第7章 機能的な参加型評価システムの提案
自治体の行政評価には多くの種類がある。政策評価,施策評価,事業評価を含む定例的かつ網羅的な自治体における行政評価を前提にして,これまでの論点を整理し,機能的な参加型行政評価のあり方を提示すると次のようになろう。
まず,第一に,情報発信が重要になる。評価情報を有効活用し,分かりやすく二次加工するなど積極的に情報発信を行うことが参加型評価の前提である。参加に適した政策レベルの評価としては,コミュニティ・ベンチマークが優れている。これは,市民が具体的な指標により,達成すべき政策をイメージできる。また,自治体の基本計画の政策目標をベンチマークとして示し,常にモニターすることで市民も現状の水準を理解できるメリットがある。発信すべき基礎的な政策情報として活用性が高いものと言えよう。当然,指標の選択や目標設定に市民参加が行われなければならないことは言うまでもない。計画策定のための市民参加は多くの自治体で見られるが,計画のモニターや改善のための市民参加の事例はほとんど見られない。策定ばかりではなく,実施をモニターする継続的な参加方式を導入することが必要である。
第二に,行政評価の出発点は,成果の達成度評価である。目標管理型の評価の原点に返り,目標と成果をしっかり議論し,簡易な評価からはじめ漸進的なレベルアップを図るべきである。一気に完成型は目指さずに,技術向上や評価の成熟に応じて多様な視点を加え,緻密な評価を構築していけばよいのである。当初からあまり複雑で精緻な評価の仕組みを取り入れることは,理解されないまま評価が消化不良をおこす恐れがある。
第三に,日ごろから市民参加手法を積極的に取り入れ,前述の分かりやすい評価情報を考慮しながら議論を進めることが肝要である。多様な市民意見を反映できる市民パネルなどの市民の声集約システムを導入することもひとつの方法である。
第四に,外部評価委員会の常設が必要である。外部評価は,ヒアリングなどを実施することで,外部と政策を論議し,緊張感を持ちながら行政活動を進めることができる。
最後に,庁内の政策議論を巻き起こすことが大切である。政策や事務は中央政府から降りてくるという伝統が影響し,日本の自治体は,政策を一から議論する文化に欠けている。庁内に二次評価組織を設置し,必要性や成果などを徹底的に検証することは,評価の精度を向上させる。また,評価結果の活用場面を実際に広げることは,制度の組織への浸透を促すことになる。さらに,政策形成能力と評価のノウハウを身につけた行政評価のエキスパートを各部局に養成し,個々の職員をサポートする体制を構築すべきである。これが,市民と積極的にコミュニケーションする能力を身につけていくことにもなるだろう。
以下具体的な参加型評価のあり方を情報発信と意見集約の2点から掘り下げてみたい。
1 情報発信型評価へ
(1)攻めの情報公開
制度としての情報公開は進んでいるが,未だ情報の非対称性は解消の方向にはない。また,市民が必要としている情報について,行政が必要としている情報とは必ずしも一致しない。自治体が行う評価調書の公表は当然であるが,特に市民が欲する分かりやすい情報を発信してはじめて,コミュニケーションにつながるのである。誰もが情報にアクセスする途を用意するとともに,まず市民が求めている情報とは何かを見極めてそのニーズにあう情報を発信していくことが“攻めの情報公開”である。
西尾勝は,「国民一般にとって有用な情報は,問題を解決するのに役立つような詳細な情報よりも,むしろ問題の所在を示し,政治的関心を喚起するような,簡明な情報であることを要する。したがって,政策決定者のための政策手法とは別に,国民一般に役立つ行政診断手法を開発していく必要がある。」
と指摘している。
一般的に実施されている業績評価を主にした目標管理型の評価は,まず,「何を」「いつまでに」「どのような状態にしたいか」という目的があって手段を決め,目標を設定する。そして,事業を実施して目標が達成されなければその理由を考える。達成したとしても,目標水準の設定は妥当であったか,コストは高すぎないかなどを検証しながら改善に結びつけていくものである。このプロセスは,評価調書に記入して振り返りを行う。この調書には,政策,施策,事業の対象,意図,手段,成果が評価情報として掲載されている。このまま読んでも全体像を理解できないが,調書の情報を有効活用し,自治体の業績をコンパクトに工夫して説明することで,西尾がいう「問題の所在を示し,政治的関心を喚起するような,簡明な情報」になり,積極的な情報公開の手段になり得るのではないだろうか。
分野ごとにある程度専門的な知識,ノウハウを有した行政職員が,政策を立案し,実施している現実がある。事務事業でも一般的に1000〜2000というレベルの事業数がある。これらの情報について評価調書を見ながら普通の市民がすべてチェックすることはほとんど不可能に近い。しかし,評価の内容からまちづくりの全体像を,また関心のある分野を,現状や成果を示す指標を使ってイメージできれば,後は詳しく知りたいときに個々の評価調書にたどり着けばよいのである。
こうしたルートに乗せるため,具体的な指標を活用した情報提供が効果的である。しかもわが国は統計データがよく整備されて,都道府県レベルでは約4100指標,市町村にあっては約1300指標で自治体比較が可能である
。これら指標を用いて全国もしくは同レベルの都市や近隣自治体との比較の中から課題を明らかにし,そのうえで評価情報を利用しながら,業績報告としていくの活用するのである。
業績報告は,“わがまち”の現状を分かりやすい指標で表現する。課題は,今どのようなものがあり,課題に対して行政が行っている政策,施策,事業はしかじかのものがあり,これら政策,施策,事業によって,かくかくしかじかの成果が生じるということを,分かりやすく説明することこそ,説明責任を果たす第一歩である。ここまで取り組むことで積極的な情報公開が実現し,市民に説明責任を負っている行政が,その業績を市民が分かる形で報告することになるのである。
このような観点から,政策レベルの評価を行うため,コミュニティ・ベンチマークを活用した総合計画を策定することが理想である。ただ,すぐに着手が難しければ,これは将来的な課題として,まず,現状を正しく分かりやすく報告することが先決である。
(2)具体的な業績報告の方法
行政評価は,行政職員にとって従来にない考え方,手法である。自治体にとって,手続きや事業量ではなく,どのような成果を上げたかが重要になる。しかし,行政評価の目的は,職員自身も共有できていない状況である。
市民は,サービスの受け手である顧客という立場にだけあるわけではない。行政の目的を達成するパートナーでもある。参加,参画,そして協働ということが語られるが,実際に協働するには,行政と同じ情報を共有し,議論できる立場になければならない。例えば,「この事業の成果は十分であるが,さらに工夫の余地がるのではないか」,「この費用で,この程度の成果では不十分である。中止すべきではないか,あるいは別な方法で改善すべきではないか」といった議論のきっかけをつくることが大切である。
参加型評価の意義は,自己評価である内部評価の客観性を担保すること,また,納税者である市民の意思を明確にして民主的な統制を具体化し,かつ利用者である市民の視点を取り入れていくことにある。そして,古川俊一が指摘するように,「市民とともに目標,規範を決定していくことこそが,民主的な意思決定の役割であり,公共価値の創造につながる」
のである。
具体的な業績報告の仕方を考えるため,自治体で最も一般的な少子化対策の一つである保育行政の問題を取り上げてみよう。

就学前児童100人あたりの認可保育所定員について大都市を比較してみると図表7−1のようになる。
札幌市を例にあげると,この指標は14都市中で第9位となる。比較できる指標を活用し,他都市と比べて整備水準はどのレベルにあるのか,また,保育料との関係はどうなっているのかなどの課題が浮き彫りになる。
保育所の数は十分なのか,保育料はいくらなのかということが市民の主要な関心であるということは,札幌市においても他都市においても同様である。知りたい情報を提供し,その上で札幌市の保育行政にはどのような課題があるのか,そのためにどのような保育事業に取り組み,成果に関する数値目標に対してどこまでの水準にあるのかを報告することが市民に分かりやすい業績報告の出発点である。報告のデータは,事務事業評価の主要な指標を使用すればよいのである。
さらに,保育施策を全般から個々の事業まで評価することになるが,政策などの大きな目的や方針があって,その実現手段として,延長保育や産休明け保育など具体的な事業につながっていく。関心の深さに応じて,市民が評価の詳細情報を得られるという仕組みが必要である。こうした業績報告と評価の流れがあれば,行政評価も市民にとって身近なものになるのではないだろうか。情報を分かりやすく伝えることにより,市民の要望・意見も具体的になり,市民参加の様々なチャンネルを通じて,行政とのコミュニケーションが実現していくのである。
具体的な業績報告としては,施策の成果(目標の達成度)と投入した資源(職員費を含むトータルコスト)を対比した報告など,一覧性を持たせた公表を行わなければならない。投入したコストと,成果を比較して報告することは業績報告として不可欠な要素である。地方自治法第2条第14項は「地方公共団体は,その事務を処理するに当つては,住民の福祉の増進に努めるとともに,最少の経費で最大の効果を挙げるようにしなければならない」と規定する。成果の達成にかかる経費が最少であるべきことは自明である。
コスト情報では,バランスシート(以下「BS」という。)による分析も有効である。太田市では,セグメントBSといわれる施設ごとのBSを作成し,コストを分析している
。

例えば,このBSを活用して,老人福祉センターの利用者1人あたりのコストは1,744円と算出している。これは,予算に示されている直接的な経費(歳出コスト)に,人件費,減価償却費(発生コスト),施設を他に利用できたとして生じる「逸した収入」(機会コスト)を合計したフルコストである。
こうした情報をもとに,使用料で賄われる額は37円に過ぎず,市民一人あたりの負担が1,707円かかっている実態を明示している。これは,コスト削減の方法や受益者負担のあり方を考える題材になるばかりか,新たな施設の建設の是非を議論する上でも役に立つ情報である。
バランスシートのほかに,最近はABC(Activity-Based
Costing:活動基準原価計算)というコスト分析が行政の分野に導入されている。予算という直接的な事業費に加え,人件費や減価償却費も含めた事業のトータルコストを事業プロセス・活動毎に調査し,事業や活動のどの部分にコストがかかっているかを分析するものである。この手法を用いることで,事業・行政活動に存在する問題や課題を明確にして,単なる削減ではなく,改善を伴った効果的な事業・業務プロセスの再構築が可能になる。ABCは,四日市市,横浜市,札幌市
で独自に取り組んでいる例がある。
市民は,日常生活で購入する商品・サービスがもたらす成果(期待する効用)と値段を常に比較している。行政活動のコストも,成果と対比して高い低いかを判断できるのである。「分かりやすい」ことは,多くの人が実感・想像できることである。一般の感覚から来るコスト意識が大切である。市民の目にみえるのは,いくらの「お金」をかけて,どれだけの「成果」を得られたかである。せっかく導入したバランスシートや最新の分析手法も,具体的に活用してこそ意味がある。
また,業績報告には,計画との整合をとり,計画の進行管理・実績報告の役割を果たし,予算配分を含めた施策の優先付けなどを説明することも重要である。計画には,現状と課題という背景がある。計画と評価が連携することで,計画,予算,実施そして評価という政策の流れが見えてくる。政策や施策を絞り込んだ重点化が求められる時代であり,業績報告で説明責任を果たすことが重要になっている。
西尾勝「行政学(新版)」2002年有斐閣,358頁
総務省・統計局が作成する「社会・人口統計体系」による。「A人口・世帯」〜「M生活時間」の13分野にわたり,都道府県別に約4,100項目,市区町村別に約1,300項目の基礎データを収集している。
古川俊一・北大路信郷「公共部門評価の理論と実際」2001年日本加除出版,107頁。
太田市のセグメントBSは,http://www.city.ota.gunma.jp/gyosei/0020a/005/01/balancesheet/segment.html 参照。
札幌市では,公式ではないがCR21という職員の自主研究グループが取り組んでいる。
2 成果は達成度が基本
行政評価は,成果指標という目標値に対する達成度を測定することが基本である。
例えば,杉並区では,施策指標を図表7−3のとおり設定して,その達成度を基本にした政策・施策評価を実施している。同区は,政策のひとつとして,放置自転車の解消などの自転車利用総合対策を掲げている。政策目標としては,駅前放置自転車を17年度末で4,512台に削減することを目標としている。また,保育の充実では,待機児童数を「低くする」ことを目標に保育対策を進めている。

駅前放置自転車を17年度末で4,512台にする目標に対して,13年度の実績は9,023台である。保育園待機児童数を低くする目標に対して,逆に増加傾向にある。図表7−3の指標のモニターで,いずれも成果は歴然としている。
これら指標から,政策が進んでいない理由を分析し,放置自転車対策の達成には,施設整備とともに区民のまちづくりにおける積極的なかかわりや自転車などのルール・マナーの向上が大事な要素で,環境整備にむけたPR活動などの対策を強化すべきという方向を導いている。また,保育園・学童クラブの待機児数は,整備数を上回る需要増により増加傾向にあり,潜在需要増を踏まえた新たな整備計画を策定する方向を打ち出している。
仕事を進める上で,「@何をすべきか(達成すべき測定可能な目標),Aなぜするのか(目標を導き出した根拠),Bどのようにするのか(目標達成のための手順・筋道),Cいつまでにするのか(計画達成期日),Dいくらかかるのか(目標達成のコスト見積)」を考えることは,マネジメントの基本である。そして指標は,こうしたマネジメントの基礎になるものである。
前述のとおり指摘した業績報告に,これらを咀嚼して掲載することで,誰でも,過去を振り返り,将来について考えることが普通の感覚で行うことができるのである。担当している行政職員であればなおさら容易に取り組むことができる。
3 市民意見の集約型評価へ
(1)多様な市民意見を反映
行政サービスの過程で,市民の意見,考え方に接する機会は無数に存在する。一例は,日常のクレームや要望である。例えば,札幌市では年間7万件を超えるクレームなどが市民の声を聞く課などに寄せられる。それらの傾向の分析は,市民の満足,不満足の要因は何かを明確に提供してくれる情報である。また,たった一つの意見であっても行政が気づかない問題を提示する場合も少なくない。前述の業績報告が積極的にまちの課題や行政の現状を知ってもらうことならば,これらは,逆に市民を知るきっかけになる情報である。
また,市民に利用してもらうサービスの場合,日常的に簡易な市民満足度調査を実施することはどの現場でも可能である。窓口の利用者アンケート,カウンタに設置する意見箱,インターネットを活用した投票システムなど,チャンネルは工夫次第である。民間企業で取り入れられているCRM
(Customer Relationship
Management)という経営手法も参考になる。これは,顧客に関する情報を一元的に管理することにより,「顧客毎の個別ニーズの把握」,「顧客にあった商品やサービスの提供」を実施し,顧客との関係を長期的に維持しながら利益を最大化しようとする経営手法である。あらゆるチャンネルから入る情報,すなわち多様で大量の“市民の声”を調査,分析して,新しい課題などを発掘していくことは,行政においても有効な手法である。かつての「依らしむべし,知らしむべからず」の行政運営から,行政の透明性を高めて市民に知ってもらい,ともに考え,行動する経営へ転換する手法とも言えよう。
内部評価にあたって,こうした情報を例えば,定性的な判断要素に加えて改善の方向を考えることは,間接的ではあっても市民の参加による評価である。評価に生かす情報は,無限である。
(2)市民パネルの活用
市民意見を反映するチャンネルは,複数用意すべきである。市民は利用者であり,納税者であり,そして,協働者である。多様な側面をもった市民の意見を取り入れるとき,サービスの種類,制度など行政活動の種類によって,個々の市民は立場が異なる。特性を見極めることが求められる。
こうした背景から,特に,英国で行われている市民パネルなどは,注目に値する市民意見を集約手法である。これは,市民の中から年齢や職業,性別などの代表制を有するサンプルを抽出し,提供される公共サービスの評価,課題,改善策あるいは行政需要等の住民意識等の変化を探るものである。
750人〜2500人程度で,同意した住民から無作為に抽出する。一定期間在籍するため,一般の世論調査より回答率が高い。世論調査,特定の定性調査
などのほか,フォーカス・グループ
の設置にも利用される。こうした精度を高めた市民への調査により様々な視点での評価が可能になる。ただ,忘れてならないことは,パネラーに十分な情報提供を行い,スキルアップを支援することである。
第6章では,参加型評価は,「参加の範囲と参加の度合いを適切に組み合わせて制度を構築していくべきである」と指摘したが,参加の範囲と度合いを組み合わせる上で,市民パネルのフレキシブルな点は非常に活用の余地が広い。行政評価の対象は,大型の公共事業から,中高年対象の健康診査,そして年1回開催の小さな講習会まで多様である。したがって一律の参加型評価でカバーすることは合理的ではない。例えば,大型公共事業では費用と必要性など全パネラーに意見を求め,中高年対象の健康診査ではその年齢層の利用者に対象を絞って調査するなどが可能である。また,一律回答をもらったとしても,属性別の分析もIT化で容易になっている。
市民パネルの利点としては,(ア)一定期間委嘱するので,事前研修などの支援方策を講じられる,(イ)対象に応じたフレキシブルな意見反映が可能である,ことが指摘できる。
最近,市民満足度調査が多用されている。しかし,行政全般を網羅して満足度,重要度を調査することには疑問がある。例えば,特定の問題の意見聴取を,様々な情報提供を行わない段階で実施すると,市民の真意とは言えない結果がでる可能性もある。単に施策を掲げて,満足度,重要度を聞くことは,非常にバイアスが大きい調査である。むしろ特定のサービス,例えば博物館,老人ホーム,公共交通サービスなど,実際の利用者からの調査などに向いていると言えよう。
(3)パブリック・コメントの活用
行政評価の結果を公表しても,市民の反応は乏しい。しかし,前述した年次業績報告を公表することで,市民の関心を喚起することができる。公表して意見を聴取し,それをフィードバックすることを繰り返すことで,コミュニケーションにつなげることができる。
パブリック・コメントといわれる意見提出手続きは常に保証すべきであろう。市民参加により,市民の意見や声がどのように評価に反映されたのかをしっかりフィードバックする仕組みが不可欠である。それ自体が,市民と行政の新たなコミュニケーション手段にもなる。
道路などの大型公共事業では,パブリック・インボルブメント(Public
Involvement)が,最近取り入れられるようになっている。これは,施策の立案や事業の計画・実施等の過程で,関係する市民・利用者や一般市民に情報を公開した上で広く意見を聴取し,それらに反映することをいう。市民の不満の多くは,直接的に利害を有しないとき,積極的な関心がないため,事業がある程度進んでから気づくことによって生じるものである。直接利害が絡んではじめて関心を抱くことは,やむを得ないことである。この手法は,市民に計画や事業に対する関心を呼び起こし,認知させることが目的でもある。こうした「市民を巻き込んで行く」という視点は,参加型評価を進める上で不可欠である。
パネラーの中から特定のサービス利用者を抽出し,定性的なアンケートを実施するなど。
本論文第5章,53頁図表5-2参照。
4 外部評価委員会の活用
わが国の自治体の参加型評価は,外部機関への委託を除きほとんどが何らかの外部評価委員会を設置している。まず,外部評価委員会は参加型評価を進める基本である。
同委員会に市民が参加する方式については,委員の選定にあたって学識経験者や市民団体の代表のほか,市民の公募などにより,参加の機会を保障することが必要である。ただ,公募委員については,共に議論していくことを想定し,能力や適性を小論文や面接などにより判定することが望ましい。
また,行政評価は,職員にとっても理解が十分なされておらず,まして市民にとっては知識やノウハウを有していない。外部評価委員会形式の参加型の場合は,委員が一定のレベルを保ち対等に議論できることが大切である。このため,しっかりとした事前研修を行い,スキルアップについて行政側が支援していくことで,評価を決める委員へのエンパワーメントによる効果が期待できる。
さらに,外部評価委員会が評価する場合,時間的な制約もあり,対象は何らかの方法で一部を抽出するなどが適切である。分野を分担しながら,全体で再検討するなども一つの方法である。ただ,ヒアリングの機会は必須条件である。委員会と職員の議論を深めることで,より精度の高い評価が保証される。これは,まさに行政評価をコミュニケーションツールとして活用することである。
5 二次評価の庁内組織を充実
第4章で紹介した外部評価委員会を取り入れた事例のほとんどは,二次評価組織を設置しているか,もしくは評価担当部局が二次評価を担っている。外部評価には,評価の規律強化という側面がある。内部においてもチェック機能を果たし,また,外部評価を支援する組織があれば,さらにレベルを保証することになる。先行事例から二次評価組織の役割を抽出して整理すると次の5つの機能・役割が挙げられる。
@ 二次評価による自己評価の精度向上
A 担当部局のスキルアップ機能
B 評価結果を政策に反映させる機能
C 外部評価委員会に対する支援・調査機能
D 評価結果を業績報告として公表する機能
第一に,二次評価組織が,自己評価に対するヒアリングや指標設定・測定に対するアドバイスなどを通して,緊張感をもった評価を強制し,規律を維持する。そして,内部評価の繰り返しにより,評価そのものの精度が向上する。
第二に,担当部局は評価を専門にしているわけではない。このため,二次評価組織は研修も担い,職員の評価能力を向上させる機能を担うことになる。
第三に,市民が参加した外部評価もその結果を政策に反映しなければ市民の信頼を失うことになる。従来,自治体により,総務,企画,財政などが評価を担うケースが多いが,縦割り組織の中で,評価結果を計画や予算に反映させることは必ずしも容易ではない。このため,首長のリーダーシップと市民意思を背景に,結果を政策に反映させる推進組織は,縦割り組織の弊害を解消する手段ともなる。政策への反映があってこそ,参加型評価の意味がある。
第四に,外部評価委員会への支援である。どのような形態をとっても,委員会が行政活動すべての評価を行うことは難しい。外部委託のように専門家が集中して評価する場合でない限り,委員会に対するサポートする機能が必要である。知識,ノウハウや調査能力は,評価担当部局のみでは限界がある。広く庁内に人材を求め,外部評価委員会を支援する二次評価組織があれば,さらに委員の専門性や市民の視点が生かせるのではないだろうか。
第五に,前述した業績報告の公表機能が挙げられる。ニューヨークの業績報告は,市長運営室(Mayor’s Office of
Operation)が担っている。メンバーは,部局別運営班4班で各10人,管理分析班,管理情報班,監査班,管理班各5人という大掛かりなものである。それぐらい業績報告を重視している
。しっかりとした体制がなければ,詳細でかつ分かりやすい業績報告を公表することは,困難である。庁内の二次評価組織の役割は大きい。
東京都「ジュリアーニ市政下のニューヨーク」2001年,81-98頁参照。
補論 大都市における参加型評価―札幌市の現状を踏まえて
この章では,一般的な参加型評価のあり方を提言した。しかし,自治体には,住む人の顔が見える人口数千の村もあれば,100万人を超える大都市も存在する。ここでは,行政と市民の意識の距離が遠いと言われる大都市を題材にして,参加型評価の一例を提案したい。
1 身近な問題から参加型評価へ
平成14年度の札幌市市政世論調査
によると,経営改革を進めるために重視すべき目標を尋ねた設問に対し,「情報公開の徹底と透明な市役所づくり」(41.3%),「コスト意識の向上と質の高い施策,財政の健全化」(40.2%),「『顧客志向』と『成果主義』の行政経営」(37.1%)の3項目を望む回答が上位となっている。行政の透明性の確保と効率性を望む市民の声が圧倒的である。
これに対して,「市民参加型行政の推進,市民意識調査の拡充」という回答は,19.8%と7番目である。市民の意識として,参加を望む声が高いか,低いかは議論の分かれるところである。いずれにしても,行政が積極的に市民の中に出かけて行ってこそ,市民の参加が得られると考えるべきであろう。市民意識の中にある行政は,不透明かつ非効率である。こうしたイメージを払拭しなければ,信頼を得ることは困難である。
一方,市政に対する要望は,「除雪に関すること」(42.6%)が最も高く,次いで,2位「高齢者福祉に関すること」(31.4%),3位「公共交通の便利便を進める事業」(21.1)%,以下「事業ごみや資源回収のこと」(17.2%),「子どもの教育に関する事業」(12.9)%,「健康づくり,医療,衛生の事業」(11.1)%,「道路の整備に関すること」(10.7%)となっている。より生活に密着した事項に,市民の関心が集まっている。
札幌市の事業は,その捉え方にもよるが2000事業を超える。すべての事業に市民が直接参加し,評価することは,現実的には困難である。参加型評価は,外部評価委員会形式が中心とされよう。しかし,前述のとおり,生活に密着した事業に対する市民の関心は,非常に高い。まず,こうした事項から積極的にアプローチすることが効果的である。「行政は遠い存在である」,「参加といっても方法や機会を知らない」「意見を言っても自治体の決定にほとんど影響がない」という声は,市民参加に積極的なイギリスでも聞かれることである
。こうした不信や懸念を払拭することが,より参加を促すことになる。
20歳以上の市民男女1500人抽出して,個別訪問による質問紙留置法により毎年,テーマを設定して実施している世論調査。
竹下譲・横田光雄・稲沢克裕・松井真理子「イギリスの政治行政システム」2002年ぎょうせい,292-293頁及び英国環境・地域・運輸省「Guidance
on enhancing public participation」1998年参照。
2 地域別,テーマ別市民会議の設置
大都市であればあるほど,行政と市民の距離は遠いと言われる。最近,市町村合併に絡んで,近隣自治政府,地域自治組織が論議を呼んでいる。第27次地方制度調査会は,平成15年11月に「今後の地方自治制度のあり方に関する答申」の中で,地域自治組織の制度化を提言した。この組織は,「住民に身近なところで住民に身近な基礎自治体の事務を処理する機能と住民の意向を反映させる機能,さらに行政と住民や地域の諸団体等が協働して担う地域づくりの場としての機能を有する」ものと位置づけられている。
また,大都市における行政区において,その組織の活用も示唆している。答申を待つまでもなく,大都市においても市民に身近なところでその意向を反映するよう,都市内での分権化を図ろうという動きは活発になっている。本論文で地域自治組織の是非を論ずるわけではないが,この答申は,大都市における市民自治の難しさの核心を指摘したものと言える。
先に,行政マネジメントのイメージを示した。図のとおり,市民は,個人,地域団体,テーマ別団体,そして企業と輻輳した関係性を有している。大都市になればなるほど,その意見集約は困難性を増してくる。
このため,参加型評価を導入する場合,直接的な意見集約手段として,市民パネルなどの活用を提言したが,大都市においては,さらにテーマ別市民会議,地域別市民会議の設置を提案したい。
(1)地域別市民会議
札幌市には,10か所の行政区がある。人口の構成,産業構造,地域性など必ずしも一様ではない。また,同じ区内でも,成熟した住宅街で高齢化が著しく進んでいるところもあれば,郊外の住宅地で若い世代の多い地域もある。交通の利便性なども異なっている。こうした地域性によって生じる市民のニーズや課題にも,行政のきめ細かな対応が求められている。同じ市の施策や事業に対する評価も,地域によっては異なる結果が生じることもあろう。参加型評価の場合は,市民の評価結果が市政に反映されてこそ参加の意味合いを増してくる。評価においても,地域性を無視することはできない。
札幌市では今,中学校区ごとにまちづくり協議会(仮称)を創設するとともに,市内の87の連絡所をまちづくり支援センター(仮称)に改編し,市民自治の拠点にしようという構想もある。連絡所は,地域の住民組織との連絡調整や住民票などの交付を行っている。これに,協議会をサポートする機能を持たせようというものである。連絡所には,大抵地区会館なども併設されており,場の確保も可能である。地域のまちづくりを考える上で,評価は改善を考える出発点なる。前述したように,市民の関心は,身近なところに強いという実態がある。まず,身近な題材を取り上げて評価する。除雪問題,生活道路,そして地域の介護の問題など,市民の関心の高い分野を取り上げてもらう。評価で市民の市政への関心を高め,評価を通じてまちづくりのノウハウを獲得することにもつながる。このため,市は,市民のスキルアップを支援する。出された評価結果は迅速に政策の改善に活用する。さらには,市民自らが取り組まなければならない課題も浮き彫りにされるのである。
住民協議会,コミュニティ協議会という組織は,三鷹市,武蔵野市に先進事例がある。両市は,コミュニティ・センターの管理・運営を中心にしながら,地域活動につながっていった。こうした長期の積み重ねがあって,三鷹市では,市民が主体となって市の長期計画づくりを担うまでになっている
。アメリカでは,コミュニティ協議会(Community/Neighborhood
Association)という地域組織が,市の政策形成に関与している事例が少なくない。
例えば,ニューヨークでは,区域の投資・運営予算における優先順位づけや学校行政の評価検討などを担っている
。また,ポートランドでは,地区開発には事前評価を受けるなどの事例も見られる
。地域内の市の事業に対する業績評価なども担っており,市政にも大きな影響を及ぼすようになった好例である。自然発生というよりも,もしろ政府がコミュニティ形成を積極的に支援したという経緯があった。市民参加が地域の発展に貢献する可能性を感じさせる事例である
。
市民自らが,自己組織力を高めるためには,構成メンバーの問題意識が重要である。“札幌型のコミュニティ形成は,参加型評価から”ということも一つの方法である。評価の学習機能を活用するとともに,市民の参加を促すきっかけにもなるのではないだろうか。地域で立ち上がるであろう協議会がどのような形態かは見えないが,全市で一律である必要もない。様々なタイプの協議会になるかもしれない。制度として確立するかはともかく,組織に評価機能が組み込まれれば,市民評価型タイプの新しい参加型評価と言えよう。
市民参加には,2つの側面がある。政治や行政への参加と公共的,社会的な活動への参加である。市民が,そして地域が公共を担う時代である。評価結果をもとに市に要望したり,市議会議員とともにまちづくりを考えたり,あるいは自ら課題解決のための行動に結びつくかもしれない。市民が主体となって自己決定する。その前提として参加型評価の可能性がある。
(2)テーマ別市民会議
次にテーマ別の市民会議の設置を提案したい。地域別市民会議は,点として市内全域をカバーするが,面としてそれらを結びつける横軸も必要である。
市民には,地域性に根づいた課題もあるが,例えば,全市的な制度であれば,幅広広い市民で論議するほうが適切な場合がある。非常に限定されている難病とか,逆に全市民が利用する大型施設など,テーマ別の方が効率的かつ効果的ではないだろうか。テーマは様々である。まちづくり計画の市民会議もあれば,高齢者福祉,障害者福祉,交通問題,そして中心市街地の活性化問題など,市の方向を決める上で重要な課題は少なくない。例えば,サンセット方式で,100人委員会を組織する。セミナーやフォーラムなどの学習,啓発などのイベントを開催し,市民パネルなど市民参加の手法を組み込んで,会議を動かして行く。イベントなどの企画を任せることもひとつの方法である。地域別会議は常設となるだろう。しかし,テーマ別会議はフレキシブルに運用できる。毎年テーマを変えて組織するなども可能であろう。こうした委員会に,市に対し直接,あるいは外部評価委員会に提言する機能を持たせることで,一層市民ニーズ,意識に沿った評価が得られるのではないだろうか。いずれそのOBが自主的な活動をはじめるかもしれない。
市民が積極的に自己組織力を高め,行政評価を担う風土にはまだ達していない現状がある。参加型評価を構築するには,まずステージを用意し,市民を積極的に支援して行くことが必要である。そして,長期的で継続的な取り組みが重要である。
アースタインは,市民参加について8つの段階(梯子)があると説明している。@操作(manipulation),A治療(therapy),B情報提供(informing),C相談(consultation),D宥和(placation),Eパートナーシップ(partnership),F権限委譲(delegated),G自主管理(citizen
control)の8つである。
市民参加を組み込んで,一朝一夕に参加型評価を確立することは難しい。まず,身近な問題からはじめる。テーマを絞る。評価を通してコミュニケーションを図る。そして,戦略をもって,市民参加を支援することが,市民に根づいた参加型評価をはぐくむことになる。地域別市民会議が市全体をカバーし,テーマ別が世代別であったり,市全域であったりして,縦横無尽にネットワークが重なっていくことになる。地域ごと,そしてテーマごとのコミュニティを基盤として,他者との信頼関係に支えられた新しい社会システムが構築できるのである。参加型評価の可能性は非常に大きい。
みたか市民プラン21会議は,三鷹市の基本構想・第3次基本計画策定に向けて市民の視点からの提言を行うための市民参加組織。白紙から自らのプランを市民の手で検討し,「みたか市民プラン21」として提言した(平成12年10月)。
自治体国際化協会(ニューヨーク事務所)「米国のコミュニティ‐協議会」2003年参照。
日本都市センター「市民と都市自治体の新しい関係構築に関する調査研究
最終報告―自治的コミュニティの構築と近隣政府の選択」2002年参照。
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