第26回 
夏休みの宿題 2003

(なかさん、以下、な)昨年秋から、インターネットでの私のサイトの名前を変えました。
(大権現様、以下、大)ハイ?
(な)「おんがく講座上級編」が「ベートーヴェン勝手解説大全集」になったというわけです。他の作曲家のことなんか、どうでもいいと思ってましたから、これこそが本来のあるべき名前です。
(大)何か利点があったとか?
(な)インターネットで「ベートーヴェン」として検索すると、かなり上位に表示されるようになりました。ひところは、第2位(Googleにて)になったことも。
(大)それはすごい。
(な)で、今年は面白かったですよ。一学期は、学校の授業で、大勢の学生さんが来てくださいました。しかし、夏休みがすごい。7月20日あたりから、急激に参照が増えて、休み前、つまり一学期の3倍。さらになんと、8月31日は、10倍だったのです。これは1日で1500回の参照です。驚いたのは、夏休みだから、というところです。宿題ですよ。その宿題が、たぶん「作曲家について調べて書いて来い」という。だから、皆が、私のサイトに辿り着く。
(大)宿題って、音楽を聴くんだろ?
(な)いや、調べて書く。人や時代や作風とか。どんな曲を作ったのかとか。聴くかどうかは別なんですよ。感想を書きなさい、という宿題が普通なのでしょうが、それだけではない場合も多いようです。
(大)そんなバカな。音楽は聴いてこそ華。曲名を並べたり、時代背景を知ったりすることで、どうしろというのだ?
(な)聴かないで、感想そのものを他人に求める人まで現れたりする始末。
(大)どうもこうも、おかしな現象だな。音楽を聴く聴かないが宿題になるのもそもそもおかしいが、曲とは関係が無いところで宿題が成立するのか?
(な)音大生が作曲法の宿題を押し付けられたり、歴史専攻だから、19世紀の音楽と政治の関係を論じよ、とかならば話はわかるのですが。
(大)けしからん宿題を出しているのは、察するところ、中学、高校だな。本末転倒も、はなはだしい。そんな音楽の宿題では、かえって誰も聴いてくれなくなってしまうじゃないか。
(な)宿題に、ソナタ形式を説明しろ、というのがあったようですが、そもそも、ソナタ形式かどうかなんて、考えながら聴いている人はいるのですか?
(大)あの頃(18世紀)は、多かったな。ウィーンでは音楽に関する教養が第一だったから。調がどうのとか、楽器の使い方がどうのとか、平気で言うんだ。それも、普段から作曲家や演奏家と親しくしていたからだな。ウィーンで、貴族社会が華やかだった時代だからこそ、ありえた話だ。
(な)つまり、当時なら、ソナタ形式についての質問を聴衆にしても全然問題が無かったと。
(大)できたな。というか聴衆には貴族が多かったが。貴族は聴くばかりではなく、楽器もたしなむ人が多く、作曲の弟子になる人もいたくらいだ。今とは、比べ物にならんよ。というか、当時は、じつにのほほんとした、贅沢な時代だったな。ウィーンの貴族社会は、他の地方とは違っていて、貴族自身に階級意識が少なくて、平気で作曲家や演奏家の弟子になったのだ。
 しかし、音楽は、聴くことこそ全て。形式なんていうのは、好きになって、のめりこんでからわかればいいのだ。たとえロンド形式が何かわかっても、感動することには全く関係が無い。
(な)日本の音楽教育の欠点ですね。そもそも、外国の音楽として、ほとんどクラシック音楽のみを抜き出して音楽の教科書に載せるというのが。あ、そういえば、私が子供の頃の教科書には、申し訳程度に、ザ・ビートルズの曲が載っていましたっけ。
(大)もし、ヨーロッパの音楽、つまりクラシック音楽が1世紀以上早く衰退していたら、どうなっただろう。流行りモノの音楽が明治時代に輸入されていたら、どうなっただろう。この際、音楽の教科書は大改革をして、西洋東洋、アフリカアジアを問わず、世界中の音楽の歴史について書いてしまえばよい。グレゴリオ聖歌から、モ娘。までだ。直系傍系を問わず、全ての音楽をだ。当然、ジャズもロックも、ガムラン音楽もな。
(な)そうなると、どうなるのですか。
(大)音大の入試に、「サザン・オールスターズの25年間の作風の変化について述べよ」なんて、出題されるのだよ。どうだ、難しいだろう?
(な)なるほど。そんなことを考えながら聴きたくないですね。
(大)ということで、音楽教育は、再考を要す!
(な)そもそも、どうしてこうなったのでしょうか。
(大)明治時代に西洋音楽を輸入した際、ドイツに偏ってしまって、すなわちそれはハイドン、モーツァルト、ベートーヴェンを筆頭にしたドイツ・オーストリア音楽だったが、それが、ヨーロッパの教養、つまり、お勉強として入ってしまったからだろう。フランスやイタリアも、ちゃんと音楽があったのにな。それに比べて、日本の音楽は、単なる庶民の楽しみだったろう。そこの違いだろうな。詳しくは知らないが。こういうのこそ、大学生の研究テーマにふさわしいかな。
(な)しかし、音楽の領域も、広すぎると、誰も勉強してくれませんよ。
(大)そんなときは、わしの音楽だけ聴いておればよかろう?

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