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| ●“おにぎり談義”が好きな日本人 |
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だれにとっても食べ物にまつわる思い出というのは、味覚という身体感覚を伴った原体験だ。気ごころの知れた者同士、酒の席などで食べ物談義をすれば、“ふるさとの味”“我が家の味”自慢になることも多い。とくに、にぎりめしという食べ物には行楽や行事といった非日常的場面との相乗効果もあり、より深い印象が記憶に刻まれるのだろう。だからこそ、にぎりめしにはだれしも思い入れがあり、“ふるさとの味”“我が家の味”の数だけバリエーションが生まれる。
“おにぎり談義”でよく話題になるのは、その形状、調理法、そして具であるが、もう一つ呼び名がある。にぎりめしを示すことばには、“おにぎり”と“おむすび”があるが、「おむすび」が女官ことばという以外に違いはない。東日本に“おむすび”、西日本に“おにぎり”が多いという説もあるが、「大きく握るのがおむすび」「小さく握るのがおにぎり」、もしくは「神事に用いられるのがおむすび(=御結び)」「食用がおにぎり」と使い分けがされている場所もあるようだ。
そして形状は大きく分けて、もっともポピュラーな三角形、小さな円盤状の太鼓形、米俵の形に似た俵形、球場のボール形の四種類に分類される。分布図を見てもわかるように、ほぼ全国的に三角形が主流なのは、握るときの手の形を考えたとき、それが最も合理的だからだろう。その合間をぬうように、北海道から東北にかけて太鼓型、北陸・甲信越にボール形が点在しているという印象である。一説によると関西の一部では三角のおにぎりはお葬式とか法事で握るときの形だった地域もあり、三角のおにぎりは縁起が悪いという言い伝えがある。そのような地域では俵形が一般的だったのかもしれない。
また、俵形のおにぎりはもともと弁当箱につめたごはんを箸でつまみやすくするため、一口サイズにまとめて並べたにすぎないという説もある。つまり俵形のにぎりめしはそのままの形で携帯する“おにぎり”ではなく、あくまで“弁当”なのだという説だ。そう言われてみると、確かに弁当によってはごはんを型抜きしているものもあるし、俵形のおにぎりは形も大きくないものが多いので、弁当箱につめる家庭が多いようだが、箸ではなく手でつまむ人も多い。だからやはりこれもおにぎりなのだ、などという議論も“おにぎり談義”の楽しさかも知れない。
(財)全国米穀協会では、米に関する情報提供と日本型食生活の推進という側面から、伝承料理研究家で民俗学者でもある奥村彪生(おくむら・あやお)氏の監修によって日本各地の特産物とむすびついた『ふるさと特産おにぎり』を紹介してきた。それによると、各地の“にぎりめし”と呼ばれている食べ物には、米穀類を加熱したものに野菜、たんぱく質源を混ぜるという共通点はあるが、用途によって調理方法はさまざまであるが、その土地の風土に合った調理法、産物が活かされていることは間違いない。情報網と流通経路の発達により全国どこでも自由に好きなものを食べられる現代であっても、にぎりめしを通じて子供時代に経験した“ふるさとの味”“我が家の味”を思い起こすことができるだろう。ここでもまた、楽しい“おにぎり談義”も期待できそうだ。
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| ●ふるさとのにぎりめし、いろいろ |
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その『ふるさと特産おにぎり』を元に、調査、取材を進め制作されたのが日本放送協会(NHK)の番組『発掘! 日本人の食卓 おにぎり誕生』である。にぎりめしから見た日本の歴史をコンセプトに、各地からの視聴者の声や取材に基づき、日本全国に伝えられている多種多様な伝統のにぎりめしに込められた人々の歴史、技術、知恵を検証していた。
そのいくつかを大きく分けた調理方法別に紹介しよう。まずはシンプルにごはんと具を混ぜてにぎるタイプだ。
●ふきおにぎり(岩手)
茹でたふきと熱湯をかけたしらすをしょうゆ、塩、酒で煮、味を含ませて、ごはんに混ぜてにぎる。春には山椒の新芽を乗せる。
●さくらおにぎり(神奈川)
軸のついたままの八重桜の八分咲きをていねいに洗い、塩、白梅酢で漬けた後、陰干し。飯に細かく刻んだ桜を合わせてにぎる。
●わかめおにぎり(山口)
にぎりめしの中に梅干を入れ、刻んだわかめをまぶして食べる。万葉集にも北浦のわかめが詠まれており、長州藩で江戸時代から作られている。
●たわらむすび(高知)
ごはんの中に梅干を入れ、海苔を巻かずに食べる。地域によって丸くにぎり、しょうゆをつけて焼いたり、菜っ葉の漬物を巻いて食べるところもある。
○ごはんに具を炊き込むタイプ
●しょうゆ飯のむすび(千葉)
しょうゆとかつお節と卵を炊き込んだごはんで握ったもの。おかずにはしょうがか、たくあん。
●百万遍(山梨)
飯に煮た小豆と少量の小石をを混ぜる。小石入りを食べた妊婦は、安産で子宝が授かると伝えられている。
●ナラチャメシのにぎ(岡山)
うるち米7、もち米2、大豆の炒ったもの1の割合で混ぜて同量の水と少量の塩で炊いたごはんをにぎる。
●しいたけめしのにぎりめし(大分)
しいたけ、ごぼう、にんじんを下ごしらえし、米と煮汁、だし汁などで炊き、具を混ぜてにぎる。
○焼くタイプ
●ゴロハチ茶碗の握り飯(北海道)
どんぶりのような大きな茶碗(=ゴロハチ)にごはんを大盛りにし、上下を平たくしてストーブの上で焼く。乳製品が安く手に入る地域では、バターで焼く場合もある。
●ゆでもち(栃木)
ごはんに小麦粉を振り込み、水でこねあげ小判型に丸めて茹でる。それを串に刺し、串網で焼いてから、ゆず味噌、山椒味噌、ごま味噌で食べる。
●合戦むすび(愛知)
ごはんに焼き味噌を中に入れて固くにぎる。その両面をよく焼いてしょうゆを塗り、さらに火であぶる。長篠の戦いの時に徳川家康が作らせた戦時食だったといわれている。
●赤貝めしの焼きおにぎり(鳥取)
赤貝をゆで、貝の口が開いたら身を取り出す。千切りしたしいたけ、にんじんとごぼうのささがけを入れ、赤貝とゆで汁、酒、しょうゆでごはんを炊き、三角ににぎって両面を焼く。
○発酵させるタイプ
●なれずし(和歌山)
練った飯を塩鯖の大きさに握り、それをアセの葉を敷きつめた樽につめ、上から重しをのせて発酵させる
●あくまき(鹿児島)
木灰汁につけたもち米を竹の皮に包みそのまま木灰汁で米粒の形がなくなり、べっこう色になるまで炊き、きな粉、砂糖、蜂蜜など甘味で食べる
○植物の葉に包むタイプ
●つっとこのむすび(埼玉)
トチの葉2枚を少し重ねて、米と小豆を混ぜたものをのせ、わらで巻いて大鍋で3、4時間ゆでる。
●ほうば寿司(福井)
灰汁抜きをした朴の葉を2枚1組で十文字に置き、中心に軽く握ったごはんを置いて葉で包む。わらで軽くしばって重石でしばらく押し、ごはんが落ち着いたらできあがり。
●目張りずし(奈良)
高菜の葉を1週間塩漬けにし、しょうゆ、酢で味付け。中にすしめしを入れて包む。大きく口を開けて目を見張るほどの大きさからこの名がついた。
●サンニンおにぎり(沖縄)
ゆでたかたまりの豚肉を角切りにし、から煎りしたところに黒糖、味噌、みりんを混ぜ、みじん切りのしょうがを入れて火を通 し、おにぎりの中に詰める。サンニン(月桃)というショウガ科の多年生常緑草木の葉で包む。
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| ●日本人を支えてきたパワーの秘密 |
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こうしてみていくと、地域で取れたもの、その土地ならではの食材を使ってつくる“にぎりめし”が日本人の労働と生活を支えてきた様子がイメージされる。また、それだけでなく、祭りや神事や念仏講といった行事にも用いられるということは、宗教的な意味合が込められた食品であることがわかる。
現在コンビニエンスストアや専門店で販売されている数多くのおにぎりも、結局はこれらの郷土色豊かなにぎりめしがルーツである。形は変われどもにぎりめしは私たちの生活からはなくならない。それどころか最近の“おにぎり人気”を見ると、それは用途に応じて使い分けができ、持ち運びが簡単で保存がきく、というにぎりめしが持つ祖先の英知が、現代の日本人にも深く広く受け入れられているような気がする。
この「機能性」「携帯性」「保存性」つまり「いつでも、どこでも、どんなシチュエーションでも」という特徴は、そのままファストフードに対するニーズになりがちだが、この際、あえてスローフードとしてのにぎりめしを見直したいものだ。いうまでもなく、スローフードとはファストフードの反意語であり、消費者が自分の住んでいる土地でとれた素材をできるだけ伝統的な方法で調理し、味を楽しみながら食べるというコンセプトに添った食品である。
もともとスローフード運動は、消えてゆく恐れのある伝統的な食材や料理、酒と、それらを提供する小生産者を守り、子供たちを含め、消費者に味の教育を進めることを目的にイタリアで起こったのだが、日本でも郷土食や地方の特色ある野菜などの食材や日本酒を改めて見直そうという動きが各地で起っている。
『発掘! 日本人の食卓 おにぎり誕生』を制作・放映したNHKでも、二〇〇一年四月から「食料プロジェクト」を立ち上げ、食べ物にスポットを当てた番組やイベント、キャンペーンなどを展開している。こうした動きを受けて、各地の自治体や生産者団体などでも、消費者に対して地元でとれた農産物・畜産物・水産物の広報や伝統的な調理方法などを積極的に紹介するイベントなども増えてきた。そうした機会を利用し、もう一度“ふるさとの味”に出会い、それを“我が家の味”とすることで、新しいにぎりめし文化を作っていきたいものだ。
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| データコラム・コンビニおにぎり |
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【“コンビニおにぎり”の登場】
いわゆるフランチャイズ・チェーンのコンビニエンスストア(以下コンビニ)が日本に登場したのは、1974年セブンイレブン・ジャパンが開店した東京都江東区の豊洲店である。当時は弁当やサンドイッチや総菜といったアイテムは主力商品ではなかったが、「おいしいものを手頃な価格で提供すれば必ずヒットする」とのマーケティング戦略から78年、海苔を米飯と別包装した手巻きタイプのおにぎりを発売した。そうした読みが当たり、80年代になってコンビニおにぎりは業界全体でじわじわと売上げを伸ばしていく。そんななかで発売されたのがツナマヨネーズ、以来この商品は定番として定着しているだけでなくマヨネーズと米飯の組み合わせは、総菜市場全体を塗り替えた。
【低価格戦争から高級おにぎりへ】
ハンバーガーショップを中心としたファストフード店の低価格戦略はコンビニおにぎり市場にも波及。一時期は一個百円を切る商品まで現れたが、客単価の減少によりコンビニ・チェーンの多くは売上高が軒並み前年割れした。そこで、各社は商品・価格政策の見直しを進めてきた。具体的には商品・価格戦略を高級志向へシフトチェンジ。2001年秋にセブンイレブンが発売した具材にこだわった「直巻三角おむすび(110円)」を皮切りに、次々と高級イメージを訴求した商品が売り出され、2002年11月にローソンが「おにぎり屋(120〜160円)」のシリーズで発売したラインナップによりおにぎりの高級品化は決定的なものとなった。
【ブランド志向とニューウェーブ】
ローソンの成功の秘訣は魚沼産コシヒカリや永田農法のような素材や手法を組み合わせを“ブランドイメージ”として確立したことだと言われている。その戦略をひな型に2003年5月ファミリーマートでは「魚沼産コシヒカリおむすび」を、am/pmでは「まごころおむすび」を発売。産地限定素材や風味を重視した商品展開を訴求する。また、その一方で若者に人気のスポットにおにぎり専門店が続々と出店。ハンバーガーチェーン「ファーストキッチン」も、総菜や和風デザートと一緒に出来たてのおにぎりを店内で食べる新業態店をスタートさせた。
【購買シチュエーションと売れ筋商品】
では、コンビニおにぎり人気を支えているのは誰なのだろうか? (財)日本能率協会の調べによると、やはり男女とも10代が最も多く、次いで30代男性、20代男性・女性という順で購買率が高くなっている。彼らによるコンビニおにぎりの魅力とは「手軽に(68.2%)」「近くで(48.8%)」「深夜・早朝にも(48.7%)」買えることらしい。つまり、時と場所と状況を選ばずに必要なものを美味しく食べられることのようだ。人気商品は20代にツナマヨネーズ、鮭、明太子、30代に鮭、昆布、梅となっており、高級・ブランド志向だ、ニューウェーブだと騒がれている割には、昔ながらのオーソドックスな味が好まれている。
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| 「望星 2003年9月号」(東海教育研究所)より |