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フェニックス(不死鳥) Phoenix

◆ヨーロッパの火の鳥
フェニックスはヨーロッパの伝承に登場する架空の鳥です。大変長い寿命と美しい姿を持ち、日本では不死鳥や火の鳥などの呼び名でも知られます。東洋では鳳凰や朱雀(すざく)になぞらえられ、この鳥が出現することは大変めでたいこととされています。その肉と血には永遠の生命を授けてくれる効果があると言われ、ゆえに古来よりさまざまな人々がこの鳥を求めました。手塚治虫のライフワークであり名作漫画としても名高い「火の鳥」シリーズは、火の鳥(フェニックス)の血を求めて彷徨う人々の姿を描いた作品です。
この鳥は、死期が近づくと自ら炎の中に飛び込んで己の身を灼くという変わった風習を持っています。しかし、ただ死ぬわけではなく、その灰の中では次世代の生命が息づいています。そして飛べるほど成長すると、天高く舞い上がり、空の彼方へと去っていきます。


◆フェニックスの起源
この鳥について初めて言及したのは、古代ギリシアの歴史家ヘロドトスと言われています。彼は著書「歴史」の中で、「絵でしか見たことないが」と前置きした上で、めったに現れぬ鳥であること、ヘリオポリス(現在のカイロ郊外)の住民の話によれば500年に1度、父鳥が死んだときにしか飛んでこない鳥であると書き残しています。没薬で卵のようなものを作り、その中に父親の遺骸を入れて、ヘリオス(ギリシア神話のアポロン)神殿に運ぶのだそうです。
フェニックスの起源については諸説ありますが、古代エジプトのベンヌBennu(朝日の意)という聖鳥に由来するのではないかと考えられています。この鳥は青鷺の頭と鷲の翼を持っていて、全身がまばゆい光に包まれており、毎日誕生と入滅を繰り返すことから、「時の循環」や「死後の復活」を象徴します。
この鳥が、エジプトからギリシアへと伝わった際、下半身や尾など、身体の一部が真っ赤であったことから、ギリシア語で「ポイニクス」すなわち「真紅の鳥」と呼ばれ、それが「フェニックス」という言葉に転化しました。なお、語源としては他に「フェニキアの鳥」を意味する言葉から来ているという説もあります。


◆博物誌に見るフェニックス
フェニックスは長い間、その実在が信じられた鳥のひとつであり、さまざまな文献にその生態が記されています。
古代ローマの博物学者プリニウスは、著書「博物誌」の中でこの鳥について触れています。それによれば、フェニックスは世界にたった一匹しか存在せず、いつもはアラビアに棲息しています。全身は紫色、尾は青くて薔薇色の毛が転々と混じっていて、喉には房が生えています。死期が近づくと桂皮と乳香の小枝で巣を作り、そこに香料を詰めて死ぬまで横たわります。死ぬと身体が腐敗し、骨と髄にウジがわきますが、そのウジが鳥の形に成長してやがて次世代のフェニックスとなるのです。
この「ウジが新たなフェニックスになる」という話は、意外にもけっこう支持されたようで、3世紀の神学者・聖クレメンスも同様の話を残しています。彼の話では、フェニックスは死期が近づくと、没薬や香料を集めて自分の「棺」を作り、その中に閉じこもって死を迎え、その死体に湧いた虫が死体を糧として成長し、新たなフェニックスになるのだそうです。
フェニックスを実際に見たという記録もいくつか残っていて、タキトゥスは西暦34年、ティベリウス帝の時にフェニックスが現れたと述べていますし、同じく博物学者のソリヌスも「ローマ建国800年」(西暦47年ごろ)にやはりこの鳥が出現したという記録を残しています。とある皇帝は「フェニックスの肉を食した」なんて言われておりますが、恐らく実在する極楽鳥の肉であっただろうと言われています。


◆炎とフェニックス
フェニックスと言えば、手塚治虫の「火の鳥」シリーズにも見られるように、自らの身体を灼いて復活するというイメージがあります。
こうした姿を最初に伝えたのは、古代ローマの地理学者ポンポニウス・メラです。彼は著書「地誌」の中で、香料を積み上げて薪を作り、その中で炎を灼くフェニックスの姿を伝えています。身体は当然ボロボロに分解されますが、その中の液体が凝固して、それが新しいフェニックスへと成長します。
中世に書かれた「フィシオロゴス(動物寓意譚)」は、こうした自殺説と古代の死体のウジ説を折衷させて、独自の説を展開しています。それによれば、この鳥は500年に1度、レバノン杉の方へと飛び去り、芳香を羽へ一杯に含んでヘリオポリス(現在のカイロ郊外)の神殿にやって来ます。そして、祭壇に自らの身を横たえると、炎に自らの身体を委せ、その身体を焼き尽くします。
その死体には一匹の虫が取り付きますが、2日目にはもう羽が生えて、3日目にはもう死ぬ前とまったく同じようなフェニックスの姿へと成長します。そして、世話をしてくれた神官にうやうやしく一礼し、再び天空へと飛び去るのだそうです。


◆フェニックスの寿命
フェニックスは非常に長い寿命を持ちます。「不死」は言い過ぎとしても、古代ローマの地理学者メラは500年生きると考えましたし、博物学者のプリニウスやソリヌスは540年、哲学者のタキトゥスは1シリウス周期(1461年)、詩人マニリウスは何と1プラトン年(太陽・月と水星・金星・火星・木星・土星の五惑星が元の場所に戻る時間、12994年)と考えており、どれを採用しても恐ろしい長命であることに変わりはありません。
彼らが登場する時は何らかの出来事が起こる時でもあり、実際にフェニックスが現れたときは、鳥が皆、うっとりとしてその後をつけていったと言います。このような、出現が何かの予兆であるとする考え方は、東洋の麒麟(きりん)にも見られる考え方でもあります。


◆フェニックスの好物
フェニックスの生態は、その誕生にまつわるエピソードを除けば、よく分かっていないのが実情です。どんなものを食べているのかについても、フェニックスだから普通のものは食べないだろうという点では共通するものの、言う人言う人によってバラバラで、今なお結論は出ていません。
古代ローマの詩人オウィディウスは、フェニックスの食物について、普通の果実や草は決して食べず、乳香や茗荷(ミョウガ)の汁のみを口にすると述べています。また、同じく古代ローマの詩人クラウディアーヌスは「太陽の熱を食べ、テティスの風を飲み、清らかな水蒸気から滋養を得ている」と考えました。
ロシアの民話では、フェニックスの好物は「トウモロコシと黄金のリンゴ」です。ゆえに、この鳥を捕らえるときにはこの2つを用意するのが良いとされています。


◆フェニックスの象徴とするもの
フェニックスは非常に多くの寓意を含んでいます。その生態から復活と再生を象徴し、また定期的に死と生を繰り返すというところから「太陽」そのものを表わすこともあります。キリスト教では、火に入り自殺を行うという習性から自己犠牲と受難を、錬金術では形を変えて復活するというところから「完全な変成」と男らしさ、太陽、火、空気、赤石を象徴するものと考えました。
イギリスでは、あらゆる艱難辛苦(かんなんしんく)をものともせず、世界中にその覇を唱えたエリザベス1世女王のメダルに、ラテン語で「全世界唯一の不死鳥」を意味するSola phoeix omnis mundi」という言葉が彫られたことがあります。
民話に登場するフェニックスの羽は、まるで炎をともすように輝き、それを手にした者はフェニックスを追いかける運命を与えられるとも言われています。



■亜種・別名など
ポイニクス/フェニクス





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