その森に入ってはいけない。
そう、おじさまにあらかじめ言い渡されていたから、もちろんアリスはその暗い森にずんずん入っていった。
時は夜。月明かりが木々に漉されてまだらに道を照らす。虫の声。獣の吐息。草や木々のざわめき。かさかさと、正体もわからない森の気配。
湿り気を含んだ空気が、アリスのまるい頬や、肉付きのいい二の腕をじっとりと撫で回す。
突然、闇の中でフクロウが鳴いて、アリスは飛び上がりそうになる。やがてぽっかりと木々が開け、サークル状の草むらに出た。その不思議な空間の中央にアリスはしゃがみ込み、月明かりに身を委ねる。真昼のような月の光を煌々と浴びてアリスの鳩尾のあたりがむずむずし出す。むっと青臭い草いきれに囲まれて、虫の羽音がやけに大きく聞こえる。
スカートの下に草の葉先が入り込み、ちくちくしてくすぐったい。太ももの裏や、ペチコートの下のあそこにまで。
綿ボイルのキャミソールの中で、脇腹をひとすじ、汗が伝っていった。前開きの細紐がいつの間にか解かれ、若い梅の実のように産毛を帯びてまだ膨らみ始めたともいえない乳房に、片手がのびた。桜色の爪をした指の下で、小さな乳首は花の種のように堅くなった。もう片方の手が、スカートの下にもぐり、誰にも教えられない動きを始める。アリスは月明かりに半ば開いた唇を向けて目を閉じ、気がつくと、森の入り口に戻っていた。
「…結局こうなるのね」
ふっくらした薔薇色の唇が、不満が身体の中をつき上がって出たかのように、とがっている。
「どうして?いつもこうなるのね。なんでなの?」
穏やかな眼をしたおじさまは、夜風に金髪の前髪をそよがせていたが、ちょっと困ったような穏やかな笑顔をアリスに向けて、こうおっしゃった。
「だってそりゃあ、きみはぼくで、そうして、ぼくはきみだもの」(2001.05.05)