HAPPENING×WEDDING

冒頭抜粋

 「それは一体、どういうことですか」
 平然とした顔つきの言峰に向けてバゼットは言った。
 信じられなかった。言峰がそんなことを承諾したのも、まるで仕事の説明をするように告げてきたことも、バゼットは理解できなかった。
「どういうことも何も、今言ったとおりだが」
 ソファに寛いだ言峰が、どうして解らないのかとでも言いたげにバゼットを見あげてくる。バゼットは手にしたカップを言峰に渡すのも忘れて立ちつくしていた。
 バゼットには話の内容よりも、言峰の態度のほうがわからなかった。脚を組んで背をあずけた言峰はいつもと同じ威厳を滲ませている。窓から差しこむ陽射しがその姿を照らし、法衣の濃さと不可解な表情を際だたせているのもいつも通りだった。しかしバゼットには、そのいつもどおりという眺めじたいが腑に落ちなかった。
 朝の礼拝から帰ってきた言峰は話があるからと、目覚めたばかりのバゼットの意向もうかがわないままいきなり切り出した。天気のうつりかわりを論じる話題のように、終われば忘れるような口調の言峰の話を、寝起き半分の頭でコーヒーを淹れながらバゼットは耳にしていた。しかしその中身が自分にかかわり、そして大きな問題点を見出すうちに、だんだんと眉をひそめていた。
 言峰の返答を聞いてバゼットは首をかしげた。
「すみません、起き抜けで頭が混乱していて。もういちど話してもらえませんか」
 バゼットはつかなくていい嘘までついて言峰に説明を求めた。言峰は寛大さをあらわすように腕を広げてみせた。
「信徒の男性が結婚式を挙げる予定だったが、寸前で花嫁になる女性に逃げられた。本来ならば中止するところだが、病身の母親や親戚への恩義もあって嘘でも良いから式を執り行えないかと相談を受けてね」
「それで、貴方はひとつ案があると」
 言峰はうなずいた。
「代理の花嫁を用意すればいい。あてはあると言ったら大層喜んでいたよ」
「そのあてが、私ということですか」
「そうだ」
「……待ってください綺礼」 
 バゼットはようやくカップを置いて言峰の隣に座った。いつものように身をくっつける気になれず、浅めに腰かけ、言峰ともいささか距離をあけた。
「何か問題でもあるのか」
 生真面目な顔で言峰が訊いてくる。そのわざとらしい鈍感ぶりにバゼット眩暈を覚えた。勿論なにもかも弁えた上で言峰は真摯な対応を演じているのだ。いつもの、こちらをからかうような表情よりも始末が悪いとバゼット感じていた。
「大いにあります。もう、どこから言えばいいかわからないくらい」
「どこからでもいいぞ。言ってみろ」
 言峰が背もたれに肘を預けてバゼットを見つめてくる。バゼットはしばらく迷い、事の重要さを伝えたくて姿勢を正し、胸に手を当てた。
「私は承諾していません」
「解っている」
 きわめて冷静に言峰は答えた。
「私の意思はどうなるのです。せめて事前に相談してくれても……」
「事は急を要するのでね。時間もないし、そもそもおまえの承諾を得る必要もない」
 断言した言峰にバゼットは言うべき言葉を見失った。まっすぐにバゼットを射抜いてくる目は入りこむ隙間がないほどに強く、その迫力にともすればこちらが間違っているのではないかと勘違いしそうになる。
「どのくらい時間がないのですか」
 言峰が勿体ぶって時計を見やり、
「五時間後に式がはじまる」
...

(後略)