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おもしろ言語

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どこかで聞いた、なつかしい詩


1. 山のあなた    カアル・ブッセ

    山のあなたの空遠く
   「幸」住むと人のいふ。
    噫、われひとゝ尋めゆきて、
    涙さしぐみ、かへりきぬ。
    山のあなたになほ遠く
   「幸」住むと人のいふ。            海潮音(上田敏訳詩集)より


読み方の注:幸(さひはひ)、噫(ああ)、ひとゝ(ひとと)、尋め(とめ)


原詩:Über den Bergen    Karl Busse

    Über den Bergen, weit zu wandern,
    sagen die Leute, wohnt das Glück.
    Ach, und ich ging, im Schwarme der andern,
    kam mit verweinten Augen zurück,
    Über den Bergen, weit, weit drüben,
    sagen die Leute, wohnt das Glück.

Karl Busse (1872-1918) はドイツの新ロマン派の詩人だそうですが、ドイツではもう覚えている人はいないとか。ドイツに行って暗唱してみせたら尊敬されること間違いなし。
    日本では50代以上の人は誰でも御存じだと思います。国語の教科書で習った方も多いでしょうし、そうでなければ三遊亭円歌(当時、歌奴)の自作落語「授業中」で耳にしたことでしょう。ちなみに、この落語は当たりに当たって歌奴は一躍人気者、もうけにもうけて家の引き出しには千円札が溢れていたとのこと。(まだ1万円札、5千円札のない時代でした。)


2. 落葉    ポール・ヴェルレーヌ

    秋の日の
    kオロンの
    ためいきの
    身にしみて
    ひたぶるに
    うら悲し。

    鐘のおとに
    胸ふたぎ
    色かへて
    涙ぐむ
    過ぎし日の
    おもひでや。

    げにわれは
    うらぶれて
    こゝかしこ
    さだめなく
    とび散らふ
    落葉かな。             海潮音(上田敏訳詩集)より


原詩:Chanson d'automne         Paul Verlaine

    Les sanglots longs
    Des violons
      De l'automne
    Blessent mon cœur
    D'une langueur
      Monotone.

    Tout suffocant
    Et blême, quand
      Sonne l'heure,
    Je me souviens
    Des jours anciens
      Et je pleure;

    Et je m'en vais
    Au vent mauvais
      Qui m'emporte
    De-çà, De-là,
    Pareil à la
      Feuille morte.

注意:上田敏訳詩では「落葉」という題になっていますが、原題は「秋の歌」です。
4行目 cœur の œ は oe のような2文字ではなく、合字(合成された1つの文字)です。うまく表示されていないかも知れませんが。

Paul Verlaine(1844-1896)はパリ市役所に勤めながら音楽的で優美な詩を書き、文壇に登場しました。ランボーの鬼才に驚嘆して呼び寄せ、共に放浪生活を始めますが、いさかいから発砲事件を起こし投獄されたこともあるそうです。


3. 春の朝    ロバート・ブラウニング

    時は春、
    日は朝、
    朝は七時、
    片岡に露みちて、
    揚雲雀なのりいで、
    蝸牛枝に這ひ、
    神、そらに知ろしめす。
    すべて世は事も無し。             海潮音(上田敏訳詩集)より


読み方の注:朝(あした)、片岡(かたをか)、揚雲雀(あげひばり)、蝸牛(かたつむり)


原詩:Pippa's Song            Robert Browning

    The year's at the spring
    And day's at the morn;
    Morning's at seven;
    The hill-side's dew-pearl'd;
    The lark's on the wing;
    The snail's on the thorn;
    God's in his heaven ---
    All's right with the world!


Robert Browning(1812-1889)はビクトリア朝詩壇を代表する詩人だそうです。上の詩は「ピパ過ぎゆく」(Pippa Passes)という1841年の劇詩の中でピパという名の純真な少女が歌う唄で、罪を犯している男女の心をうつとのこと。


4. 勧酒           于武陵

    コノサカヅキヲ受ケテクレ
    ドウゾナミナミツガシテオクレ
    ハナニアラシノタトヘモアルゾ
   「サヨナラ」ダケガ人生ダ            井伏鱒二訳


原詩:   勧酒         于武陵

    勧君金屈巵
    満酌不須辞
    花発多風雨
    人生足別離

    君に勧む金屈巵
    満酌、辞するを須ひず
    花発いて風雨多し
    人生、別離足る

読み方:金屈巵(きんくつし、黄金製の取っ手の付いている杯)、満酌(まんしゃく、なみなみと注ぐこと)、辞するを須ひず(じするをもちひず、辞退するな)、発いて(ひらいて)、足る(たる、多い)

于武陵(ウ・ブリョウ)は晩唐の詩人。


5. 春暁           孟浩然

    ハルノネザメノウツツデ聞ケバ
    トリノナクネデ目ガサメマシタ
    ヨルノアラシニ雨マジリ
    散ツタ木ノ花イカホドバカリ            井伏鱒二訳


原詩:   春暁         孟浩然

    春眠不覚暁
    処処聞啼鳥
    夜来風雨声
    花落知多少

    春眠、暁を覚えず
    処処、啼鳥聞こゆ
    夜来、風雨の声
    花落ること知多少ぞ

読み方:知多少(いくばく)、注:「知多少」を「知る多少(たしょう)」と読む場合もあります。いずれにせよ、「どれくら散っただろうか」の意味です。

孟浩然(モウ・コウネン、689-740)は盛唐の詩人、好んで人の困難を救ったと言われていますが、詩風は平淡雅遠で、特に五言詩に優れ、山水を詠じては王維とともに山水派の領袖と言われたそうです。世に王孟(王維・孟浩然)、また、王孟韋柳(韋応物・柳宗元)と称せられるとのこと。



6. 静夜思           李白

    ネマノウチカラフト気ガツケバ
    霜カトオモフイイ月アカリ
    ノキバノ月ヲミルニツケ
    ザイシヨノコトガ気ニカカル            井伏鱒二訳


原詩:   静夜思         李白

    ○前看月光
    疑是地上霜
    擧頭望山月
    低頭思故郷

    ○前、月光を看る
    疑ふらくは是れ地上の霜かと
    頭を擧げて山月を望み
    頭を低れて故郷を思ふ

注意:○になっているのは「ショウ」という字です。「妝」の「女」の部分が「木」になっている文字で、「ベッド」の意味です。

読み方:頭(こうべ)、山月(さんげつ)、低れて(たれて)

李白(701-762)は盛唐の大詩人、酒にふけって自ら酒仙と称しました。伝えられるところによると、仲秋の明月の夜、太江に船を浮かべ、水に映った月をすくい取ろうとして落ち、水死したと言われています。


7. ミニョン           ゲーテ

    君よ知るやレモンの花咲く国を、
    ほの暗き葉陰には黄金色の柑子かがやき、
    そよ風は青き 空より流れいで、
    天人花は静かに月桂樹は高く立てり。
    君よ知るやそを、いざやかなたへ、
    いざともにゆかんいとしのきみよ。


「君よ知るや南の国」      森鴎外訳

    レモンの木は花咲きくらき林の中に 
    こがね色したる柑子(こうじ)は枝もたわわに実り
    青き晴れたる空よりしづやかに風吹き
    ミルテの木はしづかにラウレルの木は高く
    雲にそびえて立てる国や 彼方へ
    君とともにゆかまし


 

原詩:   Mignon         Johann Wolfgang von Goethe

    Kennst du das Land, wo die Zitronen blühn,
    Im dunkeln Laub die Goldorangen glühn,
    Ein sanfter Wind vom blauen Himmeln weht,
    Die Myrte still und hoch der Lorbeer steht,
    Kennst du es wohl?
                        Dahin! Dahin
    Möcht' ich mit dir, o mein Geliebter, ziehn!


70代以上の方、特に旧制高等学校卒業生の方には懐かしい詩ではないでしょうか。旅立ちの歌として、別離の宴などで学生達が声高く朗唱したそうです。ベートーベンやシューベルトを始め、リスト、シューマン、ヴォルフなど多くの作曲家によるリートがあるそうです。

注:私がどこかで聞きかじった記憶では「レモンの花咲くあの国を」と「あの」が入っていましたが、どうなんでしょう。原詩の内容からしても「あの」を入れた方がいいような気がしますが。

この詩はアンブロワズ・トマが作曲した歌劇「ミニヨン」の中では「君よ知るや南の国」というアリアとして歌われます。

原詩は同じ形式であと2聯ありますが、ここには訳詞に相当する部分だけを載せます。
この詩は「ヴィルヘルム・マイスターの修業時代」(1795-96)の第3巻冒頭に出て来ます。「ミニョン」はイタリアからさらわれてきて、ドイツの旅芸人の一座で歌い踊っている少女の名です。

ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ(1749-1832)は言わずと知れたドイツの大文人ですが、フランクフルトの裕福な家に生まれ、ヴァイマール公国の公務を勤めながら、69年以上にわたる創作活動によりドイツ語を文学言語に磨きあげたと言われています。「若きウェルテルの悩み」などの教養小説や悲劇の大作「ファウスト」、またシューベルトの歌曲の歌詞として「野ばら」や「魔王」などの詩を御存知の方も多いと思います。「色彩論」などの科学論文まであります。


8. 野ばら           ゲーテ

    童は見たり 野なかの薔薇
    清らに咲ける その色愛でつ
    飽かずながむ
    紅におう 野なかの薔薇            近藤朔風訳詞


原詩:   Heidenröslein         J. W. v. Goethe

    Sah ein Knab' ein Röslein stehn,
    Röslein auf der Heiden,
    War so jung und morgenschön,
    Lief er schnell, es nah' zu sehn,
    Sah's mit vielen Freuden.
    Röslein, Röslein, Röslein rot,
    Röslein auf der Heiden.

近藤朔風による訳詞は2つあります。これはシューベルトのメロディーにつけたもので、他にウェルナー作曲のものにつけた訳詞もあります。
    ゲーテのこの詩にはシューベルト、ウェルナーの他、ベートーベン、シューマン、ブラームスなど多くの作曲家が曲を付け、なんと150以上の曲があるそうです。

ゲーテの言葉から:
Es irrt der Mensch, solang' er strebt.(人は努力するかぎり迷うものだ。)
Wer fremde Sprachen nicht kennt, weiß nichts von seiner eigenen.
          (外国語を知らない者は自国語についても何も知らない。)


9. ローレライ           ハインリッヒ・ハイネ

    なじかは知らねど心わびて
    昔の伝説はそぞろ身にしむ
    寥しく暮れゆくラインの流
    入日に山々あかく栄ゆる            近藤朔風訳詞


原詩:   Die Lorelei         Heinrich Heine

    Ich weiß nicht, was soll es bedeuten,
    Daß ich so traurig bin;
    Ein Märchen aus alten Zeiten,
    Das kommt mir nicht aus dem Sinn.
    Die Luft ist kühl und es dunkelt,
    Und ruhig fließt der Rhein;
    Der Gipfel des Berges funkelt
    Im Abendsonnenschein.

読み方:伝説(つたえ)、寥しく(さびしく)、流(ながれ)、入日(いりひ)

ジルヒャー作曲、近藤朔風訳詞の「ローレライ」は明治42年11月「女声唱歌」に収められ3番までありますが、ここには1番だけを載せました。他にリストによるリートもあるそうです。

ハインリッヒ・ハイネ(1797-1856)は青春の愛と苦悩を民謡風に歌い、海を初めて詩の対象とした「北海」連作を含む「歌の本」で有名になったとのことです。上掲の詩はこの「歌の本」に収められているもので、1842年の作、原題は Ich weiß nicht, was soll es bedeuten(これが何を意味するのかは知らない)となっています。6連からなりますが、上には最初の2連だけを載せました。


10. 菩提樹           ヴィルヘルム・ミュラー

    泉にそいて しげる菩提樹
    慕い行きては 美し夢見つ
    幹には彫りぬ ゆかし言葉
    嬉し悲しに 訪いしその蔭

    今日も過りぬ 暗き小夜中
    真闇に立ちて 眼とずれば
    枝はそよぎて 語るごとし
   「来よ いとし友 ここに幸あり」            近藤朔風訳詞


原詩:   Der Lindenbaum         Wilhelm Müller

    Am Brunnen vor dem Tore,
    Da steht ein Lindenbaum;
    Ich träumt' in seinem Schatten
    So manchen süssen Traum.

    Ich schnitt in seine Rinde
    So manches liebe Wort,
    Es zog in Freud' und Leide
    Zu ihm mich immer fort.

    Ich musst' auch heute wandern
    Vorbei in tiefer Nacht;
    Da hab' ich noch im Dunkel
    Die Augen zugemacht.

    Und seine Zweige rauschten,
    Als riefen sie mir zu;
   "Komm her zu mir, Geselle,
    Hier find'st du deine Ruh'! "

読み方:美し(うまし)、彫りぬ(えりぬ)、訪いし(といし)、過りぬ(よぎりぬ)、小夜中(さよなか)、真闇(まやみ)、眼(まなこ)

同じく「近藤朔風訳詞」としたものでも、3行目に「ゆかし言葉」と「愛の言葉」との2通りがあります。両方とも作者のものか、どちらかが誤りかは分かりませんが、ここでは私の好みで前者を選びました。
    8行目の「幸」は、原詩では Ruhe であり、「安らぎ、心の平安」という意味だと思います。なお、この詩はあと2連ありますが、省略しました。

ヴィルヘルム・ミュラー(Wilhelm Mueller,1794-1827)はシューベルトの歌曲集「美しき水車屋の娘」及び「冬の旅」の作詩者として知られています。なお、「菩提樹」は「冬の旅」の第5曲です。

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実は舶来の歌でした

昔からよく耳にし、日本の歌だと思っていたものが、実は外国の歌であるということがあります。そういう中からいくつかを御紹介します。歌詞は元の歌の内容を残したものもありますが、どちらかと言うと、訳詞というよりは新たな作詞といった方がよいものが多いです。


1. 埴生の宿

    埴生の宿も わが宿
    玉のよそおい 羨まじ
    のどかなりや 春の空
    花はあるじ 鳥は友
    おお わが宿よ
    たのしとも たのもしや

              里美義 作詞(明治22年12月「中等唱歌集」)


原詩:   Home, Sweet Home         John Howard Payne

    Mid pleasures and palaces though we may roam,
    Be it ever so humble, there's no place like home.
    A charm from the skies seems to hallow us there,
    Which, seek thro' the world, is ne'er met with elsewhere.
    Home, home, sweet, sweet home!
    There's no place like home!
    Oh, there's no place like home!

ジョン・ハワード・ペイン( John Howard Payne、1791-1852)はニューヨーク生まれの俳優・劇作家で生涯に50以上の劇を書きましたが、現在彼の作品として有名なのはただこの歌詞だけです。この歌はオペラ「ミラノの少女クラーリ」( Clari、1823年5月8日初演)の中のアリアとして歌われました。作曲は Henry R. Bishop(1766-1875)です。

2行目の Be it ever so humble, there's no place like home.(それがいかにみすぼらしくあれ、家のような良い場所はない)は譲歩表現の好例として高校生用の英語参考書にしばしば登場します。ついでながら、4行目の seek thro' the world も譲歩表現ですね。though you may seek through the world などと書き換え練習に使われるかもしれません。


2. 故郷の空

    夕空晴れて 秋風吹き
    月影落ちて 鈴虫鳴く
    思えば遠し 故郷の空
    あゝわが父母 いかにおわす

              大和田建樹 作詞(明治21年5月「明治唱歌(1)」)


原詩:   Comin' thro' the Rye
              スコットランド民謡、ロバート・バーンズ改作

    Gin a body meet a body comin' thro' the rye;
    Gin a body kiss a body, need a body cry?
    Ilka lassie has her laddie, nane, they say, ha'e I;
    Yet a' the lads, they smile at me when comin' thro' the rye.

元はスコットランドの民謡で、詩は古謡にロバート・バーンズが手を入れたものだそうです。(本によってロバート・バーンズ作詞と書いてあるものもありますが)。
    Robert Burns(1759-96)はスコットランドの詩人で、主としてスコットランド語で恋愛詩、自然詩、諷刺詩を書きました。Auld Lang Syne の詩もバーンズが古謡に手を入れたものだそうです。

上の詩にはスコットランド方言が使われていますが、普通は下のように標準英語に置き換えて歌われるようです。
gin=if、ilka=every、nane=none、ha'e=have、a'=all

J. D. サリンジャー作 The Catcher in the Rye(ライ麦畑でつかまえて)の題名もこの詩に由来します。この小説の主人公である青年は、上の詩の1行目を If a body catch a body comin' through the rye と間違えて覚えていて、その上で空想をふくらませ、自分はライ麦畑で遊ぶ大勢の子供達を日がな一日見守り、もしそばの崖に落ちそうになる子供がいたら、どこからか現れて救ってあげる、そういう人(the catcher in the rye)になりたい、と言います。


3. 蛍の光

    蛍の光 窓の雪
    書読む月日 重ねつつ
    いつしか年も すぎの戸を
    あけてぞ今朝は 別れゆく

              作詞者不詳(明治14年11月「小学唱歌集(初)」)


原詩:   Auld Lang Syne
              スコットランド民謡、ロバート・バーンズ改作

    Should auld acquaintance be forgot,
    And never brought to mind?
    Should auld acquaintance be forgot,
    And days of auld lang syne?
    For auld lang syne, my dear,
    For auld lang syne,
    We'll tak' a cup o' kindness yet,
    For auld lang syne!

語註:書(ふみ)、「すぎの戸」は「過ぎの戸」と「杉の戸」を書けてあるものと思われます。auld lang syne はスコットランド方言で、old long ago(過ぎ去った懐かしい昔)の意味。 syne は文字通りには since。

元はスコットランドの古いダンス曲で、詩は古謡にロバート・バーンズが手を入れたものだそうです。(本によってロバート・バーンズ作詞と書いてあるものもありますが)。
    Robert Burns(1759-96)はスコットランドの詩人で、主としてスコットランド語で恋愛詩、自然詩、諷刺詩を書きました。Comin' thro' the Rye の詩もバーンズが古謡に手を入れたものだそうです。

我が国では長く卒業式の歌として親しまれてきましたが、元来はもっと一般に友との別れを惜しんで歌われた歌です。今の英米では新年を迎える歌として1月1日零時になった瞬間に歌われます。フランク・シナトラ主演の「オーシャンズ・イレブン」では、カジノでこの歌が歌われる数分間を犯行に利用します。


4. 旅愁

    更けゆく秋の夜 旅の空の
    わびしき思いに ひとり悩む
    恋しやふるさと なつかし父母
    夢路にたどるは 故郷の家路
    更けゆく秋の夜 旅の空の
    わびしき思いに ひとり悩む

              犬童球溪 作詞(明治40年8月「中等教育唱歌集」)


原詩:   Dreaming of Home and Mother
              ジョン・P・オードウェイ

    Dreaming of home, dear old home!
    Home of my childhood and mother;
    Oft when I wake 'tis sweet to find,
    I've been dreaming of home and mother.
    Home, dear home, childhood's happy home
    When I played with sister and with brother
    'Twas the sweetest joy when we did roam
    Over hill and thro' dale with mother.

    Dreaming of home, dear old home!
    Home of my childhood and mother;
    Oft when I wake 'tis sweet to find,
    I've been dreaming of home and mother.

読み方:故郷(さと)

John P. Ordway(1824〜1880)は、フォスターと同時期に活躍していた音楽家だそうです。


5. 追憶

    星影やさしく またたくみ空を
    仰ぎてさまよい 木陰を行けば
    葉裏のそよぎは 思い出さそいて
    澄みゆく心に 偲ばるる昔
    あゝなつかし その日
              小関吉雄 作詞(明治23年8月「明治唱歌(五)月見れば」)


原詩:   Flee as a Bird
              スペイン民謡

    Flee as a bird to yon mountain,
    Thou who art weary of sin;
    Go to the clear flowing fountain,
    Where you may wash and be clean;
    Fly for th' avenger is near thee,
    Call, and the Saviour will hear thee,
    He on His bosom will bear thee;
    Oh, thou who art weary of sin
    Oh, thou who art weary of sin.

残念ながらスペイン語の歌詞は見つけることができません。訳詞には他に近藤千穂子によるものもあり、こちらは「しずめる鐘の音 かすかに消えて、夜の影やおらに 野山をおおい」と始まります。


6. 別れ

    さらば さらば わが友
    しばしの別れぞ今は
    身は離れゆくとも心はひとつ
    いつの日にかまた相見ん
    さきくませ わが友
              岡本敏明 作詞


原詩:   Abschied
              ドイツ民謡

    Muss i denn, muss i denn, zum Städtele naus,
    Städtele naus, und du, mein Schatz, bleibst hier!
    Wenn i komm, wenn i komm, wenn i wiederum komm,
    Wiederum komm, kehr i ein, mein Schatz, bei dir!
    Kann i gleich net allweil bei dir sein, kann i doch mein Freud an dir;
    Wenn i komm, wenn i komm, wenn i wiederum komm,
    Wiederum komm, kehr i ein, mein Schatz, bei dir!

上の岡本敏明による訳詞は最初の2行を繰りかえして歌います。この歌は三輪義方作詞「やさしの山吹」として明治34年5月「女学唱歌(二)」に収められており、歌詞は「清き水に 枝ひじて 花さく山吹 あれ」と始まります。また、堀内敬三訳詞のものもあり、これは「遠く遠く家を後に 淋しき旅に立つ我」と始まります。


7. 冬の星座

    木枯らしとだえて
    さゆる空より
    地上に降りしく
    奇しき光よ
    ものみな憩える
    しじまの中に
    きらめき揺れつつ
    星座はめぐる

              堀内敬三 作詞(昭和22年7月「中等音楽(一)他郷の月」)


原詩:   Mollie Darling
                            William Shakespeare Hays

    Won't you tell me, Mollie darlin',
    That you love none else but me?
    For I love you, Mollie darlin',
    You're all the world to me.
    O! tell me, darlin', that you love me,
    Put your little hand in mine,
    Take my heart, sweet Mollie darlin',
    Say that you will give me thine.

ウィリアム・シェイクスピア・ヘイズ(1837-1907)はケンタッキー州ルイヴィルの生まれで、生涯に350曲ほど作ったそうが、上の Mollie Darling は何と 300万枚も売れた彼のヒット作です。彼の作品では他に「故郷の廃屋(犬童球溪訳詞)」が明治40年8月「中等教育唱歌集」に入れられています。

最後の行が Say that you will always be mine. と歌われることもあるようですが、どちらが元であるのかは分かりません。

「愛しのモリー、僕だけを愛していると言ってくれないか」という原詩は日本でおなじみの「冬の星座」とは似ても似つきません。「2. 故郷の空」といい勝負ですね。

なお、我が国でははじめ中村秋香が訳詞を付け「他郷の月」として紹介されたそうです。

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歌謡曲よ、お前もか

歌謡曲の中でも、意外なものが元は外国の歌だったということがあります。もしかしたら、意外に思うのは私だけかもしれませんが、いくつか御紹介します。


1. 知りたくないの              なかにし礼 作詞

    あなたの過去など知りたくないの
    すんでしまったことは しかたないじゃないの
    あの人のことは忘れてほしい
    たとえこの私が聞いても云わないで
    あなたの愛が誠なら ただそれだけでうれしいの
    愛しているから知りたくないの
    早く昔の恋を忘れてほしいの


原詩:   I Really Don't Want To Know
                                        Howard Barnes

    How many arms have held you
    And hated to let you go
    How many, how many, I wonder
    But I really don't want to know.

    How many lips have kissed you
    And set your soul aglow
    How many, how many, I wonder
    But I really don't want to know.

    So always make me wonder
    Always make me guess
    Yes, even, even if I ask you
    Oh, darling, don't confess

    Yes, just let it remain your little secret
    'Cause, darling, I love you so
    No wonder, no wonder, no wonder I wonder
    But I really don't want to know.


2. 別れの朝              なかにし礼 作詞

    別れの朝 ふたりは
    さめた紅茶 のみほし
    さようならの くちづけ
    わらいながら 交わした

    別れの朝 ふたりは
    白いドアを 開いて
    駅につづく 小径を
    何も言わず 歩いた

    言わないで なぐさめは
    涙をさそうから
    触れないで この指に
    心が乱れるから

    やがて汽車は 出てゆき
    一人残る 私は
    ちぎれるほど 手をふる
    あなたの目を 見ていた

    (最後の2連は繰り返し)


原詩:   Was Ich Dir Sagen Will
                                  Udo Jurgens

    Was ich dir sagen will,
    fällt mir so schwer.
    Das Blatt Papier vor mir,
    bleibt weiss und leer.
    Ich find' die Worte nicht,
    doch glaube mir,
    was ich dir sagen will,
    sagt mein Klavier.

    Was ich dir sagen will,
    wenn wir uns seh'n
    Ich kann nur stumm an dir
    vorübergeh'n.
    Ich dreh' mich nach dir um
    und denke mir:
    Was ich dir sagen will,
    sagt mein Klavier.

    Was man nicht sagen kann,
    weil man allein nur fühlt,
    wie eine Brandung,
    die den Fels umspült
    die dich erfasst und mit sich in die
        Tiefe reisst
    ich kann es fühlen, doch nicht sagen,
        wie es heisst.

    Was ich dir sagen will,
    bist du bei mir,
    Ist so unsagbar viel,
    doch glaube mir:
    Wenn du mich nicht verstehst,
    versprech' ich dir,
    was ich dir sagen will,
    sagt mein Klavier.


3. 百万本のバラ              加藤登紀子 作詞

    小さな家とキャンバス 他には何もない
    貧しい絵描きが 女優に恋をした
    大好きなあの人に バラの花をあげたい
    ある日街中の バラを買いました

       *百万本のバラの花を
        あなたに あなたに あげる
        窓から 窓から 見える広場を
        真っ赤なバラでうめつくして

    ある朝 彼女は 真っ赤なバラの海を見て
    どこかのお金持ちが ふざけたのだと思った
    小さな家とキャンバス すべてを売ってバラの花
    買った貧しい絵描きは 窓の下で彼女を見てた

        百万本のバラの花を
        あなたは あなたは 見てる
        窓から 窓から 見える広場は
        真っ赤な 真っ赤な バラの海


    出会いはそれで終わり 女優は別の街へ
    真っ赤なバラの海は はなやかな彼女の人生
    貧しい絵描きは 孤独な日々を送った
    けれどバラの思い出は 心に消えなかった

       (*繰り返し)


原詩:   MILLION  ALUIKH  ROZ
                                  Andryey Voznyesyenskiy

    Zhil-buil khudozhnik odin
    Domik imyel i kholstui.
    No on aktrisu lyubil,
    Tu, chto lyubila tsvyetui.
    On togda prodal svoy dom,
    Prodal kartinui i krov.
    I na vsye dyen'gi kupil
    Tsyeloye morye tsvyetov.

    Million, million, million aluikh roz.
    Iz okna, iz okna, iz okna vidish' tui,
    Kto vlyublyon, kto vlyublyon, kto vlyublyon
    I vsyer'yoz svoyu zhizn' dlya tyebya
    Pryevratit v tsvyetui

原詩の2番、3番は省略します。
ロシア文字は次の規則で翻字してあります。

А= a 、 Ы= ui、У= u、Э= e、О= o、
Я=ya、 И= i、Ю= yu、Е= ye、Ё= yo、Й= y、
Б= b、B= v、Г= g、Д= d、Ж= zh、З= z、K= k、Л= l、
M= m、H= n、П= p、P= r、C= s、T= t、Ф= f、X= kh、
Ц= ts、Ч= ch、Ш= sh、Щ= ssh、Ъ= "、Ь= '

翻字は機械的です。ui は合字で Ы を表し、УИではありません。ロシア語の規則により実際の発音は文字と異なる場合もあります。たとえば、roz は「ローズ」ではなく「ロース」です。Tsyeloye の tsye は実際の発音は tse(ツェ)であり、「ツイェ」ではありません。また、chto は「チト」ではなく「シト」と読みます。

作詞者のアンドリェイ・ヴォズニェシェンスキイ(1933-)はロシア現代詩人の大御所で、ゴルバチョフが提唱したペレストロイカ期には、それまでソ連で発禁になっていたパステルナーク作「ドクトル・ジバゴ」やソルジェニーツィン作「収容所列島」などの出版解禁を強く進言し、文学界の民主化を押し進めた論客だそうです。
    作曲者のライモンド・パウルス(1936-)はラトビア人で、ラトビア音楽院の教授やオーケストラ、合唱団の指揮者をしながら、モスクワ発のソ連ヒット曲を量産した売れっ子作家だとのこと。1989年にはラトビアの文化大臣に就任、独立後もその地位を維持し、1998年からは同国の国会議員でもあるそうです。
    なお、この歌はロシアの人気歌手アーラ・プガチョーワ(1949-)が1982年に歌って大ヒット曲となりました。


もとは日本の歌でした

中国や台湾、シンガポール、フィリピンなどの街角で、ふと耳に入ってきた歌に何か聞き覚えがあると思ったら、なんだ日本の歌だった、ということがよくあります。現地の言葉で現地の歌手によって歌われ、地元の人はみな自国の歌だと思っていたりします。そんな歌の歌詞をいくつか紹介します。


1. Buhay tulad ng ilog kung dumaloy       Glenda Atienza Tabata

    Di ko namalayan na aking binaybay, ang kipot at haba ng daanin
    Sa pinanggalingan ako'y napalingon, bayang aking pinagmulan
    Bako-bakong lansangan, mga likuang landasin
    Di na iwawaglit, mahahalagang bagay sa 'tin

    Buhay tulad ng ilog kung dumaloy
    Dahan-dahan lang
    Kahit na pa sa haba ng panahon

    Buhay tulad ng ilog kung dumaloy
    Hindi titigil
    Bagong pag-asa'y sasapit, bukang liwayway


2番は省略します。これはフィリピノ語(タガログ語)で歌われています。


原詩:   川の流れのように
                                  秋元康

    知らず知らず 歩いてきた
    細く長い この道
    振り返れば はるか遠く
    故郷が見える
    でこぼこ道や
    曲がりくねった道
    地図さえない
    それもまた 人生

    ああ 川の流れのように
    ゆるやかに
    いくつも 時代は過ぎて
    ああ 川のながれのように
    とめどなく
    空が黄昏れに 染まるだけ


元は見岳章が作曲、美空ひばりが歌ってヒットした曲です。3大テノールの日本公演でもアンコールに歌われました。
    フィリピノ語歌詞では「人生(buhay)、川(ilog)の流れのように」と歌っています。また、「でこぼこ道や、曲がりくねった道」のところが、「バコバコンランサガン、マガリクアンランダスィン(Bako-bakong lansangan, mga likuang landasin)」と、それらしく聞こえるところが面白いですね。


2. 我和尓       林煌坤

    我衷心地謝謝尓 一番関懐和情意
    如果没有尓給我愛的滋潤 我的生命将会失去意義
    我們在春風里陶酔飄逸 仲夏夜里綿綿細語
    聆听那秋虫 它軽軽在 尼喃迎雪花飄満地
    我和平凡歳月里有了一個尓 顕得充満活力


注:中国語の簡体字は表記できませんので、日本で用いている漢字に直してあります。日本語にない漢字は次のもので代替しました。「人偏に尓」は「尓」で、「口偏に令」は「聆」で、「口偏に尼」は「尼」で表してあります。

この歌には別の中国語訳詞もあります。

    亭亭白樺 悠悠碧空 微微南来風
    木蘭花開山崗上 北国之春天 阿 北国之春天已来臨
    城里不知季節変換 不知季節已変換
    馬馬憂在寄来包嚢 送来寒衣御厳冬
    故郷 阿 故郷 我的故郷 何時能回尓懐抱

「阿」には口偏が付きます。「馬」は女偏が付き「母」を表します。「尓」は人偏がつき「あなた」の意味です。

後の訳詞の題は「北国之春」で、訳者は呂遠、もうお判りと思いますが、もとの歌は「北国の春」(作曲:遠藤実、作詞:いではく)です。
    「北国之春」は元の歌詞に忠実な訳になっていますが、テレサ・テンが歌う「我和尓(私とあなた)」の方は元の歌詞とは全く違う内容になっています。一般に大陸では「北国之春」を、台湾や香港では「我和尓(私とあなた)」を好んで歌うようです。また、広東語による「故郷的雨」や台湾語による「懐念的春天」や「思郷的人」という訳詞もあるそうです。


原詩:   北国の春                いではく

    白樺 青空 南風
    こぶし咲くあの丘 北国の ああ北国の春
    季節が都会では 分からないだろうと
    届いたおふくろの 小さな包み
    あの故郷へ帰ろうかな 帰ろうかな


中国語に訳されて歌われている日本の歌謡曲は他にもたくさんあります。テレサ・テンも他に「時の流れに身をまかせ」や「つぐない」などいろいろ歌っています。

中国語には四声と呼ばれる4つの声調があります。1つ1つの漢字(=1音節)に声の高低と抑揚が決まっていますので、漢字を並べただけで1つのメロディーが出来てしまいます。四声に従おうと思ったら歌のメロディーにはなりませんから、歌では四声は無視されます。


3. Kanikului Lyubvi       Lyeonid Dyerbyenyov

    U morya, u sinyego morya so mnoyu tui ryadom, so mnoyu.
    I solntsye svyetit, i dlya nas s toboy tsyeluiy dyen' poyot priboy.
    Prozrachnoye nyebo nad nami, i chayki krichat nad volnami,
    Krichat, chto ryadom budyem mui vsyegda, slovno nebo i voda.

    Smotryu na zaliv --- i nichut' nye zhal',
    Chto vnov' korabli upluivayut vdal'.
    Pluivut korabli, no v lyuboy dali
    nye nayti im schactlivyey lyubvi.
    A nad moryem, nad laskovuim moryem
    mchatsya chayki dorogoy pryamoyu.
    I sladkim kazhyetsya na byeryegu potsyeluy solyonuikh gub.


間奏後の繰り返し部分は省略します。
ロシア文字は次の規則で翻字してあります。

А= a 、 Ы= ui、У= u、Э= e、О= o、
Я=ya、 И= i、Ю= yu、Е= ye、Ё= yo、Й= y、
Б= b、B= v、Г= g、Д= d、Ж= zh、З= z、K= k、Л= l、
M= m、H= n、П= p、P= r、C= s、T= t、Ф= f、X= kh、
Ц= ts、Ч= ch、Ш= sh、Щ= ssh、Ъ= "、Ь= '

翻字は機械的です。ui は合字で Ы を表し、УИではありません。また、mchatsya と kazhyetsya の ts は合字のЦではなく、t と s (TC)です。
    ロシア語の規則により実際の発音は文字と異なる場合もあります。たとえば、sinyego は「シーニェヴァ」と読みます。また、chto は「チト」ではなく「シト」と読みます。zaliv と vnov' の語尾の v は f で発音し、gub の b は p で発音します。


原詩:   恋のバカンス                岩谷時子

    ためいきの出るような あなたのくちづけに
    甘い恋を夢みる 乙女ごころよ
    金色に輝く 熱い砂の上で
    裸で恋をしよう 人魚のように

    陽に焼けた頬よせて ささやいた約束は
    ふたりだけの秘めごと ためいきがでちゃう
    ああ恋のよろこびに バラ色の月日よ
    はじめてあなたを見た 恋のバカンス

作曲:宮川泰、作詞:岩谷時子で1963年ザ・ピーナッツが歌った日本の歌謡曲ですが、ロシアの歌だと思っているロシア人もいるほど馴染まれているそうです。日本語では間奏の後に繰り返しがありますが、ロシア語ではこれに別の歌詞が付いています。
    ロシア語歌詞の大意は次のようにソ連的な健全調になっています。
「青い海のそばにあなたと私。空には太陽が輝き、カモメが輪を描いて飛びながら、空と海のように仲良しの私たち二人を祝福しているわ。沖ではイルカが泳ぎ、船が出航していく。だけど、どこへ行ったって、この国より素敵な国があるはずはないわ。」


これももとは詩


1. 誰がために鐘は鳴る

ヘミングウェーの名作ですが、この題名は小説の冒頭にも掲げられているイギリスの詩人ジョン・ダンの詩に由来します。

    なんぴとも一島嶼にてはあらず
    なんぴともみずからにして全きはなし
    ひとはみな大陸の一塊 本土のひとひら
    そのひとひらの土塊を 波のきたりて洗いゆけば
    洗われしだけ欧州の土の失せるは
    さながらに岬の失せるなり
    汝が友どちや汝みずからの荘園の失せるなり
    なんぴとのみまかりゆくもこれに似て
    みずからを殺ぐにひとし
    そはわれもまた人類の一部なれば
    ゆえに問うなかれ 誰がために鐘は鳴るやと
    そは汝がために鳴るなれば

読み方:大陸の一塊(くがのひとくれ)、土塊(つちくれ)、失せる(うせる)、汝が(なが)、汝みずから(なれみずから)、荘園(その)、殺ぐ(そぐ)
上の訳詞は大塚康雄訳「誰がために鐘は鳴る」から引用しました。もとの詩は非常に長いものです。上に引用した部分の原文を下に示します。

    No man is an island, entire of itself;
    every man is a piece of the continent, a part of the main.
    If a clod be washed away by the sea, Europe is the less,
    as well as if a promontory were,
    as well as if a manor of thy friend's or of thine own were:
    any man's death diminishes me,
    because I am involved in mankind,
    and therefore never send to know for whom the bell tolls;
    it tolls for thee.

これはジョン・ダン( John Donne, 1572-1631 )の Devotions upon Emergent Occasions という非常に長い詩の一部です。ジョン・ダンは英国の詩人で、このような宗教詩あるいは説教詩の他に、諷刺詩、書簡詩、恋愛詩なども遺しています。

ジョン・ガンサー著「死よ驕るなかれ Death Be Not Proud」という本(中野好夫・矢川徳光訳、岩波新書)もジョン・ダンの次の詩句から題を採ったそうです。

    Death, be not proud, though some have called thee
    Mighty and dreadful, for thou art not so;

    死よ、驕るなかれ、たとえお前は強く恐ろしいものだと
    言われることがあろうと、実際はそうではないのだから

また、トマス・ハリスの「羊たちの沈黙」にも A Feaver という詩から次の詩句が使われているそうです。

    O Wrangling schools, that search what fire
    Shall burne this world, had none the wit
    Unto this knowledge to aspire,
    That this her feaver might be it?

    この世界を焼きつくすはずの火が何かについて
    学者先生がたは口論しているが
    彼らのだれも、あのひとの熱がその火かもしれないと
    思ってみる智恵すらなかったのか

(Mar. 2005)


この項はこれでいったん終了します。また、何か思い付いたら付け足しますが。

参考文献:
海潮音、上田敏訳詩集(上田敏著、新潮文庫、2002)
ドイツ名詩選(生野幸吉、檜山哲彦編、岩波文庫、2002)
フランス名詩選(安藤元雄、入沢康夫、渋沢孝輔編、岩波文庫2004)
イギリス名詩選(平井正穗編、岩波文庫、2004)
井伏鱒二全詩集(井伏鱒二著、岩波文庫、2004)
全釈歴代中国詩選(山田勝美著、福音館文庫、1967)
国歌と民謡(林文夫、椎葉恭一編、野ばら社、1964)
唱歌(野ばら社編集部編、野ばら社、1985)
英語の歌(河野一郎著、岩波ジュニア新書、1991)
The Best! Connie Francis(CD、ポリドール)
黒い瞳から百万本のバラまで ロシア愛唱歌集(山之内重美著、ユーラシア・ブックレット31、東洋書店、2002)
J-POPS 歌って楽しむフィリピノ語(発行:アドマーズ、発売:東洋出版、2000)
中国語で歌おう!(ファンキー末吉・古川典代共著、アルク、2000)

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