読書録 1998.03
1998年3月4月5月6月7月8月9月10月11月12月

『ゲゲゲの鬼太郎』水木しげる&京極夏彦(講談社・1998)ISBN4-06-330048-X
水木しげるがマンガ家というよりまず妖怪博士ともいうべき人なのは知っていたし、京極夏彦が水木しげるのお弟子さん筋に当たるらしいとは聞いていたが、まさかこれほど(笑)とは知りませんでした。何ごとにも求道というのはあらまほしいものだ。取りあえず脱帽。一刻堂は京極堂のイメージびったし。京極さんは「あれは別物だと思っていただきたい。小説の場合は読者の抱いたイメージが常に正しいんです」とおっしゃるが(あたしもその通りだとは思うが)、なかなかどうしてあのキャラクターデザインの見事なこと。(1998.03.28)
『柔らかい土をふんで、』金井美恵子(河出書房新社・1997)ISBN4-309-01179-9
繰り返し繰り返し語られる物語がある。時代がかった大袈裟な作りのドレスの脱ぎ難さ、 湿ったコンクリートの床のアンモニアとレモンが混じった臭い、濃い桃色に赤と白の縞のある靴下止めに締め付けられて熱くなり、 赤くなった太股の付け根の痒み、しゃがんでいると汗ばんでぬるぬるするひかがみ。
モーツァルトのピアノソナタのバリエーションのように繰り返すたびに微妙にかたちを変えて、 しかし執拗に語られるそれらの事柄が読み手の記憶の底に沈んでいき、再び姿を現わしたときには、 あたかも読み手自身の幼少期の体験が記憶の井戸の底から浚われ、晒されて、不意に表出したかのような錯覚をおぼえる。 この人は本当に、ただ一つの物語をのみ語り続けてきたのだなあ、最初っから。(1998.03.19)
『パリのおいしい台所』上野万梨子(文化出版局・1998)ISBN4-579-20609-6
読書録というのに料理の本入れてごめん。
料理の本というものに対しては、わりと望みが高い。実用に耐えること。いやその、奇麗なばっかりで使えない料理本って結構買ってしまうもんで。 作ったらおいしいこと。これは作る人間の腕にもよるな。でもいっぺん、材料読んで「ほんとにこれでうまいのか?」と疑いつつ作ったら、ほんとにまずかったことがあった。 それに、ありきたりでない新しい発見がないと嫌。TIPSでいいから、「をを、なるほどねえ」がないとね。 その上写真が奇麗で、料理に一貫したスタイルがある、というのが欲しい。よくばりっ。インスパイアされる、料理を作りたくなるのが理想の料理本だ。それなんでよく文化出版局にしてやられることになる。 でもいいの。上野万梨子好きさ。シンプルでスタイルがあっておいしくて奇麗。それに親切だ。例えば「黄味は室温にしておくと油と分離しません」まではみんな書くけれど「もし冷たかったらボールに入れて遠火であたためるとよい」までいってくれる。 4〜6時間低温のオーブンで乾かすお菓子について「発作的に作り始めてしまうと乾くまで夜中じゅう眠れなくなります」とコメントをつける、なんというか同病相憐れむ親切さ。なんのこっちゃ。(1998.03.10)
『夜のくもざる 村上朝日堂超短篇小説』村上春樹(新潮文庫・1998)ISBN4-10-100144-8
ハードカヴァーで持ってるけど、携帯用に。関西弁で書かれた「ことわざ」が偉い。村上春樹が関西弁で小説を、という希少価値を含むとしても。(1998.03.08)
『ナイン・テイラーズ』ドロシ−・セイヤーズ(創元推理文庫・1998)ISBN4-488-18310-7
冗長度が高そうでいて実はすごい緊密なのよね、セイヤーズって。ぼーっと読んでたら面白さを見失う。それにしても鳴鐘術用語の訳出、浅羽莢子さすが。(1998.03.06)

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