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第147回沖縄問題研究会

伝統的な沖縄の食文化について(2/2ページ)




岸 朝子氏  
食生活ジャーナリスト

(4)ミネラル豊富な海藻類

 沖縄では,昆布,もずく,アーサなどの海藻類も多く食べています。東京大学の名誉教授だった新崎盛敏先生によると,琉球王朝時代, 昆布は中国貿易の重要な交易品だったそうです。海から遠く離れた中国の中央部ではヨードが不足するため,新陳代謝の異常が起きる人が いました。そのため昆布が薬として珍重されていたそうです。その当時,北海道から北前船で運ばれてきた昆布は,大阪を経て島伝いに 沖縄までたどり着き,さらに中国へと輸出されました。

 沖縄まで運ばれた昆布の中には,雨風に打たれ,ヘナヘナになって輸出できなくなったものもあったでしょう。しかし,沖縄では 使えなくなった昆布を捨てずに,干して再び使っていました。それが沖縄の精神です。食べ物を決して粗末にしません。

 本土では,昆布はダシを取るものです。それ以外では佃煮にするくらいです。ところが沖縄では,昆布を野菜の代わりに 食べています。主に柔らかい長昆布が好まれています。それを水にもどしてから結び昆布やせん切りにして野菜の感覚で食べています。 昆布はノンカロリーに近く,カルシウム,鉄分,ヨードなどのミネラルが豊富です。豚肉料理と相性が良く,沖縄料理には 欠かせない食材の一つです。

 沖縄のもずくは,日本一の生産量を誇っています。昆布同様に腸の働きを活発する食物繊維を多く含んでいます。海藻は血圧を下げ, 余計なコレステロールや塩分を外に排出する作用もあります。海藻は沖縄の長寿食の一つとして忘れられない食材です。


(5)塩分を抑える調理法

 次に沖縄料理の調理法についてお話しします。沖縄では,豚の脂身を鍋で長時間ゆでます。そこから出てきた脂を漉して冷ますと 白い脂になります。これをアンダと言います。アンダは専用のカメに入れて保存し,炒め物やお汁に入れます。アンダを入れると 緑黄色野菜は柔らかくなりますし,カロテンがビタミンAになるときの吸収率が上がります。アンダを入れると味にコクがでますから, 塩味が薄くても奥深い味になります。しかし今ではアンダを使わずに,サラダ油を使っているところがほとんどではないでしょうか。

 沖縄では魚や豚,昆布などのダシをよく使います。ラフテーは,かつおぶしを加えて煮ます。肉料理にかつおぶしを加えるのは ラフテーくらいではないでしょうか。沖縄のかつおぶしの消費量は全国平均の7倍もあります。沖縄の料理はダシが豊富に使われて, 味が濃厚になります。これを「アジクーター」といいます。ダシを使って味が濃厚になるので,食塩は少ない量で間に合います。 日本人の食塩摂取の目標値は1日に10gですが,実際は13g摂取しています。しかし,大宜味村では1日当たり9gです。全国的にも 10gを下回っているのは沖縄だけなのです。


(6)生き甲斐のある暮らし

 沖縄は一年を通して暖かく,寒さが原因となる血管や心臓へのストレスが少ない環境に恵まれています。この温暖な気候と, 「ナンクルナイサァ」というおおらかでしなやかな精神も長寿の要因だと思います。

 さらに大切なことは,沖縄ではお年寄りを大事にして尊敬しているということです。祖先崇拝の意識も高く,清明祭やお盆などの 行事には親族が集まり,お供えのご馳走を食べて交流する習慣があります。このような機会に,お年寄りは自分の存在意義を認識することが できます。沖縄のお年寄りは生き甲斐を感じて暮らしています。子ども達の扶養家族になっているという感覚があまりないそうです。 那覇や首里に住んでいる子どもへ畑で穫れた野菜を送っているお年寄りもいます。このようにお年寄りが自立し,よく働くことも長寿の 要因です。


男性の平均寿命を下げた食の欧米化

 沖縄は日本一の長寿県ですが,10年くらい前から男性の平均寿命は下がりはじめました。2002年に厚生労働省が発表した 「都道府県別生命表」では,沖縄県の女性は25年連続で長寿一位でしたが,男性は26位に下落していました。沖縄ではこれは 「2・6ショック」と言っているそうです。年齢別にみますと,65歳以上の男性は依然として一位ですが,若い世代が平均寿命を 下げているのです。「これはどうしたのか」と思って,データを詳しくみますと,「年齢階級別死亡率」では,35〜44歳の男性の死亡率は 沖縄県がワースト1の47位でした。主な要因は,三大生活習慣病といわれる,ガン,心疾患,脳血管障害でした。急性心筋梗塞などで 突然死する人も増えているそうです。

 これは,戦後のアメリカ占領下で,沖縄は本土より早く食の欧米化が進んだからではないかと私は思っています。戦後の生活習慣で 育った世代は,チャンプルーなどの伝統的な沖縄料理を食べずに,高カロリー,高塩分のポーク缶やビーフステーキ,ハンバーグを 食べるようになりました。家庭でも伝統料理を作らなくなり,学校給食で出されても残す子どもが増えてきました。

 女性は家で食事を作って食べることが多いですが,男性は社会に出ると外食が多くなります。欧米的な食事に慣れたことが男性の 平均寿命を下げた原因だと思います。

 もう一つの原因に,運動不足が挙げられます。那覇などの都市部は完全に車社会です。どこへ行くにも車で出かけます。歩く機会が 少ないのです。その結果,肥満になり成人病,生活習慣病が増えて,若い世代で突然死する人が増えてきました。


男性の平均寿命を下げた食の欧米化

 福島県の西会津町は脳卒中での死亡者が多く,福島県内でも「短命町」として知られていました。そこで町は, 沖縄の食生活をモデルに して,食生活の改善に取り組みました。塩分の摂りすぎを改め,タンパク質と緑黄色野菜を多く摂取するようにしました。 本格的に取り組みだしてから3年後には,脳卒中での死亡率が低下したそうです。このことからも沖縄の伝統料理は長寿食で あることが証明されると思います。

 沖縄のお年寄りは,伝統料理を食べて,畑仕事や漁業で体を動かしていますので,今でも元気です。若いウチナーンチュは, 古き良き沖縄の食文化と生活の知恵を見習うことが大切ではないでしょうか。

 良質のタンパク質をよく摂る。野菜や海藻からビタミン,ミネラルを摂る。塩分が少なく,コクのある調理法。これらが 沖縄の長寿につながっていると思います。

 先祖から受け継いできた伝統料理は,沖縄に限らず日本が世界に誇る料理であり,食生活だと思います。 私は21世紀は日本料理の時代だと思っています。