脳死は人の死ではない

 今回は、脳死移植推進論に対する私の批判を紹介します。どうぞ、御覧下さい。
 2004年3月26日



【自民党の「脳死・生命倫理及び臓器移植調査会」(会長は宮崎秀樹参議院議員)が2004年2月25日に発表した臓器移植法改変案のポイント】
(一) 本人が拒否の意思表示をしていない場合は、家族の承諾だけで年齢に関係なく脳死状態での臓器提供が可能。これにより、今までは不可能だった十五歳未満の子供(下段注)も臓器提供が可能となる。
(二) 現行の脳死判定基準に加え、生後十二週から六歳未満の脳死判定の新たな基準を設定。
(三) 運転免許証・保険証に臓器提供意思の有無を記載する欄を新設。
下段注・・現行では、民法で遺言能力(体が温かく血も通っている「生きた状態」であるのに、「遺言」というのは矛盾した話である)を認められていないために提供は不可であるというのが公式の解釈となっている。

臓器移植患者団体連絡会は4日(2004年3月4日。中根注)、臓器移植法の改正を求める計約50万人の請願署名を、与野党の142人の国会議員に分割して手渡し、衆参議長への提出を依頼した。15歳未満の脳死者からの臓器提供を認め、15歳以上も含め、脳死前に本人が拒否していない限り、家族の同意で提供できるように改めることを求めている。大久保通方代表幹事は「脳死臓器移植に賛成の人は、実際にドナーカードを持っている人よりずっと多い。その意思を生かせるようにして欲しい」と話している。
http://www.asahi.com/national/update/0304/031.html(朝日新聞のインターネットサイト)より引用

大久保通方・臓器移植患者団体連絡会代表幹事は大きな思い違いをしている。確かに脳死臓器移植に賛成する人は多い。しかし、自分が当事者として臓器を提供してよいという人は非常に少ない。脳死臓器移植に賛成する人は他人の脳死臓器提供や脳死臓器移植に異議はないとしているだけだ。「脳死臓器移植賛成=当事者として臓器を提供してもよい」ということではないのである。内閣府が2002年7月に行った世論調査の結果で明らかになったドナーカード所持率(下段注)の低さがそれを証明している。大久保氏がこのドナーカード所持率の低さを軽視しているのは問題だ。ドナーカードを所持しないことは自分自身の臓器提供に対する拒否反応に他ならないからだ。

【下段注】内閣府が行った世論調査の結果
臓器提供意思表示カード(ドナーカード)の所持状況
持っている=9.0% 持っている人の内、臓器提供の有無の意思表示を記入している人は60.0%。なお、記入している人のうち、9%弱は、脳死状態での臓器移植を希望していない。
持っているが、臓器提供の有無の意思表示を記入していない人は40.0%。
持っていない=91.0%
http://www8.cao.go.jp/survey/h14/h14-zouki/index.html

【2004年2月26日付読売新聞より】自民党の「脳死・生命倫理及び臓器移植調査会」が臓器提供の条件を大幅に緩和した臓器移植法改正案をまとめた。「やっとここまで来たか。正直ほっとしています」――法改正を訴え続けてきた臓器移植患者団体連絡会の大久保通方代表幹事は、調査会が取りまとめた改正案を聞き、しみじみと語った。
【2003年10月17日付毎日新聞より】移植関連の患者6団体で構成する「臓器移植患者団体連絡会」(大久保通方代表幹事)は16日、脳死判定された本人が臓器提供拒否の意思を示していない限り、年齢を問わず遺族の同意のみで提供できるよう臓器移植法の改正を求める要望書を厚生労働省に提出した。大久保さんは「移植を支える日本の社会環境は最悪だ。特に心臓移植が必要な患者は、国内の移植が少ないために亡くなる人が多い」と訴えた。
【2003年9月19日付毎日新聞より】自民党を中心に進められている臓器移植法の見直し作業について、移植関連の患者6団体による「臓器移植患者団体連絡会」(大久保通方代表幹事)は18日、「本人が臓器提供を拒否する意思を示していない限り、年齢を問わず遺族の同意のみで提供できる」ように改正することを求める方針を明らかにした。これまでは、同法が認めていない15歳未満の脳死臓器提供を認めるよう要求していたが、脳死移植が24例にとどまっている現状を考慮、移植医療をもっと定着させる必要があるとして方針転換した。

結論を先に言えば、臓器移植患者団体連絡会の大久保通方代表幹事の言動は論理矛盾に陥っている。なぜなら、大久保氏が理事長を務める日本移植者協議会のサイト(http://www.jtr.ne.jp/)には大久保氏の最近の言動と正反対の記述があるからだ。

【日本移植者協議会のページ「日本の移植は、なぜ少ないか 」(http://www.jtr.ne.jp/ishoku2.html)より】
移植医療は、情報を常にオープンにし、個人が自己の意思を明確にすることが大切です。
一人ひとりの意志を尊重し、それを必ずいかすシステムが必要です。

大久保氏が推進する「脳死判定された本人が臓器提供拒否の意思表示をしていなければ、年齢に関係なく家族の同意のみで臓器を提供できる」臓器移植法の改変案のどこにも「明確な個人の意思」などない。また、脳死判定された患者の家族(下段注)が患者の気持ちを推し量って提供の有無を判断するシステムのどこにも「一人ひとりの意志を尊重」した形跡はない。大久保氏の言動が論理矛盾に陥るのは、移植数を増やすことを最優先にしているからなのだろう。

下段注・・脳死移植推進派の産経新聞では「遺族」となっている(例えば、2004年2月27日付の「主張」)。実際には血が通い体が温かいのだから死んでいるとは言えず、遺族という言い方はおかしい。

【2004年2月26日付読売新聞より】世論調査で三割を超える人が「脳死になったら臓器提供したい」と答えているのに、実際の提供は脳死者の0・1%に過ぎない。患者団体は「書面の意思表示など厳格すぎる法律のせいで、本人や家族の提供意思が生かされていない」と批判、提供条件をどこまで緩和できるかが改正論議の軸になっていた。

世論調査と実際の提供ではわけが違う。世論調査では、どう答えようとも何の責任も生じないし、痛みや不利益もない。しかし、実際に提供するとなると、体が温かく血も通っている状態が現実としてあるのだから、簡単に脳死状態での臓器提供などできるものではない。先に示した内閣府の世論調査の結果では、ドナーカードを持っているにもかかわらず、臓器提供の有無の意思表示を記入していない人が四割もいる。これは、いざ記入しようとする時に、現実の恐ろしさに気付いたからではないだろうか。

【2002年8月18日付産経新聞「主張」より】こどもの命を見捨てるな
中根注・・これは子供が脳死者からの臓器移植を受けられないことを批判し、子供からの脳死移植の推進を主張した社説の表題である。

脳死者からの臓器移植が必要な子供を助けるためには、別の子供が脳死状態にならなければならない。しかし、脳死状態であっても、体が温かく血も通っている「生きた状態」なのだ。つまり、脳死者からの臓器移植が必要な子供を助けるために別の子供の命を見捨てることになってしまうのだ。子供の親たちにはこの点を十分に認識してもらいたい。そして、親の責務は、仮に絶望的な脳死状態であったとしても、最後の最後まで子供のそばにいて奇跡を信じ祈り続けることのはずである。コーディネーターの美辞麗句を真に受けてはならない。



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