産経新聞社説「えひめ丸」

 今回は、ハワイ沖で沈没した「えひめ丸」問題について記した産経新聞の「主張」への私の批判を紹介します。どうぞ、御覧下さい。
 2001年11月28日



※ ここからは、枠内の文章が2001年10月20日付の産経新聞に掲載された「主張」、枠外の文章が私の批判である。

 ハワイ沖で沈没した「えひめ丸」から、行方不明になっていた乗員の遺体が収容され始めた。事故から八カ月あまり、遺族は悲しみを新たにしていることだろう。しかし、事故発生以来、捜索・救難活動や、長期にわたった引き揚げ作業を見ていると、遺体収容に注いだ米海軍の努力に胸をうたれる。深く感謝したい。事故原因が一方的に原潜にあったとしてもである。
 事故直後から、米国は直接の責任者である海軍の司令官、作戦部長はもとより、大統領、駐日大使までが犠牲者の家族たちに謝罪し、衝突した原潜「グリーンビル」のスコット・ワドル艦長は二十年勤務した海軍を退職した。そして、さらに日本側の強い求めに応じて「えひめ丸」の引き揚げに同意し、困難な作業を開始したのだった。

 海軍の司令官、作戦部長、大統領、駐日大使が犠牲者の家族たちに謝罪したのは当然である。「えひめ丸」沈没事故の原因は原子力潜水艦「グリーンビル」側にあり、しかも、極めて重大な過失があったからだ。

 「えひめ丸」の沈んだ水深六二〇メートルは、沈船を引き揚げられるぎりぎりの深度であった。これほどの深海から、ほとんど遺体回収のために、「えひめ丸」クラスの船体が引き揚げられた例は皆無である。 サルベージ会社の作業は難航した。それでも遺体回収の日を迎えることができたのは、ワイヤ切れなどの失敗を乗り越えて作業を続けた米海軍の熱意があったからだろう。作業に要した経費は約六千万ドル(約七十二億円)にのぼった。
 原潜側に一〇〇%の原因があったとしても、「えひめ丸」は事故で沈没したのである。米海軍としては、損害賠償と慰謝料で事務的に解決することができたかもしれない。しかし、あえて複雑な手間と経費をかけたのは、日米関係を重視し、首相を退陣に追い込むきっかけになったほどの日本の国民感情の高まりなり、情緒的な世論を考慮したからでもあっただろう。

 「えひめ丸」沈没事故の原因が「グリーンビル」側にあり、しかも、極めて重大な過失があったことを考えれば、「複雑な手間と経費」をかけるのは当然である。また、日本国民が「えひめ丸」沈没事故に対して大きな抗議の意思表示をしたのも当然である。「えひめ丸」沈没事故の原因は「グリーンビル」側にあり、しかも、極めて重大な過失があったからだ。それを情緒的と片付けることはできない。

 こうした米国へのある種の"甘え"はこれきりにしたい。世の中に事故は必ず存在する。それをわれわれは社会生活を営む上でのリスクと位置付け、妥当な解決の方法論を見つけてきた。交通事故がその例である。

 前述したように、アメリカが「えひめ丸」の引き揚げと行方不明者の発見と収容に尽力したのは当然である。それがどうして「甘え」なのか。そもそも、「甘い判断」と「慢心」で事故を引き起こしたのは原潜「グリーンビル」の方である。問われるべきは米海軍の「甘さ」の方である。さらに、交通事故の解決について、「妥当な解決の方法論」としているが、これにも同調することはできない。現在の交通事故の大部分は政府による自動車至上主義政策(運転免許配布政策と歩行者・自転車軽視政策。下段注)により起きているのである。それを「事故は必ず存在する」とか「社会生活を営む上でのリスク」と位置付けることはできない。交通事故は恣意(しい。自分勝手な考え)的に生産されていることを忘れてはならない。また、構造的(安全な歩道の確保など)にも人為的(運転免許の適正な交付など)にも最善の方策が尽くされようとも、「社会生活を営む上でのリスク」であるとか「妥当な解決の方法論」などと言うべきではない。そうした言い方は交通事故の被害者やその家族を深く傷つけるものである。我々はいかなる状況下でも交通事故の根絶を目指すべきである。

 下段注・・非従来型暴走族(ゼロヨン暴走族、ドリフト暴走族、ローリング暴走族、高速道路暴走族)や飲酒運転者、歩道・横断歩道に駐車する者(繁華街ではよく見かける)、渋滞時に平然と横断歩道を塞ぐ(ふさぐ)運転者(土休日の繁華街ではよく見かける)、横断歩道で客待ちをするタクシー(繁華街ではよく見かける)の運転者に運転免許を「配布」しているという事実や、横断歩道や歩道の安全が確保されていない事実がある。詳細は「自動車社会を根本的に見直す会」を参照されたい。

 そして、一部の「えひめ丸」遺族が示したような、悲しみをじっとこらえ、米国への過大な要求を控える姿勢が日本人の本来の姿だったことも思いだしたい。「えひめ丸」事故はわれわれに教訓も残したのである。

 事故の原因は原潜「グリーンビル」の側にあり、しかも極めて悪質な事故だった。それゆえ、アメリカに過大な要求をしてもよいはずだ。そもそも、いつも日本に対し経済問題や軍事問題で過大な要求ばかりしているのはアメリカの方ではないか。「過大な要求を控える」べきなのはアメリカの方である。産経新聞はアメリカに対して「過大な要求を控えるべきだ」と言うべきである。



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