(はじめに事業ありきの行政評価)
行政評価というツールと出会って2年が経った。世の中の動きも随分激変している。厳しい厳しいといわれながら,現実味に乏しかった地方の行財政事情。しかし,全国で半ば強制的に進む市町村合併や骨太の方針に盛り込れた地方交付税の見直しなど,否応なく本格的な改革が求められている。これまでの行政を支えてきた官僚制が行き詰まっている。官僚制の特徴は,「階層性」「独占」「安定性」「規則・手続」……などがある。階層性には参加・協働が,「独占」には市場原理に基づく競争が,「安定性」には,ゼロベース予算や柔構造の組織が,「規則・手続」にはアウトカム志向が,次々に従来のあり方に警笛を鳴らして迫り来ている。
「何でもありの行政」から「あれかこれかの行政」に転換すべき時代である。“選択と重点化”が行政に求められている。どのような分野にも満遍なくサービスをする時代から,環境変化を敏感に捉えて適切な選択が必要な時期にきている。そのような激変期に,よく協働型社会という言葉が踊っている。市民参加,パートナーシップという言葉が氾濫している。間接民主制の存在意義に一石を投じた住民投票や進む情報公開,改革のテンポは急である。そんな中に,市民ニーズに戸惑っている行政の姿が浮かび上がる。戸惑いながらも協働型社会のあり方を模索しているのが今の行政の現状といえないだろうか。
行政評価は,単なるツールである。しかし,激変する行政のあり方を問い直し,市民とのコミュニケーションを行うツールとして期待が大きい。ただ,全国の行政評価の事例を集めて,日本の自治体に相応しい評価のあり方を模索するうちに,多くの自治体に導入されつつある行政評価は,本来の導入目的からは程遠い状況で足踏みしているような思いが募ってくる。イギリスで,ベスト・バリューという評価システムを垣間見てきた。ゼロベースで政策を問い直すシステムである。これに対して日本の評価は,“守りの評価システム”である。現状をしっかり見据えてゼロベースで政策を考え直す“攻めの評価システム”のベスト・バリューと比較して,問題点を挙げるとすれば”はじめに事業ありき”の評価のあり方である。
(政策目標の共有にかける現状)
自治体には,まちづくりの基本構想,基本計画,実施計画という政策の体系がある。それに基づき目の前の事業があるはずである。しかし,計画部門の策定した計画と事業部門の実施する事業の間の連鎖が何時かしら切れてしまっている。いや,そもそも連鎖などないのかもしれない。多くの自治体では,数年かけて市民調査や現状の分析,有識者との意見交換など議論に議論を重ねて基本構想,基本計画を策定している。計画の持っている理念は誰も否定し得ない。時代に変化に応じて修正は加わるにしてもまちづくりの根幹をなすべきものと言える。それならば何が問題か。目の前に計画の文言しかなく,計画の背景や課題の本質を市民も職員も共有していないことが問題である。計画の背後には,緻密な現状分析があり,社会の課題を捉える指標があり,そして解決方法を探る議論がある。そのような経過で策定されたまちづくりの基本計画。背後にある問題意識,分析,議論を共有してこそ,市民が,職員が共通の政策目標として理解することができるのではないだろうか。
オレゴン州型のベンチマーク。州の戦略計画と密接不可分の関係がある。「まちづくりのビジョンーあるべき姿」,「ミッションービジョンを実現するための市民,行政の役割」,「ゴールー目的,分かりやすい指標に託された成果」に示されている。すべてを示す指標ではないが,分析や意識調査,グループインタビュー,そして議論の積み重ねが指標と言う形に結実したものだ。だれが見ても州も方向が分かりやすい。分かりやすいから議論ができる,コミュニケーションができる,そして評価ができるのである。
協働にも2つの側面がある。組織内の協働と市民との協働である。ベンチマークはこのどちらにも有効なツールである。ネットワーク時代にはネットワーク時代に相応しい合意形成が必要である。協働の源泉は,情報を共有して議論しあうことにある。現在進められている行政評価は,専門・技術的に走りすぎていて分かりにくいことが問題。情報共有には至らず,議論が始まらない。細部は細部の情報が必要であるが,議論できるまちづくりの題材が必要ではないか。それがオレゴン型のベンチマークに期待できるのではないだろうか。
(“まちづくりのQC活動”にベンチマークを活用しよう)
オレゴンのベンチマークは,市民活動が根づいた米国だからできたという議論がある。東京都の政策指標に代表されるように県レベルでのベンチマークづくりが進んでいるが,「参加・協働」という視点が欠けている。青森県の政策マーケッティングブックは,オレゴンの進め方に近いかもしれない。ただ,市民に十分浸透しているかというと否である。すべての市民を議論に巻き込むことは不可能だろう。しかし,まず正しい情報を市民に発信するところからはじめる必要がある。
■ベンチマーク指標の役割

そのためには,
- 庁内でまず情報を共有すること,政策議論をはじめること
- 次に正しい情報を分かりやすく市民に伝えること,
- 市民と議論すること,それを公開すること
- その上でベンチマークをつくること
そうした手順が必要である。
ナレッジ・マネジメントが注目されている。行政内部ですら情報が共有されていない。だから目の前の仕事しか見えず,問題意識が芽生えず,セクショナリズムが解消されていない。情報化が急速に進む中で,まず内部での議論の活発化が求められる。
次に,財政状況の簡単な報告や施策についての広報はするが,行政の抱える問題は積極的には発信されていない。強みも弱みも分かって,はじめて問題や取るべき方策が見えてくる。市民も同じである。情報公開やアカウンタビリティという言葉が生きてくるのはこのためである。
さらには議論の場が必要である。インターネット時代に電子会議室という取り組みが藤沢市,大和市,札幌市などで実施されている。三鷹市では,基本構想や基本計画づくりに「みたか市民プラン21会議」という市民主体のまちづくり会議も開かれている。参加そのものが職員の,市民のモチベーションを高めてくれる。インセンティブにもなることは,米国や日本の数多くの事例が実証している。こうした参加,協働の取り組みにベンチマークを取り込んで,まちづくりを議論することが,協働のための出発点になるのではないか。都市計画や公園づくりなど個々の具体的な事例は少なくない。まちづくり全体での協働システムづくりがそろそろ必要となっている。ベンチマークは,”まちづくりのQC活動”と言えそうだ。ベンチマークづくりの方法案については,別案に例示したが,それぞれの自治体の環境に合わせ組み立てていくことが必要であろう。