欧米のNPM改革の原点は何か
今わが国がおかれている財政赤字の増大,経済の停滞,成熟社会の到来,そして少子高齢化などニーズの多様化は,欧米の多くの国が経験してきた関門である。イギリス,米国,オーストラリア,ニュージーランド,北欧がこの関門をニュー・パブリック・マネジメント(NPM)という理論と実践で乗り越えてきている。
多くの自治体がこのNPMを基調とする行政評価を導入している。しかし,目標管理型にもかかわらず目標が設定されていない行政評価,市場原理の導入と言っても満足に算出できない事業のフルコスト,セクショナリズムが蔓延する官僚制,権限と責任があいまいな組織など,NPMで成功した欧米と”似て非なる日本型NPM”がはびこっている。
NPMを定義すると,「民間企業における経営理念・手法,さらには成功事例を可能な限り行政現場に導入することを通じて行政部門の効率化,活性化を図ることにある」(大住荘四郎「ニュー・パブリックマネジメント」日本評論社,1999年12月・p1より)。その特徴は,@現場の管理者に権限を委譲した柔軟な組織運営を図る,A市民を顧客とみなして,その満足を高めることを基準にした業績・成果を測定する,B測定して評価した結果は市民に公表するとともに意見を聞きながら組織の意思決定に反映する,Cより少ない行政資源(人,モノ,お金)の投入により行政サービスの効率性,有効性を向上させることなどが挙げられる。その発展段階を概観すると下図のとおりである。官民の役割分担を見直し,契約概念を取り入れたドラスティックな評価・統制手段としての業績評価システムの導入,そして,ミッション・ビジョンに基づく戦略マネジメントシステムの構築といった流れが見えてくる。

NPMの「M」は,マネジメントのMである。評価が目的ではなく,評価はマネジメントの手段・ツールである。しかし,日本の自治体の行政評価の実態は,NPMという枠組みの一部を取り出して,精緻な議論を繰り返しているに過ぎない。目的があいまいで,マネジメントがない。いわば,”造林して森林を養生するのに,盆栽をしている”ようなものである。
イギリスでは,中央省庁から執行部門をエージェンシーに分離する改革が進み,企画部門と執行部門の分化が行われた。業績評価は,このエージェンシーの責任者に予算や人事権(いわば分権化)を与え,そのインプットと業績や成果(アウトプット・アウトカム)を評価して,統制する手段として用いられた。契約という極めてドラスティックな世界で取り入れられ機能したシステムである。エイジェンシーの長官ばかりでなく,上級管理職は公募が一般的,人事にも競争原理が貫かれている。こうした世界で,目標の設定,達成状況のモニタリングと評価,結果改善へのフィードバック,結果の説明責任といった一連のシステムが出来上がったものである。組織,権限や責任といった従来のシステムをそのままに,行政評価のみを取り入れてもその成果に限界があるのは当然である。
マネジメントの改革は,戦略経営へのシステム改革である。説明責任・透明性向上のための枠組みを徹底し,行政活動のフルコストを把握するための発生主義会計導入,業績マネジメントと予算・財政のマネジメントの連携・統合へと続く。予算や計画に,業績評価と得られる情報を活用して、限られた行政資源の配分を行う。業績や成果よる行政活動の統制は,言い換えれば「分権化」への動きでもある。重要な意思決定や資源配分の優先づけ,組織全体の目標などは,リーダシップを発揮したトップダウンで,個別の施策への行政資源の投入は,「分権化・分散化」、「ボトムアップ」で対応している。
評価しても,それを生かせる予算や権限がなければ意味がない。組織の階層や権限の体系をフラットに簡素化し,権限を明確にしてこそ,評価が生きてくる。組織の改革,分権化,発生主義会計の導入,そして戦略マネジメントシステムと一体的でこそ行政評価の機能を果すと言えよう。日本型システムを一朝一夕に,組織や人事システムまで変えられないのは現実かもしれない。しかし,組織内での契約関係構築,市民への宣言(ベンチマークや市民憲章)など,取り入れられる要素はある。NPMの真髄は,市場競争原理の導入,業績評価,マネジメントと一体的な改革であり,原点に学ぶ要素はここにある。
(参考文献)
2001.8.5