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Leafワーグナー 「ローエングリン」 (2000年1月14日の日記より)


去っていく背中に花がある・ヒーローの条件

 私はワーグナーが苦手です。第一に、作品が長すぎて最後まで聴き通すのが至難の業です。第二に、旋律に親しみが持ちにくいのです。シュプレヒシュティンメ(これで合っているのかしら?)というのが、イタリア物に比べて何か物足りない気がします。いろいろと勉強すればいいのでしょうが、生憎と私は怠け者です。第三に、登場するのが神様とか超人とかで、感情移入できません。基本的には剣と魔法の世界ですから、ドラクエみたいなもんだと言えなくもないと思いますが(お〜!)、つい敬遠してしまいます。今まで最後までちゃんと見たのは「ローエングリン」だけ。これは登場人物も少ないし、白鳥の騎士が登場するなんて楽しそう・・・これなら何とかなるか?と思ってトライしたわけですが、とんでもない!しっかりと手強い作品でした・・・。

 舞台は10世紀前半のアントワープ。ブラバンド領に兵を募りに来たドイツ王ハインリヒに向かってテルラムント伯爵が訴えを起こします。「先代領主の娘エルザがその弟を殺した!」、このテルラムントはかつてエルザに求婚して(なんといっても持参金はブラバンド)振られてしまい、現在の妻オルトルートと結婚した経緯があります。ハインリヒの前に現れたエルザは孤立無援です。神明裁判(決闘して勝った方が勝訴という何とも分かりやすい裁判です)でエルザは夢に見た騎士に助けを求めます。登場したのは白鳥の曳く小舟に乗ったローエングリン。彼はエルザに対して、彼女を守る代わりに自分を夫とすること、そして自分の素性を尋ねないことを求めます。これって、なんか事故の示談交渉に割って入ったやくざみたいじゃないですか?「わしの言う通りにしとったら、悪いようにはせぇへんから、のぉ(バシッ・・・肩を叩く)」って感じ。エルザは、この初対面の男のプロポーズを受け入れます。ローエングリン(この時点では名無しですが)がテルラムントを倒してめでたし、めでたし(って、めでたいのか、これ?)。

 負けてしまったテルラムントと妻のオルトルート(彼女は実は異教徒にして魔女、ちなみに彼女が崇めるのは「指輪」に登場するウォータンです)は、エルザに揺さぶりをかけます。「どこの馬の骨やら分からない男を信用しちゃダメ」(ごもっとも)。名無しの騎士とエルザはそれでも結婚してしまいます。結婚式でよく流れるお馴染みの「婚礼の合唱」(この後の顛末を知っていたら、とてもじゃないがこの曲は使えないと思うんですが・・・)が歌われた後の新婚の夜、エルザは謎の騎士を問いつめます。ここでテルラムントが奇襲をかけますが、あっさりと返り討ち。オペラでは、殺される人間が瀕死の割にはやけに元気のいい声で延々と歌ったりしますが、ここではそれは一切なし。約束を破ったエルザとハインリヒの前で謎の騎士はやっと自己紹介。「私は聖杯(イエスが最後の晩餐で使った杯。マグダラのマリアが持って逃げたとされています。)を守る王パルジファル(この人について知りたい方は同名のオペラをどうぞ)の息子、聖杯の騎士ローエングリン」、そして、彼をレッカーしてきた白鳥は、実はオルトルートの魔法で姿を変えられたエルザの弟、彼にかけられた魔法を解いてローエングリンは去っていってしまいます。

 このオペラ(「楽劇」って言わないといけないのかしら?)の題材になった白鳥伝説ですが、これは各国で数多く見られます。はるかな国に生まれ幸福へ人を導くとされる白鳥が現れるのですが、やがて望郷の念から去っていくというものです。中でも多いのは、水浴のために脱いだ羽衣を若者に隠され地上での生活を強いられた乙女が、羽衣を取り返し白鳥に変身して帰っていくというもの(日本にも同じ話がありますね)です。この伝説の男性版が白鳥の騎士、すなわちローエングリンです。ですから、ローエングリンはどうしても去らなければならないのです。ずっとブラバンドにいたのでは、伝説のヒーローではなくなってしまいます。何が何でもエルザに身元を尋ねてもらわないことには、困るのはローエングリンの方です。危機にあるヒロインを助け、しかしやむなく、追いすがる彼女を振りきって去っていく・・・任侠映画でもウルトラマンでも、これがヒーローのお約束です。

 現実離れしたヒーローが主人公のこのオペラ、私はエルザとオルトルートの物語として見るのが好きです。彼女たちは分かち難く結ばれている一つの人格であると思います。非力で守られるべき存在の幼いエルザ、彼女は疑問を持つこと(=自我を持つこと)によって苦しみを知ります。一度は打ちのめされたエルザですが、やがてオルトルートとして成長していくでしょう。自我に目覚め、自分の野心を追い求めるでしょう。もう彼女は騎士など必要としません。たとえ敗れても、自分の意志(=異教を信じること)で、自分の力(=魔法)で闘うことを選びます。「ローエングリン」は実は女性の成長の物語なのかも知れません。

 私がこれまでに見た「ローエングリン」は2枚のLDです。一つはバイロイトの正統派、タイトル・ロールはペーター・ホフマン、なんといっても容姿がいいです。すらりとした長身、ブロンドの髪、体育会系の張りのある声、絵に描いたような白鳥の騎士ぶりが本当に凛々しい。もう一つは1990年のウィーン国立劇場でタイトル・ロールはプラシド・ドミンゴ。これは面白いですよ。ドミンゴが演じると、現実離れしたお助け騎士様が何となく艶めいて男臭くなるのが楽しい。クラウディオ・アバドの棒も、この色っぽいローエングリンを引き立てて、何とも色彩豊かです。


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