モーツァルトの隠し絵 もしくは 対話篇 K.466とK.467
毛越氏: あると君。モーツァルトのピアノ協奏曲は名曲揃いだね。私はト長調の曲、フィナーレの変奏曲のテーマにモーツァルトが 愛玩していた小鳥の鳴き声を使ったと言われている曲が好きだね。
有人氏: 17番ですね、もおつさん。僕も彼のピアノ協奏曲は、最初期の習作から最晩年の作品まで全部好きですが、中でも彼の脂の乗り切った時代の傑作、旧全集番号の20番K.466ニ短調と21番K.467ハ長調を好んで聞きます。これに22番を加えた三曲セットは、何度聞いても間然とするところがない傑作ですね。それに加えて23番イ長調、24番ハ短調、25番ハ長調のセットもすごいですね。その後、26番の戴冠式、27番の最後のコンチェルト。
毛越氏: そう言えば、シンフォニーの39番、40番、41番も非常に性格の違う曲だが、当時の習慣で、3曲のセットとして作曲されたものだと言うね。6曲セットと言うと有名なハイドンセットのクァルテットが有名だね。
有人氏: ピアノ協奏曲の21番を初めて聞いた時、第一楽章の途中に一瞬40番のト短調のあの有名な第一主題が突然鳴り出したのにびっくりしたことがありました。エピソード的にピアノの独白で一度だけ奏でられるだけなんですが、なぜここにこれが出てくるのかということが今にいたるまで疑問なんです。あれは、ハ長調の提示部の中なのになぜかト短調なんですよね。
毛越氏: そうだね。なぜあのようなエピソードを挿入したのか。あの部分だけ私も少々違和感があるんだよ。いわゆる完成年代か言うと、21番のピアノ協奏曲の後に40番のシンフォニーが完成されているのだから、21番で出てくるエピソードを40番のテーマに流用したとも考えられるかな? ところで、20番のニ短調の協奏曲は、数少ない彼の短調作品の中でも特筆すべき傑作だね。第一楽章を聞いてみようか?
有人氏: (しばらく聞き進んで) あれ、そう言えばこの低音部の上昇音型とリズムって 41番の冒頭部分にそっくりですね。いつもシンコペーションのメロディーの方にばかり耳が行っていたんですが、今日は毛越さんと流用なんていう話をした所為かな?
毛越氏: そう言われてみると確かに三連音のところがよく似ているね。41番のシンフォニーも聞いてみよう。うんそっくりだ。セットで作曲した協奏曲のテーマが同じくセットで作曲したシンフォニーの中でエコーしているんだろうか? 完成年代では、通説に誤りがないとしても、構想的にはピアノ協奏曲とシンフォニーは意外に近い時期のものということも考えられるかな。
有人氏: 逆にシンフォニーが先で、協奏曲が後ということもあり得るのでは?
毛越氏: 大胆な意見だね。プラトーなどの自筆譜の研究で、最後のピアノコンチェルトと言われている27番の曲の作曲年代が、通説よりも早いのではないかとも言われているが、今回話題にしている作品にはそんなびっくりする様な話はないようだよ。ただし、自筆譜の透かしなどの研究は実証的だが、昔使っていた楽譜を何年も経過してからまた使うという可能性についてはどうなんだろうか?それに、加筆訂正等の可能性もある。
有人氏: 自筆譜の話はちょっと脇に置かせて下さい。私が大胆なことを考えたのは、さっきも話したように21番のト短調エピソードが木に竹を接いだように聞こえることに関係があるんですよ。ト短調シンフォニーの宣伝を、あの曲の中でやったと考えたらどうでしょうか? そうするとシンフォニーが先でコンチェルトが後。
毛越氏: それは面白いね。ただ、ト短調シンフォニーの片鱗を覗かせたと言うふうに考えても、こうも想像できるね。つまり、シンフォニーを完成した後で、そのテーマを挿入するようにコンチェルトを改作したと。その改作バージョンがそのまま後世に伝わったのではないだろうか?
有人氏: いずれにせよ、何か想像をかきたてる書き方ですね。
毛越氏: それでは、さっき君が指摘した20番のコンチェルトと41番のシンフォニーはどうなんだろう。この場合には、音型やリズムの上で共通性は認められるが前のペアとは違ってすぐに気がつくようには作られていないね。それにエピソードではなく、20番の第一楽章は、あの三連符の上昇音型に支配されている程で構成の中にがっちりと組み込まれている。
有人氏: こんな風に考えたらどうでしょう? 作品の完成年代は通説の通り。しかし、21番のエピソードは、完成当初にはなかった。シンフォニーのセットを作曲するにあたって、性格的に鮮明な三曲のコンチェルトセットの構成を参考にした。41番の第一主題には、20番のあの音型を採用した。40番の方は、21番のコンチェルトの方を改作してエピソードとして付け加え関連性を持たせた。もしかしたら、 同じコンサートで、二曲を演奏したのかも。残るは変ホ長調のコンチェルトとシンフォニー。この2曲は調が同じことと、雄渾な雰囲気があることで共通性があるようですが、前の二つのペアのような目に見える関連性はまだ発見できていない。
毛越氏: モーツァルトが謎々が好きだったかは分からないが、私は二つのセットが関係があるよというヒントがト短調のエピソードのような気がするね。ちょっと気取って「モーツァルトの隠し絵」などと命名しようか?何だか彼の遊び心を感じるんだよ。(1999.09.28)
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