Richard Wagner(1813-1883)
どうもナチスドイツに影響を与えた問題作曲家であるという抵抗感も多少あり、作品自体がオペラ(彼自身は楽劇と称した)が中心でどれも長大であり、かつ言葉の問題もあるため、その作品に対してはなかなか理解が及ばない。かつてNHK-FM放送で、バイロイト音楽祭を何度も聞く機会があったが、大抵は途中で眠くなるか飽きるかして、投げ出すことが多かった。反ユダヤ主義的なヴァーグナーとユダヤ人殲滅をたくらんだヒトラーがともにユダヤ系の疑いがあるという噂が興味深い。なお、バイエルン国王「ルートヴィヒ二世」(観光名所ノイシュヴァンシュタイン城を築城、莫大な浪費として禁治産宣告を受ける)とヴァーグナーを描いた映画「ルートヴィヒ 神々の黄昏」(ヴィスコンティ監督)は、20年ほど前話題になり、仙台の名画座で見たことがある。
他の多くの大作曲家とは異なり名演奏家ではなかったらしい。また幼児に天才的な楽才を示したわけでもないようだが、どこであのような作曲技術、管弦楽法、作劇術を身につけたものか?
ニーベルングの指環の解説書などを読むと、少年期によい音楽教師について対位法などをしっかりと学び、教師からもう教えることはないと言われたほどだったという。神童伝説はないが、非凡だったことは疑いない。
☆楽劇「ニーベルンクの指環」全曲
ギュンター・ノイホルト指揮 バーデン州立歌劇場(カールスルーエ)
ノイホルトは数度来日経験もある指揮者。カールスルーエ市は、ドイツのバーデン・ヴュルテンベルク州(州都:シュトゥットガルト、他にマンハイム、ハイデルベルクなど。)内の都市。人口約30万人。1806年にバーデン大公国の首都になった町なので、バーデン州立歌劇場はその名残だろう。
独TIM Cz.BELLA MUSICA EDITION 205200-375 (14枚組) (\1,790+税) 2003.03.13購入(タワーレコード横浜)
昨年春頃同じタワーレコードでこの超廉価盤(ブリリアント版)を見かけたが、あまりに安いので買うのを見送った。その後、クラシックCDのデフレ現象の象徴の一つとして新聞にも取り上げられた記憶がある(バルシャイのショスタコ全集などとともに)。今回横浜のCDメガストアをめぐって、超廉価ゆえに思わず手が出た。これまで主にブリリアントの超廉価が概ね「当たり」だったので、超廉価に対する猜疑心はなくなった。値札は2,590円だったが、レジで店員がセール価格の1,790円だと親切にも値下げしてくれた。その後ネットで見ると、これがこれまでの底値らしい。
さすがに台本と対訳はついていないが、各巻に、独英仏伊西の曲目解説(CDトラックナンバー付きで、ヴァーグナーのト書き付き)が付いている。ライヴ録音と書かれているが、演奏中の客席雑音は聞き取れない。また、歌手の位置の移動は確認できない。各幕の最後には聴衆の拍手、ブラヴォーが盛大に入っている。ヴァルキューレは、ショルティ盤の対訳付き台本を参照しながら聞いたが、省略があるようないい加減な演奏ではない。あまりに安いのでつい心配になるが、雑音やエラーも今のところない。ネットでこのCDを取り上げたサイトでも書かれていたが、過度に劇的な演奏でないため、聴き疲れしない。ショルティ盤のヴァルキューレの一部を聴いてみたが、あまりにオーケストラが頑張っていたり、歌手の声にエコーがかかっていたり、ノイホルト盤に比べて煩く感じた。(他の曲は音楽之友社名曲解説全集の簡略(過ぎる)な解説を参照しながら聴いているが、図書館に音楽之友社の対訳本2巻を予約した。あずみ椋のコミックも図書館にはあるようだ。)
この大曲に馴染みがあるわけではなく、FMのバイロイトライヴやザヴァリッシュ/バイエルンのビデオを多少かじって、いつも途中で挫折したくらいの経験しかないので偉そうな比較はできないが、このノイホルト盤はライヴでもあり、オーケストラの音がやや弱めに収録されているためか、過度な劇性が抑えられており、濃厚さやくどさへの拒否反応が起きにくい演奏の一つかも知れない。歌手は、ブリュンヒルデ役にドラマチックソプラノ的な迫力が足りないというような評を読んだが、そのような役への適性は別にして、全体的に2回のライヴからの編集にしては非常にきちんと台詞間違いもなく歌えているし、発音も明晰で変なストレスを覚えない。むしろ個性的過ぎず聞きやすい。
ところで、この廉価だが、バルシャイ盤もそうだったが、製作にオーケストラ自体、歌劇場自体が関わっていることに秘密があるのではなかろうか?一種の宣伝盤として出しているのではないかということだ。これだけの廉価なら世界の多くの国である程度の販売が見込まれ、WDR(ケルン放送)とかバーデン歌劇場の名前がファンに浸透する。CDの製造原価は今や1枚数十円のレベルだというから、指揮者、オーケストラ、演奏者、歌手とCDに関して特別な契約を交しておけば可能なのかも知れない。
3月24日(月)にようやく神々のたそがれまで聞き終わった。とは言え、リブレットを参照しながらは、ヴァルキューレと神々のたそがれのみ。ラインの黄金は解説書もみないで聞き流し(現在リブレットを未ながら2回目に挑戦中)。ジークフリートは解説書を見ながら。長大なこの「オペラ」は確かに魅惑する部分と嫌悪する部分が入り混じっている。ライトモチーフが精巧に織り上げているため、音楽的に注意を払いながら聴くと言葉もあまり関係なく、音楽として面白い。しかし、いざ台本を参照しながら聞くと、荒唐無稽な筋書きのゲルマン神話に呆れることが多い。ラインの娘たちの媚び、アルベリヒの欲情、ヴォータンの卑劣な契約破棄、巨人の愚かさ、ローゲの陰険さ、人間のいない神話時代なのにヴォータンはヴェルズングを誰に生ませたのか、ジークムントとジークリンデの近親相姦、ヴォータンの恐妻、フリッカの身勝手、ブリュンヒルデはまあまともか。養子と養親の殺し合い、恐怖を知らぬ能天気なジークフリート、見掛け倒しで弱いファフナー、いやらしいハーゲン、阿呆のグンター、カマトトのグートルーネ、世界の平和より男との愛を優先するブリュンヒルデ、また忘れ薬、などなど。もともと神話はつじつまが合わないものだが、ヴァーグナーが脚色したゲルマン神話には、いわゆる神聖なものはほとんど感じられない。ギリシャ・ローマ神話的だ。しかし、これが同時代と後の欧州世界に大きな影響を与えたのだから。ヴァーグナー前と後というように。あのショパン弾きで有名なコルトーが熱烈なヴァグネリアンで、愛好から一歩進み、ナチス占領下のフランスのヴィシー政権に協力するほどだったというのだから。フランス人はガリア戦記にみるようにローマの支配下にあった時代があるため、自らをラテン系と賞しがちだが、中世にはフランク王国の一部だったのだから血統的にはゲルマンの血も入っているのだろうし、その古層にはケルトの血もあるのだろう。
○序夜 ラインの黄金 205201-304 (2枚組) <ライヴ 1993/11/20,1995/4/14>
ヴォータン:ジョン・ウェーグナー、アルベリヒ:オレク・ブリャーク、ミーメ:マイケル・ノウォーク、ファフナー:マルコム・スミス、他
○第1日 ヴァルキューレ 205202-351(4枚組) <ライヴ 1994/1/29,1995/4/17>
ジークムント:エドワード・クック、ジークリンデ:ガブリエレ・マリア・ロンゲ、ブリュンヒルデ:カーラ・ポール、ヴォータン:ジョン・ウェーグナー、他
○第2日 ジークフリート 205203-351(4枚組) <ライヴ 1994/10/1,1995/4/23>
ジークフリート:ヴォルフガング・ノイマン、ミーメ:ハンス・イェルク・ヴァインシェンク、アルベリヒ:オレク・ブリャーク、ファフナー:サイモン・ヤング、さすらい人(ヴォータン):ジョン・ウェーグナー、他
○第3日 神々のたそがれ 205204-351(4枚組) <ライヴ 1995/4/1,1995/6/25>
ジークフリート:エドワード・クック(ヴァルキューレでジークムント役)、アルベリヒ:オレク・ブリャーク、ブリュンヒルデ:カーラ・ポール、グートルーネ:ガブリエレ・マリア・ロンゲ(3人目のノルン役も。ヴァルキューレでジークリンデ役)
解説書:音楽之友社 作曲家別名曲解説全集「ヴァーグナー」 門馬直美氏がニーベルングの担当。
台本:音楽之友社
参考:RING は リンクかリングか。及び、指輪か指環か?
参考:新書館の指環の翻訳は読みやすい
以下の翻訳が出ている。英文学者父子の翻訳だが、日本語としてこなれているため、スイスイと読める。いわゆる韻文としての扱いで、一行の文字数が少ないので、一冊一時間もかからない。ホームページ本文のノイホルトのリンクの感想に書いたのは、音楽之友社の逐語訳を参照しながら聴いたときのものだがそのような卑俗なイメージはあまり浮かばなかった。むしろ妖精もののような軽やかさを感じた。
すべて公立図書館から借り出した。
ラインの黄金
http://www.shinshokan.co.jp/shopcart/html/sho/shinshokan_11008-8.htmlワルキューレ(ヴァルキューレ)
http://www.shinshokan.co.jp/shopcart/html/sho/shinshokan_11002-9.htmlジークフリート
http://www.shinshokan.co.jp/shopcart/html/sho/shinshokan_11006-1.html神々の黄昏
http://www.shinshokan.co.jp/shopcart/html/sho/shinshokan_11007-X.htmlヴァルキューレは、指環入門に適しているという世評で、もっとも早くショルティ盤を入手して聞き始めたものだった。そのLONDON盤(日本盤)のCDの解説書には、ライトモチーフの楽譜が付いていたり、あらすじの解説や対訳も詳しく、それなりによい出来栄えなのだが、新書館の指環の翻訳を読む前と読んだ後では、この作品も印象が異なった。やはりスラスラと自分の母国語で読んでみるに如くはないようだ。なぜヴォータンの子であった男女の双生児が互いに強く惹かれ合い、英雄ジークフリートを生み出すにいたったかのインセストタブー的ないかがわしさは、台詞で弁明されていた。そして、なぜブリュンヒルデがヴォータンに逆らい、ジークリンデを救い、ヴォータンの怒りに触れて岩山で火の眠りにつかされたのかも。
もちろん解説書や対訳を丁寧に読み込めば、早くから得心が行ったのだろうが、そこまで辛抱強くないので、やはり読みやすい翻訳というのは良い。
ヘーゲルやカントやダンテなども読みやすい翻訳が試みられているようだが、日本語を読み解く難解さをできるだけ軽減させ、読者を原書そのものの内容の読解に導くのが良い翻訳者というものだろう。
http://www.shinshokan.co.jp/shopcart/html/sho/shinshokan_02017-8.html
ニーベルングの指環対訳台本・ライトモチーフ譜例付
リヒャルト・ワーグナー作 天野晶吉訳 ライトモチーフ分析/川島通雅
本体価格 4854円/A4判並製/196頁[1990年]
品切
ワーグナー大作楽劇の音楽とドラマを、重層的に深めているライトモチーフ(特定の人物・事象・想念を象徴するメロディ)を序夜「ラインの黄金」から「ワルキューレ」「ジークフリート」「神々の黄昏」まで綿密な理解のもとに剔出し、鑑賞の手引きとしたオリジナルな編集による対訳『ニーベルングの指環』。
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/search-handle-url/index=books-jp&field-author=Wagner%2CRichard/249-9092397-9378710
その他アマゾンコム情報。
このうち、音楽之友社のオペラ対訳ライブラリは図書館蔵書を借り出し、読破済み。
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/search-handle-url/index=books-jp&field-author=%E3%83%AF%E3%83%BC%E3%82%B0%E3%83%8A%E3%83%BC%2CR./249-9092397-9378710
ここに出てくるあずみ椋のコミック版は評判がいいのになぜかハードカバーも文庫も絶版。図書館にはあり。◆あずみ椋(りょう)のニーベルングの指環
図書館で四冊セットを借りて一気に読みました。女性漫画家によるいわゆる少女漫画系の絵柄で、少々抵抗はあったけれど、漫画家自身、ベルリンオペラの来日公演で感激の涙を流すほどの思い入れがあるそうで、それなりに原作に忠実に誠実にマンガ化されていた。また、ゲルマン系の伝説にも興味があるとのことで、そのマンガも連載しているとのこと。
まったくの入門者である同居人も結構はまったようなので、入門用には適しているだろうと思う。
人物関係図で、ワルキューレ姉妹全員が、ヴォータンとエルダの娘となっていたのは、それまで読んだ翻訳や対訳添付の解説がブリュンヒルデのみを彼らの間の娘で他の姉妹は異母姉妹としていたのと違っていたのが気になった。あずみのマンガ以外はヴォータンの一番のお気に入りの娘ブリュンヒルデが特別な存在であることを、彼女だけがエルダの娘ということに求めたのだろうか?
☆楽劇「ヴァルキューレ」(「ニーベルンクの指環」第1日)
○ショルティ ヴィーンフィル、ホッター、ニルソン他(1965年録音)
言わずと知れたレコード録音史上の名盤である。しかし、後年ショルティがバイロイトで指揮したときには、あまり評判が高くなかったという。やはり、この名歌手勢ぞろいで、演奏精度が高く、録音効果を十分に生かしたものと実演を比べてしまったからだろうか?ヴィデオでは、ザヴァリッシュが
シェローレーンホフの現代風(?)の演出でやった全4夜を所有しているが、じっくり見とおしたことはない。
☆ニーベルンクの指輪 管弦楽名曲集
○ショルティ ヴィーンフィル(1982年録音)
上記全曲録音の入門編のようなもの。緊張感にはまったく欠ける。
☆管弦楽曲集
○レーグナー ベルリン放送管弦楽団
ジークフリート牧歌/ニュルンベルクのマイスタージンガー第一幕への前奏曲/ラインの黄金前奏曲/トリスタンとイゾルデ第一幕への前奏曲
○カラヤン/ベルリンフィル LP(EMI) 管弦楽曲集
☆楽劇「トリスタンとイゾルデ」
○カルロス・クライバー指揮 ドレスデン・シュターツカペレ ライプツィヒ放送合唱団、コロ、モル、プライス、ディースカウ、ファスベンダー、他 <1980.8.26-1982.4.4 ドレスデン、ルカ教会録音) 2004.7.23購入 日本語解説、対訳付き
小遣いも乏しいのに「トリスタンとイゾルデ」のCDを購入してしまった。6116円。確か大学生のとき、バーンスタインの録音と踵を接するかのようにして発売されたもの。当時はまだLPが主流だったため、曲の途中での盤面切り替えにフェードイン、フェードアウトを加えていて、そのようなトリビアルなことが結構賛否を呼んだのを思い出す。それ以来これまでずっと聴く機会はなかったが、今回思いきって購入してみた。1枚目を聴き始めたところだが、オーケストラパートの雄弁さには驚く。ドレスデンの少々地味で素朴な音色が、人工的な退廃の世界から救済しているかのようだ。これがヴィーンやベルリンの両フィルハーモニカーだったら、華美、妖艶過ぎていたことだろう。
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