紫の翼人
あらゆる拘束を断ち切り自由にする。
肉体といういましめからも解き放たれるがよい。
南方には、小国が乱立している地域があるという。
その中にあって、キオス公国は地域の平定を目指していた。
その実、公爵の征服目的である事は明白であった。
そして、今日も、ある町がキオスの軍勢に占領された。
翌日。
照り付ける太陽の中、町にいた全員が中央広場に集められた。
その広場には、大きな花壇を無残に切り崩した上に、処刑台が築かれていた。
近くの民家を無理やり切り崩して作成されたそれは、階段、滑車、鎖、落とし穴を備えていた。
町の全員が集まった事を確認すると、町を占領した兵隊の隊長とおぼしき男が、大声を張り上げた。
「者共、よく聞け!この町は、昨夜キオス公国の領土となった!この中に、我らに盾突いた者がいる!すなわち、キオス公爵に反逆する者である!よって、ただ今から、その反逆者を処刑する!」
沈黙の中、一人の兵士が、処刑者を連れて台に上がってきた。処刑者は両腕を胴体に縛り付けられている。顔は壺で隠されていた。
兵士は処刑者を処刑台の中央に立てた。壺越しに、上から太い鎖が首に巻かれた。
壺の中から、何かの声が聞こえる。だが、何を言っているのかまでは分からない。
「この者は、昨夜、この拠点を占領しようとした我らに対し、小剣をもって武力抵抗を行った!これは、キオス公爵に対する重大な反逆行為である!」
余りにも一方的な論理である。だが、それに逆らえばどうなるか、みんな分かっていた。
「執行せよ!」
隊長の一声で、処刑者の足下が落ちた。
鎖の金属音と、首の骨を折る鈍い音と、壺の中からの絶叫が、同時にこだました。
壺の中から、赤黒い血がこんこんと流れ出る。
処刑者は、わずかの間で動かなくなった。
一部始終を見せられていた町の民衆は、その光景に凍り付いた。
町を侵略した兵士の侮蔑の冷笑と、隊長の高笑いだけが響いていた。
その夜。
軍勢は、町で一番大きい宿を接収していた。
店にある物で宴会をひとしきり行った兵士達は、占領の喜びに熟睡していた。
隊長とて例外ではない。
隊長は、宿の一番大きい部屋で寝息を立てていた。
部屋に、窓の格子を開く涼しい風が通り抜けた時。
隊長はハッと目を覚まし、周囲を見渡した。
長年の軍隊経験が、わずかな物音でも対応できる体にしていたのだ。
隊長はひとしきり辺りを見回し、窓の外も確認した。
「どこを見ているのですか?」
隊長の背中から、声にならぬ…いや、頭に直接響いてくる声があった。
「何者だ!」
とっさに振り向く。だが、姿はない。
「ここですよ。あなたの真正面です」
隊長は、そばにあった長剣を取り、前方に構えた。だが、感触はない。
「先程、私を肉体から離して下さいましたね。おかげでこのような姿になることができました」
その言葉に、隊長は一瞬青ざめた。そんなはずはない。動作は確実だった。
「姿を見せぬか!」
「それでは、ご覧いただきましょう。これが、私からのお礼です」
何もなかったかに見えた部屋から、全身真っ白の男が、溶け込んでいた姿を戻すかのように現われた。
そして、その右手が、隊長の胸倉に近付く。
隊長は、目の前の存在が何であるか、一瞬にして悟った。
死霊。
剣を振るっても、当たりなどしない。
死霊の手は、ゆっくりと隊長の心の臓を掴んでいた。
寸刻もなく、町全体に、隊長の恐怖が響く…。
あらゆる拘束を断ち切り自由にする。
肉体といういましめからも解き放たれるがよい。
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夢の終わり