しを,62事業について休廃止の検討を指摘すべきであるなど厳しい評価結果を示している。
(京都市)
京都市 では,外部評価機関として学識経験者等で構成する「政策評価制度評議会」を設置している。政策,施策について外部評価するが,これに加え,市民3000人に施策(106項目)の満足度及び政策(26項目)の重要度について調査して,市民満足度評価として市民の意識調査結果を反映している。
旭川市HP http://www.city.asahikawa.hokkaido.jp/files/gyoukaku/gyoukaku(hyouka).htm 参照
白老町HP http://www.town.shiraoi.hokkaido.jp/ka/kikaku/gyouseihyouka/top.htm 参照
志木市HP http://www.city.shiki.saitama.jp/seisaku103.html 参照
板橋区HP http://www.city.itabashi.tokyo.jp/ 参照
杉並区HP http://www.city.suginami.tokyo.jp/ 参照
横須賀市HP http://www.yokosuka-seiseki.jp/index2.htm 参照
名古屋市HP http://www.gyouseihyouka.city.nagoya.jp/ 参照
京都市のHP http://www.city.kyoto.jp/sogo/seisaku/hyoka/hyoka.html 参照
(2)都道府県の外部評価
(北海道)
北海道
は,時のアセスといわれる公共事業の再評価が有名である。政策評価として道政全般を網羅する基本評価や,特定の分野について基本評価を補完する分野別評価を実施している。このほか,必要に応じて特定の政策について行う特定政策評価も設けている。
評価は,実施機関が行う政策評価と知事が行う政策評価(知事評価)の二段階評価で,客観的で厳格な評価と制度の充実を図るための仕組みとして,学識経験者などで構成する北海道政策評価委員会を設置している。また,政策評価結果などの情報を積極的に公表し,道民から意見を集約することを北海道政策評価条例(平成14年4月1日施行)で定めている。
この条例は,都道府県では,宮城県の「宮城県行政活動の評価に関する条例」(平成14年4月1日施行)に次いで制定されたものである。 前述のとおり道民参加の推進に関する規定を設けたこと,また,政策評価の客観的で厳格な評価と制度の充実を図るため,知事の附属機関として北海道政策評価委員会を設けるなど,評価条例として先駆的なものである。
(秋田県)
秋田県
の政策評価は,「秋田県政策等の評価に関する条例」(平成14年4月1日施行)によるもので,「秋田県政策評価委員会」という外部評価委員会の設置を定めている。
分かりやすさに配慮し,評価基準をABCDの4段階に示すなどの工夫がされている。政策評価と事業評価の両面で,県民の意見やニーズを取り込んだ評価を行うことを目指しており,いずれの評価においても住民のニーズや満足度を的確に把握し,評価に反映していくことを基本としている。
例えば,条例事項ではないが,「政策評価」では,毎年度約4,000人の県民意識調査を行い,「事業評価」では,個々の事業実施の過程を通じて県民の代表や市町村,業界などの意見を聴取してその結果を評価に反映していく仕組みを取り入れている。
(宮城県)
宮城県の評価制度は,自治体の評価条例としては初めて制定した「宮城県行政活動の評価に関する条例」(平成14年4月1日施行)に規定している。行政評価委員会の設置も,別途「宮城県行政評価委員会条例」(平成13年4月1日施行)で定めている。また,詳細な県民満足度調査を実施し,県民の視点を取り入れようと,条例に規定していることも注目される。
条例に基づく制度として,評価への県民参加の制度を確立し,評価に関する情報の積極的な公表の制度を設け,県民満足度調査,行政評価委員会及び県民の意見聴取の規定を置き,さらに県に対し県民意見の反映状況の公表義務を課している。県が県民の意見を真摯に考慮しながら評価を行う仕組みとしている。
(岩手県千厩地方振興局)
岩手県千厩地方振興局では,市町村総合補助金など14事業について,NPOに外部委託して評価している(14年度)。受託したNPOは,町村など事業主体への聞き取りなども実施し,事業目的と手段の関係の検証(論理的評価),前提条件・外部条件の予測の検証
(論理的評価) ,事業の効果の検証(プロジェクト評価),そして,事業の立案・実施過程の検証という4つの視点から評価している。
かなり手厳しい評価であるが,評価指標や質問項目,評価の考え方等はすべてNPOが独自に実施するなど公正性が担保されている。15年度は,県内すべての地域振興局が委託して評価する予定である。
(三重県県民局)
三重県の県民局
の外部評価事例は,平成12年度であるが各県民局の「生活創造県づくり」をNPOの「評価みえ」に委託して実施したものである。先の岩手県千厩地方振興局と同様に,わが国では例が少ないNPOによる外部評価である。9つの県域で,計画づくりに参加した住民,県職員をヒアリングし,ビジョン推進組織設置,会議や場の設定,事業計画の決定過程,個別の事業の企画・実施,その他の5つの分野における県による関与などを評価した。
外部評価は,どれだけ公正,中立を担保できるかが課題である。この評価事例の特徴には,市民活動団体が評価する点で市民参加の要素があること,また,営利にとらわれない自由な立場での評価できることが挙げられる。
北海道のHP http://www.pref.hokkaido.jp/skikaku/sk-ssnji/assess/hyokaindex.htm 参照
秋田県のHP http://www.pref.akita.jp/tyosei/sys/system1.htm 参照
宮城県HP http://www.pref.miyagi.jp/ 参照
岩手県千厩地方振興局HP http://www.pref.iwate.jp/~hp4001/estimation/index.html 参照
平成12年度生活創造圏ビジョンの推進に係る県の取り組みに対する評価」報告書 http://www.hyouka.org/report/index.html 参照
2 自治体の外部評価の特徴
前節で外部評価を行っている自治体の個別システムを概観したが,共通するのは,外部評価のための委員会(以下「外部評価委員会」という。)を設置している,もしくは外部の機関が関与していることが挙げられる。
また,市民の参加の形態は,外部評価委員会に,長の指名や公募による市民委員として直接参加する方式と,市民満足度調査などアンケートによる市民の意向,ニーズ,満足度などを評価に反映する間接参加,もしくは評価結果に対する事後の意見提出などによる間接参加がある。
個々の事例から具体的な異同を,外部評価機関への直接参加と間接的な意見反映の2つの面で分析してみよう。
(1)外部評価委員会などへの直接参加
NPOへの委託以外の事例は,すべて外部評価委員会を設置している。しかし,すべての行政活動を外部評価することは難しく,何らかの基準で選択したサンプル評価であることが多いこと,委員会がシステムに対する意見・提言の役割を担っている事例が多いことが一般的な傾向として見受けられた。
また,委員会の活動として,委員が担当部局にすべて直接ヒアリングする事例(板橋区,名古屋市等)や必要に応じてヒアリングする事例(杉並区,横須賀市等)など,評価調書には表現できない部分を実際に担当部局から聞き取りながら評価する例も一部に見られた。また,都道府県レベルでは,大規模な公共事業で現地調査をする例なども見られた。
次に,委員会のタイプは委員構成で分けると,専門家委員タイプ(杉並区,名古屋市,北海道,秋田県,宮城県など),専門家・市民委員混合タイプ(横須賀市のまちづくり評価委員会,板橋区など),市民委員タイプ(横須賀市の市民コメンテーター,志木市など)に分けられる。委員の職業では,学者・研究者,経営者,市民活動団体の代表者,学生など様々であるが,自治体によってその構成は一定していない。
それぞれのタイプ別の特徴を挙げると,専門家委員タイプは,指標の設定や評価技法の面での改善に効果がある一方で,市民としての立場があっても関係分野や興味分野は限られ,幅広い生活に密着した市民感覚での“気づき”にやや弱点がある。委員の選定にあたっても,行政側の恣意を排除する方法を確立することが必要である。
一方,専門家・市民委員混合タイプは,専門家委員タイプの難点である“市民の視点”をある程度カバーできる。しかし,幅広い利害をすべて代表しているわけではないこと,また,両者の知識レベルに格差があることは否めない。同じ土俵での議論になりにくく,議論が拡散する恐れもあり,意見表明が特定者に限られがちという欠点も指摘される
。
横須賀市及び杉並区でヒアリングを行ったが,これらを克服するため,前者では評価に関する事前研修を実施したり,後者では,検討段階であるが,委員会の場で評価の専門家が解説したりする場面もあり,専門的な知識不足をカバーする方法も講じられていたことが端的な事例である。
市民委員会タイプは,市民の視点が入った第三者評価という点では優れているが,評価技法などの知識不足は否めず,志木市では,委員が主体的に評価に関する勉強をしながら精度を向上させているなどの事例も見られる。さらに,少数である委員自体の公正・中立性をどう担保するかという問題も大きい。
総じて,評価制度そのものの,目標設定の妥当性,指標の選択をはじめ事業自体の必要性の有無や休止・廃止なども指摘するなど,外部評価の実施により,行政活動の改善への外圧になっている点が外部評価委員会の議事録などからも窺われる
。評価過程の透明性の確保から,外部評価委員会の議事録も公開している自治体が大半である。
いずれにしても,評価が意思決定や価値判断をするわけではないという限界があるように,外部評価委員会は,どのような形態をとろうとも自ずと限界を内在していることは言うまでもない。
次に,特に注目されるのは外部機関への委託である。岩手県千厩地方振興局や三重県の県民局の事例は,NPOに委託していること,かつNPOの主体的な厳しい評価をあえて受忍したことが画期的な試みである。今回の岩手県千厩地方振興局の評価は「政策21」
が,三重県では「評価みえ」
というNPOがそれぞれ受託している。
法人のメンバーは,評価の専門家に近く,併せて活動的な市民の視点を持ちながら評価している。しかし,評価を受託できるNPOは少数であり,全国的なNPO活用という動きには至っていない。契約で主体的な評価を任せ,公正・中立性は保たれているが,評価機関の量的な確保や評価能力といった技術的な問題も有している。このため,当面は外部評価委員会形式が主流になることが予想される。
横須賀市のまちづくり委員会,杉並区の杉並区行政評価検討委員会の会議録を参照した。
政策21のHP http://www.policy21.jp/pub/ 参照
評価みえのHP http://www.hyouka.org/index2.shtml 参照
(2)市民の意見反映などの間接参加
行政評価を導入した自治体では,都道府県で100%,指定都市で92.3%,市町村で43.4%が,評価結果の全部または一部をホームページでの公開や評価調書の閲覧などの方法で公表している
。
これらは結果の公表であるが,外部評価を導入している自治体では,さらに参加の視点から,前述の外部評価委員会のほかに,市民意識調査,あるいは満足度調査などの市民アンケートを実施している。アンケートなどの調査結果は,評価の資料もしくは基準にするほか,評価結果を公表してパブリック・コメントなどの方法で意見聴取を行い,かつ再度評価にフィードバックするなど,間接的ではあるが,こうした方法を併用する動きが見られる。
条例で意見聴取を義務づけているもの(北海道),県民満足度調査を条例に盛り込んでいるもの(宮城県)のほか,アンケート結果を直接評価のポイントに盛り込むもの(横須賀市,京都市)など,市民意見の多様なチャンネルを確保する動きが評価の面でも現れている。評価の公正・中立性と結果の妥当性を市民の視点で補完しており,最近の特徴的な動きとして挙げられる。
平成15年12月5日総務省「地方公共団体における行政評価の取組状況」参照。
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