「…着いたわ。奴はここにいる筈よ」
 案内されてきたそこには、歴史のありそうな立派な神社があった。但し鳥居の向こうからはおぞましい殺気が漂って来ている。
「…ここに、鍵神が?」
「ええ。うちの神社で祭っていた……『夢神様』よ」
「ミドリちゃん…」
「……」
「でも…その『神様』が今君の意識を食らおうとしてるのは事実だよ。君には…生きる権利があるんだから。戦わなきゃ…ね?」
「…怜緒さん…」
「行こう」
「…はい」
 二人は迷いを振り切るように鳥居をくぐり抜けた。
 瞬間、時空が歪んだ。
「ッ!」
 右も左も捩れた空間。目の前には、白い体毛に覆われた異形の化け物が怜緒達を見下ろしていた。
「夢神様…?」
 白い獣はじりじりと二人に近寄ってくる。
「ミドリちゃんは僕の後ろに隠れてて!」
 怜緒はそう言うと弓を構えた。

《馬鹿ナ人間ヨ……》

 暗闇に声が反響する。
「なッ…」
《自ラ『供物』ヲ運ンデ来ルトハナ…》
 突き刺さるような殺気。
「う…うるさいッ! 《裁きの矢》ッ!!」
 輝く矢が真っ直ぐに、獣に向かって放たれる。
《ダカラ…愚カダトイウノダ》
 勢い良く飛んで行った光の矢は、しかし獣に突き刺さろうとした瞬間、闇に溶けた。
「ッ!!」
《ソノ程度ノ力デ…我ノ領域ヲ破レルト思ウカ》
 凄まじい衝撃が怜緒を襲った。
「うああッ!」
 衝撃をまともに食らった怜緒が吹き飛ばされる。
「怜緒さんッ!!」
《人ノ身デ我ニ敵ウハズガナカロウガ》
 冷たい言葉と現実に、絶望が拡がっていく。
《死ネ…》
 二人に向かって、再度殺意を孕んだ衝撃波が放たれた――

 その時。

「――それはどうかな?」
 不意に聞き覚えのある声がしたかと思うと、次の瞬間衝撃波は跡形なく霧散していた。
《ナ…!?》
「《狂月宴舞》ッ!!」
 動揺を隠せない獣のその肩を、突如飛来したブーメラン状の閃光がザックリと切り裂いた。
「!!」
《グアアアアッ!!》
 獣の苦悶の咆哮が轟く。傷はどうやら浅くないらしく、噴き出す鮮血に白い毛皮が濡れた。
「無敗神話はもう終わりかい?」
 パシッ、とブーメランを片手で受け止めると、青年はニッコリと笑った。
 今ここにいる筈のない顔だった。
「それとも…おにーさんが強過ぎるのかな?」
「いっ…伊吹君!!」
「調子に乗るな…」
 刀を携えた青年がその横に立つ。
「瀬生さん!」
「待たしたなッ」
「風間君!」
 三人とも、今までとは明らかに違う《気》を纏っている。
《ク……タカガ人間ゴトキガコシャクナ…!!》
 憎憎しげな獣の言葉を、しかし震は鼻で笑った。
「そのたかが人間の夢のおかげで生きてるテメーはどうなんだよッ」
《…!!》
 獣の身体が強張る。
「風間の言う通りだ。そいつは決して我々に倒せない敵ではない」
「で、でも僕の攻撃は」
「それは怜緒ちゃんが心のどっかでそう『信じちゃった』からさ」
 蓮が言う。
「そいつは意識に棲む存在だ。その強さは――こちらの《認識》に比例する」
「《認識》に…」
 まだ神妙な顔をしている怜緒に、蓮は明るく笑って見せた。
「あいつのハッタリに惑わされちゃダメ、って事さ」
「……! …わかった」
「さ! 仕切り直して…一気に行くぜッ!」