024 何回目かの春に転ける −弟へ−
しまった、と後悔の臍を噛んでももう遅い。
転けました。
道路に叩きつけられた右半身が死ぬほど痛くてバイクを起こせないでいるのに、だあれも助けてくれません。
もちろん、元はといえばぼくが足が短いくせにこんな大型のバイクに乗っているせいなんです。それでも、小学生の頃から憧れのカワサキです。この(どの?)歳になってやっと買えるほどの財力もでき、大型免許もなんとか取ったのです。雪が解けて、春になって、どうして乗らずにいられましょうか。
しかしまあこの季節、路面の状態が悪いのをわかっているのに、砂に乗ってしまったのもうかつでした。大型バイクってトルクあるんですよね。滑り出したらもう止まらない。しかも右折中に。交差点の真ん中で。対向車が来なかったのが不幸中の幸いです。
それからやっぱし、金がなくてバイク用のブーツを買うのを延ばし延ばしにしていたのも敗因でした。転ばぬ先のブーツ。座右の銘にします。
それにしても痛い。
息もできないくらい痛い。
うずくまったまま、バイクに乗ったことを生まれて初めて(ちょっと)後悔しました。
職場の同僚の顔が走馬燈のように目に浮かびます。「この年度末のくそ忙しいときに、ばばばばバイクで転けて骨折っただとぉぉおおおお」
あああ、痛い。
と、そこに、ニッカボッカを履いたいなせなお兄さん登場。
「痛いだろうけど、取りあえず寄せな。」
手早くバイクを起こしてくれ、
「救急車呼ぶか?いいか?」
念を押すと、去って行きました。
優しい。
人に優しく、ですよね。
優しくなくては生きていく資格がない、ですよね。
基本、ですよね。
思うにバイク乗らない人には、転けると痛いってわかんないんじゃないですかね。みんな「おらおらどかんかいこのあほんだら」モードですもん。いや、あほんだらですけど。
ひょっとしたらあのお兄さんはバイク乗りか、元バイク乗り。
ああ、憧れちゃうなああのニッカボッカ。
ぼくは「これは折れた」と思うほどの右足首の痛みで(とはいえ実際に骨を折ったこたぁないんでよくわからんのだけど)ろくにお礼もいえません。それで、ふきのとうのが顔を出しはじめた道端にすわり込んだまま、お兄さんのうしろ姿をいつまでもいつまでもいつまでも見送っていました。

幸い骨は折れてなかったようです。今は、そうですね、取りあえずケツが痛い。それから今度はサイフが痛いかな。

(1999.03.24)

※弟よ、ネタをくれてありがとう。


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