「とにかく1−Bに行こうぜッ」
 震の一言で皆はぞろぞろと動き出した。教室のドアを開けると、そこにはさっきの少女がいた。
「ッ!」
 少女は慌てて立ち上がる。
「あ! 待って! 僕らは敵じゃないんだ」
「だ、騙されないわ! 貴方達も、あいつと同じなんでしょ!」
「あいつ? あいつとは…何のことだ」
 いきなり蓮が三人を手で制した。その表情は艶やかで、大人の魅力に満ちている。
「俺は、そいつから君を守りに来た。ほら、そんなに怯えないでこっちにおいで」
 優しく笑う。少女は少し頬を染めて戸惑っている。全員は改めて思った。
(うん、ナンパ師だ!)
「…敵じゃ…ないの…?」
「もちろんさ。俺(達)は可愛い女の子の味方だからね」
 怜緒は呆れ返って茫然としている。薫は冷静に状況を見守り、震はスクワットにいそしんでいる。
「…確かに…あいつとは少し違うみたい…」
 少女が一歩ずつ近付いた。蓮が手を差し伸べる。
「……助けて…下さい」
 少女は意を決したように手を取った。
「え」
 ただし――怜緒の手を。
「え……僕?」
「なんでーッ!! 俺のほうが頼り甲斐あると思わない?」
「無様だな」
「なにぃッ」
「そんなに落ち込むなよ。見る目があっただけだろ?」
 沈黙。

ドカ! バキ!

「事情を…話してくれる?」
 怜緒は震を黙らせてから優しく笑った。
「ここ…私の夢なの」
 葉月ミドリと名乗った少女は、躊躇いがちにそう言った。
「君の…夢?」
「そんなまさか、って思うでしょ? でも…私の一族には、特殊な力があるの」
 もちろん信じるさ、と言いかけた蓮の口を薫が塞ぐ。
「力って…?」
「『夢解き』の力よ。人の夢の中に入って干渉したり、夢占いをしたり…そういう力」
「ふぅん…凄い力があるんだね」
 ミドリは少し照れたように首を振った。
「そこまでできたのは、ずっと昔の人達よ。今はだいぶ血が薄まってるから大した事は出来ないの。私は力が強い方だって言われてるけど…自分の夢を操るくらいしかできないの」
 ミドリの顔が曇った。
「…最近、ずっとこの夢を見るの。みんな殺されて…街が燃えて…あいつが私を殺しに来る」
「さっきから気になっていたんだが…あいつ、とは?」
「獣よ。大きくて…肌は硬くて…。そうね、恐竜に近いかしら」
「それって、鋭い爪が生えてたりするか?」震がミドリに訊いた。
「ええ。あいつは時々群れを成してやって来るの……。街は燃えて…焼けた土の上を必死に走るのに……私は……」
 そこまで言うと、ミドリは顔を両手で覆い泣き始めた。怜緒が優しくその背中をさする。
「オレが見た夢の話、したろ? ほら、瀬生も見たってやつさ」
「怜緒ちゃんが助けてくれるってやつ?」
「ん。それに似てる気がすんだよなー。燃える街だろ? バケモンだろ? それに鋭い爪…」
「そう言われてみると、街並みが似ている気がするな」
「じゃ、その夢はこの事を暗示してたっての?」
「だとしたら、俺達をここに連れて来たのはあの女だな」
「あの女?」ミドリが聞きとがめた。
「しょっちゅうオレらの夢に出て来る女だよ」
「その人が…私の為に貴方たちを遣わしてくれたの?」
「多分な」
「そう…なんだ。誰だかわからないけど、感謝しなくちゃ…」
「しかし…」薫が口を開いた。
「俺達を送り込んだはいいが…何が出来るというんだ? 俺達は普通の人間だ。相手がヒトならば手助けも出来ようが、化け物を倒すような力は無いだろう」
「まあ、確かに…」
 正論だった。
「…なら、無茶はしちゃダメだと思う」
 ミドリは言った。
「たかが夢、じゃないから。ここでの死は、貴方達の精神の死を意味するんだもの」
 重い沈黙が流れた。
「ごめんなさい…。いつもなら私、夢を終わらせることが出来るんだけど…今回の夢は、いくら念じても終わってくれないの。何かに閉じ込められたみたいに……」
 終りまで言えずにミドリはすすり泣いた。
「ミドリちゃん…」
 だが重い空気を破ったのは震だった。
「可能性があっから、オレらをよこした訳だろ? その、女神さんは」
 大きく伸びをする。
「ホラ。動こーぜ? ジッとしてても始まらねェだろ」
「……ははッ! いー事言うじゃん」
 蓮がくしゃっと震の頭を撫でた。
「子供扱いすんなっての……――どわッ!」

ズズ…ン!

「何だ?!」
「じ、地震?」
「いや…外を見ろ」
 言われて窓から見下ろした校庭は真っ赤に燃え、化け物がひしめき合っていた。