いじめと犯罪の分離が必要

 今回は、いじめと犯罪の分離が必要であるという私の持論を紹介します。どうぞ、御覧下さい。
 2002年2月16日



1996年1月23日に恐喝と暴行の被害を記した遺書を残して自殺した福岡県城島町の城島中三年、大沢秀猛さん(当時15歳)の両親が、城島町と福岡県に約9400万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が、2001年12月18日、福岡地方裁判所(横山秀憲裁判長)で言い渡された。この判決の要旨は以下の通り。

(1) 学校側に自殺の予見可能性はないが、いじめを防止できず、秀猛さんが受けた精神的、肉体的苦痛に対する賠償責任がある。よって、城島町と福岡県に計1000万円の支払いを命じる。
(2) 中学校の入学式から始まった暴行(休み時間に学校の廊下で20人近くから殴られたこともあった)や恐喝(約30万円を脅し取られた)はいじめに他ならない。
(3) 秀猛さんの相談に真摯(しんし。「真面目でひたむきである」という意味)に対応していれば、いじめを早期に解決できた可能性がある。
(4) いじめの実態把握や対策は不十分だった。
(5) いじめは悪質で重大だったが、家庭でも自殺をうかがわせる様子はなく、自殺予見可能性があったとは認められない。

今回の判決では、学校側の責任を認めており、その点は評価できる。しかし、見過ごすことはできない間違った事実認定もある。それは、「犯罪」と「いじめ」を混同し、明らかな犯罪をいじめとしている点である。客観的な事実認定をしなければならない裁判所が、今後こうした間違いを犯してはならない。今回の一件が「いじめ」ではなく「犯罪」であることは、秀猛さんが残した遺書を見れば明らかだ。

【遺書の全文(実際の遺書では、○○、△△、××の部分には実名が記されている)】お父さん、お母さんごめんなさい。僕がこの町にきて中一の初めの日に○○君に後ろからつつかれたりけられたりされて、つい怒って「いいかげんにしろ」といった。そしたら泣かされた。その日からずっと一年間、泣かされつづけた。何回か先生にいったら○○も怒ったが、ぼくが口が悪いといわれた。そして、二年になって口の悪いやつがいて、そいつがいってもないことをいつも△△君にいいつけなぐられ続けた。三年になり、一学期は何もおこらなかったので、今年は何もないだろうと思っていたら、二学期の初めの日に、××君に強い人がおまえに「スーパーファミコンをもってこい」といったといってきた。初めは逃げまわっていたが、スーパーファミコンぐらいいいと思い渡した。そして今度はお金を要求。初めは渡さなかったが、「腕を折るぞ」といわれて渡してしまった。そしてずっとお金を取られ続けている。今三十万円ぐらい取られて、今またお金を要求された。しかしそのお金がないので、死にます。

この遺書に綴(つづ)られていることはいじめではなく、長期的で悪質な犯罪である。それをいじめと断定するのは重大な事実誤認である。こうした事実誤認は裁判所にとどまらない。報道機関や教育現場、教育行政においても同様である。そして、こうした事実誤認が学校内外における犯罪対策を不徹底なものにしているのである。「集団で無視をする」、「みんなで悪口を言う」といった事案は確かに「いじめ」であり、強権を行使することはできない。粘り強い指導や話し合いで解決していくべきものである。しかし、暴行や恐喝は紛れもなく「犯罪」であり「いじめ」とはまったく性質が異なるし、対処法(犯罪被害者を直ちに救い出す強権発動が必要)も異なる。それなのに、教育現場や教育行政では、暴行や恐喝までも十把一絡げ(じっぱひとからげ)に「いじめ」に含めてしまう傾向があり、そのために「犯罪」への対処がおろそかになってしまっている。これでは不幸な被害者を救い出すことはできない。「いじめ」と「犯罪」を厳格に分離し、犯罪対策を徹底的に強化するべきである。

「いじめ」と「犯罪」を厳格に分離し、犯罪に対しては厳しい措置を講じていれば、大沢秀猛さんが自殺にまで追い込まれることはなかったかもしれないのだ。直ちに行われなければならない方策については以下に列挙しておく。これらの施策が実行されれば、暴行や恐喝の被害は格段に減少していくはずである。

【教育現場・教育行政】
(1) 学校内で暴行・恐喝事件が発生した場合、直ちに警察に通告する。
(2) 暴行や恐喝は「いじめ」ではなく「犯罪」であることを生徒にしっかり教える。
(3) 暴行や恐喝は、休み時間や全授業終了後に行われていることが多い。よって、休み時間や全授業終了後の校内巡回を必ずすることとする。今回の事件でも、学校側は「教諭はいじめ(実際には犯罪)には気づいていなかった」としており、学校内での安全対策が不十分・不徹底だったことは明らかだ。これは学校側の過失責任であり、今後はこうしたことをなくさなければならない。
(4) 従来からある「いじめ110番」「いじめ対策委員会」といったものとは別に、「暴行・恐喝110番」「暴行・恐喝対策委員会」を設置する。

【家庭・保護者】
(1) 子供が暴行・恐喝の被害を受けた場合、直ちに刑事告発を行う。さらに、民事裁判も起こす。こうすることで加害者やその保護者に事態の重大性をわからせることができる。
(2) 子供が学校の生徒から暴行・恐喝の被害を受けた場合、今後の出校を取りやめる。
(3) 暴行や恐喝は「いじめ」ではなく「犯罪」であるという認識を持つ。

【報道機関】
(1) 「いじめ」と「犯罪」を正確に区別し、暴行や恐喝があった場合には、「犯罪」として報道する。
(2) 暴行や恐喝は「いじめ」ではなく「犯罪」であることを人々に知らせる特集記事・番組を掲載・放映する。



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