地域振興のキーワード

始めに4点ばかり世間話的にお話させていただきます。私共の事業部は本社を含め全国の約20拠点すべてにおかれ, 実際に地域の皆さんと一緒にしくみを作っていく町おこしの実施サポートという, コンサル業界では一番儲からないと言われている部分を手掛けております。

私も5年間程出張人生を過ごしておりました。ピーク時は1年の3分の2は出張しておりました。 お蔭さまで,様々なことをさせていただきながら全国を制覇しまして,この1年間は沖縄県に根を下ろしております。 本土の仕事で担当を続けているものも多少ありますが,今では100%に近い形で沖縄の仕事をさせていただいております。 毎週月曜日の午前中に,全国の20カ所の情報を収集して本社で会議を行います。 守秘義務を前提に,全国から皆に是非伝えたいと思うその前週1週間分の活動報告を社内メールで本社に送ってくるのです。 それを用いて本社のスタッフが会議を行いまして,夜9時くらいには会議報告が全国の情報と共に, メールで配信されてきます。沖縄にいながら北海道から九州までの情報を用いての事業を展開しております。

地域振興のソフト事業と言われるものの中で一番関心の高いキーワードが,「産業振興」や, 「人」に関するものです。産業振興では抜きん出て観光関係です。これはツーリズムであったり, 今流行りのフイルムコミッション(円滑なロケ活動の支援組織)であったりしますが, まだまだ事業としては「ツーリズム」の人気が高いのです。

それに伴って訪れる人(観光客)があれば,現地で物を売りたいということになりまして, 「産品開発」の話が出てきます。産品開発については,1社でこなせるコンサルがありませんので, 皆さんが課題を持ちながら消化できずに,「産品開発を何かやりたい」と言い続けているというのが地域の現状です。

「人」に関しては,「定住」です。これは過疎地域が人口を増やしたいというものです。 最近は,政府のIT人材育成の戦略を受けてかどうかわかりませんが,「人材育成」が盛んに言われるようになりました。 「ツーリズム」,「産品開発」,「人材育成」が3大人気銘柄の形で,仕事というより先ずは相談という形で 私たちに持ち込まれてこられます。今日はツーリズムを中心に,産品開発と,人材育成は押さえる程度ですが, 3つに的を絞って話をさせていただきます。

いつも疑問に思うことがございます。今は行政の仕事を100%している事業部ですので, 沖縄県内におりましてもお伺いしてやりとりさせていただく先は,内閣府沖縄総合事務局,沖縄県庁,県内の市町村, 行政に関係する各種団体などが多いのです。沖縄県庁の部長クラスの方,何名かとお話させていただいた時のことですが, 次のような熱い議論をさせていただいたことがありました。

「今まで沖縄振興ということで,巨額な予算をいただいて一生懸命やってきたが, 果たしてそれに見合う成果があったかと振り返った時に,県内の民間企業の売上高が上がらなければ 産業振興の成果とは言えないのではないだろうか。県民が豊かになるという点では県民所得が上がらなければならない。 果たして今沖縄はどうなのだろうか。国や県が一生懸命になりながらも, 民間や県民もそれに伴って何らかの頑張ることがなければ,その成果が出せないのではないだろうか」。

私も同様に思いました。国,県,市町村役場が一生懸命になられているのですが,市町村によっては, 住民がそのような事業が行われていることすら知らず,その横で資料が上滑りしているケースがとても多いように感じています。 今日はお行儀悪い言葉を含めて,ストレートにわかりやすくをモットーにお話させていただこうと思っております。 いろいろな県の仕事をさせていただいてまいりましたが,行政機関と住民との間での上滑りは, 沖縄県が深刻であるという印象を受けております。

地域を動かす人は,そこに住む人であり,そこに存在している会社ですので, その人たちが変わらなければ変化は見られないと思います。よって,私達受託先はいかに技術移転ができるか, いかにノウハウ伝授ができるかを念頭に置くべきだと思います。もちろん報告書は大切ですが, 私たちは,立派な報告書を作るのに全力を注ぐのではなくて,実効果があがる実施サポートを目標としております。

自分がこのような仕事をしながら,一県民に立ち返った場合に感じますことは, 沖縄県内のコンサルや本土から沖縄県に来られるコンサルの方が持っていらっしゃる技術を地元住民に移転してほしい, ノウハウの伝授をしてほしい,地域の人を育ててほしいということです。それを一番に望んでいます。 私も報告書を書く立場の者です。報告書は,表しやすいけれども表しにくいところがあります。乱暴な言い方をしますと, 1冊の報告として残すものは大切なのですが,実際に地域に機能するものが残ったか, 地域の人が変わったのかという部分も成果として期待したいと考えております。

沖縄に行きまして楽しみにしていたことの一つなのですが,勉強熱心な県民性ということも手伝いまして, 沖縄では毎日様々な講演が行われております。全国から注目されて力を注がれている地域ということを実感しております。 実はこれらの講演ですが,話がとても難しいのです。一般の住民の方が参加されるような講演でも, たくさんの専門用語とカタカナが羅列されております。 参加された皆さんがこれでわかるのかな,といつも疑問に思っております。

リクルートも事業計画や経営計画を考える中で,いくつかの経営課題や壁を持っております。 そのうちの一つが,社内では大衆のことを「マス」という専門用語で言っておりますが,マスを引きつける, あるいは取り込むのにはどうしたらいいかということです。様々なマーケティングを重ねた結果, リクルートが作るものは凝りすぎていて使いづらいという印象を持たれていることがわかりました。

例えばリクルートのある商品は,どうも凝りすぎていて難しいというのです。 リクルートが発行している雑誌などでも,自分たちは毎日同じことをやっておりますので, 培われていくノウハウが蓄積されて技術が高くなっていきます。それに合わせて作っていくところがありますので, マスを取り込むときには,専門的にやっている私たちの日頃の感覚よりも少し敷居を下げて易しくしないと, 県民や住民には難しすぎるのではないかと自社を振り返りながら感じております。

ワークショップ(研究集会)的なことをされているところを時々拝見させていただいても, 座長の先生のお話が大変難しいのです。「それでは,皆さん作業をして下さい」と言われても皆さん手が動きません。 カタカナと専門用語が多すぎて難しいからなのです。このようなことを日々感じております。

行政と住民のコミュニケーション

現場でいつもお話させていただいていることなのですが,沖縄に限らず日本全国で, 行政と住民のコミュニケーションが噛み合わないという現状がございます。 多分皆さんも日頃の仕事の中で感じていらっしゃると思うのですが,私もよく行政と住民の狭間に立つことが多いのです。 先ず行政の方は,いろいろな事業の説明をされるのですが,その話が行政用語が多く使われていたり, 二字熟語できれいにコンパクトにまとめられていたりして,とても難しいのです。 真意は何なのだろうと考えているうちに,どんどん説明が進んでいきます。 住民の方は,話が難しくてわかったような,わからないようなという状況なのです。

その結果,行政側はきちんと説明も終えましたので事業実施を行うのですが, 住民から反対意見が出てくるということが生じます。行政の側は,「説明したでしょう」。 住民は,「そんなことは聞いていない」。行政は,「住民は文句と批判ばかり言う」。 住民は,「行政は全然わかっていない」とこのようなことが起こります。 これは村といわれる小さなコミュニティーほど顕著になります。 「行政はわかっていない。役場はだめだ」という意見が多く出てきてしまうのです。

私たちはその整理の役割を負うことが多いのです。先ず,行政と住民の意志統一を図って事業をスタートする, という場面に立つことがあります。その時には,行政,住民両方とも悪いということをストレートに言います。 「行政の側の皆さんも,儀礼的なイエスの取付け方をしないで,住民の方にわかりやすい説明をして下さい。 住民の皆さんも感情論ではなくて,論理的に意見を言って下さい。 税金がどのようなタイムスケジュールで動いているか知っていますか。10月にいきなりあれを作ってほしい, これを作ってほしいと陳情に来られても,4月の時点で税金の使い方がほぼ決まっているのです。 簡単にリアルタイムで支払うということは,行政にはできないのです。そのようなことも勉強して下さい。 反対,反対と言うばかりではなくて,反対意見の代案を持っていきましょう」とお話させていただいております。

コミュニケーションは難しいと日々感じているのですが,今までいろいろな県の仕事をさせていただいてきた中で, 特に沖縄県は,このコミュニケーションの部分でつまずいていることが多いと感じています。 もつれていることを少し繙くだけで前に進むことが随分あるのです。 これは,市町村単位の小さなコミュニティーの中でとても感じます。自分はこう思っていたのに, という一つの例として,今からゲームにご協力いただきたいと思います。いつもこのお話の中でさせていただくと, 必ず県庁や市町村の方や,区長の皆さんが職場に戻られて,職員の方に「今から言うとおりにやってみるように」 と行われているゲームです。お手元の紙に今から私が申し上げるとおりに書いていただきたいのですが, 質問は一切しないで下さい。とにかく,私の言うとおりに書いて下さい。

それでは問題です。「一辺が2cm の正方形を書いて下さい。それでは次に,その上に直径が2cm の円を書いて下さい。 それではその次に,その上に一辺が2cm の正三角形を書いて下さい」。

ご協力ありがとうございました。それでは今から正解を申し上げます。皆様が書かれたものを挙手でお聞かせいただきながら, コミュニケーションについて考えさせていただきます。先ず「一辺が2cm の正方形を……」と文章で書かれた方, 手を挙げて下さい。(挙手は約3分の1)。ありがとうございます。では次に□があって,その上に○, その上に△という具合に,おでん型を書かれた方,手を挙げて下さい。(挙手は約3分の1)。 ありがとうございます。では次に,□,○,△の三つを重ねて書かれた方,手を挙げて下さい。(挙手は約3分の1)。 ありがとうございます。ではこれ以外の方いらっしゃいますか。(挙手なし)。 大体この3パターンなのですが,正解は3つのすべてが正解なのです。 「言ったとおりに書いて下さい」ということで文章を書いて下さった方,「その上にその上に」を積み上げて書かれた方, 「その上に」を重ねて書かれた方,コミュニケーションとはこのようなものなのです。

私はおでん型を想定してお伝えしたかもしれないのですが,受取り手はこのように3パターンに分かれてしまいます。 行政の方が住民の方に説明されるとき,若しくは,住民の方が行政に話されるとき,「こんなに言っているのに」ということは, こういう現象でも表せられるのです。この話をしますと,必ず県庁や市町村の皆さんが 職場に帰られると皆さんを試されていらっしゃるようです。次に何か用事でお伺いしますと, 「聞きましたよ,○△□」という話をいつもされています。以上がコミュニケーションの難しさの話でした。 (以上,(株)ビジネスランド渕辺美紀氏のマニュアルより)


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