「脱官僚主義」を読んで
〜5つの戦略で示す行政改革の処方箋〜
米国のクリントン政権で、NPR(National Performance Review)という行政改革運動のアドバイザーを努めたデビット・オズボーン。彼は、米国、イギリス、ニュージーランドなどニュー・パブリック・マネジメント(NPM=新公共経営)に根ざした改革事例を分析し、この著作を通じて行政改革に求められる5つの戦略を明らかにしている。これは、5つのC’s(The
Five C's=Changing Goverment's DNA)と呼ばれ、改革の場面場面で組み合わせながら、行政の遺伝子を”改革のDNA”に変化させる戦略といえるもの。いわば、NPMに根ざした改革の具体的な処方箋である。
かつて欧米の先進国は、未曾有の財政難、不況の中で改革を進め、理想とする行政府をつくりあげていった。転じて日本は、”失われた10年”という言葉が象徴するように、数々の改革プランを示しながら今をなお迷走を続けている。
日本の改革に欠けているものは何か。この本には、欧米の改革事例が、成功ばかりでなく失敗とともに当事者の言葉を織り交ぜながら語られている。それぞれの立場に応じた”気づき”がきっとあるに違いない。インパクトのある改革の指南書である。今後の行政改革の方向について、必ずヒントを示してくれる一冊と言えそうだ。
まずこの本は、Reinvention(行政を改革すること)とは、「効果、効率、順応性、革新を可能にする能力、それらを飛躍的に高めるために公共システムと組織を根本的に改革すること」と定義する。
そして、官僚制の問題点を、「職員は、高度に規制された機械の歯車である。職員の仕事は機能別に分けられ、その内容はこと細かに決められる。詳細な規則と手続きは、職員の行動を決定付け、管理職の仕事はその行動がとられているかを確認することとなる」と指摘し、”脱官僚主義”による自己革新のシステムを組み込んだ行政のあり方を示している。
その具体的な戦略が行政の細胞にあるDNAを、改革のDNAに変化させる”5つの戦略=5つのC’s”である(下図)。長い間,繰り返してきた日常的な仕事の中に、ただ痛みを伴う変革を命じても、それは不可能である。変革は「改宗」のようなもの。「信じるもの」を見つければ、人の行動様式はおのずと変わってくる。それには、公共部門のDNAを変えることが必要で、「システムの目的」「インセンティブ」「説明責任システム」「権限の構造」「文化」に、行政の行動を決定付ける基本があると説く。
- 核心戦略=行政の目的をはっきりさせる(目的、役割、方向の明確化)。
- 結果戦略=やる気をおこすインセンティブ(誘因)を生み出す(企業的経営、管理された競争、業績監督)。
- 顧客戦略=サービスの受け手に対する説明責任を負わせる(顧客による選択、競争による選択、顧客への品質保証)。
- 管理戦略=権限に帰属を決める(組織的変革、権限委譲、雇用者への権限委譲、地域社会への権限委譲)。
- 文化戦略=職員がもつ価値観、規範、期待を変える(習慣を変える、感情に訴える、職員の心をつかむ)。

核心戦略ー目的を明確にする
英国やニュージーランドで取られた核心戦略の方法は、(1)不必要なものを取り除くこと、(2)舵取りと漕ぐことを分離すること、(3)目的を改善すること、である。核心戦略の基本は、目的を明確にすることにある。進むべき方向を決め、不必要な機能を除去し、目標到達にするために組織化することである。
不必要なものを取り除くとき、これを大規模に痛みを与えることではなく、徐々に、継続的にプロセスを制度化して行うことが大切である。また、舵取りと漕ぐことを分離することは、政策と規制監督の役割からサービスの提供と法令遵守の監視を分離し、さらにサービス機能や法令遵守の監督機能を様々な組織に分離させる。これにより、それぞれの組織が明確な目標を達成できるようになる。
目的を改善することは、組織の方向を明確にすることで達成できる。そのためには、目標を設定するためのツール、目標を達成するため戦略を開発し改善するツール、漕ぐ組織を目標に結びつけるツールが必要である。行政機関が達成したい成果目標、その成果目標を達成するための戦略を開発し、選択し、改良するプロセスや、長期的な成果目標を実行するために財政見通しやコストを明確にするが必要である。
| (核心戦略のツール) 不必要なものの排除
- 業績・事業の再検討(民営化、委譲,再編成など)
- エイジェンシー化(日本で言えば独立行政法人)
- 資産の売却
- 準民営化ー長期リースやPFI
- 権限委譲
役割の明確化
- 柔軟な業績の枠組みー分離した機能を異なる組織に。目的と期待される成果、業績に応じた報酬、契約
- 競争入札
目的改善
- 成果目標
- 漕ぐ組織ーオレゴンのプログレスボードなど
- 戦略開発ー成果目標を達成するための戦略開発、選択、改良するプロセス
- 業績予算、長期的予算
- 発生主義会計
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結果戦略ー信賞必罰の導入
行政サービスに、公務員と民間事業者が同列に入札に参加する競争入札は、公務員に伝統的な仕事のやり方に再検討をはじめるきっかけを与えた。独占的な行政サービスは、業務の改善が誰にとっても目的にはならない。成果主義を導入して、公共機関に独立採算を強いる。企業的な経営がやる気をおこすインセンティブ(誘因)を生み出した。
競争といっても敗れた公務員をレイオフするのではなく、退職者の自然減を利用したり、民間企業に再就職させるなど、ドライと言われる欧米でも極めて人間的な対応を用意して実施している。
企業のように競争できない場合も、「管理された競争」を用意する。業績を測定し、比較する。競争的なベンチマークが組織間の心理的な競争関係を生み出す。これを業績の評価や経済的な報酬に結びつける。
業績監督で、組織が出した結果に対して直接的な利害を与える。例えば、業績に対する賞や休暇や新しい設備などのインセンティブ、ボーナス。節約分の予算を内部に留保できるしくみ等。「達成、認知、挑戦、興味、責任、昇進、給与と手当て」というモチベーションを高める要因を組み合わせ、インセンティブを与えながら目標を定めていく。
| (結果戦略のツール) 結果戦略
企業的経営
- 企業化ー組織を行政から独立、利益の最大化を事業目標に。業績に対する説明責任を負う
- 企業ファンドー顧客からの収益で資金が賄われる公共組織
- 利用者への課金ー顧客へにコストの一部または全部を請求
- 政府内企業的経営ー組織内のサービス部署が他の部署を顧客として経営
競争管理
業績監督
- 業績に対する賞
- ボーナス
- 利益の共有ー組織が達成した節約分の一定割合を分配
- 共有の内部留保ー節約した金額を将来の予算に優先利用、組織のインセンティブに
- 業績報酬
- 効率的な予算配分ー小規模な予算削減に、レベルの維持を要求,生産性改善へのプレッシャーを
- 業績予算ー要求されるレベルを予算に明記
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顧客戦略ー顧客が主役の改善
サービスの受け手に対する説明責任を負わせる。最も端的な例が、学校の自由入学制度。生徒が自分の学区以外の学校に通う自由を認めるシステム。学校は、生き残りをかけて顧客のために創意工夫をする。カリキュラムどおりに教えても顧客に満足は与えられない。
顧客に対する説明責任を果たすとき、公共組織はその態度を変革せざるを得ない。説明責任は変革への強力なテコである。組織の指揮命令系統ばかりでなく、顧客に対して業績の説明責任を果たせる組織づくりも行うことで、結果戦略も確立される。
核心戦略は、組織が何のために説明責任を負うか、結果戦略は、組織がどのように説明責任を維持するか、顧客戦略は誰に対して説明責任を負うかを決めることにほかならない。
顧客戦略は、顧客に公共組織の選択肢を与えること、また、各サービス提供者を競争させることで顧客戦略と結果を結びつけること、顧客サービスの基準を定め、その基準に見合った組織に報酬を与え、そうでない組織には罰則を与え、顧客への品質保証をすることにある。
| (顧客戦略のツール) 顧客選択
- 公共選択システムーサービス受益者に選択肢を用意
- 顧客情報システムとブローカーー顧客に品質とコスト情報を提供し、的確な選択を可能に
競争選択
- 競争的な公共選択システムー顧客のサービス提供者の選択を奨励し、公共予算は顧客の動きに応じて配分(例:公立高校)
- バウチャーと償還プログラムーサービス受給資格者に,自身でサービスを選択し、購入する手段を提供(例えば、介護保険)
品質保証
- 顧客サービス基準ー住民票は5分以内に交付などサービスの基準を公表
- 顧客救済策ーサービス基準を満たさないとき、顧客を救済
- 品質保証ー顧客が満足しないときには、料金の返却や再サービスを確約
- 品質検査員ー公共サービスを検査し、評価する
- 顧客苦情システム
- オンブズマン制度
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管理戦略ー権限委譲を進める
ボトムアップの組織は、従来の官僚組織よりはるかに効率的である。管理戦略は、公共制度と公共組織における「所在と形態」を変化させるものである。共有されたビジョンや価値、業績に対する期待に基づく新たな制度が必要であり、信頼がそのカギとなる。信頼し、任せ、成果を検証し、結果に対する説明責任を負わせ、現場に権限を委譲する。いわば分権化にほかならない。
職員の活動を管理するより、職員に組織の目標と価値を理解させることが重要。信賞必罰、報酬やペナルティも考慮しながら、組織に権限や予算を委譲する、職員そのものに権限委譲、さらにはパートナーシップや協働で地域社会へ権限を委譲する。様々な形態の権限委譲が、効率的で効果的な成果を導いてくれる。
| (管理戦略のツール) 権限委譲
- 行政管理の分権化ー現場に人事,予算権限を委譲。命令・監視は最小限に
- 組織の規制緩和ー組織の行動を規制する規則などを無効に
- 管理権限の現場委譲ー資源や日々の意思決定を現場に
- リインベンション実験機関・実験的組織ー規則や手続きを一時的に破ったり、業績改善の新しい試みを認められた公共組織。職員の権限委譲など,新しいアイディアを試験的に行う。
- 期限付ルールー規制は時限的に。再度承認がなければ廃止
職員への権限委譲
- 職階の削減、組織のフラット化
- 組織内での分権ートップから現場の管理者に権限委譲
- 機能重視の組織編成ー現場に機能を移し、官僚的な部署を排除
- 作業チーム・自主経営作業チームー共通の業績目標を達成するための職員グループ。固有の権限をもつチーム
- 職員の提案プログラム
地域社会への権限委譲
- 地域社会統治体ー地域の公共組織の運営を住民に任せる(学校長の任免、予算組などは学校自体に任せる)
- 協働計画ー市民と計画をともに策定
- 地域社会管理組織ー地域の公共組織を住民グループが運営
- パートナーシップー行政と地域のジョイント・ベンチャー
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文化戦略ー起業家文化を育てる
職員がもつ価値観、規範、期待を変えるしくみが文化戦略である。職員に起業家的文化を育てることが大切である。
組織文化には、癖やお決まりのパターン、儀礼、習慣など、分かりやすい側面がある一方で信念、思い込み、思想、希望、夢など抽象的で分かりずらい側面もある。これを形作るのは、組織の構造、職務内容、仕事の手順、言葉、政策、技術といった要素である。まず、これを変えるには、明確な目標を定めることが第一歩。そして、顧客の満足を高めた職員を評価し、意思決定に参加させること。古いパラダイムからの転換は、解決することができない問題、説明できない現実、正しいと認めることができない事実が積み重なることで否応なく変化する。
| (文化戦略のツール) 習慣を変える
- 顧客に会う、顧客の立場になる
- インターシップ・エクスターンシップー外部の経験、血を入れ、新しい経験をする
- 横断的な行動と横断的な話し合いー他部署の職員と一緒に作業し、対話し、縦割りの境界を超える
- 支援の制度化ー革新的なアイディア運動を公式に支援する
- 競争ー業績を評価し、報酬を与え、組織全体に行動を促進
- 組織全体で同時に取り組む戦略作成合宿ー戦略の見直しや方法を集中的に合宿で行う。ほとんどの職員を参加させる。
- ワークアウトー何にも邪魔にされない環境での短期的な実習
- 実践的な組織経験ー同じ経験を多くの職員が共有する
- 仕事の内容を改めるー継続的な改善の経験を繰り返す
感情に訴える
- 新しいシンボルや物語ー築きたい文化を直感できるシンボルや物語を作る
- 成功を祝い、失敗を称えるー成功には栄誉を、失敗にはチャンスを
- 儀礼的な行事ー新しい文化を具体化し、強化する行事。
- 職場環境向上のための投資ー職場環境の質の向上を図り、職場環境を重視していることを理解させる。
- 職務の再編成
- 職員への投資
- 行事を頻繁に行うー信頼,協働作業により強力な関係をつくる
- 真実を打ち明ける訓練ー他のグループにどう変わってもらいたいかの言うための訓練。係わり合いを変える。
職員の心をつかむ
- すでにあることの再確認ー何を変えるべきかを議論するグループ・エクササイズ
- 業績をベンチマークで測るー他の組織と比較して、欠点を取り除く
- 現場視察ー新しい文化を具現している組織の体験
- 学習グループーグループによる学習で、助け合い,考え方を変える
- 使命感を生み出すー参加により使命への理解を深める
- 共有されたビジョンの構築ー達成しようという未来を言葉で表現させる
- 組織の価値、信念、原則の強調ー新しい基準を強調する
- 新しい言葉の使用ー官僚主義的言葉を止める
- 組織内の教育ー組織内の先導者を教育する
- 新任職員へのオリエンテーションービジョン、価値を理解させる
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5つの戦略は、どのような組織にも当てはまる中核的なDNAである。しかし、組織の規模や政治システムなどで取り入れるための戦術は異なるだろう。構造改革は、DNAを変える戦略があって初めて力を発揮する。ツールを選ぶ前に戦略を練ることが大切である。
今、日本の現状に思いをいたすとき、様々なツールを取り入れながら消化不良をおこしている事例が思い浮かぶ。改革の先に何を描くのか。姿が見えないままにツールに頼る姿が見えてくる。この著作に登場する事例を見ると現在導入が進むツールがある一方で、日本の文化には一見受け入れ難い仕組みもあるように思える。しかし、欧米に見た官僚制の弊害は、万国共通の現象である。改良の余地は多分にあるが、日本のDNAの変革にも大いに期待できる戦略といえるのではないだろうか。
Reinvention(行政を改革すること)は、心地よいことばかりではない。これまで大切にしてきたことを手放す覚悟がいる。無理を強いることは必要。でも、それを強いつづけることはできない。時には、人間的であることも。市民によいこと、正しいことだけで改革は進まないこともある。
最後にそんな教訓を、次のリインベンターが守るべきルールとして提示している。
- 変革には新しいDNAが必要である。
- 改革には5つのレベルがある。できる限り変革する。
- 既得権益をあきらめさせるには、何らかの見返りを与える。
- 業績を真剣にとらえ、結果を受け入れる
- 特定の利益団体に勇敢に立ち向かえ。
- 起業家を守る。リスクを取る人を守る。
- 粘り強くコツコツと信頼関係を築く。
- 変革へ投資する。
- 人間味ある改革を行う。
- 一度決めたことは、とことんやる。
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どこかの国の首相にそのまま贈呈したい言葉のような気がするルールである。改革は一朝一夕に進めることはできない。欧米でも改革は、様々な試みを繰り返し、10年、20年の歳月を経て、成果を結んでいる。だからこそ立ち止まることは許されないのが今のわが国の現状である。
知恵と勇気をもって人間味のある改革を行うこと。Reinventionに向けた不断の努力へ、一服の清涼剤を、そして多くのヒントを提供してくれた著作である。
(参 考)
「脱官僚主義〜欧米の行政に革命を起こしたリインベンションとは何か」PHP2001.10(デビット・オズボーンほか)
2001.11.4