灼熱の虜

冒頭抜粋

 ゆるやかな目覚めがやってくる。
 目をあける前から暑さには気づいていた。シーツに触れる素肌が汗ばんでいる。日だまりから手を避け、バゼットはみずからの頬に触れた。陽に照らされていなくても熱い。身体が熱にとらわれているようだ。
 紙のこすれるような音が聞こえた。
 記憶が脳に落ちかかってきて、現状との差異に戸惑う。いまは裸でひとり、ベッドに横たわっている。ブラインドからの影が薄掛けに落ち、縞模様を描いている。空調は効いているようだが、陽光と気温の高さに追いついていないようだ。
 名もない街の、名もないホテルの一室。シーツはくりかえされた洗濯で柔らかくなり、皺がそのまま色むらになっている。枕からは石鹸と言峰の香り。窓の外から耳慣れない言語がたたみかけてきて、耳に震える。物売りだろうか、同じ単語がくりかえし響いている。そういえば自分もここに来る途中で、オレンジ売りの少年につきまとわれた。
 シーツの上に十字架がある。手を触れると、抑えた熱が知れた。
 起きあがる気にもなれず、バゼットはまどろみの中に落ちかかる。身体のけだるさが眠気となり、ふたたびの闇へと誘われる。
 身体が重く、鈍い。感覚が言峰の余韻に痺れ、打ちひしがれている。痛みとして肌に残るのは加虐の痕だ。行為の激しさは全身に、そしてバゼットの奥深くにまで刻みこまれていた。
 ふたたび紙ずれの音がする。
 バゼットは瞳を動かし、その所在をさがした。
 言峰がいる。窓際にしつらえた木机の前で椅子に腰かけている。ここからだと髪に隠されて表情はわからない。手にしている小さく分厚い本は聖書だろう。バゼットが耳にしていたのは、言峰がページをめくる音だ。
 バゼットは自身の熱を思いだす。濁りに浸された深淵の痺れを思いだしてしまう。言峰はバゼットの身体と心を知りつくしていて、容赦なく責めたててきた。逆らえず、また逆らうつもりもなかった。
 いつからだろう、否定する方が苦痛になってしまったのは―――