「職業、監督。」 
 〉〉第2話
総志「…ったく誰だよ?人が本気で落ち込んでるって時に……」
電話の主は実家の方に住む彼の家族。梨佳と言う名前の妹の様だ。

梨佳「もしもし、お兄ちゃん!?大変なのよ、今すぐ実家へ戻る準備してくんない!!?」
総志「何だよ〜…?人が落ち込んでるって時によ…」
梨佳の慌てようからして、実家でただ事ではない事が起こっている様だ。しかし相当落ち込みが激し

のか、総志はそれを読み取れず気だるそうな返答をする。しかし、そんな彼の表情も梨佳の返答の数
秒後に
驚きと変わるのだった。
梨佳「父さんが…父さんが交通事故で亡くなっちゃったの!!」

電車を乗り継ぎ、急いで実家へと帰って来た総志。
実家は悲しみの色が濃く、総志の母親・陽子は父親・茂樹の死を受け止める事が出来ないのか泣き崩
れ、
祖母の雅美はやり切れない表情でうつむいていた。梨佳も総志のそばで目を潤ませていた。
総志は父の亡骸を前に、信じられない、といった表情を浮かべていた。
総志「父さん……何で……」

茂樹は中学時代に総志が「野球をやりたい」という夢を全面的に応援してくれた、総志にとってかけ
がえ
ない人であった。彼のために野球用具一式を十分に揃え、休日に暇があれば、彼の練習に積極的に
協力をしてくれた。野球観戦に行くときも交通費やその他諸々の経費を負担してくれた。

また、彼が落ち込んだ時には叱咤激励して彼を励まし、彼が自身を失った時には厳しい口調ながらも
彼の闘志を幾度も燃え立たせた。
それほど彼の当時の情熱に大きく貢献した人だけに、茂樹の死は総志をより一層落ち込ませた。


葬式当日。読経が終わり、出棺が執り行われる。総志は出棺について行く事にした。
そして父親の遺骨を抱え、葬式の会場へと戻る。
会場で待っていた家族、親族、親の仕事の関係者や近所の人々。彼らは総志の抱える遺骨を眺め、
涙をこらえ、あるいは泣き崩れた。そこへ一人の中年のがっしりしたグラサンの男が総志の元へと歩
み寄る。
「総志君……やったかのぅ?ワシの車で君の家へ送り届けるが、ちょっと車の中で話をしてええかの
ぉ?
 重要な話があるんや…」

親類縁者は葬式が終わり、一旦織田家に集合する事になっている。親類縁者各々が車で織田家まで行

事になっていた。総志は母親の了解を得て、斉藤隆太郎-茂樹が監督を務める中学生野球クラブのコ
ーチ
であり、一番の親友-の車に同乗していた。少々の沈黙の後、思いも掛けなかった言葉が隆太郎の口
から
発せられた。
隆太郎「総志君…君、中学生チームの「竜宮シニアベースボールクラブ」の監督になってくれへんや
ろか?」
予想さえしていなかった言葉に、驚きの声を上げた総志。
総志「ちょ、ちょっと待って下さい!!何でわざわざ俺が……」
うまくいかない就職活動。父親の急死。
ただでさえ気分が非常に落ち込んでいた時にいきなり言われた「「監督」になれ。」
寝耳に水と言うか、余りの出来事に総志は状況を理解することが出来ない。と言うより、普通はぼろ
ぼろの
心境でこんなことを言われては状況を理解する方が難しいだろう。
しかし、隆太郎は穏やかな表情で総志に話しかける。
隆太郎「なぁに、総志君は中学時代所属チームのエースだったから大丈夫やろ。それに野球の情熱も
    人一倍のモノやとよぅ親父さんから聞いとるで」
総志「でも、野球をやるのと監督をやるのとじゃ訳が違います!野球経験だって中学時代の3年しか
   無いし、確かに野球の情熱はまだ多少はあるけど……」
総志の後ろ向きな返答を打ち切るかのごとく、隆太郎が続ける。
隆太郎「それにこれはお前の親御さんからの意思もあるんや。何でも就職活動がうまく行っとらんら
しい
    やないか。そのせいで気持ちが落ち込みがちなのか、って心配しとったで」
総志「……」
それを言われると総志は何も言うことが出来ない。確かに隆太郎の言う通りで、最近の彼は鬱病にも
掛かっている。全てを見透かしているのかとうなだれる総志に、隆太郎は穏やかな声で続ける。
隆太郎「それで、ワシらは昔の情熱を呼び戻せば、また昔の様に明るい総志君が戻ってくると親御さ
んと
    考えたんよ。直接就職活動には関係あらへんかも知れんけど、暗い気持ちじゃ受かるモノも
    受からへんやろ?気持ちの切り替えのチャンスを総志君に与える為にも、こう頼んどるんや
。」
総志「……それは…確かにそうかも知れませんけど……」
隆太郎の的を射た発言は間違ってはいないと総志も思っていた。だが、それでも暗い気持ちが祟って
うんとは言えない。そこへ隆太郎が鞄のサイドポケットから封筒を出す。
隆太郎「無理には頼まへんけど、チームの資料は渡すから、考えてみんか?」
隆太郎は茂樹の意思を綴った手紙の入った封筒とチーム情報の書かれた書類を渡した。総志はそれを
受け取ると、封をすぐに切って手紙を何度も何度も読み返した。

実家に帰り、自分の部屋に戻って総志は隆太郎から受け取った手紙を眺めた。その手紙を眺めている
間、
隆太郎の言ったことが脳裏に蘇った。

-情熱を呼び戻せば、昔の様に明るい総志君が-
-野球の情熱も人一倍のモノ-
-暗い気持ちじゃ受かるモノも受からへんやろ?-
-気持ちの切り替えのチャンスを総志君に与える為に-

確かに野球をやっていた頃の総志は非常に明るく、どんな事にも精一杯努力し、そして困難な事でさ

野球で燃やした情熱を武器に乗り越えてきた。
それを思い出し、総志は考え込んだ。
-…就職活動に失敗する度、俺は確かに落ち込んでいた。気持ちが沈んではまた就職活動に失敗して

 また落ち込んで、それが際限なく続いていた…-
「気持ちを大きく切り替えなきゃ、今の状況はきっと変えられない。」鬱を感じつつもずっと前から
総志が感じていた事。再び情熱を燃やせる何かがあれば、きっと今の状況も打破できるかも……

気が付いた時には、総志は隆太郎の携帯に連絡を入れていた。
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