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親の役割

〜その求めるもの、求めなくてはいけないもの〜


 医療技術の進歩が目覚しい日本の医療の中で、忘れられがちな心ある医療、チャイルドライフに関する活動がされ、医療現場が子どもとその家族にとってよりよくなるための活動がされていることは、患者の家族としてとてもうれしいことです。本当にありがとうございます。打算的かもしれませんが、患者側からの感謝の気持ちこそ、どんな科学的根拠があったとしても、チャイルドライフ、医療保育士の活動のもっとも大きな原動力であってほしいと思っています。

 さて、供給は需要があるからこそ行われるものです。子どもの病院環境の改善も、供給がされる前に患者側の要求があるべきではないでしょうか。

 ところが、医療に対する要求は、患者にとって必ずしも素直に表現できない場合があります。病児の親にとって大事な子どもの命を預ける病院、病院職員に対しては、要求したり質問したりすることはしてはいけないこと、失礼だという考えがあります。加えて子どもが病気であるという大事件に接して、平常心にはなりにくい状況では、親は冷静に考えることができなかったり、言えないこともあります。医療者はいつも忙しそうで、その手を止めさせて話を聞いてもらうことにも、遠慮があります。

 つまり、医療現場で医療者が患者からはっきりと要求されることが、需要の全てではありません。患者とその家族は医療者に見えない場面や、入院前、退院後を含めて最善の需要を、医療者にできるだけたくさん、正確に伝えていく必要があると思います。

 私がホームページを通じて行っているアンケートでは、主に母親が医療側にリクエストできなかった思いが書き綴られることが多くあります。おそらく、病院に対していえなかった本音ではないかと推察しています。


 言いたいことが言えないということの背景には、何を要求していいのか親がわかっていないということもあります。医学的に間違った要求ではないか、要求していいことなのか悪いことなのか、親のための要求であって子どものためにならない要求ではないか、ときには子どものための要求であるけど、親の負担が大きくなりすぎて受け止められないかもしれないという不安もあります。

 病院の中の保育やチャイルドライフのサービスということは、ほとんどの親にとってどういうものなのか知られていません。ある親が、会計で請求書に保育料とあるのを見て、そんなものは払いたくないと言ったそうです。親は、病院に「治療効果」を目的にきていますから、「心理的快適」のための余計な「物理的快適」である経済的負担は減らしたいと考えるのは私も同様かもしれません。

 アンケートの中から、親が求めるものを大きく3つに分けてみました。親にとって要求しやすいものは、治療効果、物理的快適、心理的快適の順であろうかと思います。そういう意味では、医療の現状が、進歩する順に符合しているといえます。

 しかし、心理的不快に関する愚痴や悲しさをホームページのアンケートに綴る方がもっとも多いのです。医療者にいえなかった分を書いてくださっているのかもしれません。アンケートに書いてくださっても、残念ながら医療者に伝わることはないのですが。

 心理的快適については、あきらめていることも多いと思います。解決の方法がないと思っている方もいると思います。

 ところが、「子どもが泣いて嫌がる」ということを、できるだけ回避してくれるサービスがあるということを知れば、親は、その新しいサービスの求めるでしょう。親は、医療情報を躍起になって探しがちですが、医療環境を良くするためのサービスを知り、評価して、病院選びにも反映するべきです。

 できれば、全ての子どもを持つ親に、子どもが医療を受けるということについての知識を得たり覚悟できる機会があったらいいと思います。そうすれば保育料を払うことに積極的になれたり、保育があることに対して感謝の気持ちも出てくるのではないでしょうか。


 親が要求することは重要ですが、ただ要求に対してどう対応するかは、難しいことだと思います。

 私はあるマスコミ系の育児支援サイトの運営に携わって5年になります。この12年ほどは自分の子どもを育児していながら接してきた親たちを見ていますと、育児事情の大きな変化に唖然とすることも少なくありません。

 ホームページで行っているアンケートでは、ある医師が、インターネットで情報をたくさん仕入れてくる親とのムンテラは、困難を感じるという回答をしています。知識や情報を持つことは悪いことではありませんが、主治医の意見を受け入れられなくなったり、余計に不安になってしまうことは、本末転倒です。

 入院病棟の現場では、マナーの悪い親に遭遇することもありました。携帯電話で深夜まで話している、テレビを見ている親、子どもをベッドから下ろし走り回らせている。辛い付き添い入院をしているのは重々承知しているのですが、自分の子どもや他人に迷惑をかけたりしている親がいることは否定できません。

 親からの要求も、病院で親が喫煙するために子どもを預かってほしいとか、消灯後も親がテレビを見たいとか、受け入れていい要求なのか少し考えてしまうものもあるかもしれません。

 患者と親にとって、入院は育児中の一場面です。それを親も忘れがちです。病気は見てもらっていますが、完全看護であったとしても、自分の子どもは自分の子どもであり、自信と責任を持った育児を継続すべきだと思います。

 情報過多、偏り、自己中心。チャイルドライフ、医療保育士の仕事を遂行するにあたり、困難な親もいるかもしれません。ぜひそんなときには、チャイルドライフの仕事について理解を求め、親としての自信と誇りを与えてください。

 蛇足ですが、小児病棟には、言葉や他の表現能力のない乳幼児や障害児がいます。医療スタッフの語りかけは、言葉の通じる子、表情の豊かな子には多く与えられがちです。そうではない先天的な病気を持って生まれた赤ちゃんや障害児の母親は、親としての自信を喪失しています。子どもを受容することも困難な場合が多いです。

 そんな時、物ではなく人間として子どもに接してくれるスタッフの姿は、親として大きな自信になります。ぜひ反応のできない子どもたちにもぜひ語りかけて上げてください。


 子どもにとって快適な入院環境は、降ってくるものではなく、親が要求して作らなくてはいけないものだと思います。親は、子どもの生活全体的に見て、できるだけ快適で利益の大きい医療環境を作らなくてはいけません。

 自分で要求したり考えたりすることができない子どもの代弁者となって、医療者に子どもの要求を伝えることが必要です。そのときには、情報に目を向けるより先に、他の人からアドバイスを受けたとしても、まず子どもに目を向け何が必要であるかを見極めないといけないでしょう。

 子どもにとってできるだけ快適にしたい入院環境ですが、患者である子ども以外の、親や兄弟、親戚がとんでもない苦境にあっては、患者である子どもが快適ではありえません。子どもに不利益が生じない限り、遠慮なく家族の快適を求めていいと思います。

 私なりに、親の役割を3つにまとめてみました。

 これに加え、今は、入院環境をよくするための存在、チャイルドライフスペシャリスト、プレイスペシャリスト、医療保育士、ボランティアの存在を、多くの人々に広報すべきだと思っています。子どもの入院環境を良くすることが、少数の人のためのサービスだと思われるのは本意ではありません。

 親は、子どもの入院環境を良くすることを積極的に支援していくことをできればいいなと思っています。自分の子どもだけではなく、他のお子さんとその家族のお役に立てることは、私たち親にとってうれしいことであり、能動的癒しともなるものです。

 ここにお集まりのかたがたは皆さんは、私たちの子どもの恩人です。必ずしも容易に進まない医療環境の改善のための活動だと思いますが、どうぞいつまでも継続される活動であることを願っております。

(2004年3月13日日本チャイルドライフ研究会第三回カンファレンスにて)