第3節 洞窟に若い令嬢 現れる                                  

              1858年 2月11日 (木曜)                                      

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 このサイトは、主として次の文献をベースにした。

ルネ・ローランタン著 ミルサン、五十嵐茂男共訳 ドン・ボスコ社「ベルナデッタ」

 以下、ローランタン『ベルナデッタ』和訳と略して、引用(P.48〜56)する事にする。

 

 ベルナデッタが、バルトレスからカショー(牢獄跡)の家に帰ってきて、一ヶ月もたっていない、2月11日、薄暗く寒い日のことであった。時々、小雨が降っていた。

 午前11時になっても、父のフランソワはまだ寝ている。今日は仕事が無いのだ。

 突然ベルナデッタが、「大変、もう薪がない」と、言い始めた。

 ★

    上の図は、当時のルルド市街の略図と、

三人の少女が洞窟へ向かった順路地図

地図の内部をクリックすると、鮮明な拡大写真になります。以下、同様。

 ”Mon Dieu, il n'y a plus de bois!” 

    s'ecrie Bernadette.

 ローランタンの”Bernadette vous parle ” P.27 

   ・・・この動詞 s'ecrir は、「大声で言う、叫ぶ」の意味である。(HP運営者)

ベルナデッタが語った言葉で、記録に残っておるものは、そんなに多くはないので、重要なものについては、言語(時にはルルドの方言、時にはフランンス語標準語)を添える事にする。
 それで「薪拾いに行こう」という言葉が出ると、妹のトワネットも、「一緒に行きたい」という。

 そこへ隣の石切屋の娘で、ジャンヌ・アバディー、 あだ名がバロムという友達が 入って来て、彼女も「一緒に行こう」という。

 母のルイーズは、最初はベルナデッタの喘息を心配して、反対したが、ベルナデッタが「部屋の中の空気より、外の空気の方が楽だ」と頑張ったので、とうとう折れた。そして、ベルナデッタの頭に、家にある唯一の被り物である白いカピューレをかぶせてやった。

 ★

ルルド写真集NO.1

★ ルルド写真集NO.1

の一こまである。

 ◆註・・・「カピューレ」 同じくルルド写真集NO.1の写真を参照のこと。

 薪を拾いながら行く三人の少女の木靴が、街道に音を立てている。バウス門◆◆をくぐって、やっと田舎に出た。

 墓地◆◆◆の側の畑では、拾う骨(残飯から出た骨)があまり見つからない。

・・・「木靴」  同じくルルド写真集NO.1の写真参照。以下同様。

◆◆・・・「バウス門」現存しない。ローランタンの著書には、バウス門の写真がある。

◆◆◆・・・「墓地」 写真や市街略図参照

  
 三人の少女たちが、ポン・ビューという橋のところに来たとき、ピグ◆◆という一人のおばさんに会った。

 「おばさん、ここで何をしているの?」と、少女たちが尋ねると、「豚のはらわたを洗っているんだよ。お前たちこそ、こんなに天気が悪いのに、何をしているんだね」と聞き返した。

 「薪を拾っているのよ」と答えると、「それじゃあ、マッサビエーユの方へ行ったらどうかね」とおばさんはすすめた。

◆註・・・「ポン・ビュー橋」写真参照。

◆◆註・・・「ビグ」という婦人。ローランタンの資料の他に、映画「聖処女」の原作者フランツ・ウエルフェルの小説原作にも登場。

 もう少し行ってから、三人の少女たちはサビィの水車小屋を動かしている水路の橋を渡った。それで草畑に入るのだ。

 この草畑は、ガブ川と水路の間の島のように◆◆なっている。サヴィの水車小屋のおやじニコラが、小屋から出てきて、この三人の少女に注意した。「おい、お前たち、ここの伐採(ばっさい)された木を、取っちゃいけないぞ」

 三人とも、怒られたと思って返事もせず、たくさんある木の枝を拾おうともしないで、先に進んで行った。

 ルルド写真集NO.2

・・・「サビィの水車小屋」については、地図参照。写真は現存し、ローランタンの著書P.48にある。

◆◆・・・「島のように」 地図参照。

 葉を落としたポプラの木が、並んでいる。ベルナデッタは言った。「水路とガブ川が一つになっているところまで、行きましょう」 

 自分たちの前の水路の向こうに、高くそびえる岸壁があり、その下には洞窟◆◆みたいなものがある。そこで水路を渡れば、薪(まき)もあるし、骨もある。

 ジャンヌは靴を脱いで、それを水路の向こう岸に投げると、自分でどんどん渡って行った。トワネットも、その後について行く。ベルナデッタは、喘息のため、水路を渡るのをしばらく躊躇した。

・・・ルルドの市街略図参照

◆◆・・・写真集の、1858年当時の洞窟の写真参照

 ベルナデッタは、簡単に水路を渡れるところを探したが、どこにも無い。

彼女は、後に書き記している。「私は洞窟の前に戻って来て、靴を脱ぎ始めました。しかし、片方の靴下を脱いだとき、突風の音のようなものが、聞こえて来たのです」

 

 

 

 

 ◆・・・ベルナデッタの原語では、 ” un coup de vent 

  ”Bernadette vous parle” P.30より

  小学館ロベール仏和大辞典によると、「突風。気象用語では、疾強風。」 

 例文として、passer en coup de vent (疾風〔しっぷう〕のごとく通り過ぎる)を、記載している。 

▲ ◆◆

広島市立植物園のボプラの木 H17.11.22撮影

 

後ろを振り返って見ると、ポプラの木は、全然動いていない。◆◆◆ 

 彼女は、もう一方の靴下を脱ごうと、しゃがんだ。

 同じような音がするが、今度は自分の真ん前の木の枝が、動いている。

 野生のバラで、ちょうど地面から三メートルぐらいの高さにある、一つの洞穴の下にあるバラの木である。それは、洞窟の右側にあった。

広島市立植物園の南欧産の野バラ H17.11.22撮影

 

◆◆・・・ 広島市立植物園では、まだ11月下旬だというのに、ポプラの木は、左の写真のように、ほとんど葉を落としていた。

 

 ◆◆◆・・・写真でお分かりのように、葉をほとんど落としてしまった、ボプラの木の枝が動くような風(実際は動かなかったが)は、大変強い風である。

 このポプラの木の位置については、ローランタンの記述の前後関係からして、ガブ川の対岸(上流に向かってガブ川の左側)ではなく、ガブ川と水路の間の島状の地帯で、ベルナデッタの後ろの割合近い位置にあったのではないかと、思われる。

 なお、 一昨年(H16年)夏にルルドを訪れたとき、聖母像がある洞窟の近くに、ポプラの木は見つけることが出来なかった。約150年前のことだから、その後、背の高いポプラの木は全部伐採(ばっさい)したのだろう。

 洞窟は、北側に向いた崖の下にある。それだけでなく、ご出現当時は、洞窟の近くはポプラの木や、ベルナデッタの頭に毛虫が付く(後述・・・このテーブルの下の行)ほどの高い草がうっそうとしていたので、きれいに整備された現在より、はるかに暗いところだったと、推測される。

 
 その暗い穴には、やわらかい光が挿していて、その光の中に、微笑(ほほえみ)が見えた。非常に美しい若い女性で、白い着物を着ている。その若い女性は、ちょうど人を迎えるような様子で、両手を開き、「そばへいらっしゃい」と、呼んでいるようであった。

 ベルナデッタは、びっくりした。夢を見ているのかと、何度も自分の手で、目をこすってみる。しかし、その美しい微笑みは、相変わらず、そこにある。

 その美しく若い女性 (このサイトでは、以下、「令嬢」と呼ぶことにする)は、十字を切った。

 ベルナデッタは、ひざまづいて、この令嬢の前で、ロザリオを唱え始めた。その令嬢は、ベルナデッタと一緒に、ご自分の珠を繰っていたが、唇は動いていなかった。

 ベルナデッタのロザリオの祈りが、終わったとき、その令嬢は、そばに来なさいという身振りをしたが、ベルナデッタはそうしなかった。すると突然その令嬢は、見えなくなった。残ったのは、ただ、暗い岸壁と小雨だけだった。

★★註・・・この頁の下に、詳細な「洞窟の令嬢の外観」を記す。

 ★・・・ ローランタンの原書の「洞窟の光」の箇所を、次に掲げておく。

 ” La sombre cavite, s’illumine,et voici,

 dance cette lumiere,un sourireun geste d’accueil

  【直訳】 その暗い窪(くぼ)みは、煌々(こうこう)と光り輝いた。その光の中に、微笑(ほほえみ)があり、喜び迎えるような仕草があった。

 ”Bernadette vous parle ”P.32より

 ベルナデッタは、幸せだった。夢ではなかった。

 彼女は、片足だけ靴下を脱いだままだったので、もう一方の靴下を脱いで、水路を渡って行った。

 何の冷たさも感じないでそして、洞窟の下の大きな岩の上に、しばらく腰をおろしていた。

 

 ベルナデッタは、二人の少女に追いついた。「ねえ、二人とも、何も見なかった?」 「へえ、あんたは、何かを見たの?」と、二人は聞き返した。

 ベルナデッタは、最初は話をそらすように「ねえ、二人とも、水がとても冷たいと言ってたけど、私が渡った時には、全然冷たさを感じなかった」と言った。しかし、、ベルナデッタは、二人には冷たい水路を避けて、洞窟の上の道を通って帰るために、洞窟の上の丘に登った。それから、あっさりごと出現のことを、二人に話してしまった。

 三人の少女たちは、バウス門◆◆に着いた。そして、カショー(牢獄の跡)の家に戻って来た。昼の食事の時間は、過ぎていた。

 母のルイーズは、昼食の前に、木屑で汚れた女の子たちの頭を、洗わなければならない。もし、子供たちに変な虫でもついたら大変だと、思う。◆◆◆

 妹のトワネットは、母親に「ベルナデッタが、マッサビエーユの洞窟の中に、白い着物を着た娘を見た」と話した。

 すると母親は、「それは大変」と言って、顔色を変えた。変な噂が流れて、これ以上不幸な目に会いたくなかったからである。早速、ベルナデッタを呼んで、問いただし、「お前は、ただの白い岩を見ただけだよね。もう二度と、マッサビエーユに行っちゃいけないよ」と叱り、布叩きの棒で、二人の姉妹を叩いた。

・・・ルルドの市街略図参照

◆◆・・・ルルドの市街略図参照

 

◆◆◆註・・・・・・”Bernadette vous parle” の原文 (P.35)では

 De retour au cachot, Louise s'active a la chevelure de ses filles,  devenue comme  le sol des forets. Cela fait partie de sa lutte   quotidienne contre la teigne ou autres vermines.

  【HP運営者の直訳】

 カショー(牢獄跡の家)に帰ると、(母の)ルイーズは、森の土のように汚れた、娘たちの長い髪をせっせっと洗った。それはガ(の幼虫である毛虫や卵)やノミ・シラミなどの害虫を駆除するために、日々欠かせないことであった。 

ルネ・ローランタンの「VIE DE BERNADETTE RACONTEE A TOUS」P.40の挿絵

 

 ★★・・・ベルナデッタが、1858年2月21日に、ルルドの警察署長ジャコメ氏の尋問に答えて話したところによれば、

ルルドのマッサビエーユ洞窟に出現した令嬢の外観は、次の通りである。

原文は、ルネ・ローランタンの  ”Bernadette vous parle” P.58〜60 による。

      1.小さな娘の形をしている。年は若い

        Cela (Aquero) a la form d'une petite fille. Jeune.

      2.当時のルルドの美女と比べれば、比較することが哀れになるほど、本当に美しい。

       Bernadette n'est qu'apitoyee. ベルナデッタは、(当時のルルドの美女であるパイヤソン夫人やドュフォー嬢と比べて、洞窟の令嬢の美しさはどうであったか具体的に尋ねる、ジャコメ署長に)哀れみを禁じ得なかった。

        Elles ne pouvent pas y faire. 直訳「彼女たちはそれをどうすることも出来ない」(仏和辞典のfaireの項) 意訳「彼女たちは美しさでも太刀打ちできない」  ミルサン・五十嵐茂男共訳では、「彼女たちなんか問題にならない」

      3.白いワンピースを着ていて、帯は青い。

        Une robe blanche serree par un ruban bleu

      4.頭には白いベールをかぶり、両方の足のところに黄色いバラがある。

        un voile blanc sur la tete et une rose jaune sur chaque pied

        着物とバラが足を隠していて、足指しか見えない。(=「はだし」である)

        La robe et les roses les cachent ,sauf les doigts. (P.60)

        a Dame sans souliers (P.43)     

      5.手にロザリオを持っている。

        un chapelet a la main

下の写真は、ジャコメ署長が引き合いに出した、当時のルルドの美女パイヤソン夫人

ベルナデッタに「彼女たちは、(洞窟の令嬢の美しさに)太刀打ちできない」と証言した。

ローランタンの「VIE DE BERNADETTE RACONTEE A TOUS」P.55による

同じく、下の写真は、ジャコメ署長が引き合いに出した、当時のルルドの美女ドュフォー嬢

ローランタンの「VIE DE BERNADETTE RACONTEE A TOUS」P.56による

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