中古楽器の冒険

 楽器の「自慢話」はなるべくしないつもりでいたんですけど(いったん始めると止まらなくなりそうなので)、よそのサイトで、その手の話を読むと、これがけっこう面白かったりするんです。そんなこんなで、手持ちの楽器をいくつか紹介してみる気になりました。

 最初にお断りしておくと、コレクターが感心するような楽器は出てきません。つーか、正直言って二束三文のもののほうが多い。これは、「よい楽器をなるべく安く」という行動原理の下に、楽器選びをしてきた結果です。したがって、新品の楽器、新品同様の楽器などは、はなから相手にしていません(向こうが相手にしてくれんとも言う)。主なターゲットは、中古の汚い楽器です。それから、市場の人気がなくて、質のわりには安価な楽器も狙い目ですね。……え? 能書きはいいから、早く始めろって? こりゃまた失礼。

 

GUITAR

E.GUITAR

BANJO

FIDDLE

MISC.

 

MARTIN 000-18 (1959)

 お、いきなりマーチン! でも、これはヒジョーに安く手に入れました。それもそのはず、そもそも000-18という楽器自体、そんなに人気がない上に(アンプラグド・ブーム以降少しは状況が変わったのかな?)、表の板が割れまくっていて、さらにサイドもバックも傷だらけ。どうやら前のオーナーが、うつぶせ状態で踏んずけたかなんかしたらしくて、ブリッジの厚みの分だけ表の板が陥没し、それをなんとかつなぎ合わせたふしがあります。無残。

 当時は、すでに新品で買ったHD-28を使っていて、これは材質も仕上げもきれいなギターでした(もう手元にはない)。にもかかわらず、「やっぱビンテージのマーチンがほしい」と、身の程知らずに思うようになり、手ごろなブツを探していたところに、このギターと巡り会ったんです。1959年という製造年と、価格の安さに目がくらんで、さっそく購入したものの、家に帰って鳴らしてみると、これが全然ダメ。サスティーンのまったくないボソッとした音で。つまり、楽器屋さんの店頭では、頭に血が上っていたため、冷静な判断ができなくなっていたというわけ。女の人との出会いなんかでも、そういうことってあるでしょ? 若気のいたりっつーか(!?)。

 正直、これはアカンかな? −−と思ったんですが、そのままあきらめるのも忍びなかったので、きれいに磨き、弦を換え、ステレオのスピーカーに立てかけて1日中音楽を聴かせ……とやっていたら、あら不思議。ある日突然、知り合いのミュージシャンや楽器屋さんにもびっくりされるような、いい音がするようになりました。以来、ずーっとメインギターとして使ってます。いや〜、楽器って、ほんとわからない。

 ヒジがあたる辺りの塗装のダメージが、最近目立つようになってきた。そろそろマイナーリペアに出したほうがいいかもなぁ。

 写真ではそう見えないかもしれないが、サウンドホールの回りの板も、ロゼットに沿ってめいっぱい割れている。ベッコウ柄のピックガードは、おそらくオリジナル。ちなみに、ピックガードとその周辺のピックスクラッチは、私が付けたもの。長年苦楽を共にしてきた相棒だから、当然傷も付くわな。アメリカのブルーグラスフェスにも、いっしょに連れて行ったくらいだしね。

 グローバーのオープンタイプ・ペグが、オールドファッションな雰囲気を醸し出す。独特なノブの形状は、バタービーン(インゲン豆)とも称されている。この時期、スタイル28では、すでにクローズドタイプのグローバー・ロトマチックが採用されているが、000-18で採用されるのは、ずっと遅れて1967年から。

 

GIBSON J-45 ADJ (1967)

 J-45はギブソンのフラットトップギターの中で、最もポピュラーなモデルの1つだと思います。山崎まさよしさんのおかげで、以前よりも人気が上がっているような観があるものの、それまでは、「二流の舶来ギター」というようなイメージのほうが強かったんじゃないでしょうか? たしかに、マーチンあたりと比較すると、木の質も落ちるし、作りのいいかげんな部分も見えてしまうんですが、コードストロークをしたときの、ジャキジャキいう独特のサウンドは、やっぱ良いです。

 このギターは、渋谷の某大手楽器店で手に入れました。型番の後半の「ADJ」というのは、どうやらアジャスタブルブリッジが付いていることを表しているようです。J-45なら、やっぱラウンドショルダーだろ−−ということで、60年代のチェリーサンバースト2本と、50年代のブラウンサンバーストの3本をチェックしました。お店では、入社したばっかりみたいな感じの若いお兄さんが対応してくれたんですけど、この人の言ってることがけっこう怪しかったんですよ。なぜかチェリーサンバーストのほうが本来の色だと信じ込んでたみたいで、「オリジナルがほしければそっち、リフィニッシュでもよければこっち」と、それぞれのギターを指差します。でも値札を見ると、「リフィニッシュ」のほうがずっと高いんですが……。さらに「ギブソンならいくらでも値引きできますから」ともおっしゃるんだけど、それって新品の楽器に限った話じゃないの?

 このときは、チェリーサンバーストのギターがほしかったのと、もちろん価格の問題もあって、まず50年代のものは対象外に。残りの2本で二者択一ということになりました。音だけを考えると、もう1本のほうがよかったんですけど、ネックの状態や全体のフィーリングで、このギターを選んだような記憶が。その後、なじみの楽器屋さんでいろいろ調整してもらったところ、ずいぶん音は良くなったから、まずまず正解だったのではないかと思います。

 ところで、お店のお兄さんったら、いよいよ商談成立という段階で、「すみません、中古は値引きできないんだそうです。1万円引きますから、それで勘弁してください」と。あんまり申し訳なさそうな顔をされたもので、なんか私のほうが悪いことをしたような気分。そんなに気にしなくてもいいのに。もっとも、値引きのオファーは、ありがたくお受けしちゃいましたけどね。あのお兄さんどうしてるかな? おそらく新人研修かなんかで、一時的に販売現場に回されてたんじゃないかと思うんですが。

 ラウンドショルダー、チェリーサンバースト・フィニッシュというのは、1962年から1969年までの仕様。一見コンディションがよさそうだが、塗装のクラックはかなり多い。

 弦高調節用のネジが付いたアジャスタブルブリッジ。ブリッジサドルの材質は、セラミックではなくて、ブラジリアンローズウッド(ハカランダ)のようだ。周辺には、ブリッジを一度接着し直したようなリペア跡が見られる。

 サウンドホールを覗くと、J-45ADJというスタンプが。

 おなじみ、クルーソン・デラックスの3連ペグ。最近気づいたのだが、いつの間にかノブの部分がアメ色に変色している。若干縮みはじめてもいるような気がするが、とりあえず使用上の問題はない。

 

GIBSON L-2 (1923)

 ありがたいことに(?)、ギブソンのアーチトップ・ギター、とりわけ小型ボディのラウンドホール・タイプは、全然人気がありません。いわゆるロイド・ロア時代の楽器でもそうです。−−というわけで、ここに紹介するのは、1923年製のL-2。もちろんロアのサインは入ってませんが、トラスロッド付きの最初期モデルであることに代わりはないのに、安い安い。これがL-5だったら、あるいはマンドリンのF-5だったら、目の玉の飛び出るような値段になることは必定ですが……。

 トップの色は、実際にはもうちょっとナチュラルな感じのブロンド・フィニッシュ。

 若干小さめのヘッドには、しっかりトラスロッドカバーが。この時期のギブソン・ギターの例に漏れず、ネックは異様に太い。「なめとんのかー」と言いたくなるくらいだが、これが意外と弾きやすかったりする。

 カタログによれば、バックの材はメイプルのはずだが、実際にはバーチが使われているようだ。

 テールピースは、ブリッジ側から弦を入れて折り返すタイプ。このためテンションはかなりゆるくなる。アジャスタブル・ブリッジの(前オーナーによる?)弦長補正に注目。

 テールピースには「1910年1月19日」と、パテントの日付が刻まれている。

 

GIBSON TB-3 conversion (1928)

 戦前のギブソン・バンジョーで一番人気なのが、オリジナル5弦、フラットヘッド、1ピースフランジの3点セットであることは、ご存知のとおり。これが全部外れて、5弦以外(テナー・バンジョーなど)、アーチトップ、2ピースフランジ、とくれば、値段が1桁下がっちゃいます。音はたしかに違うけど、アーチトップだって捨てたもんじゃないのに。−−というわけで、このバンジョーは、アーチトップのTB-3を5弦に改造したものだそうです。はっきり言って、けっこう怪しいシロモノです。そもそも、バンジョーやフェンダーのギターのように、簡単にパーツに分解できる楽器っていうのは、どこまでオリジナルなんだか、油断なりません。ま、値段が値段だったから……。

 もともとはTB-3だったというが……。

 アーチトップ・トーンリング、チューブ&プレート(2ピース)フランジのモデルは、1927年〜29年頃の仕様。ブルーグラス・プレイヤーには人気がないが、サウンド自体は悪くない。2ピースフランジ、フィドル・シェープのペグヘッドといったデザインは、70年代のRB-800などにも見られる特徴で、これをコピーした日本のメーカーも多い。ちなみに写真のトーンリングは、穴のないのっぺりとしたタイプ。ドラムヘッドには牛皮が張られているようだ。

 レプリカネックのインレイは、スタイル5と同じリースパターン。ヘッドのデザインは、1929年まで採用されていたフィドル・シェイプで、時代考証はOK。

 

B&D MONTANA SPECIAL SILVER BELL No.3 (circa 1920s)

 おそらく私が持っている中で、一番派手な楽器がこれ。いかにも20年代アメリカといった感じの、バブリーなテナー・バンジョーです。モデル名の「モンタナ・スペシャル」は、当時のボードビル・スターだった、レイ・コールマンさんのステージ名、「モンタナ」にちなんだもの。B&Dは、シグネーチャー・モデルの開発に熱心だったメーカーみたいで、これ以外にも「ロイ・シュメック・モデル」なんかが有名ですね。

 No.3は、シルバーベル・シリーズの中堅クラス。当時の販売価格で比較すると、ギブソン・グラナダとほぼ同等のモデルです。ちょっと見、高そうですけど、ミュートの機構が壊れていたり、フィンガーボードが一部欠損してたり……と、いろいろあったので、リーズナブルな値段でした。市場の人気もそこそこだし。外見にばかり気を取られがちですけど、音もなかなかいいんですよ、これが。

 派手でありながら風格すら感じさせるデザインが秀逸。

 各弦独立でテンションの調整ができるオエティンガーのフィンガースタイル・テールピース。構造的にはバイオリンのテールピースにくっついているファインチューナーに近いけれど、これで音程ではなくてテンションの調節をするところがミソだ。

 アイリッシュ風にマンドリンのオクターブ下のチューニングにしているため、弦の選択が難しいのだが、この機構のおかげでノープロブレム。なぜギブソンは、このテールピースを採用しなかったのだろう?

 きれいなフレーム・メイプルを使ったリゾネーター。モンタナ・スペシャルでは、本来はセルロイドの飾り板が貼られているはずなので、オリジナルではない可能性がある。ほかのモデルからの流用品かも。でも、個人的にはトラ目のほうが好みなので、ラッキー!

 セルロイドの飾り板を貼って、彫刻&彩色を施したペグヘッドとフィンガーボード。赤い色はほとんど抜けて、地の色と区別が付かない。セルロイドの使用は、20年代〜30年代のバンジョーの多くに共通する特徴だ。

 ペグヘッドの裏にも、セルロイドの飾り板。こちらは、赤い色がよく残っている。アールヌーボー風のデザインも、いい味を出している。

 ネックのヒール部分には彫刻が。フランジのfホールにも注目。

 入手したときは、このようにフィンガーボードとバインディングの一部が欠けていた。めんどうな修復作業を請け負ってくれた夢弦堂に感謝!

 

S.S.STEWART SPECIAL THOROUGHBRED (circa 1890s)

 S.S.スチュワートは、19世紀後半の代表的バンジョー・メーカーの1つです(ブランド名は20世紀に入っても残りますが、中身はまったく別物と考えたほうがいいでしょう)。いかにも都会のインテリ層をターゲットにしたような、上品なデザインで知られています。音量が小さいのも、コンサートホールというよりは、パーラー(家庭の居間)での使用を意識していたのでしょうか? このモデルは、「スペシャル・サラブレッド」というシリーズの中堅クラス。入手したときは、ペグヘッドのインレイもずいぶん欠損していて、ボロボロ状態でした。−−というか、それを自分で修復したくて買ったようなものです。なんか動機が不純〜。

 ペグヘッドを除くと、わりと地味めなデザインだが、これがトップクラスになると、ペグヘッドにはチョウが舞い、フィンガーボードのインレイも複雑になり、金属部分は彫金がびっしり……。爛熟を極めたローリング・トゥエンティ以前から、バンジョーの装飾は派手だったのだ。

 この時期のバンジョーは、もちろんリゾネーターのないオープンバック・スタイルが主流。

 ごちゃごちゃとインレイが入ったペグヘッド。これを修復する様子は、こちらをご覧あれ

 弦はテールピースに刻まれた溝に巻きつけるようにセットする。花の装飾は象牙……ではなくて、プラスチックの削り出し。

 ネックのヒール部分にも植物の彫刻が施されている。ネック材は、チェリー(サクラ)。当時のバンジョーでは、チェリー・ネックはポピュラーな仕様だった。

 

JUSTIN DERAZEY (circa 1870)

 バイオリン(フィドル)の良し悪しは、はっきり言ってよくわかりません。どうせクレモナのオールド楽器に手が出せるわけないし−−というところで、デザイン重視で選んだのがこれ。ナッシュビルのグルーン・ギターズから輸入したものなのですが、お店の説明によれば、1870年頃に、フランスのミルクールで作られたものだそうです。ほんとかどうかは知らん。作者についても、どんな人なのか、まったく不明。たはは。

 この手の変わった装飾は、バイオリン以前の花形擦弦楽器であるビオール属の影響を受けているのではないかと思われます。だとすると、デザイン的にはかなり古いもののはずです。実際、同じようなデザインで、ガスパロ・デュイフォプルガル(ティーフェンブルッカー)作と称されているような楽器もあります。ちなみにデュイフォプルガルさんというのは、16世紀の伝説のクラフトマンで、バイオリンの発明者とも言われています。もっとも、これにはたしかな物証があるわけではなく、すべては伝説の粋を出ないようです。そして、デュイフォプルガル作と言われている楽器のほとんどが、実際には19世紀になってからミルクールで作られたものだとか。もしかしたら、ミルクールの天才クラフトマン、ジャン・バティスタ・ビョームさんあたりが、オリジネイターなのかもしれません。ビオール属の楽器も作っていたデュイフォプルガルさんのイメージで、それらしいデザインを考えたというような。なにしろ、現在アントニオ・ストラディバリ作として売られている楽器の中にも、実際にはビョームさんが作ったコピーがかなり含まれている、という話があるくらいの人ですから。

 同じようなデザインの楽器は、バッサー・クレメンツさんが使っていますし、ロイ・エイカフ・コレクションにも入ってます。この楽器の仕上げは、それらに比べると少し落ちるような気が。肝心のサウンドは、デザインに比べると、若干おとなしめかも。あんまりくせのない柔らかい音なので、とりあえず使いやすくはあります。

 かなり古そうなデザインに見えても、実際は19世紀後半のフランス製らしい。

 2重のパフリング、花束の彫刻、中世風の町並みの寄木細工など、いまの視点で見ると、ちょっとやりすぎの観があるが、こうした装飾は、ビオール属の伝統を受け継いだものなのだろうか?

 ヘッド部分のアップ。ヒゲ面のおじさんの顔が、なかなかシブい。え? ちょっとコワイって?

 

MAGGINI copy (circa 1800s)

 ついでだから、セカンドフィドルも紹介しちゃいましょう。この楽器、例によって素性がはっきりしないのですが、おそらくハンガリー製ではないかという話。18世紀末〜19世紀初頭の作という説明を信じれば、神聖ローマ帝国の末期ってことになりますか? ラベルには、パオロ・マッジーニと書いてあるんですけど、もちろん本物のわけはないのでコピー品。マッジーニを騙るだけあって、ストラディバリに代表されるようなクレモナのバイオリンとは、まったく異なるデザインになっています。

 いまでこそ、イタリアのバイオリンと言えばクレモナで決まりという感じですが、17世紀末くらいまでは、隣町のブレシアもバイオリン製作の一大拠点だったようです。現代の感覚では、クレモナが正統派、ブレシアはユニークなデザイン−−という印象を受けるものの、はたして当時の状況はどうだったんでしょう?

 ブレシアの創始者と言われるのが、ガスパロ・ダ・サロさん。ジョバンニ・パオロ・マッジーニさんは、その一番弟子に当たります。デザイン上の特徴は、2重のパフリング、大きめのボディサイズ、側板の幅が狭く、表と裏のアーチも控えめで、全体に平べったい印象−−など。クレモナを絶対視する立場から言わせると、「マッジーニのバイオリンは完成された美しさを持っていない」−−ということになるようですが、私はこれもまた充分に美しいと思います。つーか、「完成された美しさ」って何よ?

 ストラディバリよりもひとまわり大きく、かつ平べったいボディが特徴。

 裏板の隆起は控えめで、ほとんどフラットバックに近い。

 裏板の内側のパフリングは、ネックのジョイント部分で周縁部から離れ、幾何学模様を描く。外観上の効果だけではなく、裏板の強度の問題も考慮してあるのかもしれない。

 

GOODFELLOW CHOCOLELE #2 (2002)

 調子に乗って、自作の楽器をばこっそりと。このウクレレ、ご存知の方はご存知かと思いますが、全音のキットを組み立てたものです。ボディは単板のマホガニー、ネックはメイプル。どちらもオイルステインで、色付けしてあります。ポジションマークは拾った貝殻だし、塗料代などを含めても、原価は1万円切ってるんじゃないかと思いますけど、時間だけはずいぶんかかってます。たはは。

 バインディングもロゼットもなしのシンプル設計

 ペグはイマイチなので、そのうちアップグレードの予定

 サウンドホールから覗くと、しっかり作者のサイン入りラベルが……

 

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