ベートーヴェン 第九交響曲 歌詞 逐語訳の試み
<<凡例>>
男:男性名詞、女:女性名詞、中:中性名詞、単:単数形、複:複数形、形:形容詞、複:副詞、前:前置詞、間:間投詞、接:接続詞、他動:他動詞、自動:自動詞、
ウムラウトなどドイツ語独特の表記は、置き換え表現で表す。(HTMLを直接いじればウムラウトなどの特殊文字が表示できることがわかったので徐々に変更していく。 ö なら ö と書けばよい)
ベートーヴェン作詞レチタチーヴォ
O Freunde, nicht diese Töne!
おお友人たちよ、こんな音(を出すの)ではない、
O:間
Freunde: Freund(友人)男の複
diese(この〜を) 複4格
Töne:Ton(音)男複
sondern lasst uns
angenehmere anstimmen,
そうではなくて、もっと楽しい音を出そう、
sondern(そうではなく):接 先行のkein,nichtを受ける
lasst:lassen(させる)のihrに対する命令形 lasst unsで〜しよう(英語のlet us
angenehmere: angenehm(きもちのよい)形の比較級、強変化4格、:格変化しているので副ではなく形、この後にToeneを補う。
anstimmen(音を出す) 他動
und freudenvollere.
そしてもっと喜びで一杯の音を(出そう)。
und(そして):接
frendenvollere(さらに喜びに満ちた):Freude (よろこび)女とvoll(一杯の)形の複合語に比較級がついたもの、(強変化4格か?)angenehmereと同じくこの後にToeneを補う。 シラーの詩にFreudeが頻繁に出てくることを表した一種のユーモアか?
An die Freude 歓喜に寄せて Friedrich von Schiller(1759-1805)
An(へ):前 「〜に寄せて」とか訳されるが、要するにFreudeへの呼びかけである。
die Freude(喜び、楽しみ、うれしさ、愉快)女単4格
1. Freude, schöner Götterfunken,
Tochter aus Elysium,
歓喜よ、美しい神々の火花よ、エリゼから来た娘よ、
schoener(美しい):形 格語尾は男単一格を示す
Götterfunken(神々の火花):GötterはGott男の複 funkenは男単。なお、göttliche funkeで天才、人間の中の神的なものという意味がある。つまり、歓喜とは人間の中にある美しく神々しい感情であると宣言しているのであろう。
Tochter(娘):女単 英語のdaughter同語源。直接には乙女(処女)という意味はないようだ。
aus(〜からの):前3格支配
Elysium(エリジオン、西方浄土、理想郷、仏語Elysée):中単、シャンゼリゼのElyséeと同じ。ちなみに「エリーゼのために」はFür Elise。ギリシア・ローマ神話で、地の西端にあるという極楽。英雄は死後この地に送られた。ゲルマン神話のヴァルハラのような場所であろう。つまり、歓喜とはエリゼからやってきた(出身の)娘である、とも宣言している。死後の英雄たちが集う極楽浄土からやってきた娘のような感情とは雄雄しくまた優美な感情のことであろうか?
Wir betreten feuertrunken,
Himmlische, dein Heiligtum!
私たちは炎に酔って踏み入る。聖なるものよ、あなたの聖殿に。
Wir(われわれは):一人称複1格
betreten(ある場所に足を踏み入れる、立ち入る):他動
feuertrunken(炎に酔って、情熱に酩酊して): Feuer(炎、情熱)中とtrunken(他動trinke飲むから。酔って、酩酊して)副の複合語
Himmlische(神聖なもの):大文字で始まっているから名詞。形容詞の名詞化と考えられる。つまり、歓喜とは、神々しいものでもある。これを形容詞として、Heiligtumにかかるとする翻訳が多い。つまり、汝の神々しい聖殿。意訳なので間違いとまでは言えないが、少々不正確であろう。
dein Heiligtum(あなたの聖殿):中、4格。
Deine Zauber binden wieder, was die
Mode streng geteilt,
あなたの神秘的な力は再び結び合わせる。この世の時勢が厳しく分け隔てたものを。
Deine(あなたの):複1格により、次のZauberは複数である。あなたのとは、歓喜の意味。
Zauber(魔法、魅力):男単だが、複と考える。MozartのZauberfloeteは「魔笛」として親しまれているが、まったく知らない人にはこれだと悪魔の笛というニュアンスを与えがちだと思う。メルヒェンなのだから、「魔法の横笛」とか「不思議な笛」でもいいわけだ。
binden(結びつける):他動
wieder(もとどおりに、再び):副
was(するところのものは何でも):不定関係代名詞、4格。英語のwhatと同語源。
die Mode(流行):女単、いわゆるモードのこと。
streng(きびしく):形→副
geteilt(分ける):他動、teilenの過去分詞。hat(haben)が省略されている?
Alle Menshen werden Brüder, wo
dein sanfter Flügel weilt.
全人類は兄弟となる。あなたの優しい翼がとどまるところで。
Alle(すべての):不定数詞 英語のallと同語源
Menshen(人間):男→複数
werden(〜になる):自動
Brüder(兄弟、同胞):Bruderの複。
wo(〜するところで):従属関係名詞
dein(あなたの):ここでも歓喜の
sanfter(やわらかな):形容詞
Flügel(翼):男単
weilt(とどまっている):自動詞weilen
(以上、原詩の第一連の前半部より)
2.Wem grosse Wurf gelungen,
大きな投機に成功した人よ。
Eines Freundes Freund zu sein,
一人の友の友であるという(大きな投機に成功した人よ)。
Wer ein holdes Weib errungen,
一人の優しい妻を勝ち得た人よ。
Mische seinen Jubel ein!
その喜びを入れて混ぜよ。
注:文法的にはeinmischenのduへの命令形。seinはFreudeを指す?
Ja, wer auch nur eine Seele sein
nennt auf dem Erdenrund!
そうだ、この地球上でただ一つの心だけしか自分のものと呼ばない人もまた(その喜びを入れて混ぜよ)。
Und wer's nie gekonnt, der stehle
weinend sich aus diesem Bund!
そして、それができなかった人よ、泣きながらこの同志の集まりからひそかに立ち去りなさい。
(以上、原詩の第ニ連の前半部より)
3. Freude trinken alle Wesen
生き物は皆、歓喜を飲む、
An den Brüsten der Natur,
自然の乳房によって。
Alle Guten, alle Bösen folgen
ihrer Rosenspur.
善人も、悪人も皆、自然のバラのふみ跡に従う。
Küße gab sie uns und
Reben,
自然は私達にくちづけとぶどう酒をくれた。
Einen Freund, geprüfut im Tod,
(そして)死のなかで試された一人の友を。
注:モーツァルトの魔笛の試練を想起させる
Wollust ward dem Wurm
gegeben,
官能的な快楽は虫けらに与えられ、
注:Wollsut は Freudeに対立する否定的な概念か?
Und der Cherub steht vor
Gott.
そして智天使ケルビムは神の御前に立っている。
注:この一行は何を意味しているのか?
(以上、原詩の第三連の前半部より)
4. Froh,
wie seine Sonnen fliegen,
天の恒星が飛ぶように、
Durch des Himmels prächtgen
Plan,
天のきらびやかな広場を通って(天の豪華な計画にしたがって)。
Laufet, Brüder, eure
Bahn,
走れ、兄弟達よ、君達の道を。
注:原詩ではLaufetではなく、Wandelt(歩きなさい)
Freudig, wie ein Held zum
Sigen.
勝利へ向かう英雄のように、喜ばしく。
(以上、原詩の第四連の後半部より)
5.Seid umschlungen, Millionen!
抱きつかれていろ、百万の人々よ。
注:抱きつかれなさい、つまり抱き合いなさいということらしい。
Diesen Kuß
der ganzen Welt!
このくちづけを全世界へ与えよ。
注:全世界のくちづけを受けなさいとも訳せる。(文法的にderを2格とした場合)
Brüder!
überm Sternenzelt
兄弟よ、星空の彼方には、
Muß
ein lieber Vater wohnen.
一人の愛する父が住んでいるにちがいない。
注:愛すべき父、愛の父とも訳せる、キリスト教的な愛の神のイメージ。
(以上、原詩の第一連の後半部より)
6.Ihr stürzt
nieder, Millionen?
君達はひれ伏しているか、百万の人々よ。
注:ひれ伏すのか?と訳すとひれ伏してはいけないという反語調になるような感じ
Ahnest du
den Schöpfer, Welt?
君は創造者を予感しているか、世界よ。
Such ihm
überm Sternenzelt!
彼を星空の彼方に求めよ。
Über
Sternen muß er wohnen.
星々の彼方に彼は住んでいるに違いない。
(以上、原詩の第三連の後半部より)
原詩全文はロマン・ロラン著「ベートーヴェン研究叢書」の第九交響曲で読むことができる。
残念ながら邦訳は掲載されていない。
書店や図書館でも、シラーのこの詩の邦訳をこれまで見たことがない。あるとすると、ベートーヴェンが使用した上記の詩句をレコード等の解説に見るだけだ。
以下注釈:
Wollustの意味について 2003年2月7日
(金)
第九の歌詞(シラー歓喜に寄す)に出てくる「WollustはWurmに与えられる。」の解釈で、WollustがFreudeと同義か、対立する意味かが問題になる。http://homepage3.nifty.com/ongaku-no-chanoma/ofreunde.htm
というのも学生向け辞書では、特に色づけなく「歓喜、快楽」という意味が出ていたからである。
しかし、改めて独英辞典をひいてみると http://dict.tu-chemnitz.de/
lust
性欲、肉欲、情欲 (語源:古英語 原義は「楽しみ」)
salaciousness 好色、みだら
voluptuousness 官能、好色、みだら
wantonness ふしだら、不貞
となっていた。明らかに「性的なもの」を指している。一方、Freudeはenjoyment,pleasureとなっており、上記の性的な意味は対応していない。
また三修社のネット独和辞典では、http://www5.mediagalaxy.co.jp/sanshushadj/
【1】性的快楽
【2】喜悦,悦楽,歓喜
と明確に規定してあった。
なお、Wurmは英語でworm
つまり昆虫の類の虫ではなく、ヒル、ミミズ、さなだ虫のような蠕虫類や、芋虫、蛆虫のようなニョロっとした虫のことを言う。
「淫楽は蛆虫に与えられる」というような少々強烈な訳になろうか?
Cherubの発音について
ドイツ語では、古典語由来の文頭のchはkの発音でよいらしい。
成蹊大学のドイツ語講師のページ
http://uno.law.seikei.ac.jp/~satomura/Lektion.htm
Cherub
Cherubini , (Maria) Luigi Carlo Zenobio Salvatore
1760-1842
Italian composer whose 29 operas, including Les Deux Journes
(1800), helped
form the transition in music from classicism to romanticism.
Cherubino
cherub
(複 cher・u・bim)
1 〔神〕ケルビム,智天使:天使9階級の第2位で知識にひいでる;翼のある美しい子
供の姿や頭で表される.⇒ANGEL1
2 (複 〜s)《略式》行儀のよいかわいい子供.
語源 ラテン語←ヘブライ語kerYbh
_天使は,中世の天使論では,seraphim(熾(し)天使),cherubim(智天使),
thrones(座天使),dominations or dominions(主天使),virtues(力天使),
powers(能天使),principalities or princedoms(権天使),archangels(大天
使),angels(天使)の9階級のうちの最下位にある.
エリジウムについて
Elysium
1 〔ギリ神話〕エリュシオン(Elysian Fields):祝福された人々が死後に住む楽土.
2 理想郷;至上の幸福.
E・ly・sian エリュシオンの;至福の.
エリュシオン Elysion ギリシャ神話で、エリュシオンの野として知られたギリ
シャ時代以前の楽園、完全な平和と幸福の国のこと。ホメロスの作品では、世界の
もっとも遠い西端にある国で、偉大な英雄の体と魂がはこばれて、不死をあたえられ
る場所だった。この地で人々は、心配事や病気もなく、自分のすきな活動を自由にお
いもとめた。しかしその後、エリュシオンは祝福された死者のすむ場所とされるよう
になり、死んだ英雄、詩人、聖職者などの魂が、草木ややさしい風にかこまれ、バラ
の香りと永遠の光につつまれて、みちたりた幸福のうちに生きる場所となった。
ローマ神話では、エリュシオンの野は冥府(めいふ)にあり、徳の高い死者にむくい
る場所だった。なかには、その楽園に一時的にしかいない者もいた。やわらかい緑の
牧場の端には忘却の川レテがながれ、地上の世界にかえっていくすべての魂は、その
川の水をのまなければならなかった。
パリのシャンゼリゼ大通りles Champs Elyseeは、「エリュシオンの野」という意味
である。
シラーについて
Iプロローグ シラー Friedrich
von Schiller 1759〜1805 ドイツの詩人・劇作
家・哲学者・歴史家。ドイツ古典主義文学の代表的作家であり、世界文学史上におい
ても偉大な作家のひとりとみなされている。
1759年11月10日、シュワーベン地方のネッカー河畔の町マールバハで、ビュルテンベ
ルク公につかえる軍医の息子として生まれた。公国の士官学校で教育をうけ、その後
法律や医学をまなんで、80年にはシュトゥットガルトに常駐する連隊の軍医に任命さ
れた。学生のころから詩を書き、最初の戯曲作品「群盗」(1781)もそのころ完成させ
ている。「群盗」は、82年にマンハイムの国立劇場で上演されて好評だったが、上演
にたちあおうと無断で公国をはなれた彼は、そのために禁固刑をいいわたされ、以後
の戯曲執筆も禁止されることになった。82年9月、シラーは故郷を脱出した。
II初期の戯曲作品 その後の10年間は、マンハイム、ライプツィヒ、ドレスデン、ワ
イマールにうつりすみ、ビュルテンベルクへの引渡しをおそれて偽名で戯曲の創作を
つづけた。悲劇「たくらみと恋」(1784)を完成させたあと、マンハイムで「ドン・カ
ルロス」(1787)の創作にとりかかり、マンハイム劇場の座付作者の地位もえた。これ
ら初期の戯曲は、人間の自由と尊厳を重んじ、ドラマチックな迫力をそなえていると
いう点で、シュトゥルム・ウント・ドラング運動とむすびついていた。彼がはじめて
無韻詩で書いた理想主義的な思想劇「ドン・カルロス」は、圧制に対する闘いをあつ
かっており、より古典主義的なスタイルをもった作風への移行をしめす作品である。
IIIゲーテの影響
つづく数年間、シラーは歴史や哲学の研究・執筆に専心した。「オ
ランダ離反史」(1788)の成果とゲーテの推挙とによって、1790年にはイェーナ大学の
歴史学の教授に任命された。シラーとゲーテがイェーナではじめてあったのは、その
4年後のことである。すぐにふたりは親密な友情をとりむすび、たがいに制作上の刺
激をあたえあって、やがてドイツ文学界の二大指導者としてあがめられるようにな
る。
ゲーテの影響もあって、シラーは哲学的な論文執筆からふたたび詩や戯曲の創作にも
どり、晩年期は、彼の人生においてもっとも旺盛な創作欲を発揮した時代となった。
1799年には、「ワレンシュタインの陣営」「ピッコロミーニ父子」「ワレンシュタイ
ンの死」からなる韻文悲劇「ワレンシュタイン」3部作(1798〜99)を完成させた。こ
の作品は三十年戦争期の英雄の悲劇的運命をえがいたもので、世界文学史上において
も偉大な歴史劇のひとつとみなされている。
IVワイマール時代 1799年末、シラーは最終的にワイマールに居をさだめ、「マリー
ア・シュトゥアルト」(1800)、「オルレアンの処女」(1801)、「メッシーナの花嫁」
(1803)、「ウィルヘルム・テル」(1804)などの韻文による歴史劇をあいついで発表し
た。これらの戯曲は、すべてゲーテの演出によりワイマール劇場で上演された。死去
寸前まで、悲劇「デメートリウス」の執筆をつづけていたという。
シラーの戯曲作品は、理想主義の精神と強い楽観主義、表現力豊かな詩的修辞法と形
式における古典主義の感覚などによって特徴づけられていたといえる。
Vそのほかの作品
シラーは、シェークスピアの「マクベス」やフランスの詩人J.ラ
シーヌの「フェードル」などの外国作品をドイツ語に翻訳する仕事もしている。歴史
学の著作には「三十年戦争史」(1791〜93)が、哲学の著作には「人間の美的教育に関
する書簡」(1795)や「素朴文学と感傷文学について」(1795)がある。詩の作品として
は、思索的な抒情(じょじょう)詩「理想と人生」(1796)、有名な「鐘の歌」(1800)が
あり、とくに「歓喜に寄す」(1785)は、ベートーベンの交響曲第9番の合唱につかわ
れたことでよく知られている。
"シラー,F.von," Microsoft(R) Encarta(R)
Encyclopedia 2000. (C) 1993-1999
Microsoft Corporation. All rights reserved.
参考
○シラーの歓喜に寄せての日本語対訳のページがあったが、文法的にも少々
不完全な訳だ。 http://www.geocities.com/Vienna/7280/de001.html
○シラーの原書 京都外大
http://www.kufs.ac.jp/toshokan/coll/colfra10.htm
○ドイツ シラー国立博物館
http://www.dla-marbach.de/
草稿
歓喜と祝祭
「歓喜」と神谷美恵子の「生きがいについて」、フロム「生きるということ」
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