BGMに“慈しみ深き”推奨 
また、この背景で見難いと思われた方はこちらへどうぞ。
では、よろしければお楽しみください。
































「……プラネタリウムはいかがでしょう?」

 “雨”の降る街に、この扉の外に、わたしの声が響く。 

「どんな時も決して消えることのない、美しい無窮のきらめき」

 繰り返す言葉。繰り返す誘い。
 発声練習は当然怠るわけにはいかない。いつどんな時であっても、わたしは万全の状態で迎えなければいかないのだから。

「満天の星々がみなさまをお待ちしています」

 いつ来られるのか分からないのだから、いつ来られてもいいように。

「プラネタリウムはいかがでしょう?……」

 わたしは“ほしのゆめみ”。このプラネタリウムの留守を任された解説員。だから、わたしは待ち続ける。
 館長さんが、スタッフの皆さんが、お客さまが戻ってこられるのを―――


 
 いつまでも、待ち続ける。





















ほしのゆめ





















 目を覚ますと今日も“雨”が降っていた。なら、今日は稼ぎ時だ。

「……プラネタリウムはいかがでしょう?」

 留守を任されてから、今年の目覚めで10年。人間がよく一区切りで使う年数だと思う。

「どんな時も決して消えることのない、美しい無窮のきらめき」

 長期の慰安旅行に出かけた館長やスタッフの皆さんはまだ戻らない。

「満天の星々がみなさまをお待ちしています」

 そして、お客さまも誰も来ない。

「プラネタリウムはいかがでしょう?……」

 誰も来ない。誰も、誰も、誰も……





 それは、どうして?












「……プラネタリウムはいかがでしょう?」

 15年目の目覚め。いつものようにわたしは準備を始める。

「どんな時も決して消えることのない、美しい無窮のきらめき」

 変わらない朝。変わらない景色。変わらない一日。

「満天の星々がみなさまをお待ちしています」

 何故誰も来てくれないんだろう。何故誰も帰ってきてくれないんだろう。
 もう、誰も来ることはないんだろうか。

「プラネタリウムはいかがでしょう?……」

 ううん、そんなわけはない。
 またお客様は来るのだから、スタッフの皆さんもまた帰ってくるといってくれたのだから、だから、私は待つ。待ち続ける。





 けれど、誰も来てくれない。












「……プラネタリウムはいかがでしょう?」

 20年目。大きな区切りの二つ目。
 こない。誰一人としてこない。それどころか、一人として人を見ることが無い。

「どんな時も決して消えることのない、美しい無窮のきらめき」

 そんなことがあるはず無いのは分かっていた。街から完全に人が消えるわけが無いと分かっていた。
 だから……

「満天の星々がみなさまをお待ちしています」

 だから……ああ、一つの答えがとうとう出てしまった。

「プラネタリウムはいかがでしょう?……」

 もう分かっていた。けれど分かりたくは無かった。その答え。残酷な、とても残酷な答え。





 そう、世界は、こわれてしまったんだ。
 人間のみなさまはもう、二度と戻っては来ないんだ。












「……プラネタリウムはいかがでしょう?」

 25年目の朝。扉の外にあるのは、変わらない雨と変わらない景色。ずっと変わらない、誰もいない景色。

「どんな時も決して消えることのない、美しい無窮のきらめき」

 この景色を見るたびに浮かんでくる。
 そう、世界がこわれてしまったというあの答え。恐ろしい、とても恐ろしいその答えを。

「満天の星々がみなさまをお待ちしています」

 違う、違う、違う。そんなはずは無い。そんなことあるわけない。
 世界はこわれてなんかいない。あってはならない。そんなの間違っている。

「プラネタリウムはいかがでしょう?……」

 なら、間違っているのは……わたし。けれど、自己診断プログラムでなんど調べても異常が無い。
 分かった、自己診断プログラムに未知のバグがあるんだ。だから、こんな風に考えてしまうんだ。





 間違えているのはわたし。
 こわれているのは、このわたし。
 だから世界は……こわれてなんか、いない。












「……プラネタリウムはいかがでしょう?」

 29年目。
 長い、きっと長い時間がたったんだと思う。
 人間にとってはとても長い時間だろう。あの頃のお客さまの中にいた子供達も、すっかり大人になり、場合によってはあの頃と同じ年齢の子供がいるかもしれない時間。

「どんな時も決して消えることのない、美しい無窮のきらめき」

 そういえば、あの二人はどうしているのだろう。
 “おとうさんとおかあさんのほし”を見に来た、あの二人はどうしているんだろう。
 結局、その星は見つからなかった。

「満天の星々がみなさまをお待ちしています」

 スタッフの方が戻られたら、データベースに更新しないといけない。
 いつか再び来られるその時のために。

「プラネタリウムはいかがでしょう?……」

 そして繰り返される一日。繰り返される無人の日々。
 変わらない景色。変わらない毎日。
 何も変わらなかったこの長い年月。

 けれど。

 視界の片隅で、動くものがあった。
 雨以外では久しく見ていない、動く世界。

 ああ、来てくれた。お客さまが来てくれた。やっぱりそうだったんだ。世界がこわれていたんじゃない、わたしがこわれていたんだ。わたしが、間違っていたんだ。




 ―――わたしは、忘れられてはいなかったんだ。



 なら、お客さまにプラネタリウムを見せないと。
 例えわたしがこわれているとしても、きっと楽しんでいただけるはずだから。スタッフの皆さんが作り上げた星々の物語ならきっと……
 そういえばもうすぐ250万人になる。その時用に作られた特別投影があった。
 少しさばをよんでしまうけれど……久しぶりのお客さまだし、特別ということにしてとっておきの上映をしよう。
 
 さぁ、それではお客さまを精一杯お迎えしなくては。










「おめでとうございますっ! あなたはちょうど250万人目のお客さまです!」










 そして、星々の物語をあなたへ―――



















































「………………ん? なんだ、スリープモードにしてたのか」

 カタコト揺れる車内で目を開けた私に、貴方は横目を向けながら聞いてきた。

「はい、おはようございます。ちょっとバッテリーの節約をしていました」
「今はそんなに厳しくないぞ?」
「前の身体の頃の癖、のようなものです」
「……お前がいうと本当に聞こえるな」

 わたしの言葉に、クスクスと笑いながら頷く。

「ところで、さっきの街でやった調整の具合はどうだ?」

 そう聞かれ、わたしはしばし考えた後、

「そうですね、ちょっとおかしな部分があります」
「なに!?」
「といっても、さほど気にするものではありませんけど」
「は? どういうことだ?」
「バッテリーの節約のためにスリープモードにしていたのに、完全にはスリープモードにならなかったようです。昔の記憶を見ていました」
「昔?」

 わたしは、そっと両手を胸に当てて、ゆっくりと語る。

「貴方に出会う前の、ただお客さまを待ち続けていた日々……そして、貴方に出会ったあの数日間を」
「……ああ、なるほど」
「ですから、少しおかしくなっています」

 すると、貴方はわたしの頭を軽くポンポンと叩いた。

「いや、あながちそうでもないかもしれないぞ」
「そうなんですか?」
「ああ、それはきっと―――夢ってやつさ。俺もたまにお前と出会ったあの時の夢をみるんだからな」
「夢……? これが、夢?」

 そうか……なら、やっぱりあこがれていたように、夢を見るということは素敵な事です。

「そうですね。今のこの身体ではそういうこともあるのかもしれません……けれど、それは想定していない機能が働いているということで、やっぱりおかしくなっているんじゃないでしょうか」
「……素直に頷けんのかお前は」

 いつものやりとり。街から街へ巡回するときのいつもの時間。
 これが、今のわたしの日々。

「でも、再び目を覚ました時の事を見る前に起きることが出来てよかったです」

 その言葉に、貴方は苦笑いを浮かべる。

「お前、ずいぶんと驚いてたもんなぁ」
「わたしにとっては一瞬だったですし、出会った頃と比べて少々お年を召されていたもので、すぐに貴方だと分かりませんでした」
「当たり前だ。死ぬ気で頑張っても数年でお前の代わりの身体が見つかるわけ無いだろう。その継ぎ接ぎで出来た身体の部品だって、ある意味残っていたのが奇跡なんだからな」
「そうなんですか」
「そうだ。全く、お前っていう前例が無かったらそんな探し物をしようとする酔狂な人間なんていやしないっての」

 そう、それは事実だろう。
 目を覚ましたわたしが、現実を新しい身体で受け入れたわたしが理解したこの世界。その中で貴方のした事がどれだけ危険なものであったのか……想像というものが上手く出来ないわたしであっても、それなりに分かる。

「約束……守ってくれたんですよね」
「あんときはお前に嘘をいっちまったよな」

 何を思ったのか、貴方は辛そうな顔をする。そんな必要はないというのに。

「いいえ、そんな事はありません」
「あるだろ」
「違います」
「相変わらず頑固な奴だな」
「当然です。だって……」

 そう、だって、



「この新しい身体。後ろに詰まれた新しい相棒。行く先々で出会うお客さま。そして何より―――貴方という大切な同僚が側にいてくれます。こんな素敵な新しい職場にわたしを連れてきてくれたのに、それが嘘だったなんてことありません」



 わたしを、天国に連れてきてくれたのだから。ロボットの天国ではなく、貴方の側にいられる天国に。

「…………………………まぁ、お前がそう思ってくれてるんならそれでいいが」
「はい、それで、次の街にはいつごろ着くんでしょうか?」
「データ通りだとしたら、あと丸一日はかかるな」
「運転に疲れましたら、わたしがかわります」
「……前にそう言ったお前に任せた時、事故る寸前になったのを覚えていないのか?」
「はっきりと覚えています」
「…………運転は俺がする。これは業務上の優先事項だ」
「はい承知しました」
「よし、なら……」
「ところで、今のわたしは学習型でもありますし、練習してみる価値はあるかと思うのですが」
「……やっぱそーくるか」

 何気ない会話。でも、貴方はその中で色んな表情を見せてくれる。なにより、楽しそうに笑ってくれる。わたしの存在が貴方のお役に立てていると実感できる。

 わたしたちはこれからも、このこわれてしまった世界で、見ることの出来なくなった星々を見せに巡回し続けるだろう。
 初めてみるその光景に目を輝かせるお客さまの笑顔に出会い続けるだろう。
 そして、なによりもわたしは貴方の隣で貴方の笑顔を見続けることが出来るだろう。

 ああ……わたしは、とても幸せです。

「次は、どんな人が見てくれるかな」
「次の方は決まっています」
「へぇ、誰だ?」
「それは―――」










 ―――だから、次はわたしを見守ってくれた貴方に星の夢を。
















これはに投稿しています。
また、作中に使用している壁紙、素材はからお借りしています。

さて、ゲームクリアと同時に勢いで書いたSSでしたがいかがだったでしょうか?
ラストは本編を考えると蛇足だったのかもしれません。ですが、やっぱり二人には小さな幸せと共にあり続けて欲しかったので結局書いてしまいました。
まぁ、こういったエンドもあればいいなという感じで書いたものですので、楽しんでいただけたなら嬉しいです。
では。





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