* 『ハムレット』夜の部 サンシャイン劇場 2002.11.9


 作:ウィリアム・シェイクスピア
 翻訳:松岡和子
 演出:栗田芳宏
 CAST:安寿ミラ(ハムレット・亡霊)、旺なつき(ホレイショー)、吉田鋼太郎(クローディアス)、
     栗田芳宏(ポローニアス)、植本潤(オフィーリア)、間宮啓行(ローゼンクランツ・座長・墓掘り)、
     河内大和(ギルデンスターン・レアティーズ)、天宮良(ガートルード)
 音楽:宮川彬良
 振付:舘形比呂一
 美術・衣裳:朝倉摂


正直言って期待していなかった舞台。
マスコミ等ではハムレットとホレイショーを女性が、オフィーリアとガートルードーを男性が演じるということが中心に取り上げられていて、キワモノっぽいイメージがあったので…。
実際の舞台は、外枠に旅の役者が演じるという設定がはめ込まれていて、その延長上に男女の入れ替えがされている訳で、決して倒錯的なものを狙っているものではないことがよくわかる内容だった。

始まりはホレイショーの独白から。そこに旅の役者がやってきて、それぞれが『ハムレット』の登場人物に扮する。
役者総勢8人で演じられる舞台は一人が何人もの役を演じ、常に舞台の上に存在している。
とにかく“役者”をクローズアップした構成。
亡霊が現れるシーンでも、帽子、仮面、マントを3人の役者が入れ替わりながら身にまとって、亡霊を演じる。
最後はハムレット自身が亡霊を演じるという、普通では考えられないような演出。
随所にこういった不思議な仕掛けが施されている。
音楽はピアノの伴奏だけなのだが、それに合わせて役者が歌い、ミュージカルのような音楽劇のような雰囲気も持ち、
そこに軽やかな振付が融合して、通常は重く感じられるシェイクスピアのセリフも柔らかな肉体を強く感じられる生身の言葉となっていた。
それは内容にも及び、『ハムレット』では普通は意外にさらりと演じられる旅芸人の部分に時間が多く割かれたり、
メインの場面があっさりとしていたり、かなり不思議な舞台。
けれども、それが少しも変ではなく、逆に視点の違う点がとても新鮮。
戯曲の中にちりばめられている、人生を舞台にたとえたり、人間の生き方を役者にたとえたりというセリフがリアルに生きて感じられた。

舘形の振付も良かった。
ダンス・バレエの動きから能や歌舞伎の仕種まで取り込んだようなユニークな動きはテンポ良く、楽しい。
また宮川の音楽も素晴らしい。
ピアノの伴奏に乗せてスピーディーに場面が展開してゆく。
時には叙情的に、時にはコミカルに。
様々な表情をピアノだけであらわし、そこに役者の歌やせりふ、動きが加わり、美しい。

劇中の旅芸人は皆仮面をつけていることから、演出の中に祝祭的な意味も込められているのではないかと感じた。
とにかく、ステージ全体がハレ(ハレとケの“ハレ”)をあらわし、日常から切り離された空間を上手く作り出していた。
そこから、男女の役の入れ替わりが自然に受け止められることとなる。
ガートルードーなどは、ほとんど男そのものだったけれど、少しも変に思わなかった。

女性が男性を、男性が女性を演じるというのが4人だけというのが、最初は何故かと疑問に感じていたのだが、
ハムレットとオフィーリアの「尼寺へ行け」のシーンと、ハムレットとガートルードーの「ネズミだ」のシーンを見て納得できた。
どちらの場面も激しいやりとりが行われる。
男と女、恋人、母子。
ハムレットが女性を激しく罵り、責める場面、ジェンダー論的にも面白い演出だったかも知れない。
男が女に激しい言葉を浴びせるというシチュエーションが、男女の役はそのままに、性別が入れ替わってしまう。
男を演じる女が、女を演じる男を激しくなじる。
普通は激しくすればするほど、酷い言葉が厭味な感じで観ている側に伝わる。
けれども、性別が入れ替わると激しくはあるが、
そこにその言葉の純粋な意味、セリフの真髄の部分が切り取られて、抜き出されてストレートに伝わってくる。
いくら激しく演じても、観ている側は虚構を認識し、余計な意味付けをせずに済むのだ。

『ハムレット』の中での役者の役割の重要性が感じられた興味深い演出。
一番の見どころは旅芸人達がハムレットの前で演芝居のさわりを演じて見せるところ、
また王の悪事を芝居で暴く部分(ゴンザーゴー殺しの芝居)。
とにかく面白かった。
最後の殺陣の場面も、役者が横一列に並び、時折向かい合うことはあるものの、セリフ劇のような展開で進められていく。
ピアノの伴奏とパーカッションも入るが、セリフだけでその緊迫感が恐ろしいほど伝わってくる。

終わりは始まりと同様、ただ一人生き残ったホレイショーの独白のなか、旅の役者たちが荷物をまとめて舞台を去る。
フォーティンブラスのエピソードが全てカットされていたのだが、この舞台ではそれがストーリーの散漫さを抑えて上手い効果を上げていた。
シェイクスピアが役者であり、役者が書いた戯曲だったということを思い出させてくれた素晴らしい舞台。
再演されることがあれば、また是非観たい。



◇男女逆転で「ハムレット」 東京・池袋で 【朝日新聞2002.11.5夕刊】