風の強い夜。きらびやかに光る東京タワーの上に立ち、黒いコートをたなびかせる男が一人。
「……八つの鍵が……目覚めた。また始まる……神々の戦が…」
 男は満月を見上げると、闇に消えた…。


「…鍵を外して…」
 美しい、聖女を思わせる白い衣の女が涙を流している。
「この地に眠る八つの鍵…それが私の力を妨げています。
 封印を解いて私を助けてください…そうしないと…『根の国』は…」
 女は悲痛な声で訴えかけるが、それに応える間もなく目が醒める。以前から何度となく味わった夢だ。
 夢だと判っていても、彼は手を差し伸べずにはいられなかった。そして…

 目覚ましのベルが鳴った。

「やっば…!」
 金色がかった髪を掻き上げ、少年が目覚まし時計を止めた。
「遅刻しちゃうよーッ!」
 少年は飛び起きると慌てて支度を開始した。
 少年の名は霞ヶ谷 怜緒。都内のある高校に通う16歳だ。可愛い顔立ちから想像するように優しい心を持ち、家庭的で世話好き。しかし一方ではとんでもない怪力の持ち主でもある。核心を突いたさらり毒もそんな彼の意外な一面である。

*  *  * 

「あ! すいません! ゴメンなさい!」
 ドゴ! グシャ! ドカドカ!
 人をはねながらプラットホームへの階段を駆け上がる。文句を言いかける通行人を振り切るようにしていつもの電車に滑り込んだ。
すぐに列車は走り出し、罵声も遠ざかり消えて行く。
「ぎりぎり、セーフ…」
 ホッと溜め息をつき、怜緒は瞳を閉じた。
次の駅までは大分ある。乱れた呼吸は次第に収まりつつあった。
(…どうして最近、あの夢ばかり見るんだろ…)
 妙な、それでいて気になる夢。最近では、起きていてもあの声が聞こえるようだ。
(…僕、変なのかなあ…)
 ボンヤリと窓の外を眺めながら、怜緒は再び目を閉じた。
「…考えてたって仕方ないよね。切り替えなきゃ」
 半ば自分に言い聞かせるように、呟いた。
 駅を降りると、そこは学生の群れ。知り合いに挨拶をしながら学校へと急ぐ。
「きゃっ!」
 どん、と誰かにぶつかった。見上げると、綺麗な顔をした茶髪の青年…。
「おーっと、わりぃ。怪我はねぇか?」
 青年は笑って怜緒に手を差し伸べた。
「あ、どうも…」
 怜緒と青年の手が触れた瞬間、強い静電気に似た衝撃が二人を襲った。
「あいたッ。あーあ、これだから冬は嫌だわ。ぶつかって悪かったな、じゃ」
 青年は衝撃を別に気にする様子もなく軽い足取りで去っていった。
(なんだったんだろ…、びっくりしたぁ)
 まだピリピリと痺れの残る手を気にしつつ、怜緒はトコトコと通い慣れた通学路を歩いていた。
「おはよ、霞ヶ谷クン」
「ひゃっ?!」
 不意に肩を叩かれ、怜緒は思わず派手なリアクションをしてしまった。
「あ…ご、ゴメンね。驚かせちゃった?」
「う、ううん。ちょっと考え事してたからビックリしちゃっただけ。こっちこそ驚かせちゃってゴメンね?」
「ううん、いいの」
 普段から物腰穏やかな怜緒は、女子からの信頼も厚い。
「で…何の用だったの?」
「え? …特に用はないんだけど。何だか霞ヶ谷クン最近悩み事あるみたいだから気になって」
「な、悩みなんか…ないよ。ありがと」
 怜緒は無理に明るい笑顔を浮かべ、『日常』の中に溶け込んでいった…。

*  *  *

 雄大な大地が広がる日本。穏やかな日常のシーンがまばらに映し出される。
 途端空が赤く染まり、日本各地で激しい爆発や殺戮が起こり始める。そして怜緒自身にも刃が向けられ、為す術もなくそれは振り下ろされる…。

「ッ!!」
 ガタン、と椅子が鳴った。教師もクラスメートも唖然として自分を見ている。
「あ、あれ?」
 どうやら授業中に居眠りをして夢を見ていたらしい。
「あ…えと…寝ぼけちゃいました。すみません」
 どっと沸く教室。しかし、怜緒の頭の中にはあの声が繰り返されていた。

「…鍵を外して…。この地に眠る八つの鍵…それが私の力を妨げています。封印を解いて私を助けてください。そうしないと…根の国は…」