雨の日之影ツーリング


 年に一度、4月の第3土曜・日曜は、宮崎県日之影町へ遊びに行くことになってい
る。何故かというとスプリングライダーフェスティバルがあるからだ。これは直訳す
ると「バネに乗る奴の祭り」、あれ、なんか違うかも、とにかくそういう町を挙げて
のイベントがあるので、これに行くことにしているのだ。そもそもこのイベントは今
から12年前、ホンダのユーザー組織「HART」が主催していたツーリングインジ
ャパンというキャンペーンの一環として始まったもので、町営のキャンプ場を貸し切
りにして夜神楽をやったり生バンドを呼んだり地元のレオタードおばさんがダンスし
たりという、ローカル色豊かにしてアホ度絶好調な素晴らしい催しものなのである。
日之影町という町は高千穂町の隣にあって、これまた峡谷の町。国道218号線に架
かる「青雲橋」は路面から下の谷川まで133メートル、高千穂鉄橋を遥かに超えて
東洋一の高さを誇っている。ここの町長さんが何故かやたらにバイク好きで、70を
過ぎてなおR1100GSやらF650やら乗り回していて、このイベントも最近は
HART色が薄く、町のイベントとして根付きつつある雰囲気。そう、それがまたと
ても良くて、毎年遥々出かけていくのである。雨の日は絶対に乗らない主義の僕が唯
一、この日だけは天候に関わらず単車で出かけていくのだから、我ながらはまったも
んであることよ(詠嘆の表現)。

 さて、4月16日の金曜日。仕事から帰って夜7時、荷物を積んで出発。西宮の自
宅から六甲アイランドのフェリー乗り場まで国道43号線をすいすい走る。天気はか
なり強力に下り坂らしいけど、取りあえずまだ降ってない。20時発の大分行きダイ
ヤモンドフェリー。乗船券の窓口でJAFの会員証を見せてチケットを買う。人間一
人と、R100GSで、JAFの割引が有って、9000円でおつりが来た。結構安
いな、と思った。乗船待ちの単車の列の後ろに並んでから、ふと券を見ると、125
cc未満、なんて書いてある。げ、これってもしかして原付の料金? 窓口へ言いに
戻るか、いや、でももう乗船開始やん、どないしよ、でも、これって間違えたん向こ
うやしなあ、まあ乗船の時点で言われるやろし、言われたら払おたらええか、ケセラ
セラっちゅうやっちゃね、なるようになるわ、きっと。

 船の旅は良い。何せ風呂に入ったりじーっと寝たりしてる間に着々と目的地へ運ん
でくれるし、こと関西から九州へこうして単車で行く場合にはそれこそ高速代よりも
運賃の方が安いしで、自走していく理由が無い。だから実は僕、岡山より西へは殆ど、
単車で行ったことがない。関西に住んでながら、中国道の広島より西はもう、未踏の
地なんである。北は北海道まで何度も自走してるのに。いや、山口へは行った事有る
のだけど国鉄だったし、関門海峡も越えたこと有るけど新幹線だったし。とにかくま
あ、ゴールデンウイークとかの繁忙期は別にして、フェリーという奴がほんと、お気
に入りなんである。



 さて、明けて17日。大分港に上陸したものの、空は見事な曇り空。山手の方には
実に重そうな雲がのしかかっているので、今年はもうやまなみハイウェイはパス。い
や、以前こんな天気にやまなみ行って、それこそ10メーター先のバスのテールラン
プも見えないような酷い霧に遭って難儀した事があるので、こんな日はもう無理はし
ないのだ。とりあえずまあ、おとなしく国道10号線に向けて走り出すと、いきなり
道端に「そひっ子ハウス」なんていう妙な看板があった。さすが大分というだけの事
はある。「なしか!ラーメン」という看板に「そんなもん、有るか無いかわしが知る
かいっ!」なんてヘルメットの中で突っ込んだりしながら、米良道路を経て国道へ。



 国道10号の宗太郎峠手前でついに雨が降ってきた。今回、一応はゴアの山登り用
オーバーパンツとゴアのエンデューロジャケットを来てきたのだけど、更にその上か
らモンベルの(防水透湿らしい)合羽を着る。いや、普段あんまり合羽を着るような
ことはしないのだけど、今回だけはさすがに絶対雨に遭うと思ったので、先週RSタ
イチで安売りしてたのを買ってきたのだ。雨の宗太郎越えは、まるでベルビアで撮っ
たスライドをライトボックスで見たように鮮やかで瑞々しい新緑のトンネルだった。
時折道と並行して走る線路が現れたり、道路と川がクロスしたり、適度なワインディ
ングもあって退屈しない。雨の嫌いな僕でもまあ、このロケーションはかなり許せる
というか、むしろ印象としてはかなり良かった。


 峠を越えて延岡の市街地に入る。毎年この日は御大師さんのお祭りのようで、商店
街はきらびやかに飾り付けられている。延岡でお昼御飯というと、「おぐら」という
ファミリーレストランがちょっとお気に入り。いや、去年来た時何となく入ったらお
いしかったもので。で、鶏天ランチを食べて、ついでに店にあった味付けごまふりか
けがなかなかおいしかったのでこれを一つ買って、国道218号を日之影へ向かう。

 日之影辺りの国道はバイパスになっていて、役場とかの有る街中へは旧道へ降りな
いと行けない。役場の真上の辺りに件の青雲橋があって、この辺り人の暮らしがやた
らに立体的というか、なんかとにかく変化に富んだ地形の町。道の駅・青雲橋からバ
イパスをそれて、急な坂道を下っていくと日之影の中心に出る。高千穂から延岡まで
走る鉄道の駅があるのだけど、日之影温泉駅という名前の通り、駅舎の二階が温泉に
なっていて入浴が出来る。先にイベント会場の方へ行って、ここの入浴券を貰ったの
で、とりあえず温泉温泉まず温泉すぐ温泉と温泉に浸かる。いやー、毎年来るけどこ
こはホント、いーなあ・・・。

 

 


 温泉で日之影常連の関西人・ナカノさんと合流して、イベント会場へ。今年はなん
か集まりが悪いというか、参加は130台くらいらしい。それでもまあこれまた毎年
常連の赤穂大橋ホンダの皆様とかも来てはって、やっぱり夜は無理にでも盛り上がる
のである。山口からの常連ナカホリさんも、今年は奥さんと二人で参加。去年はこの
奥さん、背骨を折ってお留守番だったのだけど、無事に回復されたようで何より。た
だ今年は代わりに娘さん(XRに乗ってる)が怪我でお留守番なんだそうで、ここの
家族はなんか、すごい。ここ何年か天気に恵まれて姿を消していた巨大青色タープの
下、雨でもお構いなしの大宴会。今年の生バンドはベンチャーズのコピーをやるバン
ドで、ダイヤモンドヘッドだとかパイプラインだとか10番街の殺人だとか、ノリノ
リのサウンド(死語?)に地元レオタードおばさんダンサーズも大ハッスル(これは
もう、死語やね)。

 みんな踊り狂ってるさなか、寂しい話を聞いた。あの名物町長が引退したらしい。
そもそも地元で圧倒的に支持されていて、今回も選挙では圧勝だったらしいのだけど、
去年の秋に体をこわして入院、町長職を辞退されたのだそうだ。ここ1週間ほどの間
に退院されたのだそうだけど、あの高齢もあってもう、単車に乗られることはないか
もしれないなんて聞くと、ほんと、寂しさがこみ上げてくる。毎年秋には1000台
の九州山脈ツーリングとか企画されてたのに・・・。来年はまた、なんとか元気な姿
を拝見したいと、心の底から回復を祈る。

 日之影特産の焼酎「ほしゃどん」を竹筒に入れて炭火にくべて燗をする「かっぽ酒」
というのが振る舞われるのだけど、これがなかなか焼酎だけに強力で、会場のあちこ
ちで本格的に沈没する若者の姿が見られるようになってきた。そろそろ宴もたけなわ、
皆それぞれ三々五々自分のバンガローへ戻ってゆく。板の屋根に当たる雨音を聞きな
がら、一年ぶりの日之影の夜は更けて行く。


 翌18日は朝から雨。毎年ここの朝はパンとサラダだったのだけど、今年は味噌汁
と御飯になっていた。僕はパニアから昨日買ったごまふりかけを取り出すと、思いっ
きりリッチにごまをたっぷり振りかけて食べた。旅人は行き暮れだけに群雀、とまり
ては立ちとまりては立ち。御飯の後は皆、また来年を楽しみに、それぞれの帰路に着
く。日之影温泉までナカノさんと一緒に行って、僕は入浴せずにそのまま旧道を通っ
て延岡へ出る。雨に煙る峡谷の景色はまるで水墨画のようで、まあ何年かに一度くら
いはこういう天気の日之影も良いかなあ、なんて、普段の僕には似合わない事を考え
たりする。勿論、毎年こうだったら辛いけどね。


 再び宗太郎越え。昨日よりも雨がきつい。僕はこれまで一般公道を延べで20万キ
ロ近く走ってるけど、でも雨の経験はとても少ない。このGS、後付けでブレーキを
強化してあるので、ドライコンディションでもうっかりしてるとフロントがロックす
るんである。いや、制動力が強いと言うよりは車重の割にタイヤがプアだからなんだ
ろうけど、でもこんな雨の中ではやっぱりちょっとこわい。でも、わりと握り込んで
も大丈夫と言う事が徐々に分かってきた。そうか、このパッド、うまい具合に濡れた
ら少し制動力が落ちるんやな、きっと。

 大雨の中、米良道路の辺りまで戻ってきた。信号待ちで隣の車の女の子が不思議そ
うにこっちを見てる。そら、不思議やろう。自分かて何でこんな天気に単車なんか乗
ってるのか、不思議でしゃーないわ・・・。国道脇のとんかつ屋さんで昼食、ここか
ら先はもうちょっとの距離なんだけど、雨の中車に混ざって市街地を走るのが嫌なの
で高速に乗ることにする。大分米良ICから乗って、快調に飛ばす。霧で50キロ規
制のなか、国鉄の新快速程度の速さで走ると、980ccのフラットツインは嘘のよ
うに滑らかに、まるでホントに電車に乗ってるような気分。こりゃーええわい、と機
嫌良く走ってると、突如「がくー」とパワーダウン。まさか、ガス欠? いや、違う、
もしかしたら点火系のリーク? 一瞬の内にいろんな推測を巡らす。とにかくこれは
やばい、と思った時、またパワーが復活した。それ以来、何度か突発的に軽いパワー
ダウンは出るものの、何とか無事に別府ICへ辿り着いた。元々僕は別府で降りるか
ら関係ないことだけど、別府から先は霧で通行止めになっていた。



 国道500号線は別府湾に向かって延々下りで、突き当たりに関西フェリーの乗り
場がある。フェリーの時間までまだ3時間以上有るのだけど、とにかくもう今日はこ
れ以上走りたくないのでロビーに腰を下ろす。先に乗船券を買う。今年から二等客室
も座席指定になったそうで、一番乗りの僕は窓際のベストポジションをキープ、いや
あ早く来て良かった。合羽を脱いで乾かしに掛かりつつ、荷物の点検。BMWのパニ
アはこういう雨には意外と弱くて、継ぎ目から入った雨が底にたまったりするので注
意しないと酷いことになる。売店でお土産を探していて、九州情報誌「off」とい
うのを見付けた。いやー、こういうローカルな雑誌って、好きなんやなあ、僕。


 パニアに鍵を掛けて、手ぶらでふらっとお弁当を買いに出る。雨は殆ど止みそうで、
こうして歩いて出る分にはもう合羽は要らない。コンビニで食べ物と飲み物を買って、
ロビーに戻ってさっき買ったoffを読みつつ時間を潰す。4時半頃、乗り込み。席
は指定なのでかなり気が楽。船内で使わない物は全部パニアに残して、身の回りの物
だけを持って身軽に船室へ。寝床を確保したらいそいそと風呂へ行く。そう、この風
呂に入りながら出港する、この瞬間ってほんと、極楽極楽。

 風呂から出たらもうする事は無い。雨なので甲板にも出られないし、まだ夕方だけ
どもう寝ることにする。ダイヤモンドフェリーは樫毛布1枚50円なんてせこい商売
をしてたけど、関西フェリーは毛布がきちんと備え付けてあって良心的。それにマッ
トも付いていて、潜り込んでじっとしてると、久しぶりに単車に乗って疲れたのか、
非常に気持ち良く眠り込んでしまった。


 朝起きたら夜やった。いや、ゆうべやたらに早く寝てしまったので4時前に目が覚
めただけなのだけど。とにかくまあ、寝覚めの風呂に入る。それから船内のロビーと
いうかラウンジというか、そんな感じの椅子の並べて有る、ああ、ギャラリーってい
うのかな、そんな感じのところに座ってくつろぐ。もう船は明石海峡を越えて、神戸
の沖辺りまで帰ってきた。大阪入港まで後一時間ほど。

 夜明けの大阪港。天気はくもり。昨日の高速での不調の原因も結局、分からずじま
いなので、さくさくと阪神高速に乗って帰る。これで週末の九州ショートツーリング
も終わり。さあ、今日は月曜、お仕事お仕事ーっとぉー。


                  おわり