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目次・索引

元素の名前

このページでは原子番号21以降の原子について書いて行きます。まずは下のをお読みになってから御利用下さい。元素の目次へ

:各項の最初にいくつかの言語による名称を列挙します。「希」は現代ギリシャ語、「羅」は現代使われているラテン語です。古代時代には元素の多くはまだ発見されていませんでしたから、古典ギリシャ語や古典ラテン語にその言葉があるはずはありません。
    「中」は中国語の普通話(北京語を基礎とする共通語)の名称をピンインで表記します。()の数字は「声調」を表します。漢字はそのうち一覧にしますが、すべての元素が漢字1字で表されています。その大部分は特別に作られた文字です。(中国では昔から、新しい言葉を取り入れる時に漢字までも作ってしまうことがあります。「葡萄」もそういう例の一つだそうです。)
    これらの特殊な漢字の圧倒的多数には「カネヘン」が付いています。中国で使っている簡体字の「カネヘン」は日本の漢字と形が少し違いますが、これが付いていたら金属です。非金属のうち、常温で気体のものは「气(キガマエ)」、固体のものは「石(イシヘン)が付きます。「カネヘン」も「キガマエ」も「イシヘン」も付かないのは「金」と「汞(水銀)」と、サンズイに臭(点あり)を書いて臭素を表す文字の計3つだけです。(サンズイが付く文字は臭素だけです。なぜでしょう。のちほど書きます。)

元素の目次

1.

水素

2.

ヘリウム

3.

リチウム

4.

ベリリウム

5.

ホウ素

6.

炭素

7.

窒素

8.

酸素

9.

フッ素

10.

ネオン

11.

ナトリウム

12.

マグネシウム

13.

アルミニウム

14.

ケイ素

15.

リン

16.

硫黄

17.

塩素

18.

アルゴン

19.

カリウム

20.

カルシウム

21.

スカンジウム

22.

チタン

23.

バナジウム

24.

クロム

25.

マンガン

26.

27.

コバルト

28.

ニッケル

29.

30.

亜鉛

31.

ガリウム

32.

ゲルマニウム

33.

ヒ素

34.

セレン

35.

臭素

36.

クリプトン

37.

ルビジウム

38.

ストロンチウム

39.

イットリウム

40.

ジルコニウム

41.

ニオブ

42.

モリブデン

43.

テクネチウム

44.

ルテニウム

45.

ロジウム

46.

パラジウム

47.

48.

カドミウム

作成途中

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21.  Sc スカンジウム

英:scandium

スキャンディアム

仏:scandium

スカンディヨム

独:Skandium

スカンディウム

中:kang (4)

カイ

中国語の漢字は金篇に「亢」です。英仏独の名称はスカンジナビアのラテン語名 Scandia に由来します。この元素ははじめスカンジナビアにしか産出しないと思われていました。

スカンジウムは柔らかい銀白色の金属で、原子番号がもっとも小さい希土類元素です。その名にふさわしく非常に稀な元素で、広く世界各地の鉱物、鉱石中に微量(1%以下)が含まれますが、世界の生産量は年間たったの50キログラムほどで、金や白金以上に高価なものなのだそうです。主な産地はノルウェーとマダガスカルです。スカンジウムという名称は発見者ニルソンがこの元素はスカンジナビアにしか産出しないと考えたためです。

古くは金属酸化物が「土(earth)」と呼ばれたことはアルカリ土類金属のところで書きましたが、「希土類元素」の名称も、古くは比較的希少であった鉱物から得られ、その酸化物が「希土 rare earth 」と呼ばれたことに由来します。
    希土類元素は周期表3族(3A族)のスカンジウム、イットリウム、およびランタノイド元素を含めた17元素の総称ですが、狭義にはランタノイド元素15個だけを言うこともあります。古くはその名の通り産出が希(まれ)でしたが、現在ではスカンジウム以外はむしろ豊富にあることがわかっているそうです。ちなみに、昔どこかのメーカーのテレビにキドカラーというのがありましたね。実は「キド」は「希土」なのだそうです。

ディミトリ・メンデレーイェフ(Dimitri Mendeleyev)は 1869年に元素の周期表を考案した時、隣り合ったカルシウムとチタンとに原子量の差があり過ぎることに気付き、この間には中間の原子量を持つ元素があるはずだと考えました。彼はこの元素が3族に属し周期表でホウ素の下に位置すると考えて ekaboron(エカホウ素)と呼び、その酸化物の形をXツーOスリーと推定しました。(注:短周期型の周期表ではホウ素は3族です。)
    それから10年後の1979年、スウェーデンのウプサラ大学の教授であったニルソン( Lars Fredrik Nilson 1840ー99)が実際にこの元素を発見し、原子量が予想通り 44、密度が 3.86g/D(予想は 3.5)であることを示して、メンデレーイェフの考えが正しかったことを実証しました。

eka-はサンスクリットに由来する接辞で、物理学・化学では未知の元素の名前に用い、「周期表の同族欄の・・・の下の空位に入る」という意味で使います。つまり、ekaboron とは boron(ホウ素)と同じ3族で、周期表でホウ素の下の空位に入る元素、という意味です。これまでに使われた例として他に、ekaaluminium(エカアルミニウム、現ガリウム)、ekasilicon(エカシリコン、現ゲルマニウム)、ekacecium(エカセシウム、現フランシウム)、ekahafnium(エカハフニウム、現ラザフォルジウム)があります。また原子番号114 に当たる元素は ekalead(エカレッド、エカ鉛)と呼ばれているそうです。このように仮に名付けられた元素を一般に ekaelement(エカ元素)と呼びます。
    ちなみに、やはり未知の元素を表す接辞として dvi-(ドヴィ)がありますが、これはサンスクリットの「2」に由来します。周期表の同族欄で次の次に来る元素をあらわすとのことで、レニウムはかつて dvimanganese(ドビマンガン)と呼ばれたそうです。

スカンジウムの用途としてはいくつか独特のものがあるようですが、その一つは農業分野にあります。トウモロコシ、エンドウ、コムギなどの種子を硫酸スカンジウムの薄めた溶液で処理すると、発芽が促進されるのだそうです。

スカンジウムは比重 2.992 でアルミニウム(比重 2.7)に次ぐ軽い金属です。しかも融点は 1541℃でアルミニウム(660.37℃)より900℃近くも高いため、将来は航空機や宇宙船への利用も考えられるかもしれません。価格の大幅な違いを乗り越える必要はあるでしょうが。また、現在、自転車のフレームにスカンジウムを使ったものがあるようですが、この利点については私は存じません。

(Aug., 2005)

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22.  Ti チタン

英:titanium

タイテイニアム

仏:titane

ティタヌ

独:Titan

ティターン

蘭:titaan

ティターン

中:tai (4)

タイ

中国語の漢字は金篇に「太」です。「タ」は帯気音で、強く息を出しながら発音します。

フランス語ドイツ語オランダ語はどれも「タ」にアクセントがあります。語尾はフランス語で「ヌ」、ドイツ語・オランダ語で「ン」としてありますが、基本的にはどれも [ n ] の音です。フランス語では軽く曖昧な母音が続きますので「ヌ」と表記しました。日本語式に「ティタン」と言うと titang の様に聞こえ、フランス語にもドイツ語、オランダ語にもなりません。
    ちなみに、英語例によって「タイテイニアム」と訛りますが、アクセントは「テイ」のところにあります。
    日本語の名称はドイツ語、あるいはオランダ語から入ったものと思われます。「チタニウム」と呼ばれることもありますが、正式名称ではありません。

これらの元素名はギリシャ神話に出てくるティーターン族(the Titans)という巨人の神族の名に由来します。この巨神族の名は英、仏、独、蘭でそれぞれ Titan(タイタン)、titan(ティタン)、Titan(ティターン)、titan(ティタン)で、ドイツ語だけが元素名と同じです。ちなみに、フランス語の語尾は [ n ] でなく、「タン」は「タ」の鼻母音で、むしろ日本語の「タン」に近く発音されます。

命名者はドイツのクラプロート(Martin Heinrich Klaproth)で、1795年、ルチルという鉱物から新しい金属元素を発見し「チタン titanium 」と名付けました。実はこれに先立つ1791年に、イギリスの牧師グレガー(William Gregor)が未知の金属酸化物の発見を発表して menachanite と名付けており、後にこれを知ったクラプロートもこの鉱物が「チタン」を含むことを明らかにしましたが、元素名としては「チタン」が採用されました。

クラプロートもグレガーも単体の金属チタンを目にすることはありませんでした。クラプロートを含め多くの化学者が単離を試みましたが果たせず、スウェーデンのベルツェーリウスが1825年に成功したという話もありますが、どうも、これもまだ不純物を含んでいたようです。最終的に、99.8%の単体を取り出したのはアメリカのハンター(M. A. Hunter)で、1910年のことです。

ティーターン
チタン(titanium)の語源である Titan はギリシャ神話のティーターンです。ティーターンは、大地の女神ガイアが生み出した多くの神々のうち、ガイアとウラノス(天空の神)との間に生まれた12神、及びその子孫を指す種族名です。 英語では種族全体を the Titans(ザ・タイタンズ)、そのうちの一人を a Titan と言いますが、日本語ではティタン神族、あるいは彼らが巨人であったことからティタン巨神族とも呼ぶようです。
    12 神の名はオケアノス(Oceanus)、コイオス(Coius)、クレイオス(Crius)、ヒュペリオン(Hyperion)、イアペトス(Iapetus)、クロノス(Cronus)の男神と、テイア(Thea)、レア(Rhea)、テミス(Themis)、ムネモシュネ(Mnemosyne)、ポイベ(Phoebe)、テテュス(Tethys)の女神です。(注:日本語名は原則的にギリシャ語に基づきます。カッコ内は英語名です。)
    イアペトスとテミスの間からはアトラス、プロメテウス、エピメテウスの3神が生まれました。アトラスはゼウスの罰によってその肩で天空を支える運命となったことで知られています。
    ちなみに、初期の地図帳の表紙にこのアトラスが描かれていたことから、英語では地図帳を atlas(アトラス)と言うようになりました。
    プロメテウスはゼウスの命によって人間を作り出し、さらにゼウスに逆らって人間に火を与えました。このため罰としてコーカサス山中に張り付けにされ、生きながら肝臓を禿鷲に食いちぎられることになります。しかも不死の神である故に、この拷問は後にヘラクレスによって助けられるまで、無限とも思える永いあいだ続きます。エピメテウスはゼウスの計略によって絶世の美女パンドラを送られました。この美女があのパンドラの箱をあけることになります。

ゼウスはクロノスとレアとの間に生まれました。ですから元はティーターンなのですが、クロノスを中心とするティーターンの支配に叛旗を翻し、ギリシャの最高峰であるオリュンポスに布陣して壮絶な闘いを繰り広げた後、神々の世界の支配権を握ります。
    この闘いでプロメテウスとエピメテウスはオリュンポス側につきますが、アトラスはティーターン側に残り、その結果前述の罰を受けることになります。
    オリュンポス神族とティーターン神族とのこの言わば権力闘争は、ギリシャ民族がバルカン半島およびエーゲ海周辺に移住してきた際の先住民族との闘いを反映し、ティーターン神族は先住民族の神々であったと考える学者もいるようです。

タイタン
英語では Titan はティーターン神族、またそのうちの一人を意味することから発展して、「巨人」一般を表すようにもなりました。たとえば、a titan of British industry と言えば「英国産業界の大物」ということになります。また、 the weary Titan(疲れ果てたタイタン)と言えば、天を双肩に支えるアトラス、ひいては、かつての英国のような「老大国」を意味します。
    タイタンは米空軍の ICBM の名前にもなっています。また、土星の衛星のうち最大のものも Titan と名付けられています。
    ちなみに、この衛星は最近、英語読みで「タイタン」と呼ばれることが多いですが、ティタンやチタンと呼ぶこともあります。半径 2575 km で、木星の衛星ガニメデの 2634 km に次ぐ太陽系第2の大衛星です。なんと、水星の 2440 km、冥王星の 1137 km よりも大きいのです。まさに「巨人」の名にふさわしいと言えましょう。参考までに、地球の半径は 6378 km、月は1738 km です。
    衛星タイタンは 1655 年オランダのホイヘンスによって発見されました。(ちなみに、木星の衛星ガニメデはイオ、エウロパ、カリストともに 1610 年、ガリレオによって発見され、この4つはガリレオ衛星と呼ばれます)。ついでながら、2005年8月現在、土星には33個の衛星があります。タイタンにはその軌道上に探査船カッシーニが周回し、その表面には1月に探査機ホイヘンスが着陸しました。

タイタニック
タイタニックというと、まず、1912 年大西洋に沈没した英国の豪華客船タイタニック号( the Titanic )を思い浮かべる方が多いかと思います。
    Titanic は本来 Titan の形容詞形で、「 タイタン神族の」の意味ですが、それから発展して一般に「巨大な、怪力の、大物の、重要な」を意味するようになりました。この場合は普通、小文字で titan と書きますが、タイタニック号の場合はもちろん固有名詞ですから大文字です。また、英語の化学用語としてはチタンの形容詞「チタンの」の意味でも使います。

金属界の巨人
現在においてはその名が示すとおり、チタンはアルミニウムと並んで金属界の「巨人」的存在ですが、金属材料として工業的に実用化され始めたのは 1947 年あたりからだそうです。発見された当時はバカに大袈裟な名前と見られたに違いありません。命名者クラプロートは、titanium という名を選んだ理由として、それ自体に何の意味もなく過った連想を生まないからと言ったそうですが、クラプロートの意図とは裏腹に、嘘から誠と申しますか、瓢箪から駒と申しますか、チタンは今や名実共に「巨人」となりました。

チタンは銀白色の光沢のある金属で、アルミニウムの約 1. 7 倍と比較的軽く、強度はアルミニウムの約6倍、鉄の約2倍あります。その上、極めて腐食されにくく、耐熱性に優れており、価格が高いことを差し引いても余り有ります。
    金属チタンは毎年9万トンくらい生産され、その3分の2もが航空機のエンジンや機体の製造に使われるそうです。航空機エンジンのファン部分にはチタン90%、アルミ6%、バナジウム4%の合金がよく使われるとのことで、ボーイング 747 の4機のエンジンには全部で 4. 5 トンのチタンが使われているそうです。まさに、チタンなしには今日の航空機や宇宙事業の発展はあり得ないと言えましょう。

形状記憶合金
チタンは様々な合金として素晴らしい性質を発揮し、航空機産業以外でも先端技術には不可欠な金属です。上に上げたアルミニウム、バナジウムの他に、モリブデン、タングステン、クロム、ジルコニウム、ニオブ、タンタル、など多くの金属との合金が作られています。たとえば、5%の銅と3%のアルミニウムを含む合金はステンレス鋼よりも2倍硬く、重さは6割しかないそうです。
    また、ニッケル 55%、チタン 45% の合金(NiTi)は眼鏡のフレームなどでおなじみの形状記憶合金です。グニャグニャと曲げても手を離せばまた元の形に戻ります。1960年代にアメリカで開発されました。ニチノールという名前が付いていますが、Nitinol(英語ではニを強く、ニティノル)は Nickel Titanium Naval Ordnance Laboratory からの
アクロニムです。Naval Ordnance Laboratory(海軍兵站研究所)はメリーランド州にあるそうです。

化粧品にもチタン
チタンは極めて腐食されにくい性質をもっていますが、これはこの金属の表面にできる二酸化チタンの膜のためです。この膜は、はじめ1〜2
ナノメートルほどですが、少しずつ厚みを増し、4年くらいで25ナノメートルになります。ほとんどすべての酸やアルカリから内部の金属を保護し、たとえ何かで壊されることがあっても、またすぐに修復されます。
    注:この膜を冒す酸はフッ化水素酸と、リン酸、濃硫酸だけです。
    酸にもアルカリにも冒されにくいために、チタンは航空機以外にもさまざまな用途があります。たとえば、発電所の冷却装置のパイプや、海底油田の掘削装置、スクリューの軸など船舶の絶えず海水にさらされる部分、また一部の潜水艦の船体にも使われているそうです。
    変わったところでは建物の外装にも使われます。スペインのビルバオにあるグッゲンハイム美術館では、33,000 平方メートルに及ぶチタンの板が水辺にあるこの建物を覆い、100年以上にわたって塩の被害を防ぐことになっています。また、香港鉄道の新しい中央駅の屋根は 6,500 平方メートルのチタン板で覆われています。
    二酸化チタンは産業的にもっとも重要なチタン化合物です。化学的に安定で、人体に対する安全性にも問題がありません。純度の高いものは純白で、様々な塗料、着色剤として使われますが、身近なものとしては冷蔵庫や洗濯機の白い塗装に使われています。純白に見えるのはすべての波長の光を反射するためであり、このため化粧品の白色顔料としてだけでなく、紫外線予防化粧品にも使われます。

鬼瓦にもチタン
2007年1月7日付け朝日新聞によれば、東京・浅草寺の宝蔵門の改修工事でふき替えられる瓦が、チタンを材料に広島県北広島町で作られているところだそうです。約350の部品を溶接して作る高さ1.6m幅2mの大鬼瓦2枚をはじめ、大小26枚の瓦が納入されるとのこと。価格は陶器製の2倍ですが、軽量で耐久性に優れるため、屋根にかかる重さが減って地震に強くなるのだそうです。
    チタンは軽くて強いだけでなく落ち着きのある質感が好まれ、2007年1月25日付け朝日新聞によれば、兵庫県高砂市にある鹿島神社の鳥居や、06年秋発売のキャノンのデジカメの胴体もチタン製だそうです。今後も利用が広がると見られ、各チタン材メーカーは増産の準備をしていますが、鉄の50〜100倍程度と高価なことが大量採用の壁となっているようです。

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23.  V バナジウム

英:vanadium

ヴァネイディアム

仏:vanadium

ヴァナディヨム

独:Vanadin、Vanadium

ヴァナディーン、ヴァナーディウム

中:fan (2)

ファン

中国語の漢字はカネヘンに「凡」です。第2声で、ファを低く始め、急速に高めながらファンと言います。
    英語などの語源はスカンジナビアの美の女神 Vanadis に由来します。Vanadis は、北欧神話における愛と美と豊穣の女神フロイアまたはフリーヤ(Freya、Freyja)と同一のようです。
    ちなみに、英語の Friday は Frigedæg( Frigga の日)を語源とし、ラテン語の Veneris dies(ヴィーナスの日)を翻訳したものですが、ここではローマ神話の美の女神ヴィーナス(Venus)の翻訳として、フロイアと同一視されたフリッガが使われています。北欧神話の最高神オーディンの妻フリッガまたはフリッグ( Frigga、Frigg)はしばしばフロイアと同一視されるのだそうです。

2回発見されたバナジウム
バナジウムの命名者はスウェーデンの化学者セフストレーム(Nils Gabriel Sefström 1787-1845)です。スウェーデン産鉄鉱石を原料とする鋳鉄から様々な色を呈する未知の化合物を発見し、これに含まれる元素を美の女神にちなんで Vanadium と名付けました。1831 年のことです。
    ところが、彼とライバルであったドイツのフリードリッヒ・ウェーラーが、新元素発見にこそ遅れを取ったものの、これが既に1801 年メキシコの鉱物学者デルリオ(Andrés Manuel del Rio 1764-1849)が発表していたものと同一であることを確認しました。
    デルリオはメキシコの鉱山から採れた鉛鉱石の中に未知の元素を発見し、その塩が様々な色を呈することから、初めパンクロミウム(panchromium、「あらゆる色」に由来)、後にこの塩を熱したり酸で処理したりすると赤くなることからエリスロニウム(erythronium、「赤い」に由来)と名付けていたのですが、この試料を受け取ったフランスの the French Institute in Paris の化学者がこれをクロム(chromium、原子番号24)に他ならないと発表したのを受けて納得し、自分の「発見」を取り下げてしまっていたのでした。
    という訳で、結局はセフストレームの命名が残ることになりました。

アメフラシとバナジウム
海の生物であるアメフラシウミウシホヤなどにはバナジウム細胞というのがあるそうです。ここには酸化バナジウムと蛋白質が結合してできた色素が多量に含まれていて、酸化バナジウムの種類によって緑、青、オレンジなどの色が出ます。アメフラシ1kg には 0.1 g ものバナジウムが含まれているそうです。しかし、この多量のバナジウムがこれらの生物でどういう働きをしているのかは未だ分かっていません。
    バナジウムがヒヨコラットの生育に必須な元素であることは知られています。これらにおいては、バナジウムが不足すると、成長が遅れたり生殖機能が衰えたりするとのことで、人間にも何らかの働きがあるのではないかと思われます。しかし、人体では体重 70 kg の人で 0.11 mg と非常に少なく、必須かどうかもわかっていません。
    糖尿病患者にバナジウムを経口投与すると改善が見られたという報告がいくつかあります。バナジウムがインスリンの働きをすることが示されたということで、将来的には糖尿病の経口治療薬の開発も期待されます。

戦争とバナジウム
バナジウムを含む鋼はより強く、より軽いために、兵士のヘルメットや、その他の装甲にも使われます。第1次大戦の時、フランス空軍が戦闘機に普通の機関銃ではなく機関砲を備えることができたのもバナジウム鋼のおかげでした。チタンの項でバナジウムとの合金が航空機のエンジンに使われることを書きましたが、バナジウムはチタンと共に、兵器には欠かせない金属のようです。バナジウム合金は錆や、衝撃、振動に対する耐性に優れ、装甲の他にもバネや工具、ジェットエンジンなどに使われています。
    ダマスカスの剣と言えば、そのしなやかさ強さ、特にその切れ味で古来珍重されてきた剣ですが、不思議なことに 1800年代までにはその名声も聞こえなくなってしまいました。John Vanhoeven という材料工学の専門家の最近の研究によれば、ダマスカスの剣の材料となったダマスカスの鋼(=ダマスク鋼、Damascus steel、Damask steel)の秘密は、それが含むわずか 0.02% のバナジウムにあったのだそうです。これはたまたま原料として使われていた鉄鉱石に不純物として含まれていたもので、生産者達はこのことを知らず、この鉱石の枯渇と共にダマスカスの剣の名声も消え去ったというわけです。日本刀もバナジウムを含む砂鉄から作られたものは特に硬くて良く切れるそうです。

フォードとバナジウム
フォードが 1908年に生産を始めたT型車は1927年までに1500万台が作られたそうですが、ギヤ、車軸、シャフト(駆動軸)、バネ、サスペンション(車体懸架装置)など多くの部分がバナジウム鋼で作られていました。1905年のある日、自動車レースを見に行ったヘンリー・フォードは、衝突事故を起こして大破したフランス車のある部品が硬くしかも軽いことに驚き、これを分析させて数パーセントのバナジウムが含まれることを知りました。そして当時アメリカではそのような合金が入手できなかったにも関わらず、新型車をこれで作ることを決断したのでした。フォードは But for vanadium there would be no automobiles!(バナジウムなしには自動車はない。)と言ったそうです。

24.  Cr クロム

英:chromium

クロウミアム

仏:chrome

クロム

独:Chrom

クローム

中:ge (4)

カー

中国語の漢字は金偏に「各」です。g は無気音で、e は英語の「シュワー」のような中舌母音ですから、できるだけ息を出さないようにして、「カー」とも「クー」とも付かないような曖昧な感じで言って下さい。
    英語などは「ロ」にアクセントをおいて発音してください。これらの名称は「色」を意味するギリシャ語 χρωμα( chroma、クローマ)に由来します。「白黒」のことを「モノクロ」とも言いますが、「モノクロ」は英語 monochrome から来ていますから、「クロ」は「黒」ではなく、「クローマ(色)」を意味します。mono は「単なる、唯一」という意味のギリシャ語 μονος に由来します。

クロムは 1798年フランスのボークラン(Nicholas Louis Vauquelin 1763-1829)によって発見され、その酸化状態によって紫、赤、黄、緑など多様な色に変化することから、ギリシャ語の「色」に由来する名前を付けられました。ルビーの赤エメラルドの緑はこれらの宝石に含まれるわずかな酸化クロムによるものです。
    ボークランが発見したのは3価のクロムイオンでしたが、金属クロムを始めて得たのはドイツのゴルトシュミットで、1899年のことだそうです。クロムはわずかに青みを帯びた銀色の硬い金属です。

クロムメッキ
クロムメッキはよく知られていますが、青色を帯びた光沢面の美しさに加えて、丈夫で摩擦や錆にも強いため、自動車などの装飾部分や家庭用器具などに利用されます。
    ついでながら、メッキは漢字では「滅金」あるいは「鍍金」と書かれますが、語源は日本古代において仏像に金メッキをするのに用いた金のアマルガムを「滅金」と呼んだことに遡ります。「鍍金」は本来漢語で「ときん」と読みますから、「めっき」と読むのはいわゆる当て字です。なお、「アマルガム」は水銀と他の金属との合金の総称です。水銀の中に金を入れると、金が水銀に溶け込んであたかも無くなってしまうかのように見えることを考えると、「滅金」という命名も納得できる気がします。

ステンレス
12%以上のクロムを含む鉄との合金はステンレス鋼(stainless steel)と呼ばれ、高い強度と耐腐食性を持っています。さらにニッケルやマンガンを含むニッケルステンレス鋼、マンガンステンレス鋼もあります。合金中のクロムは、水や酸また高温などによる腐食を防ぐ働きをしています。特にクロム 18%、ニッケル 8%のステンレス鋼は 18-8 ステンレス鋼と呼ばれ、御家庭でも包丁などでおなじみだと思います。クロムとニッケルの合金は強度が高く、高温にも強いため、電子レンジなどの家庭製品にも利用されているそうです。
    ちなみに、ステンレスは英語のstainless(ステインレス)で、stain は本来「染み、よごれ」の意味です。stainless は「染みやよごれがない」という意味から拡張されて「錆びのない」という意味で使われています。

ニクロム線
電熱器などでおなじみのニクロム線はニッケルとクロムの合金で出来ています。ニッケルが60〜90%、クロムが 35〜10%、その他、鉄、マンガンなどが少量含まれるそうですが、「ニクロム Nichrome 」はこの合金の商品名です。ニクロムは高温でも酸化されにくく、耐食性があります。(注:Nichrome は英語では「ナイクロウム」のように発音します)

6価クロム
メッキや染色、皮なめしなど、クロムを扱う産業では、昔からクロム化合物の毒性が問題になっていました。クロム化合物が皮膚や粘膜につくと、その強い酸化作用によって付着部位を冒し、やがてそこに穴を開けてしまいます。胃潰瘍や肺ガンを引き起こすこともあります。このような毒性を持つのは主に6価のクロム化合物で、金属クロムや3価クロム化合物には毒性がないとされていますが、3価クロム化合物の発ガン性を疑う考えもあるようです。また、6価クロム化合物が3価クロム化合物に還元される過程で作られる5価クロム化合物にも発ガン性が疑われているそうです。
    普通「6価クロム」と言われるのは
酸化数6のクロム化合物の俗称だそうで、クロム酸カリウム、2クロム酸カリウム、クロム酸鉛、2クロム酸ナトリウムなどがあります。皮なめしは、6価のクロム酸塩から生ずるイオンが皮の蛋白質中に含まれるチオール基(-SH)を酸化してジスルフィド形(-S-S-)に変え、蛋白質を変性させる反応を利用しています。6価クロムが人体に入ればこれと同じ反応が起こるわけで、上述の症状を引き起こすことになります。(注:「2クロム酸」はふつう漢数字「二」で書かれるようですが、「二クロム酸」と書くと「ニクロム」と紛らわしいので、ここでは「2」を使いました)

酸化数
ここで酸化数について説明しておきます。といっても専門外のことですので、ごく大雑把な話になります。詳しくは化学の参考書にあたってください。
    酸化数とは、酸化・還元の考え方から統一的に、原子や化合物に含まれる電子の状況を示す数字のようです。ところで、酸化とは電子を失うこと、還元とは電子を受け取ること定義されるのだそうです。
    たとえば、水素原子を考えてみると、陽子1個からなる原子核の周りに電子が1個あります。この状態では電気的に+の陽子と電気的にーの電子とがつり合っており、酸化数は0となります。同様に他の元素も単体の時の酸化数は0です。
    この水素原子が電子を失って水素イオンとなっているときは、電子1個分だけ酸化されているわけで、酸化数は+1ということになります。これに対し、HCl(塩化水素)を作っている塩素イオンは電子を1個余分に取り組んだ状態にあり、酸化数ー1です。さらに、MgClツー(塩化マグネシウム)を見ると、マグネシウムイオンは2つの塩素イオンとつり合っていることから、酸化数+2であることがわかります。また、HツーO(水)から酸素イオンの酸化数はー2だとわかります。
    イオンを書き表わすときは、元素記号の右肩に小さくアラビア数字で酸化数の絶対値とプラス・マイナスの記号を添えます。このとき酸化数が1ならば、記号だけを添えます。たとえば、マグネシウムイオンは Mg の右肩に小さく2+を添え書きし、酸素イオンなら O に2ー、水素イオンは H に+だけ、塩素イオンは Cl にーだけ、という具合です。そしてこのとき、マグネシウムは2価の陽イオンになっているとか、塩素は1価の陰イオンになっているとか言います。

元素を大別すると、酸化数が1ないしごく少数に決まるものと、いろいろな酸化数になりうるものとがあります。マグネシウムは2価の場合しかなく、水素も1価が普通ですが、なかにはバナジウムやクロムのようにいくつもの酸化数を持つものもあります。上に出て来た「6価クロム」とか「3価クロム」とかの「6価」や「3価」はそれぞれの化合物の酸化数を表します。同じ元素やその化合物でも酸化状態によって性質が異なり、また特にバナジウムやクロムは酸化状態によって様々な色を呈することでも良く知られています。

遷移元素は遷移しない?
クロムやバナジウムの説明を読むと、しばしば「遷移元素 transition elements 」という言葉が出て来ます。ここで、ちょっと「遷移元素」について私に分かる範囲で説明しておきましょう。
    「遷移元素」と呼ばれるのは、周期表の3族から11族(12族を含めることもある)の元素で、すべて金属であることから「遷移金属」とも言います。クロムも遷移元素の1つです。鉄や銅、金、白金、ニッケルなどのおなじみの金属も遷移元素です。ちなみに、「遷移元素」以外の元素は「典型元素」と呼びます。つまり、すべての元素は典型元素と遷移元素とに2分されるのです。
    遷移元素は典型元素ほど族ごとの共通性が顕著でなく、遷移元素全体としての共通性が目立ちます。すなわち、単体が高融点の硬い金属であることや、いろいろな酸化数を持つこと、化合物が様々な色を呈することなどで、すでにお話したクロムの特徴もこれに合致します。

ところで、「遷移元素」の「遷移」とは「移り変わる」という意味です。英語の transition も同様ですが、ときに「過渡期」と訳されることもあります。海外旅行などで耳にする「トランジット(通過 transit )」も関連した言葉です。どれも、現状が常態ではなく他の状態に移り変わる過渡期にあるということを表しています。しかしながら、「遷移元素」に属する元素を見ても「何かに移り変わるような」性質は見つかりません。なぜこんな名前が付いたのでしょう。

その答は、「遷移元素」という言葉が生まれた歴史にあります。
    現在私たちが普通に目にする周期表は1族から18族までが並んだ長周期型ですが、メンデレーエフが1871年に発表した周期表は短周期型と呼ばれるもので、元素は I 族から VIII 族に分類され、さらに I 族から VII 族が2つの亜族に分けられていました。
    現在の周期表を見ると族の数字が2種類書いてあるのに気付くと思います。このうちの普通はカッコに入れられている I A、II A、III A、、、I B、II B、III B、、、 などのAとB を合わせて表示すれば短周期型の周期表になります。
    メンデレーエフの周期表もこれに近いものでしたが、11族( I B 族)の銅、銀、金は8族、9族、10族と共に VIII 族にまとめて入れられていました。しかも、希ガス類はまだ発見されていませんでしたので、0族(長周期型の18族)はありませんでした。ちなみに当時わかっていた元素は 63 種だったそうです。
    メンデレーエフは元素を
原子量の順番に並べていくと、水素を除いて最小の原子量をもつ7元素(リチウム、ベリリウム、ホウ素、炭素、窒素、酸素、フッ素)は互いに著しい性質の差があるものの VIII 族を過ぎると再びこの7元素に性質が似た元素が順次現れることに気付きました。そこで、この7元素に性質の似た元素はそれらに代表される族( I 〜 VII )に分類し、7つのどれにも属さない元素を VIII 族に入れて VII 族から I 族への過渡的な元素、すなわち「遷移元素」としたのです。

その後、希ガス元素が発見されて VIII 族と I 族との間の0族に分類され、量子力学の発展により元素の性質が電子の配置状態に起因することが分かって「遷移元素」の範囲も拡張され、その結果「遷移」と呼ぶ意味は無くなってしまったのですが、言葉はそのまま残ったというわけです。

電子の軌道
現在では、「遷移元素」は「d 殻が完全には満たされていない原子、またはそのような陽イオンを生ずる元素」と定義されています。これを理解するためには、まず、原子核の周りにある電子の軌道を理解する必要があります。そこで、簡単にその説明をしておきます。ただし、これも私に理解できたところまでですから、詳しくは専門書にあたって下さい。

一般的には、原子は原子核とその周りを回る電子とから出来ていると言いますが、電子が原子核の周りを回るというのは、実は、惑星が太陽の周りを回るというような単純なものではありません。惑星は常に一定の軌道上を動いていて、現在どこにあるのかを計算で知ることができます。ところが、電子の場合は、だいたいこの辺りにある確率が高いということしか分かりません。したがって、電子の軌道というのは、1本の線を頭に描いては間違えで、むしろもやもやっとした「雲」をイメージして、そのどこかに電子があると考えるべきものなのだそうです。この、電子が高い確率で存在すると考えられる空間を「電子雲 electron cloud 」と呼びます。大雑把に言えば、この「電子雲」こそが「電子の軌道」なのです。

「電子雲」にはいろいろな形があります。s 軌道と呼ばれるものは原子核を中心とする球形です。p 軌道と呼ばれるものは、ラグビーボールを縦につないだような形で、つなぎ目の所が原子核です。軌道の向きによって3通りあり、立体座標の x 軸、y 軸、z 軸のように直交しています。d 軌道はラグビーボールを4つつないで四葉のクローバーみたいになった形をしています。これには5通りあり、直交しながら5方向に広がっています。原子番号58のセリウム以降には f 軌道というのもあって、これには7通りあるとのことです。
    s、p、d、f はそれぞれ sharp(くっきりした)、principal(主要な)、diffuse(広がった)、fundamental(基本的な)の頭文字で、分光学でスペクトル線の様相を表すのに使われた言葉に由来するそうです。なお、実在の原子の基底状態(エネルギーがもっとも低い状態)では現れませんが g 軌道、h 軌道というのもあり、これはただ f に続くアルファベットを利用しただけのようです。(注:f には faint、fine という説もあります。)

「電子の軌道」の全貌はさらに複雑です。上にお話したのは一つ一つの軌道の形ですが、全体的に見ると、これらの軌道が原子核からの距離によってまとまりを作っており、同じまとまりの中には1ないし数種類の軌道が入っています。
    この軌道のまとまりのことを電子殻といいます。ただし、殻(かく)と言っても卵の殻(から)のように堅くもありませんし見えるわけでもありません。これらの電子殻を、原子核に近い方からK殻、L殻、M殻、、、Q殻と呼びます。K、L、M の記号は初期のX線の研究に用いられたものを流用したのだそうですが、なぜ K から始まるのか、今のところ私には分かりません。

K殻、L殻、M殻、、、Q殻はそれぞれ4種類の軌道(s、p、d、f )のうち1〜4種から成っています。この構造を表記する場合、K殻、L殻、M殻、、、Q殻を主殻と呼び、その中の4種類の軌道(s、p、d、f )を副殻と呼びます。そして、たとえば、K主殻の s 副殻とか、L主殻の p 副殻とか呼んで区別します。
    厳密に言うと、K主殻には s 副殻しかありません。L主殻には s 副殻と p 副殻があり得ます。M主殻には s、p、d の副殻が入ることが出来ます。N主殻は s、p、d、f の副殻が入ります。O主殻からQ主殻は基底状態でありうる場合だけを挙げると、それぞれ、 O主殻が s、p 、d、f の副殻、P主殻が s、p、d の副殻、Q主殻は s 副殻だけです。
    記号では、主殻を1〜7で、副殻を s、p、d、f で表して、K主殻の s 副殻は 1s とか、L主殻の p 副殻は 2p とかのように書きます。
:主・副を省いて簡単に、K殻の s 殻とか言うこともありますので、以下の記述はそれにならいます。

電子は1つの軌道に2つまで入ることが出来ます。s 殻は1通りの s 軌道から成りますから入り得る電子の数は2個です。p 殻は3通りの p 軌道から成りますから、電子は6個まで入ります。同様に、d 殻は 10個まで、f 殻には14個まで電子が入り得ます。
    具体的な例を挙げますと、たとえば、水素原子は1個の電子をもっていますが、この電子は原子核に一番近い K殻の s 殻(1s )にあります。原子番号2のヘリウムは電子を2個もっていて、この電子はやはり 1s にあります。次のリチウムになると電子が3個ですから、1s に2つ入った上に、2s(L殻の s 殻)にもう一つ入ります。
    これらの原子の電子配置を記号で表しますと、水素は 1s、ヘリウムは 1s2、リチウムは 1s22s1 となります。ただし、緑色で表記した数字は実際には s、p 、d、f の右肩に小さく書かれ、これがそれぞれの副殻にある電子の数を示しています。(緑色の数字を合計すればそれぞれの原子が持つ電子の数、すなわち原子番号に等しくなります。)
    同じようにして、ベリリウムの電子配置は 1s22s2ホウ素は 1s22s22pとなります。その後原子番号が増えるに従って電子が1個ずつ増え、ネオンになると 1s22s22p6 となって、K殻とL殻がすべて埋まります。そして次の原子番号11のナトリウムの電子配置は 1s22s22p63s1 です。

おのおのの原子には原子番号の数だけ電子が入っています。水素の1個から始まって原子番号が増えるにつれ電子も1個ずつ増えていきますが、この時、電子は、エネルギーが低い軌道が開いていれば、まずその軌道に入ろうとします。エネルギーが低い方が安定であり自然はふつうの状態では安定を好むのだそうです。
    電子軌道のエネルギーは原子核に近いものほど低く、K、L、M、N、の順番で高くなります。また、それぞれの主殻の中では s 殻がもっとも低く、 s、p、d、f、の順番に高くなります。同じ主殻に属す同じ副殻の中の各軌道は同じエネルギーです。( p 殻には3つの p 軌道、d 殻には5つの d 軌道、f 殻には7つの f 軌道があり得ます。)
    上の理屈だけからすると、1s、2s、2p、3s、3p の順番にエネルギーが高くなってゆき、次は 3d、4s、となるはずですが、実際は逆に 4s、3d、の順番になっており、ほんのわずか3d の方が4d よりエネルギーが高いのだそうです。この後でもいくつかの逆転が見られ、4p、5s、4d、5p、6s、4f、5d、6p、7s、5f、6d の順番になっています。
    というわけで、水素からナトリウムまでの電子配置は上に書きましたが、次の原子番号12マグネシウムは 1s22s22p63s2 となりM殻の s殻まで埋まります。原子番号13のアルミニウムになると次のp殻にも電子が1個入って 1s22s22p63s23p1 となります。その後順次 p殻の電子が増えていって、原子番号18 アルゴンになると 1s22s22p63s23p6 となってM殻のp殻までが埋まります。

次に電子が入るのは、副殻の順位だけを考えれば d 殻のはずですが、実際は上に書いたように、3d(M殻のd殻)よりも先に4s(N殻のs殻)に入ります。したがって、原子番号19カリウムの電子配置は 1s22s22p63s23p64s1 になります。
    その次の原子番号20カルシウムで 1s22s22p63s23p64s2 となり4sが埋まって始めて、次の原子番号21スカンジウムで3dにも電子が入り、 1s22s22p63s23p63d14s2 となります。ここから原子番号29の銅までが第1列目の遷移元素です。これらの電子配置の Sdと4sの部分だけを下に並べます。(始めの2桁の数字は原子番号。これより前の配置はアルゴンと同じです。)

21:   3d14s2
22:   3d24s2
23:   3d34s2
24:   3d54s1
25:   3d54s2
26:   3d64s2
27:   3d74s2
28:   3d84s2
29:   3d104s1

d殻がだんだんと埋まっていく様子が分かると思います。ここでもう一度、遷移元素の定義「d 殻が完全には満たされていない原子、またはそのような陽イオンを生ずる元素」を思い出してください。銅では d殻に10個の電子が入って満杯になっていますが、銅には2価の陽イオンもあり、この場合の電子配置は 3d9 となっています。

また、12(II B)族の亜鉛、カドミウム、水銀は d殻が完全に詰まっていますので上の定義に当てはまりませんが、周期表上でそれぞれの前にある元素との類似性から遷移元素に含めることもあります。

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25.  Mn マンガン

英:manganese

マンガニーズ

仏:manganèse

マンガネーズ

独:Mangan

マンガーン

蘭:mangaan

マンガーン

中:meng (3)

マン

中国語の漢字はカネヘンに「孟」です。「マ」は「マ」と「ム」の中間のような曖昧な音です。第3声ですから、低く始めて「マー」と押さえるように下げ、そこから徐々に上がって「ン」が高くなります。「ン」は日本語の「ん」のつもりで発音して下さい。英語で言えば、sin の n ではなくて sing の ng の音です。「マング」と書いてあることもあるかもしれませんが、「グ」を言ってはいけません。ついでながら、英語の sing も「グ」を発音してしまってはダメです。

英語などの語源には諸説がありますが、有力と思えるのは、ラテン語の magnes(磁石)から、または更に遡って magnesia(マグネシア、そこに産する各種の鉱物)から名付けられたとする説です。マグネシアのうちの magnesia nigra(黒いマグネシア=二酸化マンガン)に由来すると書いてある本もあります。
    なぜ「磁石」に由来するかについては、マンガンの主要な鉱石である軟マンガン鉱( pyrolusite パイロルーサイト=二酸化マンガン)に軽い磁性があるからとした本もありますが、日本大百科全書には軟マンガン鉱が鉄鉱石と一緒に見い出されることが多いことから磁性を持つものと間違えられたためとしています。

ただ、magnes にしろ magnesia にしろ gn と綴られているものが manganese では何故 ng になっているのかという疑問が残ります。
    これに関連して、「元素111の新知識」には「当初、鉱石マンガナスに由来してマンガネシウムと名付けられたが、1808年にデーヴィーによりマグネシウムが発見されたため、両者はまぎらわしいとして、ドイツのクラップロート(ベリリウムの命名者)がマンガンと呼ぶように提案した」という記述があります。
    「マンガナス」という鉱石が本当にあれば実に都合がよいのですが、「マンガナス」も「マンガネシウム」も他の本には記述がなく確認できません。ただ、同じく magnes を語源とする2つの元素を区別するために綴りを少し変えるということは有り得ると思います。

もう一つの説として、ガラス製造の際に淡い青緑色が出てしまうのを防ぐために古くから軟マンガン鉱が使われていたことから、「きれいにする、浄化する」という意味のギリシャ語 manganizo、または「魔法」を意味するギリシャ語 manganon から名付けられたとするものがあります。「魔法」については古代ギリシャ語に μαγγανευμα(マンガネウマ)がありますが、manganizo の方は辞書に見当たらず、確認ができません。
    この淡い青緑色は原料の砂に含まれるわずかな2価の鉄イオンによって引き起こされるのだそうですが、これを消して無色透明なガラスを作るために、早くも古代ローマの時代からマンガン化合物が使われていました。この化合物は sapo vitri(ガラスの石鹸)と呼ばれていましたが、恐らくはパイロルーサイト(二酸化マンガン)であったと思われます。これはまた、陶器製造の際の黒色着色剤としても使われました。

マンガンは遷移元素の例にもれず、様々の酸化状態で存在し、その化合物も酸化数によって異なる色を持っています。4価の二酸化マンガンは黒色ですが、2価の塩化マンガンや硫酸マンガンは淡紅色、6価のマンガン酸カリウムは深緑色、7価の過マンガン酸カリウムは赤紫色だそうです。

(Oct., 2005)

乾電池
マンガンが使われている身近なものに乾電池があります。乾電池の代表とも言えるマンガン電池はもちろん、アルカリ電池や一部のリチウム電池にもマンガンが使われています。(アルカリ電池は正式にはアルカリマンガン乾電池と言います。)
    マンガン電池を分解すると、中心に炭素棒が入っています。それを囲むように黒い糊状のものがありますが、この中に二酸化マンガンが入っています。もう少し詳しく言うと、この黒いものは、正極活物質(注1)としての二酸化マンガンを炭素粉末および塩化アンモニウムと混ぜ合わせたものと、電解液(注2)としての塩化アンモニウムを塩化亜鉛およびデンプン糊と混ぜ合わせたものとを練り混ぜたものです。これらの物資は負極活物質(注1)としての亜鉛の筒に収められ、この筒がさらに絶縁チューブで巻かれ、更にその外側が金属の外装に覆われて乾電池になっています。

注1:活物質とは電極で直接電子の受け渡し(酸化または還元)をしながら電気化学の反応に関わる物質を言います。電気化学一般では電気活性物質と言いますが、電池に関係する場合は活物質あるいは電極活物質と呼ぶのだそうです。
    マンガン電池の場合、負極(マイナスの極)では亜鉛が活物質です。亜鉛は陽イオンとなって電解液に溶け出しますので、電極には電子が残されます。(つまり電気的にマイナスになります)。一方、陽極(プラスの極)では、強い酸化剤である二酸化マンガンが活物質で、電子を取り込みながら周りの水と反応を起こします。(したがって電気的にプラスになります)。ここで、正極と負極を導線でつなげば、負極にたまった電子が正極へと流れ、電流が発生することになります。
    みなさん御存知のように、マンガン乾電池では底の平らな方が負極で、上の小さな突起が正極です。この突起の下には炭素棒があって、負極から流れて来た電子(マイナスの電気)はこの炭素棒を経て活物質の二酸化マンガンに出会います。
    電池の説明の中で炭素棒を正極と書いてある本があります。たしかに導線をつなぐ「場所」としては炭素棒が正極なのでしょうが、実際の化学反応を担っているのは二酸化マンガンです。ですから、二酸化マンガンこそが実質的な正極であると思います。
    また、本によっては、二酸化マンガンを減極剤として説明している本もあります。減極剤というのは、電極のまわりに水素ガスなどが溜まって電気が流れにくくなる(これを分極と言う)のを防ぐための反応を担う物質です。復極剤とも言います。英語では depolarizer と呼びますが、これは正に、分極(polarization)を解消するものという意味です。政治や経済で言う「両極化する bipolarize 」「多極化する multipolarize 」などと関連づけて考えるとわかりやすいかと思います。
    「標準化学用語辞典・縮刷版」には減極剤の説明の中で、「電極において直接電荷を授受する電極活物質(電池の場合は電池活物質)のことを指すことが多い」としています。いずれにしても、二酸化マンガンは電池の中で活物質としても減極剤としても働いていると言えると思います。(参照:ボルタの電池

注2:電解液は電解質溶液とも言いますが、中に溶けている物質がプラスとマイナスのイオンになっていることで電気を通すことができる溶液を言います。身近なものでは、食塩水が電解液です。食塩水の中では食塩(塩化ナトリウム)が陽イオンの Na+ と陰イオンの Cl - とに分離しています。砂糖水は電解液ではありません。中学の理科の時間に水の電気分解をしたことがあると思いますが、ここで使われる水酸化ナトリウムや希硫酸の水溶液は電解液です。溶液にしたときにイオンに別れ、電解液となる物質のことを電解質と呼びます。食塩や水酸化ナトリウム、塩酸、硫酸などは電解質です。

金属マンガン
マンガンは銀白色の金属で、重金属(注3)としては鉄に次いで豊富に存在するそうですが、単体としては産出しません。もろい金属なのでそのままでは使われませんが、面白いことに他の金属に添加するとその金属の強度や硬度、耐食性を増加させます。そこで鉄その他の金属との合金に使われています。
    0.3〜0.5%の炭素を含む鋼に1%のマンガンを添加した合金は機械構造用マンガン鋼と呼ばれ、車軸などの製造に使われています。また、炭素1%、マンガン約12%を含む高マンガン鋼は削岩機、レールの交差部分、キャタピラ、ライフルの銃身などに使われています。この鋼は今も開発当時の商品名で「ハドフィールド鋼」と呼ばれているそうですが、この名は1883年当時24才でこの鋼の特許を取ったイギリスの冶金学者 Robert Hadfield に由来します。
    また、1%のマンガン、0.25%の鉄とアルミニウム、39%の亜鉛を含む銅合金はマンガン青銅(manganese bronze)と呼ばれ、引張強度と耐食性があるため、船舶用のプロペラや蒸気タービンの羽に用いられているそうです。

注3:重金属とは軽金属に対する語で、比重4以上の金属を言いますが、厳密な区分ではなく、比重3以上とか5以上とかとする場合もあります。鉄、マンガン、クロム、銅、鉛などを指すことが多いそうです。これに対する軽金属は比重4以下(3以下、5以下とする場合もある)ということになります。軽金属と言えばアルミニウムがすぐに思い浮かびますが、マグネシウムなど他にもあります。

マンガン団塊 manganese nodule
イギリスの海洋調査船チャレンジャーが1872年から76年にかけて探検航海を行った際、世界の4000から5000メートルの深海底に広く分布する黒褐色の不思議な塊を見つけました。直径数センチから数十センチで球状あるいは楕円体状のこの塊は、分析の結果マンガンを主成分とすることが分かり、マンガン団塊と呼ばれるようになりました。成分は場所などにより異なりますが、マンガンが 15〜30%、鉄 15%、ニッケル 0.1〜0.5%、コバルト 0.3〜1.0%、銅 0.1〜0.4%、などだそうです。分布は北大平洋に多く、大西洋やインド洋、また大陸の近くには少ないとのことです。
    断面を見ると、中心に殻となる岩石や貝殻、サメの歯などがあり、そこから同心円状に薄い層が重なっているのが分かります。恐らくは、殻を中心に何万年もかけてゆっくりと成長したものと思われます。その速度について「元素の小事典」には 1000年に1ミリぐらいの割合らしいと書いてありますが、それによれば、直径 10センチになるには5万年かかることになります。

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26.  Fe 鉄

英:iron

アイアン

仏:fer

フェル

独:Eisen

アイゼン

希:σιδηρος

スィズィロス

羅:ferrum

フェッルム

中:tie (3)

ティエ

中国語の漢字は日本語と同じく金偏に「失」ですが、金偏が日本語と異なる簡体字です。「ティ」は帯気音ですから強く意気を吐き出しながら発音します。第3声で「ティ」は低く押さえるように始め、「エ」は徐々に高く上げます。日本語の「てつ」は中国語の古い発音 tet から来たものと思います。
    フランス語の fer はイタリア語、ポルトガル語の ferro と共にラテン語 ferrum に由来します。
    英語の iron は古英語では iren(イーレン)でした。いくつかの大きな英語の辞書によりますと、更に古い形は isen、isern で、古いゲルマン語に由来するそうです。ドイツ語の Eisen とも起源を同じくするものと思われます。ラテン語の aes やギリシャ語の ιερος(hieros)に遡ると書いてある本もありますが、英語の辞書はこの説を採っていません。ちなみに、aes(アエス)は「青銅、銅、銅貨」、hieros(ヒエロス)は古典ギリシャ語で「強い、神聖な」を意味します。
    σιδηρος は古典ギリシャ語では「スィデーロス」と読みます。「デ」の母音は「広いエ」です。現代ギリシャ語では「スィズィロス」ですが、この「ズィ」は舌を噛んで英語の this の thi のように発音します。アクセントはどちらも「スィ」にあります。
    ついでながら、現代ギリシャ語で σιδηρο(スィズィロ)と言うと「アイロン」のことです。英語では「アイロン」は iron で、やはり「アイアン」と発音します。

核融合の終着駅
鉄は、地殻中では酸素、ケイ素、アルミニウムに次いで4番目に多い元素です。宇宙全体にも豊富に存在しますが、それは鉄の原子核が数ある原子核の中でも最も安定であることに起因します。
    そもそも元素がどうやって出来たかといいますと、まず宇宙創成のビッグバンの時に水素とヘリウムとが出来、その後、星が生まれてから、その内部の核融合反応により水素やヘリウムが結合して他の元素が出来ていったのだそうです。水素の原子核には1個の陽子、ヘリウムのそれには2個の陽子がありますが、たとえば、ヘリウムが3個くっつけば炭素(原子番号6)、もうひとつくっつけば酸素(原子番号8)が出来ます。このようにヘリウムが結合することで原子番号が偶数の元素が出来て行きますが、それらに水素がくっつけば奇数番号の元素が出来ます。
    核融合によって星の温度は上がり、更に核融合が進んで重い元素が生まれますが、鉄(原子番号26)の原子核が合成される段階になると、そこから先へは核融合が進まなくなります。なぜなら、原子核を構成する陽子や中性子の結びつきは鉄の段階がもっとも安定であり、鉄より大きな原子核が生まれても不安定であるために再び分解して、安定である鉄に戻ってしまうからです。鉄は言わば核融合の終着駅ということになります。
    鉄より重い元素は、星の終末形態である赤色巨星の中や、超新星爆発の際に生まれた高密度の陽子や中性子がそれまでに出来ていた原子核と瞬間的に反応して出来たと考えられています。星の内部の核融合反応の結果、星の中心にはしだいに鉄がたまって自重のために超高圧になり、その限界に達したとき大爆発をします。これが超新星爆発です。

地球の芯は鉄の球
地球の平均密度は 5.52 g /立方センチで、太陽の9個の惑星中最大です。それは地球が直径約 7000 km の鉄球を核として持っているからです。(正確にはニッケルを含む鉄の合金)。ちなみに鉄の密度は 7.85 g /立方センチです。(注:地球の中心部に鉄が集まったのは、原始の地球がまだ高熱で溶けていたころの対流現象によります。前項の核融合とは関係ありません。)
    地球の核は液体の外核と固体の内核とに分かれ、外核は地表から約 2900 km の深さ、内核は約 5100 km の深さのところから始まります。地球は赤道半径が約 6378 km ですから、それから考えると、地球の芯には直径約 2500 km の固体の鉄・ニッケル合金の球があり、それを厚さ約 2200 km の溶けた鉄・ニッケル合金が覆い、その上にマントルがあり、更に表面を地殻が覆っているということになります。ちなみに、地殻は大陸部で平均 30 km、海洋部で平均 5 km の深さまでだそうです。体積で言えば、マントルが地球の全体積の約 82% を占めるわけですが、マントルと地殻はほとんどがケイ酸塩、つまり岩石です。
    ついでながら他の惑星を見ると、2番目に密度が大きいのは水星で、5.43 g /立方センチです。水星の赤道半径 2440 km の実に70%ほどが核で、やはり鉄とニッケルの合金からなっています。月の半径が 1738km ですから、水星は何と月に近い大きさの核を持っているわけです。3番目に密度が高いのは金星で、5.24 g /立方センチ、その核はやはり鉄とニッケルの合金です。4番目の火星の密度は 3.93 g /立方センチ、その核は鉄・ニッケル合金と硫化鉄から成るそうです。地球、水星、金星、火星の4つは地球型惑星と呼ばれます。
    巨大ガス惑星と呼ばれる木星と土星は、核が岩石と氷から成り、その周りを液体金属水素など、さらにその周りを液体分子水素などで覆われた構造で、半径こそ 71,492 km、60,268 km、と地球の約11倍、約9.5倍という大きさにもかかわらず、密度はそれぞれ 1.33 g /立方センチ、0.69 g /立方センチと、水と大差ないものになっています。
    巨大氷惑星と呼ばれる天王星と海王星は、核が岩石と氷から成り、その周りをアンモニア・水・メタン混合の氷で出来たマントルが覆い、更にその外側にヘリウム・メタンを含む水素ガスの大気層があるのだそうです。密度はそれぞれ 1.27 g /立方センチ、 1.64 g /立方センチです。また、冥王星はどのグループにも入りませんが、核は部分的に氷を含んだ岩石で、その周りをエタンなどの氷が覆い、何かの大気があるらしいのだそうですが、密度は 2.21 g /立方センチ(2.13 gとした本もあり)です。

鉄は命の源
海はしばしば生命に満ちあふれているように思われていますが、実はそういえるのは一部の海だけで、海洋の大部分は砂漠以上に不毛なところなのだそうです。
    1980年代の中ごろ、カリフォルニアにあるモス・ランディング海洋研究所(Moss Landing Marine Laboratories)のジョン・マーチンはこの原因が鉄の不足にあるとする説を発表しました。鉄の不足がプランクトンの繁殖を妨げ、プランクトンがいなければそれを餌とするはずの海洋生物も生きられないというわけです。10年後、アメリカとイギリスの共同研究チームがこの説を検証するために、ガラパゴス諸島の西の大平洋上 60平方キロの区域に硫酸鉄の溶液を撒布しました。その効果は劇的で、不毛であったこの海域が1週間以内にプランクトンで緑に染まったとのことです。
    ちなみに、硫酸鉄(II) は貧血の治療にも使われています。注:(II) は「2価」であることを表します。3価の硫酸鉄(III) というのもあります。

体重 70キロの成人の体には3〜4グラムの鉄が存在し、その65%はヘモグロビンとして血液中にあるそうですが、他にも数パーセントはミオグロビンとして筋肉中にあったり、貯蔵用として骨髄、肝臓、膵臓などに貯えられているものもあるのだそうです。肝臓には1グラムもの鉄がフェリチン(ferritin)やヘモシデリン(haemosiderin)というタンパク質の一部として貯えられています。また、骨髄はヘモグロビン合成の場所ですから、鉄が豊富なもの当然と言えましょう。(血液が赤いのはヘモグロビンが赤い色素を含むためですが、甲殻類、軟体動物などには青い血液を持つものもあります。)
    ヘモグロビンもミオグロビンもタンパク質ですが、鉄は他にもいろいろなタンパク質の一部として体の中でいろいろな働きをしています。DNAの合成に関わる酵素もその一つですが、他にも細胞がブドウ糖をエネルギーに変えるのを助ける酵素や、フリーラジカル(free radical、遊離基)と呼ばれる著しい反応性を持つ原子や原子団を除去する酵素など、いろいろな酵素の一部にもなっています。

鉄をめぐる攻防
体内で細胞から細胞へと鉄を運ぶ役割を担っているのはトランスフェリン(transferrin)というタンパク質ですが、これはまた強力な抗生物質でもあります。というのは、体内に侵入した細菌(バクテリア)は増殖のために鉄を必要とするのですが、このトランスフェリンががっちりと鉄をつかまえていて離さないからです。しかも、細菌の侵入を検知した体はトランスフェリンを増やし、血液中に浮遊する鉄を回収して細菌の手に渡さないようにします。
    ところが、細菌の方もこれを黙って見ているわけではありません。細菌も浮遊する鉄を回収する仕組みを持っているのです。しかも、淋菌のようにトランスフェリンから鉄をもぎ取る力を持つものさえあります。実に、私たちの体の中ではトランスフェリンと細菌軍団とによる鉄をめぐる攻防が行われているのです。


鉄を主成分とする合金は炭素の含有量によって次のように分類されます。
純鉄(炭素 0.02%以下)、鋼(炭素 0.02 〜 2%)、鋳鉄(炭素2〜4.5%)、銑鉄(炭素3%以上)。鋼には、炭素鋼、合金鋼、普通鋼、特殊鋼、などがあるそうです。
    銑鉄は鉄鉱石から直接製造された鉄です。鋳鉄は鋳造しやすいものの、もろい性質があります。

(Nov., 2005)

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27.  Co コバルト

英:cobalt

コウボールト

仏:cobalt

コバルト

独:Kobalt

コーバルト

中:gu (3)

クウ

中国語の漢字は金偏に「古」を書きます。g はカ行の無気音です。第3声ですから、「ク」を低く押さえるように始め、徐々に高く上げます。英語とドイツ語は「コ」にアクセントを起きます。

英語などの名称はドイツ語の Kobold(コーボルト)に由来します。これはドイツの民間伝承で「山の精、家の精」などとして語られる妖精で、英語の goblin と同様に悪さをするのだそうです。
    16世紀、ドイツのザクセン地方で、銀鉱掘りたちが銀鉱石と思われる石を精錬しようとすると、有毒な気体が出るだけで銀は少しも取れないということがしばしばありました。銀鉱掘りたちは、これは Kobold が魔法をかけているために違いないと思い、この石を Kobold と呼ぶようになったのです。後にこの石は銀鉱石ではなく、砒素とコバルトとの化合物であることが分かりました。今ではこの石は砒コバルト鉱、またはスマルト鉱(英語では smaltite スモールタイト)と呼ばれています。(ニッケルを参照)
    1739年、スウェーデンのゲオルク・ブラント(Georg Brandt 1694 -1768 )はこの石がこれまで知られていなかった金属を含むことを発表し、ドイツでの呼び名をそのままこの新元素の名称としました。

秘密の手紙の秘密
いわゆる「あぶりだし」はコバルト塩化物の一つを使います。この塩化物は乾燥状態では青色ですが、水に溶かすと淡いピンク色になります。薄い溶液はほとんど色がありません。これで手紙を書き、その上に普通のペンで障りのないことを書けば秘密の手紙が出来上がりです。液がふつうに乾いたくらいでは見えるようにはなりません。読む人がこれを火や熱に当てますと、乾燥状態にもどって文字が現れるというわけです。
    この現象をはじめに見つけた人が誰であるかは不明ですが、17世紀にはすでに使われていました。ちなみに、このコバルト塩化物を作るには、コバルト鉱石を王水に溶かすのだそうです。王水( aqua regia )は濃硝酸と濃塩酸を1:3の割合で混ぜたもので、金やプラチナをも溶かします。

コバルト・ブルー
コバルトを含む顔料には緑色(コバルト・グリーン)や紫色(コバルト・バイオレット)のものもありますが、コバルトと言えばまず思い浮かぶのは鮮やかな青色のコバルト・ブルーでしょう。コバルト・ブルーはコバルトとアルミニウムの酸化物です。
    コバルトの深い青い色は古くから人々を引き付け、古代のエジプト、メソポタミア、中国でも、陶器やガラスの着色に使われていました。紀元前 1361年から1352年にかけてエジプト王であったツタンカーメンの財宝にもコバルトで染められたガラス製品が含まれています。

磁石にもなります
コバルトは鉄やニッケルとともに短周期表の VIII族に入り、互いによく似た性質を持っていますが、強磁性を持つことも共通点の一つです。簡単に言えば、磁石にくっつき、磁石にすることもできるということです。
    たとえば、コバルトの棒の端を電磁石のN極に近寄せますと、その端はS極になり、反対側はN極になります。電磁石を離しても磁気は残ります。こういう性質を強磁性と呼びます。(これに対し、磁石を離すと磁性が消えてしまう性質は常磁性と呼ばれます。)
    コバルトを磁石にした場合、その磁性の強さは鉄の3分の2しかないのですが、鉄が 770℃で磁性を失うのに対し、コバルトは 1130℃まで磁性を失わないという長所があります。コバルトを鉄や他の金属との合金にすると非常に強い磁性を持つようになります。アルニコ(alnico)と呼ばれる合金はアルミニウム、ニッケル、コバルトの合金で、非常に強い磁石になるそうです。
    1916年、本多光太郎、高木弘によって発見された KS鋼は、コバルトが 30〜35%、タングステン 6〜8%、クロム 1.5%、炭素 0.8% を含む特殊鋼で、当時世界最強の永久磁石材料でした。KS鋼という名前はこの研究費を出した住友吉左衛門の頭文字を取ったものだそうです。その後つぎつぎと新しい強力な永久磁石材料が開発されたため、現在では永久磁石としてほとんど使用されていないそうですが、KS鋼の発見は永久磁石材料の開発の歴史的原点として高く評価されています。
    注:
とは、鉄の合金のうち炭素を 0.02 〜 2% 含むものの総称です。

磁石だけではありません
世界で生産されるコバルトの4分の1は磁石の製造に使われるそうですが、コバルトの用途はそれだけではありません。磁石、着色剤、塗料、触媒の他、いろいろな合金として利用されます。
    コバルト20〜65%とニッケル、クロム、モリブデンなどを含む合金は高熱中でも高い強度を保ち、ジェットエンジンやガスタービンなどに使われます。ステライト(Stellite)はコバルト、クロム、炭素、タングステン、モリブデンなどの合金で、非常に硬く、耐摩耗性と耐腐食性が強いために切削器具の刃先などにも使われます。
    コバルトはまたビタミンB12(シアノコバラミン cyanocobalamin )の中心的な構成要素でもあります。家畜の貧血の研究からコバルトが生物の必須元素であることが分かり、1948年のビタミンB12の発見につながりました。体重70 kg の成人の体には約 1.5 mg のコバルトが存在し、血液中に適量の鉄がある場合でもコバルトが欠乏すると貧血が起こるそうです。

(Dec., 2005)

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28.  Ni ニッケル

英:nickel

ニクル

仏:nickel

ニケル

独:Nickel

ニクル

中:nie (4)

ニエ

中国語の漢字は金篇で、つくりは「自」の下に「木」を書きます。発音は第4声で高い所から急激に下げるように「ニエ」と言います。フランス語は「ケ」に軽いアクセントを置きます。英語とドイツ語は「ニ」にアクセントがあり、「ク」の所は「カ」にも聞こえるような曖昧な音、あるいは母音なしで発音します。

Nickel は本来、ドイツ語でニコラスまたはニコラウス(Nikolas、Nikolaus)という男性名の愛称で、サンタクロースをも意味する言葉です。また、水の精あるいは水の悪魔を意味する Nix(e)(ニックス)に引っ掛けて「水の精、水の悪魔」や「わんぱく小僧」の意味も加わりました。
    昔、ドイツの冶金師たちが、銅を含むと思われる赤褐色の鉱石を精錬しようと何度も試みたものの出来なかったため、これは Nickel(ニックス)の悪戯に違いないと考えて、この鉱石を Kupfernickel(クプファーニッケル)と呼ぶようになりました。Kupfer はドイツ語で「銅」ですから、これは「Nickel の銅」、あるいは「小悪魔の銅」とういことになります。Kupfernickel は現在ではニッケルとヒ素との化合物であることがわかっています。(コバルトを参照)
    1751年、スウェーデンの鉱物学者・化学者のクローンステット(Alex Fredlik Cronstedt, 1722-65)が、あるコバルト鉱山で見つかった新しい鉱石、および Kupfernickel から、未知の金属を取り出すことに成功し、 1754年 Kupfernickel を略して Nickel(ニッケル)と命名しました。
    発見から命名までが遅れたのは、これが新元素ではなくコバルトとヒ素、鉄、銅の化合物にすぎないと主張する化学者が多くいたからで、実際クローンステットが提出した金属にはこれらの元素が微量の不純物として混じっていたのです。完全に純粋なニッケルが初めて得られたのは1775 年で、Torbern Bergman によります。

ニッケルにはメッキ材料、ニッケル・カドミウム電池などの電極材料、有機合成の触媒などの用途もありますが、大部分は合金として利用されます。ニッケルの合金は高温においても強度や耐腐食性に優れ、ガスタービンやジェットエンジンに使われるものも有ります。なかでも私たちにおなじみなのはニクロムステンレスでしょう。形状記憶合金についてはすでにチタンの項に書きました。

硬貨にもニッケル
現在発行されている 100円、50円硬貨は白銅といって銅75%、ニッケル25%の合金です。500円硬貨も昭和 57年から白銅のものが流通していましたが、平成12年からは銅 72%、亜鉛 20%、ニッケル 8%のニッケル黄銅(nickel brass)が使われています。なお、50円硬貨は、昭和 42年に現在の白銅貨に替えられるまではニッケル100%のものが発行されていました。昭和30年に発行されたニッケル 100%の 50円硬貨は直径25ミリ、重さ5.5gでデザインは菊の花です。昭和 34年には穴があけられ重さは 5gになりました。現在は発行されていませんが、今でも有効です。ただし発行年によっては額面の 100倍以上で取り引きされていますので使うことはお勧めしません。
    アメリカにはそのものズバリ「ニッケル nickel 」と呼ばれる硬貨があります。第3代大統領のジェファーソンの肖像が彫られた5セント貨ですが、実際にはニッケル 25%の白銅貨です。ついでながら、アメリカの硬貨にはこのような俗称があり、「ニッケル」と言えば5セントですが、リンカーンの肖像の1セントは「ペニー penny 」、ルーズベルトの肖像の 10セントは「ダイム dime 」、ワシントンの肖像の 25セントは「クウォーター quarter 」と呼ばれます。

ニッケルは空から降ってくる
ニッケルは地球全体の中では7番目に多い元素ですが、地表付近では 24番目になります。の項で書きましたように
地球の核は10%のニッケルを含む鉄の合金であり、地球のニッケルの多くは核の中にあることになるからです。これに対し地表付近のニッケルは、地球が長年太陽の周りを回っている間に雨のように降り注いだ宇宙の塵や隕石が溜まったものと考えられています。
    注1:地球全体で多い元素を1から8位まであげると、酸素、ケイ素、マグネシウム、鉄、アルミニウム、カルシウム、ニッケル、ナトリウム。
    注2:地表付近では1から8位は、酸素、ケイ素、アルミニウム、鉄、カルシウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウムで、ニッケルは24位です。重さで比べたものですが、この上位8種で97.91%を占めます。

    隕石のうち、金属を成分とするものを隕鉄と呼びますが、これは鉄とニッケルとの合金で、今日のステンレスと似たものです。隕鉄は良質の鉄として古くから剣やその他の道具を作るのに使われました。
    カナダのオンタリオ州サドバリー地方のニッケル鉱山は世界の需要の約 30%をまかなう大鉱山ですが、これも何億年もの昔に巨大隕石が落ちた結果出来たものと考えられます。ただし、ここにあるニッケルのすべてが隕石に由来するわけではなく、2億トンと見積もられる埋蔵量の多くは地球のマントルから吹き出して来たとも考えられます。

ピロリ菌もニッケルを利用?
ニワトリやラットの生育にはニッケルが必須であることが確認されていますが、人間にとって必須の元素であるかどうかは分かっていません。いずれにせよ、人体に必要と思われる量は毎日の食事で十分に摂取されており、体重 70kg の成人には 10 mg くらいのニッケルが存在するそうです。
    一方、人体に対するニッケルの害については、接触による皮膚炎やアレルギー、粉末を吸い込むことによる鼻腔ガンや肺ガン、などが確認されています。ステンレスなどのニッケル合金で作られた腕時計、ネックレス、ピアスなども、汗に少量のニッケルイオンが溶け出すことで皮膚炎やアレルギーを引き起こすことがあり、nickel itch と呼ばれるしつこい痒みを伴います。
    胃潰瘍は、かつてはストレスなどの増加とそれに対する体の防御機構の低下から生ずると考えられていましたが、現在ではピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ Helicobacter pylori )によって引き起こされることが分かっています。ピロリ菌はウレアーゼ(urease)という酵素を持ち、この酵素が作るアンモニアで胃酸を中和することにより自らの繁殖環境を作り出しているのですが、胃がそれに対抗して更に多くの胃酸を出すために胃粘膜が破壊されると考えられます。 ウレアーゼは尿素を加水分解してアンモニアと二酸化炭素に分解する酵素で、ニッケルイオンを含むタンパク質です。
    1926年、J. B. Summer がナタマメから得られたウレアーゼを結晶化することに初めて成功し、酵素の主成分がタンパク質であることを明らかにしました。さらに1975年には、ウレアーゼがニッケルを含む金属酵素であることが解明されました。

ついでながら、ピロリ菌の学名Helicobacter pylori です。日本ではふつう「ヘリコバクター・ピロリ」と言うようですが、学名は原則としてラテン語ですからラテン語として読めば「ヘリコバクテル・ピュローリ」となります。ついでに英語として読めば「ヘリコバクター・パイローライ」という感じになります。
    Helicobacterはこの細菌の属名ですが、helico- はヘリコプターの場合と同じく、ラテン語 helix(螺旋;さらにギリシャ語 ελιξ に由来)から作られた接頭辞です。また、-bacter は bacterium(bacteria の単数形)から作られた、細菌の属名を作る語尾です。ピロリ菌が螺旋状の細菌であることからこの属名が付けられたものと思われます。ちなみに、ヘリコプター helicopter の -pter は恐竜のプテラノドン pteranodon と同じく「羽毛、翼」を意味するギリシャ語 πτερον(pteron)に由来します。
    一方、ピロリ菌の学名の種形容語である pylori は「幽門」を意味するラテン語・英語 pylorus(「門番」を意味するギリシャ語 πυλωρος に由来)の属格だと思います。pylori は英語としては「パイローライ」または「パイローリ」と読みます。(「ロー」にアクセント)

ウレアーゼ(urease)は「尿素」を意味する urea と「酵素」を表す語尾 -ase から作られた語で、英語では「ユリエイス(ユにアクセント)」のように読みます。 urea はフランス語の urée(尿素)に由来しますが、さらにその語源はラテン語 urina(ウーリーナ、尿)、さらにギリシャ語 ουρον(ウーロン、尿)です。英語の urine(尿)、urinate(排尿する)、urinal(小便器)などもラテン語 urina に由来します。
    「酵素」を表す語尾 -ase(アーゼ、英語読みはエイス) は「アミラーゼ」「ラクターゼ」「ペクターゼ」などにも使われていますが、アミラーゼの古い名称である「ジアスターゼ」の語尾を応用したものです。diastase(ジアスターゼ、英語読みはダイアステイス)は「分離、距離、不和」などを意味するギリシャ語 διαστασις (diastasis) から造語されました。なお、アミラーゼの市販製剤の一つ「タカジアスターゼ」は高峰譲吉が米麹菌から抽出したもので、アミラーゼの他にタンパク分解酵素をも含んでいます。

(Jan., 2006)

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29.  Cu 銅

英:copper

コパ

仏:cuivre

キュイヴル

独:Kupfer

クプファ

羅:cuprum、cyprum

クプルム、キュプルム

希:χαλκος

ハルコス

中:tong (2)

トン

中国語 tong の「ト」は帯気音ですから強く息を吐きながら発音して下さい。第2声で低い所から急激に上げながら発音します。漢字は日本語と同じですが、金偏が簡体字です。
     英語の読み方はイギリス英語に近い読み方で「コパ」としておきましたが、アメリカ英語では「カプ」のように聞こえます。
    ドイツ語の「プファ」は「プ」と「ファ」を話さないように一息に発音します。P を発音すべく唇を閉じるのと同時に上の歯を下唇に当て、P と同時に F を発音します。
    ギリシャ語の「ハ」は軟口蓋摩擦音です。古典ギリシャ語にも同じ語があり、これは帯気音の「カ」を使って「カルコス」になります。アクセントはどちらも「コ」にあります。

英仏独の語はどれもラテン語の cuprum に由来しますが、このラテン語の語源は Cyprus(キプロス、ラテン語でキュプルス、英語でサイプラス)です。キプロス島はローマ帝国の領土となる以前から銅を産出することで知られており、この金属を aes Cyuprium(キプロスの金属)と呼んだことからラテン語の cuprum が出来ました。この島は早くからギリシャ人たちが Κυπρος (Kypros、キュプロス)と呼んでいましたが、この名前自体が「銅」を意味する言葉に由来するとの説もあるそうです。

日本語の「銅」は漢語に由来します。「同」は「穴をあけて突き抜くこと」を意味し、「銅」は会意兼形声文字で、「穴をあけやすい柔らかい金属」のことです。現代中国の漢字は、金篇が簡体字で異なるものの、基本的には日本語と同じです。
    古代、銅は「アカガネ」と呼ばれましたが、これも「赤金」という漢語を訓読みしたことから出来た言葉だそうです。

銅の利用
単体の銅は電線でおなじみの、延性・展性に富む赤い金属です。電気、熱に対しては銀に次ぐ良導体で、この点においては金に勝ります。
    銅は、純銅としてだけでなく、様々な合金として利用されます。なかでも、人類が青銅(銅とスズの合金)の製法を知ったことは、石器時代から青銅器時代への飛躍の契機でした。青銅を使えば硬い刃先を作ることができるため武器や農機具が格段に進歩しました。また、世界7不思議の一つであるロードス島のアポロン巨像(35m、 280 B.C.)などの製造にも青銅が使われました。
    ちなみに、「青銅」は英語でブロンズ(bronze)と言い、青銅器時代は the Bronze Age です。ついでながら、オリンピックの銅メダルは青銅製ですから、英語では bronze medal あるいは単に bronze と言います。copper medal ではありません。
    また、銅と亜鉛の合金は真鍮(=黄銅)と呼ばれます。英語ではブラス(brass)といいますが、ブラスバンド(brass band)の金管楽器の材料としておなじみです。

硬貨の金属
私たちの目に見えるところにある銅と言えば、まず硬貨ではないでしょうか。銅は古来、金や銀とともに硬貨の材料として利用されてきました。(銅、銀、金は共に周期表の11族に属し、化学的にも共通点が多くあります。)
    ただ、一口に「銅貨」と言っても詳しく見るといろいろな種類があります。現在日本で使われている硬貨は1円玉(アルミ 100%)を除けばすべて「銅貨」です。その中でもっとも銅らしく見えるのは 10円玉でしょうが、これは銅 95%、亜鉛 4〜3%、スズ1〜2%の青銅製です。青銅は小額の硬貨として世界中で広く使われています。イギリスでは1ペニーの硬貨を俗に copper と呼びますが、これも青銅製です。
    また、5円玉は銅 60〜70%、亜鉛 40〜30%の黄銅(=真鍮)です。50円と 100円の硬貨は銅75%、ニッケル 25%の白銅です。500円硬貨は、昭和 57年から
白銅貨が流通していましたが、平成12年からは銅 72%、亜鉛 20%、ニッケル 8%のニッケル黄銅が使われています。なお、アメリカの5セント硬貨はニッケルと通称されていますが、100%ニッケルではなく白銅貨です。

緑青
銅屋根の表面などを被う緑青は、簡単に言えば銅のさびですが、その美しさのために古代ギリシャの昔から利用されてきました。英語では verdigris 、フランス語で vert-de-gris と呼びますが、これは「ギリシャの緑」を意味する古いフランス語に由来します。英語の patina にも「緑青」という訳語が付いていますが、これは緑青を含めて風格のある錆一般を言うことばのようで、古い家具などの表面の「古つや、古色」なども意味します。
    通常の空気中で生ずるものは水酸化炭酸銅(II)で、化学式はCuCOスリー・Cu(OH)ツーです。都会地の空気のようにわずかに硫黄化合物を含む所では塩基性硫酸銅 CuSOフォー・3Cu(OH)ツー を主成分とするものも生じます。また、海岸地帯では塩基性塩化銅 CuClツー・3Cu(OH)ツーを含む緑青が生ずることもあります。
    緑青が自然に形成されるまでには長期間かかるため、人工的に形成させる処理も行われます。種々の方法がありますが、たとえば、硝酸銅、塩化アンモニウム、アンモニア水、酢酸などを溶かした液を銅の表面に塗り、温湿所においておくというのもあるそうです。この場合には塩基性硝酸銅が生じます。
    古代ギリシャやローマでは、銅片をブドウの搾りかすの上に置くとか、ワインの風下に置くとか、酢を入れた器の上に吊るすなどの方法が使われ、緑青が顔料や薬として使われたということです。
    日本では昔から、緑青が有毒であると言われていますが、実際は天然の緑青について衛生学的研究を行った結果によると、毒性はほとんどないのだそうです。

タコの血液
血はすべて赤いものと思っていまたが、タコの血は青いのだそうです。これは1847年、E. Harless により発見されました。イカ、エビ、ザリガニ、牡蠣、カタツムリ、クモの血も青いそうです。人間を含め多くの動物の血が赤いのは、酸素を運搬する
ヘモグロビンというタンパク質が赤い色素を含むからですが、タコなどではヘモシアニン( hemocyanin )という青い色素のタンパク質が血液運搬の役目を担っているのです。ヘモグロビンが鉄を含むのに対し、ヘモシアニンの分子は中心に銅イオンを含んでいます。

銅は生体において必須元素であり、他にも 10種類以上、銅イオンを含むタンパク質が酵素として働いているそうです。人間では、体重 70kg の成人には約 100 mg の銅が含まれており、銅の欠乏は貧血、毛髪異常、骨や動脈の異常、脳障害などの原因となります。ただし、多すぎるのも問題で、銅の過剰は肝硬変、下痢、吐き気、運動障害、知覚神経障害を引き起こすとのことです。

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30.  Zn 亜鉛

英:zinc

ズィンク

仏:zinc

ザーング

独:Zink

ツィンク

羅:zincum

ズィンクム

希:ψευδαργυρος

プセヴザルイロス

    τζιγκος

ズィンコス

中:xin (1)

シン

中国語の漢字は金偏に「辛」です。第1声で高く平らに「シン」と発音します。「ン」は/ n / の音ですから舌先をしっかりと上の前歯に付けて発音して下さい。

英語の始めの音は / z / ですから日本語の「ジ」にならないように気を付けて下さい。ついでながら、日本語で「ジグザグ」とか「ジッパー」とか言っているのも、英語では zigzag(ズィグザグ)、zipper(ズィパー)という感じになります。注:「ジーンズ」は jeans ですから、だいたい日本語の「ジ」と同じでかまいません。
    現代ギリシャ語の「ズィンコス」の「ズィ」は英語と異なり / dz / の音で始まります。つまり、この「ズィ dzi」は「ツィ tsi」の濁音であり、英語の「ズィ zi」が「スィ si」の濁音であるのと異なります。舌先を歯茎に付けてから発音して下さい。(逆に言えば英語の zinc を発音する時は舌先を付けないように気を付けることになります。)なお、日本人の多くは語頭のザ行を / dz / で発音しており、英語の zone や zoom が [zoun] [zu:m] ではなく [dzoun] [dzu:m] となってしまいがちですから御注意下さい。
    ラテン語の Z は古典ギリシャ語の Ζ, ζ に由来しますから、本来は古典ギリシャ語と同じく / dz / なのですが、英米人は恐らく / z / で発音していると思います。

フランス語の zinc は / z / で始まり、「広いエ」の鼻母音が続きます。「ザン」と書いておきましたが、口を広めに開けた「ゼン」です。この「ン」は win の n でも wing の ng(エング)でもなく鼻母音を表します。「グ」はフランス語としては例外的に / g / の音です。

現代ギリシャ語の ψευδαργυρος は ψευδ-(偽の)と αργυρος(銀)との合成語です。日本語で使っている「亜鉛」という漢語も、「亜」が「〜に次ぐ、第2の地位にある」という意味であることを考えれば、同類の造語と言えましょう。亜鉛は青みを帯びた銀白色の金属です。
    なお、ψευδ- は ψευδης(古典:プセウデース、現代:プセヴズィス)は英語の pseudo(スュードウ、偽の)の語源でもあり、pseudonym「偽名」や pseudoscience「いんちき科学」にも含まれています。ちなみに、Δ,δ は古典ギリシャ語では / d / の音ですが、現代ギリシャ語では英語の that の th の音です。なお、αργυρος(銀)は古典ギリシャ語で「アルギュロス」、現代ギリシャ語で「アルイロス」のように発音されます。

身近な亜鉛
亜鉛は私たちの身近に多く使われている金属です。マンガン乾電池の陰極として使われていることは
マンガンの項で書きました。また、黄銅として5円玉や 500円玉に使われていることはの項で書きました。もう一つ身近なものにトタンがあります。
    トタンは鉄板に亜鉛メッキをしたものです。(ついでながら、ブリキは鉄板に錫メッキをしたものです)。亜鉛は鉄を酸素と水分から守り、錆びるのを防ぎます。また、亜鉛メッキがはがれ鉄が雨水にさらされた場合でも、イオン化傾向(注)の大きな亜鉛が先に溶け出だして瑕を被います。亜鉛自体は空気中の二酸化炭素と反応してできる被膜に被われるため内部までは侵されません。亜鉛メッキはトタンに限らず、鉄を保護するため広く利用されています。
    ちなみに、トタンの語源はポルトガル語の tutanaga(亜鉛)ではないかと考えられているそうです。ただし、現在のポルトガル語では「亜鉛」は zinco であり、tutanaga という言葉はないようですが。

注:イオン化傾向
原子や分子は通常は電気的に中性ですが、電子を失ってプラスの電気を帯びるようになることがあります。これをイオン化と言います。広い意味では、逆に電子を得てマイナスの電気を帯びることをも含めてイオン化と言います。また、このようにして原子や分子がプラスあるいはマイナスの電荷を持った状態をイオンと呼びます。
    原子や分子によってイオン化しやすさ、あるいは、しにくさの度合いが異なります。これをイオン化傾向と呼びますが、特に金属が水中で電子を失って陽イオン(あるいは正イオン)になる傾向を指して言うことが多いです。
    原子や分子をイオン化傾向の順番に並べたものをイオン化列と呼びます。これも、主な金属のイオン化傾向を大きい方から並べたものを指すことが多いです。普通、水の成分でもあり正イオンになりやすい水素をも含めて次のように列挙されています。

K > Ca > Na > Mg > Al > Zn > Fe > Ni > Sn > Pb > H > Cu > Hg > Ag > Pt > Au

これを語呂合わせで次のように覚えます。金貸そうかな、まあ、あてにすな、ひとすぎる借金。H(水素)を「ヒ」と読んだり、「白」を「借」と読むなど苦しい所もありますが、覚えやすいと思います。

イオン化傾向を確かめる実験
たとえば、硝酸銀の水溶液に銅線を入れてしばらく置くと、無色透明であった溶液が青みを帯びてきます。銅線を見ると灰色の物質が付着し始め、やがて銀色に輝くようになります。これは、銅のほうが銀よりもイオン化傾向が大きいために、銅が陽イオンとなって溶け出し、その結果マイナスに帯電した銅線に銀イオンが引き寄せられ、電子を受け取って金属の銀にもどったことを意味します。溶液の青い色は、銅イオンと溶液中の硝酸イオンとで硝酸銅ができたことを示します。
    同じように、青色の硫酸銅水溶液に鉄くぎを入れると、やがて鉄くぎの表面には銅が付着し、溶液は緑色の硫酸鉄へと変わっていきます。

ボルタの電池
化学反応を利用する電池(化学電池)は 1799年、イタリアの物理学者ボルタ(Alessandro Volta)によって発明されました。電圧を表す単位であるボルト(volt)は彼の名に因みます。
    ボルタの電池は、導線でつないだ亜鉛板と銅板とを希硫酸の溶液に浸したものです。希硫酸溶液は
電解液ですから、その中では水素イオンと硫酸イオンとが分離(電離)しています。亜鉛は銅よりイオン化傾向が大きいので、陽イオンとなって溶け出し、亜鉛板には電子が残されてマイナスの電気がたまります。一方銅板の周りには亜鉛イオンに反発した水素イオンが集まってプラスの電気がたまります。 その結果、導線をつたって亜鉛板から銅板へと電子が流れることになります。つまり、電気が生まれます。(ただ、ボルタの電池は銅板の周りに水素ガスが付着してすぐに電気が流れにくくなるという欠点がありました。)(参照:マンガン電池
    ボルタの電池に限らず、電解液にイオン化傾向の異なる金属を浸せば電池になります。たとえば、レモンに一円玉と十円玉を刺して導線でつなげば電気が流れます。レモンの汁は電解液だからです。イオン化傾向の大きい方が陰極、小さい方が陽極となりますから、この場合は一円玉のアルミニウムの方が陰極になります。

銀と言っても銀じゃない
ナイフやフォークなど洋食器の材料として広く使われてい洋銀は名前に反して全く銀を含んでいません。これは銅45〜65%、ニッケル6〜35%、亜鉛15〜35%の、加工性に富み色が美しい合金で、ニッケルが多いものは銀白色、少ないものは黄色味を帯びます。
    英語で nickel silverGerman silver と呼ぶのもこの「洋銀」のことで、銀は含まれていません。
    組成からして洋銀とは言えませんが、平成12年から使われている
500円硬貨も銅と亜鉛とニッケルの合金です。これは銅 72%、亜鉛 20%、ニッケル 8%のニッケル黄銅(nickel brass)で、白銅の100円硬貨、50円硬貨と比べると少し黄色味を帯びています。
    ついでながら、亜鉛のもっとも普通の合金は5円玉にも使われている真鍮(黄銅)です。銅60%・亜鉛40%のものは安くて硬く、銅70%・亜鉛30%のものは高価ですが、やわらかく美しい光沢を持ちます。
    アメリカで1999年11月に発行された1ドル硬貨は銅88.5%、亜鉛 6%、マンガン 3.5%、ニッケル 2% の合金ですが、金色であまりに美しいせいか退蔵されてしまってほとんど出回っていないそうです。

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31.  Ga ガリウム

英:gallium

ギャリアム

仏:gallium

ガリョム

独:Gallium

ガリウム

中:jia (1)

チア

ドイツ語は「ガ」にアクセント、フランス語は「ヨ」に軽くアクセント。中国語の漢字は金篇に「家」です。発音も「家」と同じで、無気音の「チ」ですから呼気を抑えて平らに発音します。
    英語は「ギャリアム」と書いておきました。この「ア」はシュワー(いわゆる曖昧母音)ですから、「ア」のような「ウ」のような音です。「ギャ」のところは発音記号では / gæ / で、日本語では「ギャ」と写されることが多いのでそれに倣いました。
    ちなみに、/ gæ / で始まる英語が日本語でどう書かれるかを見てみますと、gag(ギャグ)、galaxy(ギャラクシー)、gallery(ギャラリー)、gamble(ギャンブル)、gang(ギャング)、gap(ギャップ)、gather(ギャザー)など「ギャ」がほとんどで、「ガ」と書くものは gas(ガス)、Gambia(ガンビア)、gamma(ガンマ)、GATT(ガット、関税と貿易に関する一般協定)など少数です。
    ついでに、/ gæ / の清音に当たる / kæ / を調べますと、cap(キャップ)、cabin(キャビン)、camp(キャンプ)、campaign(キャンぺーン)、campus(キャンパス)、cancel(キャンセル)、candle(キャンドル)、candy(キャンディー)capital(キャピタル)、captain(キャプテン)、caravan(キャラバン)、carol(キャロル)、cash(キャッシュ)、cast(キャスト)、casual(キャジュアル)、catcher(キャッチャー)、caterpillar(キャタピラ)、character(キャラクター)など「キャ」と読むのが多数です。
    中には career(キャリア)と carburetor(キャブレター)のように / kæ / ではないのに「キャ」と読んでいるものまであります。
    一方「カ」と読むものも、calcium(カルシウム)、calendar(カレンダー)、carat(カラット)、California(カリフォルニア)、calorie(カロリー)、camera(カメラ)、canvas(カンバス)、capsule(カプセル)、caroteen(カロテン)、catalogue(カタログ)、catapult(カタパルト)、category(カテゴリー)などかなりあります。
    注意:英語の / gæ / は「ギャ」でも「ガ」でもありません。同様に / kæ / は「キャ」でも「カ」でもありません。「発音記号の名前」の æ(アッシュ)を御覧下さい。

ガリウムは雄鶏?
ガリウムはフランスのラテン語名ガリア(Gallia)に由来します。ちなみに、Gallia の形容詞は男性形が Gullius、中性形が Gallium です。発見者ボアボードラン(Paul-Émile Lecoq de Boisbaudran)が祖国フランスの名前をとったと思われます。
    ただ、実はボアボードラン自身の名前に含まれる Lecoq に因んだのだという説もあるそうです。Lecoq は le coq (=the cock 雄鶏) に通じ、それに当たるラテン語が gallus だからです。ただし、Gallus と大文字で書けば Gallia の形容詞形にもなりますし、「ガリア人」の意味にもなりますが。

メンデレーイェフは正しかった!
ボアボードランは 1875年、閃亜鉛鉱(ZnS)の中からガリウムを発見しましたが、実はその存在は既に 1869年
メンデレーイェフによって予想されていました。メンデレーイェフは自分の考え通りに元素の周期律があるものならば、周期表のアルミニウムの下に入るべき元素があるはずだと考えたのです。
    メンデレーイェフはこの未知の元素を ekaaluminium と仮称し、原子量を約 68、密度を 5.9g/D と予想していました。ボアボードランは初めガリウムとエカアルミニウムとは関係ないとしていましたが、ガリウムやその化合物を調べるうちにその性質がメンデレーイェフの予想と一致することを確認し、始め 4.7g/D としていた密度も計算し直して 5.956 という数値を得たことで、メンデレーイェフの正しさを確信することになったそうです。(現在認められているガリウムの原子量は 69.723、密度は固体で約 5.9g/D、液体で約 6.1g/D )

あなたの腕の中で溶けてしまいそう
常温で液体の金属と言えば誰でも水銀を考えますが、夏の熱い日にはガリウムも液体になっている可能性があります。ガリウムは水銀に次いで2番目に融点が低い金属で、わずか 29.78 ℃で溶けてしまうからです。人が手で握れば溶けてしまうことになります。
    しかも、沸点は 2403 ℃で、液体として存在する範囲が他のいかなる物質よりも広く、かつては高音用温度計に用いられたこともあったそうです。(水銀は融点 マイナス38.87℃、沸点 356.58℃)
    面白いことに、ガリウムは他の金属と異なり、固体から液体になる時に 3%ほど体積が減ります。半金属(semimetal)ではアンチモンとビスマスに同様の性質があります。また、金属ではありませんが、水も同様で、物質一般の性質とは異なります。
:固体のガリウムは銀白色の金属で、非常に柔らかく、ナイフで切ることも出来ます。

半導体にもなります
ガリウムはケイ素やゲルマニウムとは異なり、単体では半導体になりませんが、ヒ素と化合させてガリウムヒ素(gallium arsenide、GaAs)にすると半導体の性質を持つようになります。(注意:半導体分野ではもっぱらこう呼ばれていますが、化学ではヒ化ガリウムが正しい名称だそうです。)
    興味深いことに、周期表で見ると、ガリウムとヒ素とはゲルマニウムを挟んで両側にあります。この両者を反応させると半導体になることを実証したのはドイツ・ジーメンス社のウェルカーという人だそうです。
    複数の元素からなる半導体を化合物半導体と呼びます。このときの元素の組み合せは何でもよいわけではなく、結果的に外側の軌道の
電子配置が 14族元素(シリコンやゲルマニウム)のものと同等になるような組み合せが必要なのだそうです。
    ガリウムヒ素は発熱量がシリコンよりも低く、スーパーコンピューターや携帯電話などへの利用が注目されています。その他、電気を光りに変える特性を活かして発光ダイオード(light-emitting diode、LED)や半導体レーザーとして使われ、レーザープリンターやレーザーディスク、CDなどに応用されているそうです。

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32.  Ge ゲルマニウム

英:germanium

ジャーメイニアム

仏:germanium

ジェルマニョム

独:Germanium

ゲルマーニウム

中:zhe (3)

チャア

中国語の漢字は金篇に「者」です。第3声ですから最初の「チャ」は低く押さえるように始め、「ア」にかけてゆっくりと上昇させます。無気音ですから「ジャア」とも聞こえます。英語名の最初の音を写したのかもしれません。母音がはっきりとした [ a ] ではなくシュワーのような曖昧母音であるところも英語の出だしと共通です。

ゲルマニウムという名前はドイツのラテン語名 Germania に由来します。原子番号 31 のガリウムが「フランス」に由来しますので、周期表上でも仏独が並んだことになります。
    1885 年、ドイツ人ウィンクラー(Clemens A. Winkler 1838-1902)により発見されましたが、これは既に15年前メンデレーイェフが存在を予言し、エカケイ素と呼んでいた元素でした。(ガリウムの予言スカンジウムの予言を参照)

ゲルマニウムは銀白色のもろい半金属元素です。トランジスターに使われた最初の元素であり、半導体としての用途は良く知られています。従来の真空管に代わってゲルマニウムのトランジスターを使った世界初の「トランジスター・ラジオ」が一般に売り出されたのは 1948年のことでした。
    ただ、現在では半導体としての利用よりも、その酸化物の屈折率が大きいことや赤外線を吸収しないことを活かして広角レンズ赤外線透過ガラスへの利用などが増えているそうです。

半導体にするには高純度の結晶が必要ですが、そのためには四塩化ゲルマニウムが揮発性があることを利用します。四塩化ゲルマニウム(GeClフォー)は常温で液体で、沸点が 84℃と非常に低いのです。ゲルマニウム自体は融点 937.4℃、沸点 2830℃です。(詳しい過程の説明は省きます)

ゴミから採れる?
ゲルマニウムには鉱石と言えるほど含有量の多い鉱物がありません。亜鉛や銅鉱石の精錬の過程の副産物として取り出されます。1942年、アメリカは軍事目的でゲルマニウムを半導体として利用する研究を始めたですが、その当時知られていた2つの産地がどちらもドイツに握られていることが障害となりました。しかし、オクラホマ州にあった亜鉛精製工場の廃棄物からゲルマニウムを取り出す方法が開発され、必要な量を確保することが出来たのです。

ダイオードは真空管?
半導体の用途としてダイオード(diode)があります。現在ではダイオードと言えば半導体ダイオードを指しますが、半導体が使われるようになる以前にはダイオードと言えば二極真空管(diode tube、単に二極管とも言う)のことだったそうです。
    言葉から見ると、確かに di - は「2(重)の」を意味するギリシャ語 δις に由来し、-ode はギリシャ語の hodos(οδος 道)に由来し「電極 electrode 」を意味しますから、diode は「2極」を表すことになります。ちなみに、陽極は anode(アノード)、陰極は cathode(カソード)です。なお、an - および cath - は ana(ανα、上に)および cata(κατα、下に)に由来します。ついでながら、ブラウン管(式の表示装置)を最近は CRT と言いますが、これは cathode-ray tube(陰極線管)の略です。
    注意1:di - を「ダイ」と読むのは英語を取入れたためです。たとえば dioxin(ダイオキシン)もドイツ語で言えば「ディオクスィーン Dioxin 」という感じです。また日本でも化学名としては「
ジオキシン」です。化学名では「ジエチルエーテル」などのように di - を「ジ」と読むことになっています。
    注意2:電池では、anode および cathode はそれぞれ「陰極」および「陽極」を意味し、電子管の場合とは逆です。ただし、電子管内の真空中にと同様、電池内の電解液中に電子を放出する方が cathode と考えれば一致します。下の真空管の説明、および乾電池の項ボルタの電池の項を参照して下さい。

ダイオードと言えば一般には発光ダイオードがおなじみですが、ダイオードが、あるいは真空管(vacuum tube)が利用されたのは、まずその整流作用のためでした。これは電流を一方向にしか流さない性質で、このためにダイオードは「電気の弁」と呼ばれることがあります。これを利用すれば交流を直流に変えることなどができます。(交流とは英語で alternating current と言うように周期的に向きが交替する電流を言います。)
    真空管には二極管だけでなく三極管、四極管、五極管などいろいろな種類がありますが、その中で最初に発明されたのが二極管です。この構造を簡単に説明すると、内部を真空にしたガラス管の中に、一般にカソードと呼ばれる陰極とプレートと呼ばれる陽極を挿入し、電源につないだものです。更にカソードにはヒーターが付いていて、これを熱するとカソードの表面から電子が飛び出します。電子はマイナスの電気を帯びていますから陽極のプレートに引かれて飛んで行き、電流が流れます。一方、電源を逆につないでプレートをマイナスにしますと、カソードから飛んで来た電子は反発してしまいますから、電流は流れなくなります。

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33.  As ヒ素(砒素)

英:arsenic

アースニク

仏:arsenic

アルスニク

独:Arsen

アルゼーン

羅:arsenicum

アルセニクム

中:shen (1)

シェン

英語などの名称は「雄黄」を意味するギリシャ語の arsenikon に由来するとされています。「雄黄(ゆうおう)」は「石黄(せきおう)」とも呼ばれる黄色で半透明の鉱物で、ヒ素の硫化物(AsツーSスリー)です。古くから黄色の顔料として利用され、続日本紀にも「雄黄」についての記述があります。
    また、通俗語源説として「男の」を意味するギリシャ語 arsenikos に結び付けるものがあります。「雄黄」の「雄」と何らか関係があるものかどうか、興味深いところですが分かりません。

英語は「ア」にアクセントがあります。ただし、「ヒ素の」という形容詞の場合は -se- にアクセントをおいて「アーセニク」のように読みます。
    フランス語は「ニ」に軽くアクセントをおき、ドイツ語は「ゼ」、ラテン語は「セ」にアクセントをおきます。
中国語の漢字は石偏に「申」です。「シェ」は北京語に特徴的な「反り舌音」で、舌を反らせて舌先の裏を硬口蓋(口の天井の前部)に近付けながら言います。第1声ですから高く平らに発音して下さい。「ン」はもちろん ng にならないように、舌先を歯茎に付けます。

脇道にそれますが、- ic に終わる英語は - ic の前の母音にアクセントがあるのが原則です。ですから、systematic も dramatic も - ma - のところを強く言います。日本語では「システマチック」や「ドラマチック」と平板に言っている人が多いかと思いますが。また、photographic や characteristic や problematic なども、photograph、character、problem とは異なり、それぞれ -ra-、-ris-、-ma- にアクセントがあることが予想できます。形容詞の arsenic もこの原則に準じます。
    ただし、原則には例外がつきもので、「ヒ素」の arsenic はそのうちの一つです。他に lunatic、Arabic、Catholic、heretic、rhetoric などの例外があります。なお、arithmetic はしばしば高校の試験問題に出ますが、名詞の場合のみ例外で、形容詞の時は原則通りです。

砒素」という日本語がいつから使われたかは分かりませんが、「砒」は本来、中国で「ヒ素」、あるいは「亜ヒ酸」を表すために使われてきた語であり、現在でも「砒霜」(=亜ヒ酸)などの語が中国語辞書に見られます。
    ヒ素の化合物は古代から知られており、古代中国でも農薬として使われたという記録があります。また古代ギリシャの錬金術の書物にもヒ素化合物についての記述が見られ、古代ローマでは皇帝カリグラ( Caligula、A.D. 12 - 41 )が資金を出してヒ素化合物から金を取り出す試みが行われたそうです。ヒ素はいろいろな金属と結合し、銅に塗ると銀色に見えることなどから、16世紀の錬金術においては金属変換の重要な要素と見なされていたようです。
    はじめて単体としてヒ素を得たのはドイツのマグヌス(Albertus Magnus 1193-1280)だと言われています。

ヒ素の利用
ヒ素は古来より薬や塗料の材料として利用され、現代では、銅に少量加えて耐熱性を増し、鉛に加えて硬さを増すなど、合金添加剤としても使われ、また、ガリウムヒ素など半導体への応用もなされていますが、何と言っても良く知られているのは毒薬としての利用でしょう。また、その毒性による中毒事件も今まで多くありました。
    16世紀の南イタリアで「トファナ水」というのが美顔薬として売られていたそうですが、何とこれが化粧水としてだけでなく、毒薬としても使われたとのこと。その結果、大勢の未亡人が発生し、驚いた法王庁や政府筋の取締にも関わらず市中に出回る量はいっこうに減らなかったそうです。この水の主成分は亜ヒ酸だったと思われています。史上名高いボルジア家の毒殺事件とか推理小説にも白い粉末状の亜ヒ酸がしばしば登場します。日本の時代劇でも石見銀山の殺鼠剤が毒薬に使われるという話が出て来ますが、これも亜ヒ酸が成分だそうです。
    亜ヒ酸がイタリアやフランスなどで大公や王、教皇までもの暗殺に使われ、20世紀の始めに至るまで悪用された理由として、それが除草剤などから簡単に入手できることや、何週間かに渡って少量ずつ投与されると症状が他の病気と区別がつかないこと、また当時は少量のヒ素を検出する方法がなかったことなどが挙げられます。ちなみに、最後の点については、1836年にジェイムズ・マーシュ(James Marsh)がかの有名な検査法(マーシュテスト)を考案したことで劇的な変化がありました。
    ただし、犠牲者が日頃からヒ素を含む治療薬、化粧品、塗料などを使用していればヒ素が検出されるのは当然であり、真相は薮の中です。ナポレオンの頭髪にも中性子放射化分析によって多量のヒ素が検出されていますが、以上の理由で毒殺とは断定できません。セント・ヘレナ島でナポレオンが住んでいた家の壁紙にもヒ素を含む緑色の色素が使われたいたことが分かっています。
    注意:ここに書かれている「亜ヒ酸」とは三酸化二ヒ素(AsツーOスリー、arsenic trioxide)のことと思われます。古くから使われている俗称ですが、今では誤称とされています。正しい意味での亜ヒ酸(HスリーAsOスリー、arsenious acid)は三酸化二ヒ素の水溶液中に存在すると考えられている弱酸で、まだ単離されてはいませんが、やはり有毒だそうです。ちなみに、三酸化二ヒ素を成分とする殺虫用のヒ素剤を英語では単に arsenic とも呼ぶようです。日本でも同様に「ヒ素」と言っていることは考えられます。

毒にも薬にも
ヒ素は毒薬にもなる一方で、古くからリューマチ、マラリア、糖尿病、結核など様々な病気に対する薬効があると考えられていました。中でも有名なのは「ファウラー液 Dr. Fowler's solution」です。これは1780年イギリスの外科医ファウラーが亜ヒ酸カリウム水溶液とラベンダー水などで作ったものですが、19世紀には重宝な万能薬と考えられ、また催淫剤としても使われました。チャールズ・ディケンズも使っていたそうです。
     ファウラー液の効能は非常に疑問ですが、実際にヒ素が薬となった有名な例としてサルバルサン(Salvarsan)があります。これはドイツのエールリッヒ(Paul Ehrlich)と日本の秦左八郎との共同研究により1910 年に発見された梅毒の特効薬アルスフェナミン(arsphenamine)の商品名です。606号とも呼ばれますが、梅毒の病原体に薬効を持ち人体には無害のヒ素化合物をつきとめるための試験が 606回目に成功したことによると思われます。ただし、ペニシリンの発見以後、梅毒の薬としては使われなくなりました。(注意:Nature's Building Blocks の記述には Paul Ehrlich の名前しかなく、発見は 1909年となっています。)
    ところで、Salvarsan は「健康な」というラテン語 salvus とヒ素にあたるドイツ語 Arsen から作られた語です。また、arsphenamine はヒ素を表す ars- とphenyl(フェニル基)と amine(アミン)から作られた語です。(アミンについては、
アンモニア、及びビタミンBの項目を参照してください。)

犬の大敵であるフィラリアの成虫を駆除する薬もヒ素の化合物です。フィラリアの薬はしばしばフィラリアが死ぬか犬が死ぬかというくらい強い薬だと聞きますが、まさに毒と薬は紙一重と言えましょう。

このように毒性の強いヒ素ですが、山羊や羊などでは食物中にヒ素が不足すると発育障害が起こることが報告されており、人間にとっても必須元素である可能性があるそうです。
    ちなみに、ヒジキ、カキ、クルマエビなどの海産物はヒ素を比較的多く含んでいます。これらの生物は海水中(3.7mg/l)からヒ素を濃縮しているにも関わらずヒ素中毒になることはなく、またこれらを食べた人間が中毒にかかることもありません。
    ヒ素は水銀と異なり、有機化合物より無機化合物のほうが毒性が強いのだそうですが、海産物に含まれるヒ素はほとんどが毒性の弱い有機の形であり、例外的に無機のヒ素を含むヒジキを食べた場合でも、速やかに肝臓で無害化され尿中に排せつされるのだそうです。

(Apr., 2006)

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34.  Se セレン

英:selenium

サリーニアム

仏:sélénium

セレニョム

独:Selen

ゼレーン

中:xi (1)

シー

中国語の漢字は石偏に「西」です。第1声で高く平らに「シー」と言います。

セレンは硫黄やテルルと同じく16族の元素です。1817年、スウェーデンの化学者ベルツェーリウスとガーンにより、硫酸製造のため硫黄を燃焼した後に生じた沈積物から、テルルに似た元素として発見されました。(注:ガーンの名は「元素111の新知識」に挙げられていますが、他の本ではベルツェーリウスだけが発見者とされています。)
    セレンの命名はギリシャ語の「」σεληνη(セレーネー)に因みます。テルルの名がラテン語の「大地、地球」に因むことに合わせたものと思われます。また、燃える時に月光に似た青白い炎をあげることによったという説もあります。

ちなみに、「」σεληνη に由来する英単語に selenology(月学、月理学)、selenography(月理学、月面地理学)、selenotropism(向月性)、selenocentric(月中心の)などがあります。 これに対し、ギリシャ語の「大地、地球」γη(ゲー)に由来する語として geology(地質学)、geography(地理学)、geotropism(屈地性)、geocentric(地球中心の)などがあります。ついでながら、ギリシャ語「太陽」ηλιος(ヘーリオス)を含む語には、heliology(太陽学)、heliography(写真製版法、<まれに>太陽面記述)、heliotropism(向日性、光屈性)、heliocentric(太陽中心の)があります。
    更に、the heliocentric theory あるいは heliocentricism と言えばコペルニクスの「太陽中心説(=地動説)」、それに対し、the geocentric theory あるいは geocentricism と言えばプトレマイオスの「天動説」ということになります。
    ヘリウムの名が「太陽」に因むことはすでにお話しました。

ついでながら、ラテン語の「大地、地球」には、テルルの名の元になった tellus の他に terra もあります。これらがどう違うのか、詳しいことは分かりませんが、研究社の羅和辞典を見ますと、前者は 1. 大地、大地の女神、2. 地面、土地、3. 地所、領地、4. 国、地方となっているのに対し、後者は 1. 土地、陸地、2. 土、土地、地面、3. 国、地方、<複数形で>全地球、世界、4. 大地の女神となっています。どちらも、英語の land や ground の要素を含んでいますが、terra に「土」の意味があるのは earth と共通しています。「テラコッタ terra-cotta 」はイタリア語で「焼いた土」という意味ですが、もちろんこの terra もラテン語に由来します。ちなみに、ラテン語の terra を含む英語には territory、terrestrial、extraterrestrial(E.T.)などがあります。
    注意:「地球」という概念が出来たのはコロンブスより後のことですからラテン語やギリシャ語には本来「地球」という言葉はありませんでした。英語の earth も同様に本来は「大地、土」という意味です。

セレンの使いみち
セレンは硫黄とよく似た性質を持ち、化合物もただ硫黄の原子がセレンに置き換わっただけのような類似したものを作りますが、硫黄よりはるかに金属製が大きく半導体としても使われます。セレンには多くの
同素体がありますが、そのうち灰色セレンは金属セレンとも呼ばれ、古くから整流器(交流と直流を変換する素子)として使われてきました。また、金属セレンには光を当てると電気の伝導度が増大し、止めるとまた元にもどるという性質(光伝導性)があり、特に赤やオレンジなどエネルギーに低い光に感じるので、この性質を利用して光度計や光電池などに利用されます。

その他、セレンの化合物にはフケ止めシャンプー(SeSツー)や、犬の皮膚病用軟膏(Se(SOフォー)ツー)、赤色顔料カドミウムレッド(CdSe)などの利用もあります。

セレンは哺乳動物にとって必須の元素であることが証明されています。中国で見つかった克山病(Keshan disease)は主に子供の心不全を引き起こす病気ですが、セレンの不足が原因と考えられています。また、フリーラジカルの発生を防ぐ抗酸化酵素や、甲状腺においてホルモンの分泌を促す酵素の一部を成していることも分かっています。また、実験用ラットではセレンの不足が発育遅滞、貧弱な被毛、不妊症が観察されています。
    ただし、セレンの過剰は害になります。古くから、牧草地帯の家畜が方向感覚を失う病気がありましたが、これはセレンを濃縮する性質のあるゲンゲ属(Astragalus)の植物を食べて中毒を起こしたものだそうです。セレンと硫黄の性質が似ていることから、タンパク質や核酸、複合糖質中の硫黄原子がセレン原子に置き換えられて正常な機能ができなくなったり、正常な硫黄化合物の代謝までも制御されてしまったりすることが原因と考えられています。

セレンを畑で収穫?
ゲンゲ属(Astragalus)と言えば、日本では和名をゲンゲ(別名レンゲソウ、学名 Astragalus sinicus )という種類がおなじみです。ゲンゲはマメ科植物の例にもれず、空気中の
窒素を固定してくれるので、昔はよく田植え前の水田に植えられていました。一方、ヨーロッパでは、英名 milk vetch(学名 Astragalus glycyphullos)は山羊の乳の出を増進させると考えられていたためにこの名があるのだそうです。
    ところで、既に書きましたように、ゲンゲ属(Astragalus)の植物は地中のセレンを取り込む性質があります。Nature's Building Blocks によれば、たとえば milk vetch を栽培することにより、1ヘクタールあたり7キログラムのセレンが収穫できるということです。もっとも現在、セレンの需要は十分満たされているので、「セレン栽培」が必要になるとしても遠い先のことでしょうが。

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35.  Br 臭素

英:bromine

ブロウミーン

仏:brome

ブロム

独:Brom

ブローム

中:xiu (4)

シウ

中国語の漢字は「さんずい」に「臭(ただし、下は「大」でなく「犬」)」です。発音は「シウ」です。第4声ですから、高く始めて急速に下がるように発音します。
    ところで、元素を表す中国語の漢字の中で「さんずい(三水)」が付くのは臭素だけです。臭素は非金属の中で唯一、室温で液体の元素です。ちなみに、室温で液体の金属は水銀だけですが、こちらの漢字は「汞」で「したみず(下水)」が付いています。なお、金(きん)は「金」ですが、以上3つ以外の元素の漢字は、気体ならば「气(きがまえ)」、固体の金属は「金篇(かねへん)」、固体の非金属は「石篇(いしへん)」という原則で作られています。

日本語名「臭素」は読んで字のごとく「臭いの素(もと)」ですが、英語などの名前も「悪臭」を意味するギリシャ語の brômos からの造語です。発見者のフランス人バラール(Antoine-Jérôme Balard 1802-1876)は murex(濃い赤紫色の顔料)に因んで muride(ミュリド、ミューライド)という名前を提案したのですが、フランス学士院(the French Academy)はこれを認めず、同じハロゲン族の塩素(chlorine)とヨウ素(iodine)に合わせて bromine とすることに決定しました。当時はすでに、新発見の元素や化合物の命名は国際的な合意に基づいてなされるようになってきていたのだそうです。

注1: brômos はギリシャ語で綴れば βρωμος となると思われますが、この語は辞書に見当たりません。古典ギリシャ語にはそれに類する語もありませんが、現代ギリシャ語には βρωμα(ブローマ、悪臭)、βρωμιος(ブローミオス、悪臭のある、腐った)、βρωμω(ブローモー、私は臭う)などの語があります。

注2:バラールが新元素を発表したのは 1826年ですが、実はその1年前に、ハイデルベルクの学生であったカルル・レーヴィヒ(Carl Löwig 1803-1890)も自宅の近くの泉の水から臭素を取り出し、教授に提出していたのです。しかし、この教授の指示でさらに多くのサンプルを集めている間にバラールの発表があり、遅れをとることになりました。(Nature's Building Blocks より)
    また、ドイツの大化学者リービッヒ(Justus von Liebig 1803-73)は、更にそれ以前にある化学会社から褐色の液体の分析を依頼されたのですが、簡単な試験の後にそれを塩化ヨウ素であると断定、惜しくも新元素発見の好機を逃しました。リービッヒはその試料を「過ちの戸棚」に保管し以後の戒めにしたとのことです。(「元素111の新知識」より)

注3:murex はリーダーズ英和辞典によれば、和名アクキガイあるいはホネガイで、ある種のものから古代紫の染料を採るとあります。また2番目に、赤みがかった紫の意味を挙げています。なお、研究社の羅和辞典は紫深紅色の原料となる貝(テツガイ、ホネガイなど)とし、2番目に紫(色)の意味を挙げています。
    Nature's Building Blocks によれば、古代ローマ皇帝が着ていた紫色のトーガ(古代ローマ市民が着用したゆったりとした衣服)は臭素を含む染料で染められていたそうです。Tyrian purple(ティリアン・パープル)と呼ばれるこの染料は、学名を Murex brandaris と言う地中海産の軟体動物から抽出したとのこと。なお、リーダーズ英和辞典は、地中海産のアクキガイなどの分泌液から採ったとしています。

やっぱり臭い!
臭素の単体は2つの臭素原子からなる分子(Brツー)で、濃い赤色の刺激臭のある液体です。沸点は 58.78℃、融点はマイナス 7.3 ℃ですから冷凍庫にでも入れれば簡単に固体になります。ただし、臭素の単体は非常に毒性が強く取扱いには厳重な注意が必要です。皮膚に付くと炎症を起こし、その蒸気は目や肺を冒し、たった 100ミリグラムが致死量だそうです。
    臭素はハロゲン元素の例にもれず非常に活性で、塩素ほどではありませんが、希ガスを除くほとんどの元素と化合物を作ります。単体としては自然界に存在しません。海水には 65 p.p.m. の臭素が含まれ、工業的に採り出されています。全世界の海には1兆トンが溶けていると考えられますので、資源はほぼ無尽蔵と言えましょう。臭素の化合物は塗料、農薬、医薬品などの製造にも使われます。

ブロマイド
臭素(bromine)は危険ですが、臭化物イオン(bromide、Br-)は安定で比較的安全です。3000ミリグラム以上でなければ毒性を示さず、生命に危険を及ぼす量はさらにこの10倍だそうです。(
-ine と -ide で大違いを参照)
    昔、映画スターやアイドルを写した小形の肖像写真をブロマイドど言いましたが、上に書いたように「ブロマイド」は本来「臭化物」の意味です。印画紙に感光材として臭化銀(silver bromide、AgBr)が塗られていることから、大正末期に映画俳優の肖像写真を商品化する際に「ブロマイド」という名称が案出されました。意味はさておいても横文字にして有り難がる日本人の傾向は今に始まったことではないようです。
    最初の Bを Pと間違えて「プロマイド」と言う人もいますが誤りです。どちらにせよ「日本語」ですから大差はありませんが。なお、英語で bromide paper と言うと「ブロマイド紙」と呼ばれる高感度印画紙だそうです。

「〜化物」の語尾
ついでながら、英語では -ide という語尾はしばしば「〜化物」を表すのに使われます。oxide(酸化物)からの類推で作られたようですが、carbide(炭化物)、nitride(窒化物)、fluoride(フッ化物)、sulfide(硫化物)、chloride(塩化物)、arsenide(ヒ化物)、bromide(臭化物)、iodide(ヨウ化物)、hydroxide(水酸化物)などがあります。例えば、「水酸化ナトリウム」は sodium hydroxide、「塩化ナトリウム」は sodium chloride と言います。
    注1:アメリカ英語では -id の語尾を使うこともあります。ちなみに、ドイツ語は普通 -id で、Oxyd( Oxid もあり)、Nitrid、Fluorid、Sulfid、Chlorid、Bromid、Jodid、Hydroxyd などと言います。ちなみのついでに、フランス語では oxyde、hydroxyde、carbure、nitrure、fluorure、sulfure、chlorure、arseniure、bromure、iodure、hydrure(水素化物)などで、-ure の語尾が「〜化物」を示すことが多いようです。
    注2:英語で -ide で終わっていても「〜化物」ではないこともあります。たとえば、hydrochloride(塩酸塩)、lanthanide(ランタン系列元素)など。

-ate と -ite の違い
もう一つ、ついでに、英語では -ate の語尾が「〜酸塩」、-ite が「亜〜酸塩」を表すのに使われます。たとえば、carbonate(炭酸塩)、nitrate(硝酸塩)、sulfate(硫酸塩)、chlorate(塩素酸塩)、arsenate(ヒ酸塩)、bromate(臭素酸塩)、iodate(ヨウ酸塩)などがあり、sulfide of copper が硫化銅であるに対し、copper sulfate は硫酸銅を表します。 silver nitrate は硝酸銀です。一方、nitrite(亜硝酸塩)、sulfite(亜硫酸塩)、chlorite(亜塩素酸塩)、arsenite(亜ヒ酸塩)となります。ただし、-ite は他にも鉱石の名称などに使われます。carbonite は「カルボナイト(発破用の爆薬)」、fluorite は「ほたる石」です。
    :英語の -ate、-ite、-ide に対応するドイツ語の語尾は -at、-it、-id となります。例えば、Nitrat、Nitrit、Nitrid、Sulfat、Sulfit、Sulfid。ドイツ語では語尾の d は t と同じに発音されますから、亜硝酸塩と窒化物はともに「ニトリート」と発音されます。-it は短く発音されることもあるようですが、紛らわしいですね。
    フランス語では -ate、-ite、-ure となります。たとえば、nitrate、nitrite、nitrure、sulfate、sulfite、sulfure など。ただし、硝酸塩、亜硝酸塩には azotate、azotite もあり、 azoture は
アジ化物です。(注:アジ化物を表すフランス語には azide もあります。)(参考項目:-ine と -ide で大違い

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36.  Kr クリプトン

英:krypton

クリプタン

仏:krypton、crypton

クリプトン

独:Krypton

クリュプトン

中:ke (4)

カー

中国語の漢字は气(きがまえ)に「克」です。k は帯気音、母音 e はシュワーのように「ア」と「ウ」の中間の音です。第4声で発音して下さい。
    英語などの名称は「隠された」という意味のギリシャ語 κρυπτóς(クリュプトス)に由来します。このギリシャ語は「隠れた、潜在的な」という意味の語根としてフランス語や英語に使われています。たとえば、英語には cryptic(隠れた、秘密の)、cryptogam(陰花植物)、cryptonym(匿名)、cryptographer(暗号作成[使用]者)、cryptography(暗号作成[使用]法)、cryptology(暗号作成[解読]術)、cryptanalysis(暗号解読)などがあります。

イギリスの化学者ラムゼー(William Ramsay 1852-1916)はヘリウム(原子量、約4)とアルゴン(原子量、約 40)を発見したあと、これらが周期表上で1つの族を成すことを確信し、両者の間には未発見の元素があるはずだと考えました。そして、助手のトラバーズ(Morris William Travers 1872-1961)と共にいろいろな鉱物を試したものの見つけられず、最終的には、空気を調べることにしました。彼らは化学的な方法によって空気の中から酸素、窒素、二酸化炭素を取り除き、残った気体を液化したのち、注意深く徐々にアルゴンを気化させることで 25立方センチ(ミリリットル)の残留気体を得ました。これをスペクトル分析にかけたところ、 他のどの気体のものでもないオレンジと緑のスペクトルが現れ、未知の元素であることが確認されました。1898年5月30日のことです。
    ヘリウムとアルゴンの間の元素を探していたはずが、アルゴンよりも重い元素の発見になってしまったわけですが、彼らは更に厳密な分析を続け、同じ年の6月にはネオンを発見、更に7月にはキセノンを発見しました。

クリプトンは周期表の第18族、希ガス元素の一つであり、無色無臭の気体です。分子は1個の原子から成り、電子配置が閉殻構造であるため化学的に極めて安定しています。したがって非常に不活性であり化合物は少ないです。その内の一つで、無色の固体である2フッ化クリプトン(KrFツー)は、マイナス183℃の冷却下でクリプトンとフッ素ガスに放電や高エネルギーの電子や陽子を照射することで得られますが、常温では徐々に分解してもとにもどります。長年フッ素ガス以外とは反応しないと思われていましたが、現在では、低温下の限られた条件においてではあるものの、水素や炭素、塩素などとの化合物も作られています。
    クリプトンの用途はいくつかありますが、その一つはネオンサインや蛍光灯の封入ガスです。単独で、あるいは他のガスとともに利用されます。白熱電球にもタングステン・フィラメントの蒸発を抑えるために入れられるそうです。また高速度撮影用のフラッシュやストロボへの用途もあります。クリプトンは電流に対する反応が極めて速いのだそうです。その他、レーザーにも使われます。
    クリプトンは空気中に体積で 0.001%(重量で 0.003%)含まれ、非常に希な元素ではありますが、大気全体としては 150 億トンあることになり、それに対して毎年消費される量はわずか8トンだそうです。(参照:希ガスは希?

クリプトンにはいくつかの同位体がありますが、天然に存在するものは6つです。そのうち中性子を48個持つクリプトン84( Kr の左肩に小さく84と書きます)が57%を占めます。(クリプトンの原子番号は36ですから、陽子の数はどの同位体でも36個です。)その他は多い順に、クリプトン86(17.3%)、82(11.6%)、83(11.5%)、80(2.25%)、78(0.35%)です。どれも放射性ではありません。

クリプトン85は放射性の同位体で、現在の大気中にはウランやプルトニウムの核分裂の際に生じたものがわずかに存在します。半減期は約 11年で、核分裂がある限り減少することはなく、その量は年々増え続けています。
    また逆に、大気中の含有量を細かく調べることで原子炉や核燃料再処理工場の稼働率を推測できるため、冷戦時代(1950-90)、西側諸国はこれによって東側諸国の状況を探っていたそうです。
    (「元素111の新知識」には「人体に有害と考えられる」と書いてありますが、Nature's Building Blocks では「不活性であるために生命とって脅威とはならない」としています。)

メートルの基準
1960年から 80年まで、クリプトン86のオレンジ色のスペクトルの波長が基本的な長さの基準を定めるのに使われました。すなわち、この光の真空中の波長の1,650,763.73倍を1メートルとしたのです。
    その後、基準は1983年に変更され、現在では光が真空中を 299,792,458分の1秒の間に進む距離を1メートルとしています。

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(Jun., 2006)

37.  Rb ルビジウム

英:rubidium

ルビディアム

仏:rubidium

リュビディョム

独:Rubidium

ルビーディウム

中:ru (2)

ルー

英語とドイツ語は「ビ」にアクセントがあります。フランス語は「ディョ」を1つの音として発音し「ヨ」にアクセントを置きます。中国語の漢字は金篇に「如」です。中国語の r は英語とも日本語とも異なり「ジュ」あるいは「ズ」と聞こえるような摩擦音です。舌先を反らせてその裏側を歯茎に近付け、その隙間で呼気を摩擦させます。

英語などの名称はラテン語の rubidus(やや赤い)に由来します。ルビジウムのスペクトルに2本の赤い線が現れることから名付けられました。宝石のルビーもラテン語の「赤い」に由来しますが、成分は酸化アルミニウムと酸化クロムで、ルビジウムとは関係ありません。

ルビーの語源は中性ラテン語の rubinus lapis(赤い石)です。古典ラテン語には「赤い」に関連する語が rubeo(赤い [動詞])、ruber(赤い [形容詞])を始めとしていくつかあります。それらに由来する英語も、rubicund(赤い、赤ら顔の)、rubious(赤い、ルビー色の)、rubiginous(赤褐色の)、rubescent(赤くなる、紅潮する[形容詞])などがあります。「風疹」を意味する rubella も rubellus(やや赤い)に由来するそうです。

ルビジウムは典型的なアルカリ金属で、イオンになりやすく化学反応性に富む元素です。これは、一番外側にある1個の電子を放出すると、希ガスのように電子配置が閉じた状態(閉殻構造)になって安定するためです。
    金属から電子を放出させるためにはあるエネルギーが必要ですが、アルカリ金属はその電子配置の故にこのエネルギーが少なくて済み、特にルビジウムやセシウムは可視光線のような低いエネルギーでも一番外側の電子が放出されます。

光を電気に
光のエネルギーによって金属などから放出される電子を光電子と呼び、これによって光子の流れが電子の流れに変わる現象を光電効果と言います。光電効果は現代のエレクトロニクスを支える基本的な原理の一つで、テレビカメラや映画のサウンドトラックもこの原理を応用したものだそうです。
    実際に光を電流に変えるのには光電管と呼ばれる一種の二極真空管が使われます。陰極は銀の板でセシウム(ときにルビジウム)の酸化物の膜がかぶせられ、光が当たると光電子を出します。一方、陽極には正電圧がかけられており、陰極から出てきた光電子を引き寄せることで電流が流れるというわけです。

年代測定にも
ルビジウムの単体は Rb 85 と Rb 87 の2つの同位体からなる銀白色の柔らかい金属です。天然には Rb 85 が約72%、Rb 87 が約28%の割合で存在します。
    Rb 87 は半減期が約 490億年の放射性元素で、β壊変して非放射性のストロンチウム87に変わることから、岩石や鉱物の中の Rb 87 と Sr 87 の含有量比を調べることでこれらの物質が結晶してから現在までの年代を知ることが出来ます。この方法はルビジウム・ストロンチウム法と呼ばれ、古い岩石や隕石の年代測定に利用されます。

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38.  Sr ストロンチウム

英:strontium

ストランシアム、ストロンティアム

仏:strontium

ストロンスィョム

独:Strontium

ストロンツィウム

中:si (1)

スー

英語では ti のところが「ティ」ではなく、ship の「シ」と同じように発音されることがあります。英語、ドイツ語のアクセントは第1音節の母音 o にあります。この母音はアメリカ英語ではほとんど日本語の「ア」のように発音され、ホットドッグ(hot dog)もアメリカ英語では「ハッドーグ」のようになります。
    
中国語の漢字は金篇に「思」です。中国語式のローマ字では si ですが、この母音は「イ」の構えで唇を横に引いたまま「ウ」を言うようにして出します。

英語などの名称はスコットランド西海岸の町ストロンティアン(Strontian)に由来します。1787年、エディンバラの医師クロフォード(Adair Crawford 1748-95)が鉱物商を通じて、ストロンティアンの鉛鉱山で発見されていた鉱石(ストロンティアン石 strontianite)を手に入れました。 baryta(重土、バリタ:酸化バリウム、硫酸バリウムなど)というふれこみであったため、薬として応用できないかと考えたのですが、調べてみるとバリウムとは関係のない新しい「土 earth」であることが分かり、鉱石名から strontia と名付けました。さらに、1790年に発表された彼の論文を読んだエディンバラのホープ(Thomas Charles Hope)が厳密な分析を行い、strontia が新しい元素を含むとの結論を得ます。ただ、ストロンチウムの単離に成功したのはロンドンのハンフリー・デイヴィ(Humphry Davy)で、1808年のことでした。彼は既にカリウムナトリウムを単離したときと同様、電気分解を利用しました。

花火の色
ストロンチウムは
アルカリ土類(第2族)に属し、軽く比較的柔らかい銀白色の金属です。用途は限られています。化合物として特殊な合金や、テレビのブラウン管のガラスの製造などに使われるものもありますが、私たちに最もなじみが深いのは花火の赤い色でしょう。
    花火の赤い色はストロンチウムが燃えるときの炎の色です。つまり、ストロンチウムの炎色反応というわけです。ついでながら、黄色はナトリウム、緑はバリウム、青は銅だそうです。激しく燃えるように青白く光ったり、星のようにきらきら輝いたりするのはマグネシウムやアルミニウムの粉末の燃焼、つまり酸化反応です。花火とは、さながら夜空を舞台にしての壮大な化学実験と言えましょう。そして、それを操るのは花火師の腕です。
    花火は、まず中心に黒色火薬などの火薬があり、そのまわりに「星」と呼ばれる玉が配置されています。「星」の中にはストロンチウムやナトリウムなど色を出すための化合物が特定の順序で配合されています。黒色火薬は硝石(硝酸カリウム、KNOスリー)に炭素粉末や硫黄をまぜたものです。打ち上げられたあと一定の高さになるとまず火薬が爆発し、その後、決められた順番につぎつぎと「星」に火がついて色が出るように工夫されているのだそうです。

同位体
ストロンチウムには天然に4つの同位体が存在し、その存在比は Sr 88(注意:正しくは、88をSrの左肩に小さく書く)が 82.58%、Sr 86 が9.86%、Sr 87 が 7.00%、Sr 84 が 0.56% となっています。どれも放射性ではありません。(注:ストロンチウム 87 は
ルビジウムの崩壊によってできたものですから存在比は場所によって異なります。)
    ストロンチウム 87m( m は metastable「準安定」の意)は、ストロンチウム 87が励起状態にあるときの異性体(isomer)で、半減期 2.8 時間の放射性同位体です。人体に入れても急速に消滅することから、診察を目的として医学に応用されます。また、同じく放射性のストロンチウム 89 も医学目的で使われます。半減期は 50.5 日です。
    放射性同位体のストロンチウム 90 は半減期 29 年で、人体にとってもっとも危険な放射性元素の一つです。β線を放出するために骨のガンや白血病の原因になるとされています。これは、ウランやプルトニウムの核分裂の時に生じるもので、主として1945 年から 63年にかけて行われた大気圏内核実験によって世界中にばらまかれました。1950年代にはすでに幼児の乳歯に検出されています。大気中のストロンチウム 90 が雨に溶けて牧草地を汚染し、それを食べた牛を通して牛乳その他の乳製品に残留したのです。
    ただ、この恐ろしい物質にも有益な利用法があります。原子炉の副産物として使用済み核燃料から取り出されるストロンチウム 90 は、その高エネルギーの放射を発電に利用できることから、宇宙船や遠隔操作の気象観測機器などに使われます。また、β線のエネルギーを計算することにより、紙やプラスチック・フィルム、塗料の厚みなどを計るのにも利用されるそうです。

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(Jul., 2006)

39.  Y イットリウム

英:yttrium

イトゥリアム

仏:yttrium

イトゥリィョム

独:Yttrium

ユトゥリウム

中:yi (3)

イー

中国語の漢字は金篇に「乙」です。ローマ字では yi と書きますが、この場合 y は綴り方の規則で書いてあるだけで発音しません。第3声ですから、まず低く押さえるように下げながら「イー」と始め、徐々に上げながら伸ばします。
    英語とフランス語の y は母音 / i / を表し、英語の year や yeast における子音としての y ではありません。フランス語は「ョ」に軽いアクセント、英語とドイツ語は y にアクセントがあります。ドイツ語で「ユ」と示した母音は ü(U ウムラウト)と同じく、唇をしっかりと丸めたまま「イ」を発音する音で、日本語の「ユ」とは異なります。子音の / t / を「トゥ」と表記しましたが、あくまでも子音だけを表します。この部分は母音を入れないように、速やかに発音して下さい。英語では同じ条件のもとに「イツリアム」と発音した方が近いかもしれません。

イットリウムの名称はスウェーデンのイッテルビー(Ytterby)という「地名」に由来します。「イッテルビー」はスウェーデン語で「はずれの村、村はずれ」を意味し、村の「名」というよりむしろ単に位置を示す言葉だそうですが、これが何とイットリウムをはじめ4つの元素名の起源となりました。
    ここで1787年に採取された黒い石を手に入れたガドリン(Johan Gadolin)は、1794年これが未知の「
」を含むことを発表し、この「土」をイッテルビーに因んで「イットリア yttria 」と命名しました。(Nature's Building Blocks によれば、このときガドリンが綴りを間違えたのがそのまま定着してしまったのだそうです。私の推測では、間違えなければ "Ytterbia"(イッテルビア)とか "Ytteria"(イッテリア)となっていたかもしれません。綴り間違えが定着してしまう例としてイチョウの学名を御覧下さい。)
    イットリアは、実は酸化イットリウムでした。金属イットリウムは1828年、フリードリッヒ・ヴェーラー(Friedrich Wöhler)により初めて単離されました。(イットリウムという名前がつけられるのはまだ後のことです。)
    イットリア発見の元となった黒い鉱物はガドリンに敬意を表してガドリン石(gadolinite)と呼ばれるようになりましたが、その後の研究によりガドリンが見のがしていた他の元素をも含むことが明らかになりました。1843年、モサンダー(Carl Gustav Mosander)はイットリアを更に厳密に調べ、これが3種の酸化物(酸化イットリウム、酸化テルビウム、酸化エルビウム)からなることを発見しました。テルビウム(terbium)とエルビウム(erbium)もイッテルビーに因みます。もう一つイッテルビーに因む元素名はイッテルビウム(ytterbium)です。

イットリウムは柔らかい銀白色の金属で周期表の第3族に属します。広い意味では希土類元素の1つとされますが、比較的豊富にある金属です。地殻付近の存在比は銀の 400倍で、年間の産出量は酸化イットリウムの形で 600トン程ですが、埋蔵量は 900万トンと推定されています。
    イットリウムは合金や酸化物の形でさまざまものに利用され、磁石や、熱を伝えにくい金属、レンズ用の熱や衝撃に強いガラス、カラーテレビで赤い色を出すための蛍光体、超伝導素材、レーザーを作る結晶、などがあります。
    中でも YAG(イットリウム・アルミニウム・ガーネット)と呼ばれるイットリウムとアルミニウムとの酸化物は強力なレーザーを生みだし、金属を切断したりするのにも使われます。YAG はまた非常に硬く、ダイヤモンドのような輝きを持つことから、模造品を作るのに使われることもあります。

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40.  Zr ジルコニウム

英:zirconium

ザーコウニアム

仏:zirconium

ズィルコニョム

独:Zirkonium

ツィルコーニウム

中:gao (4)

カオ

中国語の漢字は金篇に「告」です。「カ」は無声音で発音して下さい。フランス語は「ョ」に軽いアクセント、英語とドイツ語は「コ」にアクセントがあります。

英語などの名称はジルコンに由来します。1789年にドイツのクラップロート(Martin Heinrich Klaproth 1743-1817)がジルコンから未知の酸化物を抽出しジルコニアと命名、これには新しい元素「ジルコニウム」が含まれているに違いないと判断しました。次いで1824年、スウェーデンのベルツェーリウスが金属ジルコニウムの単離に成功しました。
    なお、ジルコンの組成は ZrSiOフォーで、黄色や赤、緑のものもあるそうですが、透明なものはトルコ石、ラピスラズリとともに12月の誕生石とされることもあります。古代から宝石として知られ、hyacinth(ヒヤシンス)、jacinth、jargoon、zircon などの名前で呼ばれて来ましたが、zircon(ジルコン)は「金色」を意味するペルシャ語がアラビア語を経由したものだそうです。日本では「風信子鉱」という呼び方もあります。ちなみに、「風信子(ふうしんし)」は植物ヒヤシンスの異名です。「ふうしんし」は「ヒヤシンス」と音が似ていますが、語源については確認できません。

ジルコン(ジルコニア、酸化ジルコニウム)は非常に風化されにくく、比重が 4.5 と重いため、ジルコンを含む岩石が風化されるとジルコンだけが後に残り、ジルコン・サンド(Zircon sand)と呼ばれる砂状の小結晶が特定の場所にたまります。
    ジルコン・サンドは世界各地に見られ、昔から耐火材として炉の裏張りや、鋳型や、溶けた金属をすくうための巨大なひしゃくなどを作るのに使われて来ました。酸化ジルコニウムは 2500℃までは溶けないので、これで作った鋳型を使用すれば溶けた金属に冒されることなく一定した仕上がりを期待できます。(注:金属ジルコニウムの融点は1852℃、ちなみに鉄は1535℃です。)

ジルコニウムは硬い銀白色の金属です。空気中で表面が急速に酸化され、この被膜に被われるため極めて腐食されにくく、フッ化水素酸以外の酸にもアルカリにも溶けません。(電気炉中で酸化ジルコニウムを還元して得られた無定形ジルコニウムは黒色粉末で、空気中で火をつければ燃えます。)
    ジルコニウムやその化合物は、その耐火性・耐腐食性を活かして、耐熱性の強い坩堝や、研磨剤、セラミック、合金、ブラウン管やフラッシュ用のガラスなどの他、食品包装材などの用途もあります。また、化粧品やデオドラントにも使われるそうです。
    特に多いのはセラミック、及びセラミックの上薬への利用です。中でも、戦車用に潤滑油も冷却装置も要らないエンジンを開発するための研究から生まれたセラミックは鉄鋼よりも硬く鋭く、工業用の切断機に応用されるほか、ナイフやハサミやゴルフのアイアンにも使われています。

気体を吸いこむ
ジルコニウムは酸素分子、水素分子、窒素分子を非常に吸着しやすく、1000℃ではその体積が膨張するのが目で見て分かるくらい多くの酸素を吸い込むそうです。この性質を利用して、真空管の中に残った微量の気体を除去するためのゲッター(getter)として使われるほか、水素の貯蔵にも利用されるとのことです。

原子力発電所にも
ジルコニウムは天然の金属のうちでもっとも中性子を吸収しにくい金属で、そのため原子炉内でウラン燃料を入れる管などの配管に使われるのだそうです。原子炉は中性子を利用して核分裂を行わせ熱を取り出す装置ですから、そこに使われる物質が中性子を大量に吸収するようでは困ります。ジルコニウムのように高温に比較的強く、中性子がすり抜けてしまうような物質が都合が良いのだそうです。
    原子炉によっては10万メートルに及ぶジルコニウムの配管が施され、世界で製産される金属ジルコニウムはほとんどすべて原子力産業によって買い取られるそうです。
    ただし、ジルコニウムには同族元素のハフニウムが不純物として入り込みやすく、しかもハフニウムは非常に中性子を吸収しやすいため、これを取り除かない限り原子炉用には使えません。
    1979年3月、アメリカ、ペンシルバニア州のスリーマイル島原子力発電所で大量の放射能漏れが起きました。この時は、冷却水が少なくなって燃料棒が過熱状態になり、およそ900℃の高温で水蒸気とジルコニウムが反応したのだそうです。ジルコニウムが水のために激しく酸化した、つまり水で燃えてしまったのです。ジルコニウムは金属として優れた面を持つものの、比較的酸化されやすいのが弱点だそうです。

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41.  Nb ニオブ

英:niobium

ナイオウビアム

仏:niobium

ニョビョム

独:Niob、Niobium

ニオープ、ニオービウム

中:ni (2)

ニイ

中国語の漢字は金篇に「尼」です。英語、ドイツ語は「オ」にアクセントがあります。ドイツ語の Niob は "Niop" のように読みます。

英語などの名称はギリシャ神話に登場するニオベー(Niobe、英語名ナイオビ)に由来します。ニオベーはタンタロスの娘、アンピーオーン(Amphion)の妻で、7男7女に恵まれますが、子供が2人しかいないレートー(Leto)にこれを誇ったため、レートーの子アポロンとアルテミスとによって子供すべてを殺されます。悲嘆に暮れるニオベーをゼウスは石に変えましたが、それでも泣き止むことはなく涙を流し続けたと言います。(ちなみに、アンピーオーンはゼウスの息子であり、アポロンとアルテミスとは異母兄弟です。)
    ただし、ニオベーの悲劇は元素ニオブとは何の関係もなく、名前の元となった理由はただ一つ、ニオベーがタンタロスと縁続きだったということです。ニオブは、1801年イギリスのハチェット(Charles Hatchett 1765-1847)がコルンブ石( columbite )の中に発見しコロンビウムと名付けたのですが、翌年発見されたタンタルと化学的性質が似通い、しかも一緒に産出され分離も困難であることから同一元素ではないかという議論が起こりました。1844年になって、ドイツの科学者ハインリッヒ・ローゼ(Heinrich Rose)がコルンブ石が両元素を含むことを確認、異なる元素であること証明して、「コロンビウム」をタンタルの由来となったタンタロスの娘ニオベーにちなんで「ニオビウム」と名付けたのです。なお、純粋な金属ニオブは1864 年に初めてブロムストランド(C.S.Blomstrand)によって単離されました。( ニオブの命名の経緯については本によって異なる部分があります。ここでは Nature's Building Blocks を基本にしました。)

ちなみに、「コロンビウム」という名称も1950 年、国際純正及び応用化学連合(IUPAC)が niobium を正式名称と決定するまで使われていました。(「元素111の新知識」には、イギリスやアメリカでは 1949年まで使われたと書いてあります。)
    現在でも分野によっては「コロンビウム」という名称が使われているそうです。(Nature's Building Blocks には「engineering などで」とあり、またリーダーズ英和辞典には「米国の冶金学者は現在も使う」としています。)
    アメリカ人が「コロンビウム Columbium 」という名称にこだわったとしても不思議はありません。「コロンビウム」は直接的にはコルンブ石( columbite )に因んで名付けられたのですが、この名は「アメリカ」の詩的な別称である「コロンビア Columbia 」とも関連しているからです。(ウェブスターやランダムハウスなどの大型英語辞書の語源には columbium が Columbia から造語されたとさえ書いてあります。また、columbite は columbium から造語されたとして、化学関係の本とは逆の説明になっています。)
    注意:Columbia は英語では「クランビア」のような感じに発音されます。「ラ」にアクセントがあり、「ク」と書いたのは所謂「あいまい母音」で「カ」や「コ」のようにも聞こえます。「ラ」の母音はイギリス標準英語ではだいたい日本語の「ア」と同じですが、アメリカ標準英語では「オ」のような響きを含みます。また、コルンブ石( columbite )は、英語では「ラ」にアクセントをおいて「クランバイト」か、「コ」にアクセントをおいて「コルンバイト」のように発音されます。後の場合では、「ル」は「あいまい母音」、「コ」はアメリカ英語ではほとんど「カ」に聞こえます。
    ちなみに、「コロンビア Columbia 」は南米のコロンビア Colombia と同様、新大陸の発見者クリストファー・コロンブス(Christopher Columbus 1451?-1506)に因みます。コルンブ石(columbite)については確認できませんが、恐らく Columbus あるいは Columbia に因むものと思います。
    ついでながら、コロンブスのイタリア語名は Cristoforo Colombo(クリストーフォロ・コロンボ)です。テレビシリーズの刑事コロンボはイタリア系ですからコロンブスの遠い親戚だったかもしれません。なお、Columbus はラテン語の columbus(雄ハト;ハト一般は女性形の columba )に由来し、イタリア語では今もハト(ハト一般、雄ハト)を colombo(雌ハトは columba)と言います。ちなみに、コロンブスはスペイン生まれだという説もありますが、スペイン語名は Cristóbal Colón(クリストーバル・コロン)と言います。

ニオブの使い道
ニオブは鋼鉄のような灰色の光沢を持つ金属です。空気中では酸化物の膜に覆われるため酸に対して強い耐性を示します。常温では王水にも溶けません。ただし、高温では濃い酸やアルカリに冒されます。
    ニオブは合金に広く使われています。他の金属に少量添加すると強度を増し、特に低温にさらされる金属には有効だそうです。また
ジルコニウムとの合金は特にアルカリに対する耐性が強く、ニオブが中性子を吸収しにくいことも相俟って、高速増殖炉で溶けたリチウムやナトリウムを通すための配管に使われるとのことです。
    ニオブは超伝導に関して、金属の中でもっとも高い臨界温度を持つのだそうです。臨界温度とは、ある温度を境にして金属などの電気抵抗がゼロになるときの温度のことです。ニオブと他の金属との合金はさらに高い臨界温度をもつことが分かっています。「高い」と言っても比較の問題で、依然として超低温の話なのですが、少しでもこれが高ければ実用化しやすいことになります。たとえば、スズまたはチタンとの合金はマイナス250℃で超伝導状態になります。これはまだかなりの超低温ですが、これによって作られる協力な磁場はMRI(磁気共鳴映像法)に利用されています。

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(Oct., 2006)

42.  Mo モリブデン

英:molybdenum

マリブダナム

仏:molybdène

モリブデーヌ

独:Molybdän

モリュプデン

中:mu (4)

ムウ

中国語の漢字は金篇に「目」です。ドイツ語では b のところを無声音で / p / と読みます。アクセントは英語では「リ」に、ドイツ語・フランス語は「デ」にあります。

英語などの名称は molybdena という鉱物の名に由来します。molybdena は「」を意味するギリシャ語 μολυβδος(molybdos モリュブドス)に由来し、方鉛鉱などの鉛鉱石を指す言葉でしたが、黒鉛(石墨、英語名:graphite)や輝水鉛鉱(モリブデン鉱、MoSツー、英語名:molybdenite)も鉛鉱石と混同されたため同じ名前で呼ばれていました。
    やがて黒鉛が別物と分かった後も、鉛鉱石と輝水鉛鉱は混同されていましたが、1778年にスウェーデンのシェーレ(Karl Wilhelm Scheele 1742-86)が黒鉛でも鉛でもないと発表するに至って、molybdena は未知の鉱物ということになりました。1781年には彼の友人のイェルム(Peter Jacob Hjelm 1746-1813)が金属モリブデンを取り出すのに成功しましたが、かつて鉛と混同された生い立ちが「モリブデン(molyubdenum)」や「輝水鉛鉱(molybdenite)」という名前にその名残りをとどめています。

かつて輝水鉛鉱は黒鉛と混同されていたため、黒鉛と同様に鉛筆の芯の材料として使われていました。英語などで「芯」と「鉛」を同じ語(英語では lead )で表しているのも輝水鉛鉱が鉛の化合物と考えられていたことに由来します。日本でも「鉛筆」という名前から芯には鉛が入っていると誤解している人がいますが、現在、鉛筆の芯は黒鉛(炭素の同素体)と粘土が材料で、鉛は入っていません。

注:molybdena は μολυβδαινα(モリュブデナ)を音写した語で、「鉛を含むもの」といった意味です。古代ギリシャ語では魚の釣り糸につける重りのこともこう呼んだようです。

モリブデンの使い道
モリブデン金属は粉末の時は灰色で、溶かして塊にすると銀白色を呈します。ただし、融点が高い(2617℃)ために塊にすることはあまりなく、ふつう灰色の粉末として製産され売られるそうです。(高圧によって一定の形に圧縮されるようですが)。なお、モリブデンを溶かして鋳型に入れることは1959年、特別な坩堝の開発を待って初めて可能になりました。
    モリブデンは高融点を活かして、ガラス工業でガラスを溶かすための炉や電子管の陽極などに利用される他、ほとんどがニッケルやクロムとともにステンレス鋼などの合金に使われます。パリのルーブルのピラミッドにも使われたスチールは、モリブデンをほんの数パーセント含むことで 2000℃までの高温に耐え、極めて膨張率が低く、良電導体で、腐食にも強いため、自動車や航空機のエンジン部分にも使われているそうです。
    モリブデンの合金は工具にも使われます。必要な硬度に応じてモリブデンの割合が増し、高速で回転するドリルやノコギリの刃には7%ものモリブデンが含まれるそうです。興味深いことに 14世紀の日本刀の中にはモリブデンを含むものがあることが分っています。ただし、この技術は後に伝えられることはなかったようですが。(Nature's Building Blocks より)

人間にも必要
モリブデンは人間にも必須の元素で、いくつかの重要な酵素の成分です。
アゾトバクターが空気中の窒素を固定するのに利用するニトロゲナーゼという酵素もモリブデンを含んでいます。地球上の総窒素固定量の 70%がこの酵素に依存するそうですから、地球環境にとって極めて重要な役割を担っていると言えましょう。
    ただ、体に必須のものであっても多すぎれば害になります。米国コロラド州では家畜が molybdenosis と呼ばれる病気にかかることがあるそうですが、これは牧草に含まれるモリブデンの量が多すぎることに起因します。症状は食欲減退、体重低下、貧血、授乳不良、不妊、骨粗鬆症などです。通常の牧草は1kg あたり3〜5mg のモリブデンを含みますが、この地方の牧草には 20〜 100 mg ほどが含まれるそうです。ちなみに、この地方には世界有数のモリブデン鉱山があります。

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43.  Tc テクネチウム

英:technetium

テクニーシアム

仏:technétium

テクネスィヨム

独:Technetium

テヒネーツィウム

中:de (2)

ター

中国語の漢字は金篇に「得」の旁(行人篇を除いた部分)です。中国語ローマ字では d は有声音(濁音)ではなく、T の無気音を表します。呼気をできるだけ抑えて発音して下さい。また、母音 e はシュワーのように「ア」と「ウ」の中間の音です。「ター」と書いておきましたが、「トァー」とか「トォー」とか本によっていろいろな書き方がなされます。

この元素は人工的に作られた最初の元素であることから、1947年、「人工の」という意味のギリシャ語 τεχνητος ( technetos )を元に technetium と名付けられました。なお、 τεχνητος は τεχνη(techne テクネー、技術、工芸)の派生語ですから、同じくτεχνη の派生語である τεχνικος(technikos 技術的な、熟練した)から出来た英語 technic や technical と同源ということになります。また、technology も前半は同源です。

周期表の発表以来、マンガンの下に位置するはずの43番元素の探索が進められ、何度も発見の報告がなされて、その度に davyum、lucium、nipponium、masurium などの名称が提案されましたが、どれも確認できずに否定されました。このうち、ニッポニウムは 1906年小川正孝博士が提唱したものです。また、1925年イダ・タッケやワルター・ノダックらドイツの化学者チームが発表したマスリウム(masurium)も否定されましたが、1999年になってアメリカのロス・アラモス研究所で同じ方法による実験が行われ、タッケらの「発見」が正しかった可能性が大いにあるという結論に達しました。ことによったら、43番元素は「マスリウム」と呼ばれていたかもしれません。ちなみに masurium は試料となった鉱石の採掘地、東プロイセン(現ポーランド)のマズリア(Masuria)に因みます。

テクネチウムの誕生
原子核の構造や反応についての理解が進むにつれて、この元素には自然界に安定な核種が存在しないことが分かりました。イタリア・パレルモ大学のセグレ(Emilio Segrè)とペッリエル(Carlo Perrier)は、原子番号42のモリブデンの原子核に陽子1個を取り込ませれば原子番号43の元素を作ることができると考え、アメリカのカリフォルニア大学バークレー校のサイクロトロンでモリブデンに重陽子(重水素の原子核で陽子1個と中性子1個とから成る)を照射すること数カ月、1937年ついにその試料の中に新しい元素を確認しました。

:「核種」とは要するに「原子核の種類」ですが、同位体の原子核を1つ1つ区別して呼ぶための名称です。原子は原子番号(=電子の数または陽子の数)だけで決まりますが、核種は原子番号と質量数(原子核を構成する陽子と中性子の数の和)によって規定されます。具体的には、元素名の後ろに質量数を添えて、「炭素14」とか「ウラン235」とかと呼び、記号では元素記号の左肩に小さく質量数を書きます。(ちなみに、炭素とウランの原子番号は、それぞれ6、92です。)

人間は星から生まれた?
テクネチウムには同位体が20種類以上ありますが、どれも放射性であり、安定な同位体は存在しません。最も寿命の長い同位体でも半減期が400万年ですので、たとえ地球誕生の頃にあったとしてもその後の 45億年あまりの間にすっかり消えてなくなっています(注)。それだけに、1952年、カリフォルニアにあるウィルソン山天文台及びパロマー天文台のポール・メリル(Paul Merril)がいくつかの赤色巨星が放つ光のスペクトルの中にテクネチウムの原子線を発見したことは大きな驚きでした。テクネチウムの半減期の短さと恒星の終末の姿である赤色巨星の年齢を考えるならば出される結論はただ一つ、すなわちこの元素が星の中で合成されているということを意味するからです。
    太陽のような星は核融合によって、水素とヘリウムとを炭素、酸素、窒素、ネオン、マグネシウム、シリコン、鉄へと変えていきますが、
鉄より重い元素を作ることはありません。(鉄の原子番号は 26)。これに対して赤色巨星はその他のほとんどの元素を合成します。さらに超新星爆発を起こす時にはヨウ素、金、ウラニウムのような極めて重い原子核をも合成します。
    人間の体は銅、亜鉛、セレンといった鉄よりも重い元素も必要としていますが、これらは過去のある時に赤色巨星によって作られたものに違いありません。また、更に重いヨウ素も必須の元素ですが、これはかつて超新星の爆発によって宇宙にまき散らされたはずのものです。まさに私たちは星屑(スター・ダスト)で作られたと言えましょう。

注:ただ、現代では原子炉の中で毎年何トンものテクネチウムが生み出され、放射性廃棄物の形で地球上に溜まっています。また、医療に使われるテクネチウムも、問題とされないほどの微量ではありますが、環境中に漏れ出しています。

使いみち
テクネチウムは銀色の光沢を持つ金属ですが、普通は灰色の粉末として得られます。比較的軽い元素であるにもかかわらず放射性です。天然ではウラニウムが自然に核分裂する過程で微量に生じます。一方、原子炉の中では毎年何トンも作り出されていますが、商業的に利用されるのはほんのわずかです。
    テクネチウム99m は血液中に投与され、放出するγ線の分布挙動を測定器によって体外から追跡することで癌などの診断に使われます。半減期が6時間と短く、放出する放射線のエネルギーがそれほど大きくないことから、体内に投与しても放射線による障害を起こす危険は少ないのだそうです。

(Dec., 2006)

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44.  Ru ルテニウム

英:ruthenium

ルスィーニアム

仏:ruthénium

リュテニヨム

独:Ruthenium

ルテーニウム

中:liao (3)

リアオ

中国語の漢字は金篇に「了」です。英語などと異なり L の音で始まりますが、これは中国語の R が表す音は J のようにも聞こえる摩擦音なので、L の方がかえって英語などに近いと判断されたためでしょうか。英語名で「スィー」と表記してある音は thief などの /θi: / です。

名称の由来はルテニウム発見の元となった鉱石が採掘された土地の名にありますが、それに2説あります。一つは、ロシアのウラル山脈で採られたとしロシアの中世ラテン語名に由来するというもの、もう一つは現在ウクライナ領となっているルテニア(Ruthenia)地方(当時はハンガリー領)とするものです。

Nature's Building Blocks によれば、この元素は以下のような経緯で発見に至りました:
    1807年、ポーランドの化学者スニャデツキー(Jedrzej Andrei Sniadecki)が南アメリカで採掘された白金の鉱石を調べ始めました。この鉱石から既にロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウムが発見されていたので更に新しい元素を見つけられるかもしれないと考えたからです。1808年5月、彼は新元素を発見したとしてロシアの雑誌に発表し、ヴェスチウム vestium と命名しました。
    ついでながら、この名称はその前年に発見された小惑星 Vesta に因みます。1800年代の始めには小惑星から新元素の名前を取るのが流行り、他には Ceres からセリウム、Pallas からパラジウムなどがあります。
    残念ながら、ヴェスチウムは生き残れませんでした。後にフランスの化学者たちがスニャデツキーの「発見」を確認しようとしたものの新元素を発見できず、その報告を読んだスニャデツキーが発見の主張を取り下げたからです。
    その後 1825年になってスウェーデンの偉大な化学者ベルツェーリウスとエストニアの化学者オサン(G. W. Osann)とがロシアのウラル山脈から採れた白金を試料として調べた結果、ベルツェーリウスは既に知られている元素しか確認できませんでしたが、オサンは未知の元素を3つ発見したと発表し、pluranium、polinium、ruthenium と命名しました。
    このうち初めの2つは確認されず、1つだけは 1840年、オサンの同僚であったクラウス(Karl Karlovich Klaus1796-1864)が新元素であることを確認しました。クラウスはオサンが付けたルテニウムの名称をそのまま使いましたが、オサンの使った試料は不純物が多かったとして、更に自分の試料の純度を高めその属性を研究しました。そのため、今日しばしばクラウスがルテニウムの発見者と呼ばれます。

白金の仲間
ルテニウムは硬くてもろい白銀色の金属で、酸化や腐食を受けにくく、展性に富み融点が高く比重が大きいなど、白金と同じ性質を持っています。ただし王水には侵されません。
    ついでながら、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、および白金の6元素は物理化学的性質が互いに似ており、白金族元素と総称されます。特に、周期表の第5周期に並ぶ前3つ、第6周期に並ぶ後3つはそれぞれ兄弟のように良く似た元素だそうです。(周期表を見るとこれらの6元素がまとまっているのが分かります。改定された命名法では8族、9族、10族の第5、第6周期ということになりますが、従来の亜族方式ではすべて第VIII族に属します)。
    ルテニウムは固さを増すために宝飾品としての白金に添加される他、オスミウムとの合金は万年筆のペン先に使われます。ただし、ルテニウムの利用全体から見ると合金の割合は低く、50%は電子工業、40%は化学工業に利用され、この分野での需要が今後も増加すると見込まれているそうです。

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45.  Rh ロジウム

英:rhodium

ロウディアム

仏:rhodium

ロディヨム

独:Rhodium

ローディウム

中:lao (3)

ラオ

中国語の漢字は金篇に「老」です。英語などと異なり L の音で始まりますが、これは中国語の R が表す音は J のようにも聞こえる摩擦音なので、L の方がかえって英語などに近いと判断されたためでしょうか。

英語名は、ロジウムの塩の水溶液がバラ色であることから「薔薇色」を意味するギリシャ語を元に作られました。元のギリシャ語について、「元素111の新知識」と「元素の小事典」は rodeos としていますが、これに当たる語はギリシャ語辞書に見当たりません。「薔薇色の」を表すギリシャ語として、Pocket Oxford Classical Greek Dictionary には ροδοεις ( rhodoeis )、The Oxford Dictionary of Modern Greek には ροδινος ( rhodinos ) が載っています。なお「薔薇」に当たる語はどちらも ροδον ( rhodon ) です。(注:ギリシャ文字の P は、ラテン語以来の伝統により、英語では RH で翻字されます。)
    ちなみに、ギリシャのロードス島(Ροδος )の名前は、島民が太陽神を崇拝し薔薇を神の表象としたことに由来するそうでが、英語では Rhodes と書きます。南アフリカの政治家セシル・ローズ( Cecil John Rhodes 1853-1902 ) の姓も同じ綴り同じ発音ですが、語源的に共通かどうかはわかりません。ついでながら、ジンバブエの旧名ローデシア(Rhodesia)はセシル・ローズに因みます。

ロジウムは 1803年イギリスのウォラストン(William Hyde Wollaston 1766-1828)によって発見されました。彼は友人のテナント(Smithson Tennant 1761-1815)と共に、「白金」を王水に溶かしたときの溶液と、溶けきれずに残った黒い物質とを調べました。(当時、「白金」を王水に溶かそうとしても すべては溶けないこと、つまり未知の「不純物」があることは既に知られていました)。その結果、テナントは黒い残留物質からオスミウムとイリジウムを発見し、ウォラストンがパラジウムとロジウムを発見することになりました。
    ウォラストンは「白金」が溶けた液からまず白金を取り除き、次にパラジウムを得、残った美しい薔薇色の液から薔薇色の結晶(塩化ロジウム)を取り出し、これを水素ガスで熱することで金属ロジウムを得ました。

使い道
Nature's Building Blocks によると、ロジウムの 85% は自動車用の触媒コンパータに使われるそうです。ロジウムは窒素酸化物を還元する能力が高く、今後もこの用途は増えて行くと思われます。使い古されたコンバータから回収されるロジウムは年間ほぼ2トンに上るそうです。
    触媒コンバータのメーカーである Walker 社の説明によると、触媒コンバータ(キャタライザー)とは、自動車排出ガスの有害物質を酸化還元して浄化する装置です。現在の触媒としては、
アルミナをベースに白金、パラジウム、ロジウムを加えたものが主に用いられています。ロジウムは窒素酸化物の還元能力が高く、白金とパラジウムは炭化水素と一酸化炭素の酸化能力が高いという特性を持つそうです。

    その他、金属ロジウムは高い反射率を示すため、自動車のヘッドライトの反射板や、光ファイバーの被膜などの光学分野で使われます。

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(Mar., 2007)

46.  Pd パラジウム

英:palladium

パレイディアム

仏:palladium

パラディヨム

独:Palladium

パラーディウム

中:ba (3)

パア

中国語の漢字は金篇に「巴」です。

パラジウムの名はその発見(1803年)の前年に発見され話題になっていた小惑星パラス(Pallas)に由来する造語です。発見者ウォラストンは初め、別の小惑星セレス(1801年発見)の名から ceresium を考えたのですが、パラジウムが単離された時がちょうどパラスが発見された時(1802年3月)に近いことから結局はパラスを選びました。

ちなみに、Pallas は 女神 Athena(アテナ、アテーネー)の呼称の一つで、Pallas Athena とも言うそうです。ところで、なぜアテナ神をパラスと呼ぶのか不思議に思って調べると、ギリシャ神話に2つの説を見つけました。研究社の英和大辞典によれば、パラスはトリトン(Triton)の娘で、アテナと一緒に育てられます。アテナはある時まちがってパラスを死なせてしまったことから彼女を神像に刻み、その名を継いだということです。
    また、小学館のロベール仏和大辞典によると、パラスはアテナを犯そうとして逆に殺された巨人神だそうです。(あるいはアテナの父であるという異説もあるとのこと)。殺した強敵の名を踏襲するというのも日本武尊(ヤマトタケルノミコト)の例にもあるように十分考えられることではないでしょうか。
     ついでながら、英語などでは、palladium という語は「守り、保証、保護、守護神」の意味でも使われます。これは「パラスの像(特にトロイの守護神パラスの像)」を表す Palladium(ギリシャ語で Palladion)から派生した意味で、
the Bill of Rights, palladium of American civil liberties(権利憲章、すなわちアメリカの市民的自由の守り。American Heritage Dictionary)、 La Constitution est le palladium de l'État.(憲法は国家の守りだ。ロワイヤル仏和中辞典)、のように使われます。

パラジウムの使い道
パラジウムというと、私たちに最も身近なのは歯の治療、あるいは宝飾用に使われる金属ということではないでしょうか。しかし、パラジウムの 60%は
ロジウムと同じく自動車の触媒コンバータに使われるのだそうです。炭化水素の除去に関しては白金よりも効率が良く、今後ますますこの用途が増加すると考えられます。コンバータから回収されるパラジウムの量は現在のところ年に数トンに留まりますが、将来はリサイクルが最大のパラジウム源ということになるかもしれないとのことです。
    パラジウムの 20%は電子機器、通信機器に使われています。たとえば、広画面のテレビ・コンピューター・携帯電話などの中にいくつも使われている小さなコンデンサーは、パラジウムと絶縁材としてのセラミックとを何層(ときには 50層)にも重ね合わせた構造をしているのだそうです。
    歯科治療でいわゆる「銀歯」に使われる12%金銀パラジウム(通称 金パラ)は 金 12%、パラジウム 20%くらい、銀 40〜60%の他、銅や亜鉛などを含む合金で、これを使えば保険が利きます。
    宝飾用のホワイトゴールドは金とパラジウムとの合金です。(注:ホワイトゴールドは白金とは異なります)。以前は、ホワイトゴールドというと金とニッケルの合金でしたが、これは輝きがにぶいためにパラジウムやロジウムのメッキをして使うのが普通でした。また、ニッケルはアレルギーを引き起こすことがあるため、現在では宝飾用には使われなくなってきました。今では、18金ホワイトゴールド(18KーWG)というと金 75%、パラジウム 20%、銀 5%のものが多いようです。(パラジウムと銀の割合が異なる場合もあります。また、これらを減らして銅を入れることもあります)。
    ちなみに、18金イェローゴールドは 金 75%、銀 12.5%、銅 12.5% のものがアクセサリーの標準だそうです。銅の割合を増やせば赤みが増します。その上で銀を減らしてパラジウムを入れ、たとえば 金 75%、銅 20% パラジウム 3%、銀 2%、などとすればピンクゴールドになります。パラジウムが白絵具みたいに働くのが面白いですね。
    ついでながら、以上の%は重量比です。金は比重が大きいですから、18金と言っても体積比では 75% に充たず、上掲の割合のイェローゴールドでは 60% くらいになってしまいます。パラジウムは銀や銅より比重が大きいですから、同じ大きさの18Kの指輪なら、ガサの上ではホワイトゴールドの方がイェローゴールドよりも多くの金を含むことになります。(だいたいの比重は、金 19.3、パラジウム 12.0、銀 10.5、銅 9.0 です。)
    蛇足ながら、18金とは金を重量比で 24分の18(75%)含むものを言います。純金は 24金です。12%金銀パラジウムをこれにならって言うと3金にも充たない 2.88金ということになります。

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47.  Ag 銀

英:silver

スィルヴァー

仏:argent

アルジャン

独:Silber

ズィルバー

羅:argentum

アルゲントゥム

希:αργυρος

アルイロス

中:yin (2)

イン

現代ギリシャ語では γυ をヤ行の「イ」のように読みますが、古典では「アルギュロス」のようになります。アクセントはどちらも語頭の「ア」にあります。(参照:Γ, γの発音
    中国語の漢字は金篇に「艮」です。基本的に日本語の漢字と同じですが、金篇が簡体字である点が異なります。ピンインでは yin と書かれますが、音節の始めの / i / は yi と書くという規則に従っているだけであって、「ヤ行」というわけではありませんから、普通の「イ」で発音します。ただし、最後の「ン」は英語の sin や kin などのように舌先をしっかり歯茎に付けて発音して下さい。日本人が普通に「イン」と言うと ing のようになります。(同様に、英語を発音する時も sin、kin が sing、king になりがちですから注意が必要です。)

英語・ドイツ語名は共通のゲルマン語に起源を持つと思われます。英語名の語源は古英語の seolfor(セオルヴォル)です。フランス語名はイタリア語の argento(アルジェント)と共にラテン語に由来します。Ag という元素記号もラテン語を元に作られています。
    ラテン語の argentum はギリシャ語 αργυρος (arguros) と関係があるようです。さらに古典ギリシャ語 αργος(argos、白い、明るい)とも関連があると思われます。日本でも古代に「しろかね」という呼称がありました。山上憶良の有名な歌「銀も 金も 玉も 何せむに まされる宝 子にしかめやも」では「銀」を「しろかね」、「金」を「くがね」と読みますが、「しろかね」は「白い金属」、「くがね」は「黄色の金属」と分析できます。ちなみに「銅」は「あかがね」、「鉄」は「くろがね」と言われました。(:「黄(き)」と「黄金(くがね)」における音変化は「月(つき)」と「月夜(つくよ)」に対応します。)

現代日本語の「ぎん」は中国語の音読みによるものですが、古代の中国音は ngien(鼻濁音の「ギ」を使ってギエン)のようだったそうです。

ついでながら、アルゼンチン Argentina という国名もラテン語 argentum に由来します。
    スペイン語で「銀」は plata(プラータ)ですが、こちらはアルゼンチンとウルグアイの間を流れるラプラタ川( Rio de la Plata [銀の川])の名にもなっています。この地域はスペインによる征服の時代から銀の産地として知られていました。

銀の歴史
銀は古くは3千年前からすべての文明で知られていました。ただ、金と異なり、自然銀として天然に単体で産出することがまれなため、実際は金よりも遥かに豊富に存在するにもかかわらず、非常に希少なものと考えられていました。古代エジプトで銀が初めて知られるようになった頃は金よりも高価なものだったそうです。
    紀元前 2500 年頃に古代バビロニア(現イラク)の南部にいたカルデア人が灰吹法と呼ばれる銀の精製方法を発明しました。この方法については旧約聖書(エゼキエル書、22章17-22節)にも記述がありますが、溶かした金属の上に空気を吹きつけることで不純物としての鉛や銅、鉄などを酸化させて取り除くのだそうです。ただし、この方法では金は取り除けなかったようで、古代の銀はかなりの金を含むことが多いとのことです。

銀の性質と用途
銀は展性と延性が金の次に大きく、厚さ 0.0015 mm と 透けて見えるほどの極薄の箔を作ることができ、1グラムの銀は 1800 m の長さに引き伸ばすことができます。(ちなみに、金は 0.0001 mm の箔になり、1グラムの金は 3000 m の針金にすることができます。)
    銀は電気と熱の伝導率があらゆる金属のうち最大で、電気産業、エレクトロニクス産業において広く利用されています。ちなみに、もし電線を銀で作れば、銅の電線よりも効率的でしょうが、価格が何十倍も違いますから割にあいません。
    銀は大昔から貨幣として使われてきましたが、現在では記念硬貨を除いて通常には使われていません。銀は軟らかい金属であるので、たとえ銅との合金にしても磨耗が激しいのだそうです。
    真新しい銀の光の反射率はあらゆる金属のなかで最高ということで、鏡や魔法瓶の内面などに利用されています。また、宝飾品や、優勝カップ、食卓で使われるナイフ・フォークなどにもその優雅な輝きが活かされていますが、こまめに磨かないと黒ずんできます。これは銀が空気中の硫黄と反応して硫化物の層ができるからですが、この層は内部を保護することはなく、放っておくと反応はどんどん内部に進行します。銀の食器に卵や玉葱、ニンニク、マスタードなど硫黄を含む食品を入れることは禁物です。また、銀の指輪などが黒ずむのは皮膚のタンパク質を構成するアミノ酸の一つのシステインが硫黄を含んでいるからです。
    銀の化合物もいろいろな使い道がありますが、なかでも良く知られているのは臭化銀(AgBr)でしょう。臭化銀は光に当たると銀を放出する性質を活かして写真の感光材料に使われています。

銀の毒性
銀は血液中に 3 p.p.b.(1リットル中に 0.003 mg )、骨に 10 〜 40 p.p.b. など、体重 70kg の成人の体には約 2 mg 含まれています。食物にも、小麦に 300 p.p.b.、牛乳に 25〜50 p.p.b. などと含まれており、日常の食事からは多くて 0.008 mg が摂取されますが、90% は胃液(塩酸)の作用で不溶性の塩化銀となって排出されます。中毒症状を起こす量は 60 mg であり、致死量は 1.3 〜 6.2 g です。
    銀が飲み水を殺菌することは古くから知られており、多くの井戸の底から銀貨が見つかるのもこのためと思われます。ヘロドトスによれば、アケメネス朝ペルシャの創始者キュロス大王(600 ? - 529 B.C.)は旅先へも常に自分用の水を持ち歩きましたが、それは特別の川から採り沸騰させたのち銀の容器に入れたものでした。水を殺菌するには 10 p.p.b. の銀で十分で、水泳用プールの殺菌にも塩素よりむしろ効果的だそうです。
    足の臭いにも銀は有効です。アメリカではスポーツ選手用に銀の繊維を織り込んだ靴下が実用化されており、細菌が臭いの元となる硫黄分子を作るのを防ぐのだそうです。
    硝酸銀(AgNOスリー)は古代エジプトで殺菌剤として用いられていたそうですが、現代でも1〜2%の水溶液が新生児の淋菌感染による眼炎予防のための点眼用に使われ、0.01 〜 0.5 % の水溶液は殺菌消毒薬として使われます。0.025 % の水溶液はチフス菌を2時間以内に殺す力を持つそうです。

石見銀山という名前の猫要らず(殺鼠剤)が江戸時代には使われ、テレビの時代劇にはよく暗殺用の毒薬として登場しますが、これは銀とは関係なく、砒素を成分とするものです。石見銀山(その近くの銅鉱山との説もあり)から副産物として産出した砒石を使って作った殺鼠剤を売り出すにあたり、販売戦略として戦国時代から全国に知られた石見銀山の名を冠し「石見銀山ねずみ取り」としたのが いつのまにか単に「石見銀山」と呼ばれるようになったようです。

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(Jun., 2007)

48.  Cd カドミウム

英:cadmium

ケァドミアム

仏:cadmium

カドミョム

独:Kadmium、Cadmium

カトミウム

中:ge (2)

カー

中国語の漢字は金篇に「鬲」。ただし中国の簡体字では「冂」の中の「ハ」のような部分が「ソ」のようになっています。英語の「ケァ」は cat の ca と同じ要領で。ドイツ語と英語は第1音節を強く読みます。フランス語は「ミョ」に軽い強勢があります。ドイツ語名の d はこの場合どういうわけか無声音です。

続く


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参考文献:
Nature's Building Blocks ( John Emsley, Oxford University Press, 2003 )
元素111の新知識(桜井弘著、講談社ブルーバックス、1997)
化学語源ものがたり(竹本喜一、金岡喜久子著、化学同人、1990)
元素の話(斎藤一夫著、培風館、1982)
元素の小事典(高木仁三郎著、岩波ジュニア新書、1982)
化学の基本6法則(竹内敬人著、岩波ジュニア新書、1981)
化学の常識なるほどゼミナール(山崎昶著、日本実業出版社、1983)
新しい化学(崎川範行、講談社ブルーバックス、1983)
おもしろい化学元素(カレーリン著、小林茂樹訳、東京図書、1981)
これが正体身のまわりの化学物質(上野景平著、講談社ブルーバックス、1991)
ここが知りたい半導体(志村忠夫著、講談社ブルーバックス、1994)
化学用語小辞典(ジョン・ディンティス編、山崎昶訳、講談社ブルーバックス、1983)
標準化学用語辞典・縮刷版(日本化学会編、丸善株式会社、2001)
Pocket Oxford Classical Greek Dictionary ( Oxford University Press, 2002)
The Oxford Dictionary of Modern Greek ( Oxford University Press, 1986)
和羅辞典(木下文夫著、国際語学社、2002)
羅和辞典(田中秀央編、研究社、2003)
リーダーズ英和辞典(研究社、2002)
オランダ語辞典(講談社、1995)
大日本百科全書(小学館、1989)
日本国語大辞典(小学館、1974)
岩波古語辞典(岩波書店、大野晋他編、1974)
英語のニーモニック、覚え歌大集合(友清理士著、研究社、2001)

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