ポスト・ストールの話(1) 〜 プガチョフ・コブラのこと 「プガチョフ・コブラ」の衝撃から早10年。すっかりお馴染みになった「ポスト・ストール機動」(Post-Stall Maneuver 〜略してPSM)のお話です。Cajunさんが既に非常に鋭く本質を突いたアーティクルを書かれているので、やりにくいのですが。
とりあえず、PSMの代表格(違う?)・「コブラ」の話から。コブラって何?という人は、今、このページをお読みの方の中には余りおられないと思いますが、ま、大体こんな↓機動です。
コブラの力学については、いろいろなところで解説がなされていますが、もっともツボを押さえていて、且つ分かりやすいのは、Ray Whitford氏がAir International Vol.51 No.2(1996/8)に掲載した図解だと思います。スキャナを持っていないので、今、転載できませんが、かわりに、これを参考にして、以前エアレスに書いた文章を引っ張ってきます。(少しだけ加筆・修正済)
飛行機の翼が失速せず、文字どおり「翼」として働いているとき、空気力はかなり前寄りの点(一般に「平均空力翼弦の25%」とかいう)を中心に作用します(空力中心と圧力中心の違い、とか、この際、細かい事はパス)。普通の飛行機は、安定して飛ぶために、大体この点より前に機体の重心を置いています。
しかし、Su-27系は、Fly-By-Wireという、コンピュータに舵取りをさせるシステムを持っていて、多少不安定でも飛べるので、重心は「普通」の飛行機より後ろ寄りです。よく知りませんけど、大体、空力中心と相前後している、くらいでしょうか。これで、思い切って上げ舵*をとってやれば、もとが不安定気味ですから、機首がひょわーんと上がります。
*(普通は水平尾翼だけですが、あればカナードや推力偏向も使います。また、こういう時には、ストレークも面積の割には大きな揚力をだし、機首上げに貢献します。それから、FBWの制御系にはいろいろとリミッタがかかっていて、以前はコブラをかます前に、これらを解除していたそうですが、最近はそのままでイケルようになったとか。)
たらたら機首を上げると、揚力が増えて機体が上昇して、ということで、宙返りが始まりますが、いきなり上げると、機体が持ち上がる前に翼が失速します。揚力がなくなり、機体は勢いだけで前進します(厳密にいうと、失速前に必ず少しは揚力増があるので、飛行軌跡は若干山なりになりますが)。これがコブラの前半。
失速して、迎角ウン十度で風を腹から受ける翼は、もはや翼ではありません。ただの「板」です。この板に生じる抵抗(揚力ではない)は、先の空力中心ではなく、板の面積重心にかかります。長方形の板ならど真ん中、空力中心よりずっと後ろです。
一方、機体の重心位置は、上述のとおり、翼の空力中心からそんなに離れてはいません。だから、上記の面積重心にかかる抵抗は、機体重心より下(後ろ)に働いて、ピッチ・アップをとめ、更に機首を戻してくれます。これがコブラの後半。単純にいうとこういうことです。(クルビットは、途中で止めずにえいやっと勢いつけて後ろまで回ってしまうものだと思えばいいでしょう。ただ、失速後は、上述のような具合で復元力が働き、途中でピッチ・アップが止まってしまうので、Su-37は推力偏向でピッチ・レートを維持しているはずです。)
ただ、上の理屈では、失速後は、機体固有の空力的なバランスでもって復元するだけで、揚力が回復するまで、パイロットが操縦できる余地がありません(水平尾翼だって失速しているはずなので)。その割りには、「ここで素早くスティックを押すことが肝心」とかいう人もいて、実はよくわからないのですが、いずれにせよ、まっすぐ前に戻す以外に自由度がない、と言う意味で、厳密にはコブラはPSM(=失速後の「機動」)とは言えないのかもしれません。
それから、何故これがフランカーにしかできないのか(MIG-29も、ちょっと苦し気なのをやりますが)という説明は、上だけでは少し弱いです。静安定がネガティブ気味の、最近の戦闘機なら、みんなできるんじゃないかと言う気がしますですね。
5年前に来日した、元スホーイ設計局のサモイロビッチ博士が、講演の中でこの点に言及しています(その後、雑誌「防衛技術」に掲載)が、「F-16(乃至アメリカの戦闘機)は、静安定がSu-27より強くてピッチ・アップできない」といった一方で、「F-16は重心後方の平面積の割合がSu-27より小さいので復元できない」と、何だか矛盾するようなことをいっています。ま、確かに、静安定の度合いは、機首、主尾翼、胴体等、各部の揚力勾配に依存するので、平面積分布と1対1ではないのですが。
(浜田一穂氏も、「航空ファン」94/2で、「Su-27は、後退角の強い主翼等により、重心後方の平面積が大きく・・・」と書いておられますが、重心前方より後方の方が平面積が大きいこと自体は、飛行機なら当たり前の事で、Su-27特有の条件とかいうことは全然ありません。)博士のいうことを真に受けると、他機にないSu-27だけの特徴として、重心より前に、小面積で揚力勾配の大きいものがあるか、重心より後ろに、大面積で揚力勾配の小さいものがあるかする必要があるのですが・・・やっぱり、あのテール・コーンかな?うーん、信じていいんだろうか、あの博士?
それはさておき、一般論・定性論として、コブラを可能とする主な条件をあげると、勢いつけて失速域まで飛び込めるピッチレートと、終止左右にひっくりかえらない横/方向安定、というところでしょうか。あ、あと、エンジンがとまらないこと。
ピッチ・レート云々は、前述のとおり、Fly-By-Wire搭載・RSS適用(静安定がネガティブ気味)の最近の戦闘機なら、どれもかなり高いものがあるはずです。勿論、こういうものは、あるからできるとか、ないからできないとかいうものではなく、静安定余裕、舵面容積、舵面の作動レート、機体の慣性モーメントや空力的なダンピング(行き過ぎてクルビットにならないためには、これも程々に必要)等を、定量的にかけ合わせてみないと、判断できないのですが。
因みに、サモイロビッチ博士によれば、急速に引き起こす、というのは、荷重オーバーを避けるためにも必要なことだそうで、Su-27でも、たらたら引き上げたせいで空中分解した事例が、2、3あるそうです。しかし、急激に引き上げた方がオーバーGしないというのは、持続時間はともかく、瞬間値でみると「?」で、ダイナミック・リフトの一般論(急激にピッチアップした翼は、瞬間的に高い揚力を出す)からすれば、寧ろ逆のように思えます。同じ荷重でも、瞬間的になら耐えられるということでしょうか?今度、構造屋さんに聞いてみることにします。
横にこけないこと。これも大事です。上述のWhitford氏の絵解きによれば、Su-27は、迎角が上がる過程でヨーが不安定な領域を通るので、ここをなるべく早く通り抜けたい、その意味でも、ピッチアップは速くなければいけないのだとか。もっとも、逆にいえば、早く抜けてしまえるのなら、少々不安定でもいいのかしれませんが。
しかし、そういう半端な領域を抜けて、直立した状態でも、あの円断面の機首からは、カルマン渦のような非対称剥離が生じていそうなもの。よくふらつかないもんです、考えてみると。この辺は、何故できるのか?どうすればできるのか?どの機体ならできて、どの機体にはできないのか?私は全然わかりません。或いは、そもそもそんな心配は要らないのか?止まらないエンジン。実はこれが一番大変かな?
これもサモイロビッチ博士によると、Su-27の場合、インテークの上にかぶさったストレークが、機体上方に吹き抜ける空気をせき止め、インテーク前で空気が淀むので、エンジンにとっては、静止しているのと変わらない、何も問題はない、のだそうです。とはいえ、あれだけの姿勢変化の中では、ダクト内の流速分布も総流量も、相当激しく変動するはずなので、やっぱりエンジンも凄いんじゃない?大したことないなんて、エンジン屋さんが聞いたら怒るんじゃない?と、いらぬ心配をしたことでした。
因みに、その後登場したSu-37の「スーパー・コブラ」や「クルビット」では、インテークが(勿論機体ごと)真後ろまで向きますから、博士の説明だけでは、やはり通らないでしょう。Su-27系の場合、インテーク下面のルーバも、流量確保に貢献していると思いますが、ディストーション(擾乱)は、余計ややこしくなりそうにも思います。
ということで、結論ですが、どうもすみません、よくわかりません。何でも、某氏はF-15でもやられたそうですし(?)、某国空軍のA◯佐は、◯−3や◯−4でも遊んでいるということですので、別にフランカーでなければならない、ということはないようですね。
で、いろいろ大騒ぎして、そもそもコブラをやる必要があるのか?コブラは実戦で使えるのか?という話になるわけですが、疲れたので、また今度。いえ、まあ、一般論として「使えない」ということになっているのは重々承知してますけど。
(1999/07/26)
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