クラッチの交換


 

1.目的

装着していたシングルプレートの強化クラッチが滑り始めた。ツインプレートのクラッチに交換する。

 

2.結果

自宅の駐車場で交換を行った。事前にクラッチの交換手順を調べ、頭の中で何度もシミュレーションをした。交換作業は、ほぼ予定した通りに進み、全て1人で行うことができた。

登 録 後:10年7か月
走行距離:36,800km

 

3.滑りの症状

これまでのクラッチはニスモのセラメタシングルプレートで、走行距離が1万キロを超えた時、購入したディーラで交換した物だった。そのクラッチも、走行距離が3.5万キロを超えた頃からフルブーストをかけた時に滑るようになった。最初に異常を感じた時は僅かに異音がするだけで滑っているような感触はなかったが、摩耗が進行するに連れて滑りの症状が顕著に現れるようになった。シングルプレートの寿命は2.5万キロほどであった。

 

4.クラッチの選定

セット荷重の高い強化クラッチはペダルの踏力が重いだけでなく、それによってエンジンの内部にも負担がかかる。クラッチを切った時、クランクシャフトは前方へと強く押される。この時の力は、クランクシャフトのスラストベアリング(No.4メインベアリング)で受け止められる。セット荷重が高くなるとスラストベアリングは、より大きな力を受け止めなければならず、摩耗が早まることになる。後期型になってクラッチがプルタイプに変更された時、スラストベアリングにかかる力の方向が逆になることから、同時にスラストベアリングにも改良が加えられた。このような例もあり、クラッチのセット荷重は必要以上に高くしない方が好ましい。ということで、今回は操作性だけでなくエンジンの負担軽減も考慮し、ツインプレートの中からセット荷重の比較的に低いクラッチを選択した。選んだのは、ニスモのG−MAX(SpecT)である。

 

5.DIYの可能性

クラッチの交換を行うためには、トランスミッションの脱着作業が必要になる。普通のマニュアルトランスミッションであれば人力で扱うことも不可能なことではないが、GT−Rのようにトランスファーと一体になっている物は重量が重いので、人力に頼るのは危険である。しかも、BNR32はボディとのクリアランスが小さいため、脱着作業には微妙な操作が必要だ。リフトとトランスミッションジャッキなしで行うクラッチの交換、しかも全ての作業を未経験者が1人で行うのは無謀とも言えるだろう。だが、綿密な計画と鍛え抜いた筋肉があれば、それも朝飯前のホイホイである。(大嘘!3日間を要した)

 

6.付帯作業からトランスミッションの分離まで

エンジンよりトランスミッションを分離するためには、いくつもの部品を取り外さなければならない。クラッチに辿り着くまでの作業量は膨大だ。まずは作業の始めに、バッテリーのマイナス端子を外して置いた方が良いだろう。スターターモーターの取り外しで配線を短絡させたら大変だからだ。それから、吸気のインレットホースを社外品の金属製の物に換えてある場合は、ホースバンドを緩めて置く必要がある。エンジンを後方へ傾けた時に負担がかかるのを防ぐためである。そして、シフトレバーも忘れるといけないので、早目に取り外して置く。尚、トランスミッション及びトランスファーのオイルは抜き取らなくて良い。


付帯作業で一番大変なのはスターターモーターの取り外しだ。これができないと先には進めないので、真っ先に取り外す。奥側のボルトは指先で触れるのがやっとだから、工具をかけるのも一苦労だ。ボルトが抜けたら、スターターモーターは配線を接続したまま近辺に放置して置く。
続いてオペレーティングシリンダー、スピードメーターのケーブル、そしてE−TSの配管を取り外して素早く栓をする。


続いて、リヤプロペラシャフト(前側)、フロントプロペラシャフト、触媒&マウント、フロントエキゾーストチューブを取り外す。プロペラシャフトは分離前に合いマークを付ける。元に戻した時、回転バランスが狂わないようにするためだ。これらの部品を全て取り外して、ようやくトランスミッションの分離に取りかかれる。


まずは、トランスミッションのマウント部を取り外す。ただし、先にジャッキと台を当てがって置く。ボルトを外すと、トランスミッションが落ちてしまうからだ。それから、マフラー側のボルトにはラバーブッシュを保護する遮熱板(楕円形)が付いているので覚えて置く。
尚、この後に取り外すトランスミッションのボルトは場所により長さが異なるので、確認しながら取り外す。ボルトは8本だ。


ジャッキを徐々に低くしてトランスミッションを下げる。すると、エンジンとトランスミッションを締結する上部のボルトが見えるようになる。ただし、下げ過ぎるとエンジンのヘッド後部がボディに接触するので注意する。
ロングエクステンションを使って上部のボルト2本を先に取り外す。その内、最上部のボルトには、通気チューブの金具が共締めされている。


トランスミッションの前方にも台を当てた後、残りのボルトを全て取り外す。トランスミッションを後方へ移動させ、エンジンより分離する。この時、ニュートラルスイッチとリバーススイッチのコネクターを抜き忘れないように注意する。
クラッチディスクからインプットシャフトが完全に抜けるまでは、こじらないように真っ直ぐ抜かなくてはならない。台の高さをその都度調整し、少しずつ抜いて行く。


ここまで離すとインプットシャフトは完全に抜ける。ところが、ここまで抜くには多くの試練を乗り越えなければならないのだった。


トランスミッションを後方へずらして行くと、スターターモーターの取り付け部の突起がボディに接触するので、捻って避けながら抜いて行かなければならない。一方、捻り過ぎるとシフトレバーの取り付け部がボディに接触するので、少し捻っては抜き、また少し捻っては抜き、というように何度も繰り返さなければならないのだ。


最終的には、トランスミッションをこれだけ捻る必要があった。インプットシャフトをこじらないよう一直線に保ちながら捻るのは、正に試練であった。


トランスミッションを分離する前にオイルパンにジャッキを当て(強く当て過ぎないように注意)、エンジンの前側を押し上げて置いた。トランスミッションを分離した後に、エンジンの傾きが元に戻らないようにするためだ。けれども、分離後にジャッキを外してみたが傾きは殆ど変化しなかった。エンジンのマウントは前寄りにあるため、何もしなくても自重で後方が下がるようだ。

 

7.クラッチの取り外しと組み付け

トランスミッションの分離が無事に終わり、これでやっとクラッチの交換作業に取りかかることができる。クラッチの取り外しから、レリーズ機構の分解清掃と組み付け、そして新しいクラッチの取り付けを行う。


クラッチカバーとフライホイールの取り外し及び取り付け時に、フライホールが回転しないように固定する必要がある。適当な金具を利用して回転止めにした。


9本のボルトを抜き取り、カバーとディスクを取り外す。その際に、フェーシングのカスが大量に落下するので、目に入らないように注意する。(顔が真っ黒になった!)


続いてフライホイールを取り外す。ボルトは固く締まっているので、長いレンチを使って緩めた。ボルトは6本である。


レリーズ機構を取り外す。その際に、レバーのピボット部分を強引に引き抜いたため、固定するスプリング(針金)が変形してしまった。
ケースの内側は一面真っ黒だ。汚れはスプレー缶のパーツクリーナーを吹き付けて清掃した。


これが、クラッチを構成する全ての部品である。レリーズ機構のレバーとスリーブ、そしてそれらを固定するスプリング(針金)2個は再使用するので清掃する。


各部の清掃が済んだら、先にレリーズ機構を組み付ける。レリーズベアリングは新品(付属品)に交換し、可動部に指定のグリースを塗布して組み付ける。取り外し時に変形したスプリング(針金)は、ペンチで元の形に戻してから組み付けた。
尚、純正品のピボットは折れることがあるので、ニスモの強化品に交換した。


フライホイールの取り付けは、ボルトのねじ部と座面にエンジンオイルを塗布し、トルクレンチを使用して締め付ける。新品のボルトを馴染ませるために、一度締め付けたボルトを緩めて、もう一度締め直す方法を取った。
外周にある青い三角マークはカバーとの合いマークだ。


カバーと2枚目のプレートは組み付いた状態になっているので、シングルプレートのクラッチと同じ感覚で組み付けることができる。センター出しには、ニスモから発売の専用工具を用いた。ボルトを締め付けた後、センター出し工具が軽く抜ければOKだ。
最後に、ダイヤフラムスプリングを固定していた針金を抜き忘れないように注意する。

 

8.トランスミッションの結合と付帯作業の組み直し

分離した時の逆の手順でエンジンにトランスミッションを結合し、取り外した部品を順次元に戻す。尚、排気管のガスケットとボルト類は必要に応じて新品に交換した。


インプットシャフトとディスクのスプライン部に指定のグリースを塗布する。勘合した後、はみ出したグリースがプレート面に付着しないように、付け過ぎには注意する。
最後に作業忘れがないかもう一度チェックし、トランスミッションとエンジンを合体させる。


分離した時の逆の手順でインプットシャフトをクラッチのディスクに差し込んで行く。中心が一致するように台の高さを正確に合わせ、焦らずに少しずつ移動させる。スプラインは楽に入ったが、パイロットベアリングにインプットシャフトの先端がなかなか入らなかった。トランスミッションの後端を両手で持ち、両足を後輪に当てて踏ん張り、力技でグリグリと押したら何度目かにスコッと入った。


エンジンとトランスミッションの結合が完了した時点で、先にオペレーティングシリンダーとシフトレバーを仮付けする。ギヤを4速に入れてクラッチペダルを踏み、トランスミッションのアウトプットシャフトを手で回してクラッチの切れ具合をチェックする。この時、ペダルの遊びと踏み代もチェックする。異常がなければ、取り外した全ての部品を元の状態に組み付ける。


最後にE−TSのエア抜きをする。フルードはリターンラインから重力で下りて来るので、ブリーダーバルブを開けるだけでエア抜きができる。キーをイグニッションONの位置に回し、リザーバータンクのレベルが規定範囲内になるように給油をする。これで、交換作業は全て終了だ。

 

9.取り外したクラッチ

取り外したクラッチの部品を調べてみた。


ディスクのフェーシング材は摩耗の限界を超え、地金まで摩耗していた。カバーとフライホイールには、円周上の全域に派手なキズが付いていた。

 

10.使用した工具類

トランスミッションの脱着に使用するロングエクステンション、それとクラッチの取り付けに使用するセンター出し工具とトルクレンチ、それからスターターモーターの脱着作業に適するレンチを事前に確認して準備した。他に、純正品のグリース(2種類)とパワーステアリングフルードスペシャル(E−TS作動油)も用意した。


一番に重要だったのは、このブロックと木材である。これがなければクラッチの交換は成し得なかっただろう。
それから、台の高さを微調整するために厚紙やダンボール紙を使った。適度に滑るので、ずらす時にも都合が良かった。

 

11.仕様性能と操作性の比較

今までに装着したことのあるクラッチについて、仕様性能と操作性を比較してみた。総重量はフライホイールを含めたもので、ヘルスメーターで測定した数値である。尚、車両は中期型のため、クラッチはプッシュタイプだ。

品   名 セット荷重(kgf) 総重量(kg)
標準品   750 18.2
ニスモ/セラメタC(FWは標準品) 1,090 18.4
ニスモ/G−MAX(SpecT)   900 15.0

G−MAXの第一印象は、非常に踏力が軽いことだ。セット荷重の高いセラメタシングルからの交換だったので、ノーマル並に軽く感じられる。半クラッチの領域もそこそこあり、発進時の難易度もセラメタシングルと大きな差はないように思う。

異音についてはメタルクラッチ特有の金属音は皆無で、ジャダーも発生しない。セラメタシングルに比べて、とても静かである。(取り敢えず今のところは)

エンジンの空吹かしをしてみると、レスポンスが若干向上したように感じられる。重量の軽さが、それなりに現れているようだ。軽過ぎるとエンストし易くなるので、バランスを考えての重量設定だと思う。

セラメタシングルと比較した場合の唯一のマイナス面は、繋がる瞬間が分かり難い点だ。セラメタシングルは異音や振動が発生し易かったが、それによって繋がる瞬間の感触を明瞭に感じ取ることができた。それが、坂道発進などでは都合が良かった。G−MAXは静かでスムーズ過ぎるのがデメリットだなんて、変な感じだ。

気になるのはフェーシングの耐久性であるが、プレートが2枚だから寿命も2倍の5万キロくらいは行けるだろうか?

 

12.後書き

クラッチの交換に関しては初の経験であり、過去に交換作業を見学したことさえもなかった。交換の手順は整備要領書の他に、雑誌やチューニング関係の書籍も参考にした。クラッチの交換そのものは特に難しいものではなかったが、トランスミッションの脱着作業は一生涯の大仕事であった。トランスミッションとボディ間のクリアランスはゆとりが全くないので、トランスミッションがボディに張り付いて動かなくなることもあった。一番に神経を使ったインプットシャフトの抜き差しは、クラッチディスクのスプラインに多少のクリアランスがあるのと、トランスミッションのインプットシャフト自体にも意外とガタ付きがあることから、思っていたほどは脱着時の角度に神経を使う必要はなさそうである。大袈裟ではなく1mm単位で動かす覚悟でいたので、実際の作業は予想よりも多少は楽だった。

フライホイールの回転止めを事前に準備していなかったことが不安材料であったが、家の中に調度良い金具がたまたま転がっていたので苦労せずに済んだ。それよりも予定外だったのは、E−TSの配管だった。取り外した時、フルードの流出を止めるのに苦戦してしまった。

それから、以前よりスターターモーターが異音を発していたので、今回の取り外しの機会に思い切って新品に交換した。新しいスターターモーターは改良品で、クランキングの感触はとても良い。

今回の経験により、DIYでトランスミッションの脱着が可能となった。その気にさえなれば、トランスミッションの修理も可能だということだ。これで、メンテナンスの幅がさらに広がった。

 


2002/05/16

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