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トランジション・イニシアチブ入門書−日本語版
ベン・ブラングウィン、ロブ・ホプキンス著 トランジション・ジャパン訳
はじめに......................................................................................................................................... トランジション・イニシアチブが必要な理由......................................................................... ピーク・オイルとは何か............................................................................................................. 大局的見地から行動を起こす − 地球、国家、地域レベルのイニシアチブ..................... トランジション・モデルとは何を指すのか............................................................................. トランジション・イニシアチブの立ち上げ − 基準.......................................................... トランンジション・イニシアチブの立ち上げ − 7つの「but」..................................... トランジションの12ステップ................................................................................................
ピーク・オイルと気候変動という二重の圧力に対して、イギリスやアイルランドなどではすでに先駆的なコミュニティがカーボン・フットプリント[1]を減らし、ピーク・オイルに伴う根本的な変化への対応力を高めるために、統合的かつ包括的なアプローチを取っています。
この文書では、低エネルギー消費社会へ移行し、地域のレジリエンス[2]を高めるためのイニシアチブ[3]について、概要を説明します。
文書の作成には、キンセールやトットネスなど、トランジション・モデルをいち早く取り入れた都市で行われた革新的な試みの上に立ち上げられたNPO、トランジション・ネットワークがあたっています。
トランジション・ネットワークの使命とは、トランジション・イニシアチブを検討し、取り入れ、実行に移せるように、地域を奮い立たせ、情報を伝達し、支援し、研修を提供することです。地域に役立つように、教材、研修コース、イベント、ツールとその使い方、人的資源、情報資源、全般的な支援能力を幅広く蓄積しつつあります。
この試みは始まったばかりで、先には長い道のりが控えています。課題は山積していますが、全力でその達成に取り組む覚悟があります。最近、チューダー財団から助成金を得たおかげで、ネットワークの基礎を固めることができました。
トランジション・イニシアチブが必要な理由
この21世紀の始めに人類が直面している二つの最も厳しい課題が、気候変動とピーク・オイルです。気候変動は十分立証されていますし、メディアでもひんぱんに取り上げられていますが、ピーク・オイルについてはほとんどの人々が見過しているようです。利用可能な石油が減少に転じる時代が来たことを意味するピーク・オイルは、気候変動がもたらす脅威を和らげるために必要な経済と社会の安定を揺るがす恐れがあります。
現在英国やその他の国で進行中のトランジション・イニシアチブは、ピーク・オイルと気候変動の影響を緩和するために必要な広範囲に及ぶ施策に人々と地域を巻き込んでいく、最も有力な方法です。
それに加えて、こうしたリローカリゼーション[4]に向けた取り組みは、充実感と社会との連帯感をもっと得られるような、より公正な生活を実現することを目的としています。
ピーク・オイルの本質については、まだメディアで取り上げられていないかもしれません。だからといって、まだ安心だと思うのは間違いです。気候変動もかつてはピーク・オイル同様、露出度の低い時期がありました。
ピーク・オイルは「石油の枯渇」を指すわけではありません。なぜなら、石油を使い果たすことは有り得ないからです。採掘しようとしても手が届かないところにあるか、採掘にあまりに大量のエネルギーが必要なため、地下には常に石油が眠っているのです。経済学者たちが「石油を売ってどれだけ儲かるかにかかわらず、1バレルの石油を抽出するためにそれと同等のエネルギーが必要になれば、石油の探査、掘削、汲み上げは続かなくなるだろう」などと言ってごまかしている、この事実について考えて見ましょう。
ピーク・オイルは安くて豊富な油をこれ以上手に入れることができなくなる、ということを意味します。経済に注ぎ込まれていた石油の量は増加の一途をたどり、やがてピークに達すると、無情にも減少に転じます。現在の産業型のライフスタイルが、増加する一方の安い石油にどんなにどっぷりと依存していたか、理解することが重要です。
1900年代初頭から、潤沢な石油によって、石炭を中心に工業化された社会は「開発」を大規模に加速させました。それ以来毎年、石油の量は増える一方でした(中東危機が世界的不況を引き起こした1970年代の2回の石油ショックは別として)。年を追うごとに社会の複雑さ、機械化、グローバルな結びつき、エネルギー消費量は増すばかりです。
私たちが利用可能な石油のおよそ半分を汲み上げてしまったとき、問題は始まります。この時点に至ると、石油の産出費用は(コスト的にもエネルギー的にも)増加し、産出速度は鈍り、しかも品質は低下していきます。地下から汲み上げ、精製し、市場に送り込む石油の量を増やすことができなくなるという、史上初めての事態に直面することになるのです。
その時、石油供給量は最高値に達し、やがて減少し、先進工業国にさまざまな派生的影響を与えます。この現象に注目している人はほとんどいませんが、その原因は明白です。
ガソリンタンクに例えるべからず
運転中にガス欠になってしまう経験をした人は多いでしょうが、ガソリンタンクへの例えが石油減耗に対する予測を微妙にゆがめることになります。
この考え方は簡単で、ガソリンを最後の最後まで使い果たし、約97%がなくなってしまうまで車はスムーズに動きます。しかしここに至って初めて、「ガソリン減少」の影響を感じ始めます。車は激しく振動して音をたて始め、早く手を打たないと突然止まってしまいそうです。 このパターンに従えば、減少サイクルの最後の最後まで燃料メーターを無視することができるということになります。
しかしながら、石油減耗が工業社会に影響を与えるやり方は、これとは似ても似つかないものです。大切なのは、いつ石油が枯渇に近づくかということではなく、タンクの石油が残り半分になった時(あるいは半分を使い果たした時)なのです。その理由は次のとおりです。
再びピーク・オイルについて
ピーク・オイル説は、石油がなくなるのはまだ先のことだと認めています。しかしながら、たやすく手に入る安い石油はそろそろ底をつき始めるでしょう。それも近い将来。つまり、エネルギーは減少期にさしかかりつつあり、長期に渡り、年を追うごとに産業化された生活形態を支える石油が減少していくことを意味します。
ピーク・オイルの鍵となる概念とそれが意味することは、次の通りです。
l すべての化石燃料の中で、石油は唯一エネルギー密度が高く、輸送しやすい。
l 増加の一途をたどる石油産出量が産業経済の成長をあおってきた。
l 産業社会の主要な要素(輸送、製造、食糧生産、暖房、建設)はすべて、石油に完全に依存している。
l 油田の減少パターンを理解することが不可欠。石油採掘の割合には一定のパターンがあり、これはどの油田、石油埋蔵地域、石油産出国にも当てはまる。すなわち、石油埋蔵量の最初の半分は掘削も簡単で、質も高い。しかし、掘削可能な石油量の半分程度がくみ出されると、採掘にどんどんコストと時間とエネルギーがかかるようになり、一方で石油の質は低下する。
l このパターンは、過去150年間は順調に増加してきた市場への石油流通量がピークに達することを意味する。そしてその後は継続的に石油の流通量が減少し、供給がストップするリスクが高まる。
l ピーク・オイルが2006年から2012年の間に起きると計算する独立した石油の専門家や地質学者の数は増え続けている(ピークがいつ来たか確認できるのは、その数年後となる)。
l 採油技術と探査技術の進歩が減少率に与える影響は微々たるものである。例えば、米国(本土の48州)が1972年に石油産出量のピークを迎えたとき、その後10年間の減少率は、目覚しい技術革新があったにも関わらず、高かった。
これが先進国の国民の生活にどんな影響を与えるか、強調してもしすぎることはありません。
ピーク・オイルが工業社会にどれほど大きな影響を与えるか理解するために、2005年に米国政府の危機管理および石油分析の専門家によって作成されたレポートの要約の冒頭部分をここに示します。
「全世界の石油生産高がピークを迎えることは、米国と世界に空前のリスク管理上の問題をもたらすでしょう。ピークが近づくにつれ、液体燃料価格と価格の不安定性が劇的に上昇します。そして適切な時期に緩和策が提示されなければ、経済的、社会的、政治的コストは、これまでにない高額なものとなるでしょう。実行可能な緩和策は、供給側と需要側の両方に存在しますが、それらに大きな実効力を持たせるには、ピークに達する10年間以上前から開始する必要があります。」 『Peaking of World Oil Production: Impacts, Mitigation & Risk Management(世界の石油生産高のピーク:その影響、緩和策、およびリスク管理)』”Robert L. Hirsh, SAIC
米国政府によって1年近く隠蔽された後、このレポートはようやく明るみに出ました。大規模な影響を持つレポートの内容を熟読すれば、なぜ政府がやっきになって公の場からこのレポートを閉め出していたのかが明らかになります。
政府、政府機関、石油会社が問題の存在を否定しようとも、シェブロンもトータルも、現在が安い石油の終焉期にあたることを認めています。
BP(イギリス石油会社)の石油担当チーフ エンジニアを務めたジェレミー・ギルバートは、2007年5月に次のように警告しています。
「ピークは2015年より以前に来ると見ています。…そしてそれ以降は年4〜8%の割合で減少していくでしょう」
共和党のロスコー・バートレットを中心に、数人の米国上院議員が上院で問題を提起しています。
ニュージーランドでは、ジャネット・フィッツシモンズ(緑の党の共同代表者)がピーク・オイルの脅威に対する問題意識を高める活動をしています。ニュージーランドのヘレン・クラーク内閣総理大臣は、2006年にこう述べています。
「…石油産出のピークにはまだ到達していないにしろ、そう遠くないところまで来てしまっています。そのことが石油価格が大きく値上がりしている原因かもしれません。」
オーストラリアでは、アンドリュー・マクナマラ国会議員がクイーンズランド州の石油危機作業部会を立ち上げています。マクナマラ議員は現在クイーンズランド州の持続可能性と気候変動を担当する大臣に任命されています。州政府が委託した「クイーンズランド州の石油価格の脆弱性」に関するレポート公開に先立ち、同議員は石油産出量の減少に対抗するには、ローカリゼーションが大切であることを主張しています。
「とにかく地域主体の解決策が必須であることは疑いありません。そうすることで政府には地域のネットワークを援助し、後押しするという役割が生まれ、ネットワークは食料、燃料、水、仕事、店頭販売物資などを地域内で入手可能になるよう動くことができます。それがまさに、2005年2月に私が行ったこの問題に関する最初のスピーチの論点だったわけです。つまり、リローカリゼーションは20世紀ではなく、19世紀の生活様式に近いのです。しかしそれは決して悪いことではありません。もっとも低コストで効果的な対処方法が、地域内で消費、生産、分配を促すことであろうことは、疑いようがないからです。そして地域をより詳細に把握することができるようになり、前向きな波及効果も期待できます。地域的ネットワークが住民と地域にもたらす利益が拡大していくことを願っています。」 アンドリュー・マクナマラ、クイーンズランド州の持続性、気候変動、技術革新大臣
しかし、いくつかの注目に値する例外は別として、国家のリーダー達はこれらの問題に有意義な方法で取り組もうとはしていません。この期に及んでも。
政治的指導者が問題を解決しようとしないなら、いったい誰が解決するというのでしょう?
技術はピーク・オイルと気候変動の問題を解決する万能薬に例えられます。しかしながら、技術的解決策の実態を注意深く見なおすと、その未熟さが目につきますし、環境に取り返しのつかない悪影響を及ぼすこともしばしばです。また、現実世界とのつながりにも欠けていたりします。
技術や政府が自分たちに代わって問題を解決してくれるまで躊躇を続けることもできるでしょう。しかし、これがかなりの高リスクを伴う選択であることは、一般の総意となりつつあります。
地域のコミュニティにおいて、リーダーとして一歩踏み出すかどうかは、まさに自分たちの決断にかかっているのです。
今こそ、ピーク・オイルの影響を緩和するために動き出さなければなりません。好材料は、気候変動に対する解決策と緩和策の多くがピーク・オイルの脅威についても言及していることです。また、その逆も然りです。
トランジション・イニシアチブは地球規模で考え、地域的に行動するという原則を体言しています。しかし、問題がとてつもなく巨大なときに、地元のコミュニティで一体どのくらいの効果を生み出せるのか、不安を抱くのは当然です。
まずは自分がコミュニティにどれだけ影響が与えられるか以前に、この手の行動を起こすことが常に人々を触発するという事実に注目しましょう。この試みがあってこそ、次には啓発を受けた人たちが問題に挑み、他の人々に影響を与える、というふうにどんどん連鎖して行くのです。このように自分の小さな貢献が何倍にも拡大していけば、真に大きなうねりになっていく可能性があります。
また、地球レベル、国家レベルでピーク・オイルと気候変動に取り組んでいるところでは、いろいろな計画が稼働中であることも心強いことです。トランジション・イニシアチブはこうした計画に伴う日常生活における変革が実際に現場で実行可能であるかどうか検証を行い、計画を補完していきます。
ここに、原則のいくつかを紹介します。
グローバル l Oil Depletion Protocol(石油減耗協定)は、国家が石油の低消費状態への移行を協力的に管理する道筋を提供します。この協定は、系統立てて地球全体の石油消費量を減らすために、石油産出国と消費国の両方にモデルを提示してくれます。詳しくは、www.oildepletionprotocol.orgを参照してください。
l Contraction & Convergence(縮小と収束)は世界全体の炭素排出量を減らし、人々と国家の炭素排出権について、より高い次元で公正さを保つ仕組みを実現しようとしています。この計画の情報については、http://www.climatejustice.org.uk/about/を参照してください。
国家 エネルギー供給システムは、国家レベルにおいては化石燃料の消費を抑えるための、最も有望な将来像を担っているように見えます。政府はこの非常に実用的な解決策について、すでに試験的に話し合いを始めています。全体像は、www.teqs.netで参照することができます。
地域 これこそ地域のトランジション・イニシアチブが重要な役割を果たすところです。本質的にはコミュニティが自らの持続と成長に必要な大切な要素をすべて、再び地域に取り戻して行く過程であるといえます。このプロセスではコミュニティのカーボン・フットプリントを劇的に削減しつつ、悪影響を与えかねないピーク・オイルに対抗して、レジリエンスを構築します。こうすることで、ピーク・オイルと気候変動の両方に対処することができるのです。
米国のいくつかの都市と世界中の優に百を超えるコミュニティが、リローカリゼーションへの道を歩み始めています。例えば、市レベルではオレゴン州ポートランド(人口55万人)が公的協議を行うためにピーク・オイルに関する初めてのレポートを発表したばかりです。その冒頭の段落に、次のようにポートランドの懸念が記されています。
「過去数年間に、『石油と天然ガスはこれからも豊富で安価な状態が続く』という仮定に疑問を投げかける強力な証拠が現れ、石油と天然ガスの世界全体の生産量がもうすぐ歴史的なピークに達しそうなことを示唆しています。この現象は「ピーク・オイル」と呼ばれています。これらの製品に対する需要の増加が続きそうなこと、および社会的、経済的、地政学的なあらゆるレベルの活動において石油と天然ガスが果たしてきた重要な役割を考えあわせると、ピーク・オイルがもたらす影響の大きさは計り知れません。」
ポートランドは実際に石油減耗協定を目標に盛り込み、石油と天然ガスの消費を年2.6 %ずつ減らし、2020年には25%まで削減することを目指しています。
ここ英国では、アイルランドのキンセールで始まりデボン州トットネスで進行中の、エネルギー消費削減行動計画(EDAP)に注目するコミュニティの数が増加しています。
「持続可能性」の旗印のもと、EDAPの優れた事例がイギリス各地で数多く実施されています。しかしながら、持続可能性の原則が気候変動とピーク・オイルへの理解と組み合わされない限り、解決策に向けた完全に統合された方法は実施できないのです。
トランジション・モデルとは、コミュニティが地域のレジリエンス構築や二酸化炭素排出量削減を進める中で、地域的な実験や観察を通して築き上げられてきた、現実世界の原則や実例のゆるやかな集合体です。
詳細についてはこの入門書に記されていますが、さしあたって様々な要素をここで簡単に説明しておくことが有用でしょう。
基本的な認識 トランジション・モデルの基盤は、次の項目を認識することです。
l 気候変動とピーク・オイルは緊急な対策を必要とする
l 低エネルギー生活は不可避なのだから、不意をつかれるより、その事態に備えておいたほうがよい
l 産業社会はエネルギー ショックに対処できるようなレジリエンスを失っている
l 団結して、ただちに行動に移す必要がある
l 世界経済とそれが抱える消費的パターンに関しては、物理法則をあてはめる限り、(地球のような)有限なシステムの中で無限の成長を続けることが不可能なことは明白である
l この150年間、エネルギー消費曲線を急上昇させながら、人々は驚異的なレベルの発明の才と知性を駆使してきた。エネルギー消費曲線のピークから降りる方法を探るために、そうした才能を利用しない手はない
l 十分な余裕を持って計画を立てて実行し、自らの創造性と協調性によって地域社会に眠る天才を発掘するならば、未来は現在に比べ、はるかに充実して豊かで、かつ大地にしっかりと根付いたおだやかなライフスタイルを構築することができる
7つの「but」
困難な変化や能力を問われるような活動が控えていることがわかると、人間は自ら感情的、心理的バリアを築いてしまい、行動が滞ってしまいます。最も典型的と思われるバリアに名前をつけて取り除き、変化を起こすために、7つの「but」としてまとめました。
トランジションへの12ステップ
この12ステップは、トランジション・イニシアチブにおける最重要部分と認識されているところです。複数のコミュニティがそれぞれの事情に合うように改良し、順番を入れ替えたりしながら、この手順を採用しています。
これは処方箋的な「必須事項」のリストではなく、厳密な調査とトランジション・イニシアチブを実行してきた経験から、効果ありと判断したものです。コミュニティが気候変動とピーク・オイルの問題に最も効果的に取り組める方法を学ぶにつれて、必ずや内容も変わってくるでしょう。
トランジション・ネットワーク
トランジション・ネットワークの役割は、コミュニティが自分たちなりのトランジション・モデルを検討し、実行する段階で、啓発し、励まし、支援し、ネットワークにつなげ、研修を提供することで、変化を促すことです。
トランジション・ネットワークでは、低エネルギー消費社会を実現する、未来へと続く旅に踏み出す準備がどの程度整っているかを測るために、目安となる基準の草案を作りました。もし地域にトランジション・モデルを適用しようと考えているのなら、このリストを見て自分たちが今どこの段階にいるのか、偽りのない評価をしてみて下さい。もし基準との間にギャップがあるようなら、逆にそのギャップがイニシアチブに注ぐエネルギーと人脈を強化していく間に集中して取り組むべき課題を示してくれるはずです。
次のような理由から、トランジション・タウンの登録には少々形式的な方法を取り入れました。
l トランジション・イニシアチブの理事や資金提供者は、初期段階にあるプロジェクトを積極的に後押しする一方で、問題意識を高める段階に進む準備が整ったと感じられるコミュニティにしか「公式」なトランジション・タウンの認定を与えないことを望んでいます。「公式」と認められれば、講演者、研修、ウィキや現在展開中のフォーラムなど、さらなる支援を得ることができます。 l 共同事業(例えば、共同で行う宝くじの売り上げによる助成金申請など)を展開するには、トランジション・イニシアチブというカテゴリーを正式に確立し、このような事業を確実に運営できるという揺るぎない自信が必要となります。 l 正しい心構えがなかった、メンバーがこの活動に不向きだった、何にかかわろうとしているのか理解していなかった、などの理由で、少なくとも1つのコミュニティが行き詰まった前例があります。 l 「地域のトランジション・イニシアチブ」、「地域のトランジション・ハブ」、「一時的な初期段階のハブ」の持つ役割はそれぞれ大きく異なっているため、立ち上げ時に十分話し合っておく必要があります(以下を参照)。
基準
これらの基準は常に状況に応じて改定されているため、決定事項ではありません。 1. ピーク・オイルと気候変動がイニシアチブを進めていく上で車の両輪となることを理解していること(各グループの規約に記載すること) 2. リーダー的役割が取れるメンバー数人からなるグループであること(並々ならぬ熱意があっても単独では不可) 3. コア・チームから最低2名、2日間の入門研修コースを希望する人がいること。当面はトットネスで開催されるが、将来的には海外を含む他の地域に展開していく予定。トランジション研修は現在英国でのみ実施されているが、他の国でも対応できるよう検討中である。 4. 地方自治体と密接な関係を構築できる可能性があること。 5. 12のステップを理解していること。 6. 必要なときには助けを求める覚悟があること。 7. ウィキ(トランジション・ネットワークで用意するウェブ上の共有作業空間)、または自分のウェブサイトを利用して、インターネット上でトランジション・イニシアチブの活動状況を必ず定期的に更新すること。 8. 2ヶ月に1回は必ずトランジション・タウンのブログに投稿すること(世界中から注目されている)。 9. トランジションの活動を始めたら、行動を共にすることを検討している近隣の地域に、グループから必ず最低2回のプレゼンテーションをすること。「これまでにこんなことをした」とか「こんな手ごたえがあった」というような内容でよい。 10. トランジションを宣言している他の地域と必ずネットワークを築いて提携すること。 11. コア・チーム内での利害の対立を最小限に抑えること。 12. 国庫補助金団体から資金調達する際の助成金申請に関しては、必ずトランジション・ネットワークと協力すること。 13. トランジションへの取り組み全般について、包括性を実現する努力を怠らないこと。トランジション・イニシアチブに偏った思想を持つ政治団体が参入する恐れがあるため、トランジション・ネットワークでは、この点を強化する必要を感じている。一つの対応策はコア・グループが国連の世界人権宣言(1948年12月10日国連総会決議217 A(III))を明確に謳うこと。これをグループの規約に(最終段階で)加えてもよい。そうすれば自分たちのトランジション・イニシアチブの意思決定機関に、差別主義的な極端な思想を持つ政治団体は参加できなくなる。このような対策をもっとさりげなく実施できるよう、トランジション・ネットワークでは効果的な手法を研究している。
14.
自分の住む地域なり地方全体がトランジションする必要があるのは当然だが、まずは地元から始めるべきと認識していること。最終的には同じ地方でトランジションを実践中の多くのコミュニティが中核グループを形作り、地域への支援を提供するようになるかもしれないが、これは強制的に作るものではなく、流れの中で形成されるものである。この項目は小さなコミュニティ単位ではなく、地域や地方全体で性急にトランジションを実現しようとしているいくつかの事例を念頭に作成したものである。 15. 最後に、コア・チームには最低一名、パーマカルチャーのデザインコース参加者を加えることを推奨する。パーマカルチャー経験者がいるかいないかで、大きな差が出てくる可能性がある。
これらの基準を満たしていて、トランジションの旅に出る準備が整っていることをトランジション・ネットワークの担当者に実証できれば、ありとあらゆる素晴らしいサポート、ガイダンス、資料、ウェブサイト、研修、ネットワーク作りの機会、これから展開していく資金調達の取り組みなどを利用できる権利を得ることになります。
ここまで読み進んで、トランジション・イニシアチブは自分たちの地域にぴったりだと考えているかもしれませんね。 これ以降の節(12のステップ)では、トランジションへの旅のおおまかな予定が記されていますが、その前に行く手を阻む障壁(実際の障壁と単なる幻想と)を超えなくてはなりません。これらの幻想を、7つの「but」、と呼ぶことにします。
でも資金がないから…
これは問題とはいえません。資金調達はトランンジションの立ち上げ段階に必要な情熱や地域とのかかわりにとって代わることはできないからです。資金提供者は活動に口を出す権利を要求したり、地域の利益に逆行する方向に舵をとりたがったりする恐れもあります。
どうすればトランジションを進める過程で必要な資金が生み出せるのか、その方法を伝授しましょう。ここでは大金の話をしているのではありません。トランジション・タウンは株式市場に上場するのではないのですから。しかし、エコビレッジの立案者であるマックス・リンデガーから昔聞いたところによれば、「利益を生み出せないようなプロジェクトは、損失を生み出すだけ」だそうです。
トランジション・タウン・トットネスを2005年9月に立ち上げた当時は全く資金がありませんでしたが、それ以来ずっと自力で資金調達をして来ています。講演会や映画上映会を行えば資金が得られ、例えばオープン・スペース・デーのような無料のイベントにつぎ込むことができます。いずれは特定のプロジェクトのために資金調達が必要となる段階に達するでしょうが、その時点までは何とかやりくりしましょう。このような事態に直面したとしても、勢いを失わないことです。資金不足を理由に立ち止まることは避けなくてはなりません。
でも誰かに邪魔されそうだから…
環境活動家の中には、なんらかの変化を実現できるような取り組みは、匿名の官僚や企業に妨害され、抑圧され、攻撃されるものと思い込んでいる人もいます。それが怖くて何の行動も起こせないようなら、そして自分の持つ力を全部、想像上の存在でしかない「自分を妨害する人たち」に差し出すことしかできないなら、この入門書を読む必要はないでしょう。実際にはトランジション・タウンは反対運動ではないので、犠牲者もおらず、敵も作りません。したがって、どんな既存団体からも怒りを買うことはないでしょう。
それどころか、企業が持続可能性や気候変動を意識する必要が日々高まる中で、いかに多くの権力の座にいる人たちがこの取り組みに感動し、啓発されているか、そして活動を妨害するどころか支援してくれることを知り、驚くことでしょう。
でもここにはもう環境グループがあるし、彼らの領分を侵すようなことはしたくないし…
このことについてはステップ3で詳しく説明しますが、一言で言えば、「縄張り争い」に巻き込まれるような不運に見舞われる確率は、極めて低いでしょう。トランジション・イニシアチブの目的は、すでに活動を始めているグループとの間に共通の目標と目的意識を形成することにあります。中には当初の勢いを失ってしまい、トランジションがもたらす新たな活力をありがたく感じるグループもあるでしょう。EDAPに向かって既存のグループのネットワークと協調すれば、それらのグループとそっくり同じことをしたり、その地位を奪ったりするのではなく、その活動を強化し、目的に専念させることになります。きっと彼らは強力な味方となり、トランジションの成功に欠かせない存在になるでしょう。
でもどうせこの地域の環境を気にかけている人なんかいないし…
人々が無感動な消費文化に取り巻かれていると考えれば、こんな風に思うのも仕方ないかもしれません。しかしもう少し深く掘り下げてみると、地元の食糧、工芸品、歴史、文化といったトランジション・イニシアチブの主要な要素を、意外な人たちが熱心に支持してくれていることがわかるでしょう。
重要なのは彼らがやって来るのを待つのではなく、彼らのところへこちらから出向くことです。共通の基盤を探してみると、自分が住む地域が思っていたより遥かに面白い場所だということが分かるでしょう。
でも何をしたってもう遅すぎるし…
遅すぎるかもしれませんが、まだ間に合う可能性のほうが大きいようです。ということは、自分たちの(そして仲間の)活動が、極めて重要であるということです。
絶望感から努力を怠ってはなりません。バンダナ・シヴァは「現代がいくら不確かな時代だからといって、絶望感に負ける理由にはならない」と言っています。
でも資格がないから…
自分がやらなければ誰がやるというのでしょう。持続可能生の博士号を持っていない、ガーデニングやプランニングの専門家ではない、などというのはまったく問題になりません。大切なのは、自分が生活している場所を大切に思っていること、行動することの必要性がわかっていること、そして人々と新しい方法でつながっていく方法を受け入れる用意があることなのです。
トランジション・イニシアチブを進める適任者を募集するとしたら、次のような資質を持った人ということになるでしょう。
l 建設的 l 人と接するのが得意 l その地域に関する基本的知識があり、中心的役割を果たせる住民を何人か知っている
実際はこれだけで十分なのです。つまり、最初から自分が退く時期を自らの手で決めるのですから(『トランジションの12ステップ』の「第1ステップ」を参照)、この段階の役割は、庭のために土作りをしている庭師のようなものです。植物が育つまでそこにとどまり、どんな庭になったか見届けられるかどうかは重要ではありません。
でもそんなエネルギーがないもの!
「自分にできること、できればいいのにと思っていることがあれば、すべて実現に向けてスタートを切るべし。大胆さそのものに才能と力と魔法があるのだから!」とはよく引用されるゲーテの言葉です。トランジション・イニシアチブを始めるに当たっては、まさにこの言葉がよく当てはまります。自分が住む町(都市であれ、村であれ、渓谷や島であれ)をピーク・オイル以降の生活に備えさせるといっても、それが意味することは膨大に見えるかもしれません。しかし、トランジション・イニシアチブを進めて行く過程で解き放たれるエネルギーには、とどまることを知らない勢いがあるように思えます。
作業の膨大さと複雑さを考えると圧倒されるかもしれませんが、必ず助力を申し出る人が現れるものです。実際、多くの人がこのプロセス全体にいかに幸運な偶然がちりばめられているか、いかに必要な人材が必要な時に現れたかについて語っています。そのような幸運を呼び込む大胆さ、そして「なぜ誰も何もしようとしないのか」から「みんなで何か始めよう」へと意識を変えることにこそ、とどまることなく先へと進むエネルギーを生み出す鍵があるのです。
環境イニシアチブを立ち上げることは、故障した車を押して上り坂を登ることによく例えられます。そのくらい骨の折れる、報われない仕事なのです。逆に、トランジション・イニシアチブは丘の反対側の斜面を下るようなものです。車は追いつけなくなるほど速度を増し、加速する一方です。坂の頂上から一押ししてやれば、自らの重みで弾みがつくのです。時には骨の折れる仕事になることもありますが、ほとんどは楽しいことばかりです。
以下に記す12のステップは、トランジション・イニシアチブの初期段階において、特にトットネスで成功した事例を観察する中で生まれたものです。
これらは必ずこうしなければならないというものではなく、各地域のプロジェクトの実情に合わせて組み合わせを変えたり、新しいものを加えたり、あるいは必要ないものを除いたりして構いません。ただ経験から、このステップが活動を進めていく上で鍵となる要素であり、立ち上げ期の2、3年は役立てていただけるものであると確信しています。
第1ステップ:コア・グループを結成し、その解散時期を決定しよう
このステップでは、以下に挙げる最初のいくつかのステップを実行する間、この活動を中心となって進める役割を果たすコア・グループを立ち上げます。
このコア・グループを立ち上げる際、その役割を第2から第5ステップまでのプロセスに限定し、第5ステップにおいてひとたび4つ以上のワーキング・グループ(第5ステップの項を参照)が立ち上がったあかつきには速やかにこれを解散し、その後は各ワーキング・グループから選ばれた代表1名ずつから構成される新しいコア・グループを再結成することをあらかじめ同意しておくことをお勧めします。これを実行するにはかなりの謙虚さが求められますが、特定の個人あるいは集団の成功よりも、この活動自体の成功を最優先にするためには重要なポイントだと思われます。
第2ステップ:問題意識を高めよう
このステップでは、トランジション・イニシアチブの正式なお披露目に向けて主だった協力者を見つけたり、必要なネットワークを築いたり、地域の人たちにこの活動について知ってもらうためのもろもろの準備をしたりします。
実効性のあるEDAPを作成するためには、この活動に参加する人たちがピーク・オイルおよび気候変動という2つの問題がそれぞれ自分たちの地域にどう影響するか ― すなわち、前者はコミュニティのレジリエンスを高める意欲、後者はカーボン・フットプリントの削減が必要となる ― について理解する必要があります。
気候変動とピーク・オイルに対する地域の理解を深めるため、たとえば『不都合な真実』や『エンド・オブ・サバービア』、『パワー・オブ・コミュニティ』といった問題提起に最適な映画の上映会を実施し、上映後に「専門家」による質疑応答の時間を設けるのも非常に効果的です。
また、気候変動やピーク・オイルに関する専門家を招いて、それらの問題に地域レベルでどう対処すればよいのか話をしてもらうのも、きっと啓発されるものがあるでしょう。
さらに、地元の新聞などに記事を寄稿したり、地元のラジオ局のインタビューを受けたり、学校を含む既存の組織やグループに対してプレゼンテーションをしたりするのも、地域の人たちがこれらの問題を知り、解決策を模索し始めるための有効な仕掛けとなるはずです。
第3ステップ:土台をつくろう
このステップでは、その地域で以前から活動している既存の団体や活動家とのネットワークを築きます。この際、トランジション・イニシアチブはまったく新しい手法で将来像を描くことを目的としており、これまでの彼らの努力と今後提供される意見を尊重するものであることをはっきりと伝えましょう。そして、この活動が成果を上げるためには、彼らの協力が不可欠であることを強調しましょう。
その上で、ピーク・オイルの問題について、その概要をなるべく端的にわかりやすく彼らに説明します。特に、その意味するところ、それが気候変動とどう関係し、その地域にどのような影響を及ぼす可能性があり、それによってどのような問題が生じる恐れがあるのかを伝えましょう。最後に、地域の人たちが草の根レベルの解決策を自ら模索し始める上で、トランジション・イニシアチブがいかにその触媒となり得るか、理解してもらいましょう。
第4ステップ:大お披露目会を開催しよう
このステップではいよいよ、トランジション・イニシアチブの「時期到来」を告げる、記念すべきイベントを打ちます。この活動を広く地域全体に知れ渡らせ、プロジェクトの次のステップに向けて弾みをつけ、地域が行動に乗り出したことをお祝いするのです。
イベントのタイミングとしては、第2ステップの「問題意識を高めよう」で最初の映画上映会を開催してから、だいたい半年から1年くらいが適当と思われます。
ちなみに、トットネスにおいては、正式なお披露目会が開催された2006年9月に先立つ約10か月間、映画の上映会や講演会、その他のイベントなどを開催して問題提起を図りました。
このイベントの内容についてですが、まずはそこに集まった人たちがピーク・オイルや気候変動についての問題意識を共有できるようにし、しかも悲観的になることなく「私たちにできることは必ずある」と思えるようにすることが大切です。
中でも、特に反響があるのが、個人レベルでの変化に対する内的および外的な障害についてのプレゼンテーションです。というのも、結局、このトランジション・イニシアチブはそれに関わる個人がその生き方を変えることによって初めて成り立つものだからです。
また、このイベントは必ずしも講演や話し合いだけでなく、食べ物、歌、踊り、演劇などを用意するのもいいでしょう。集まった人たちがこれから一緒に活動していこうという気分を盛り上げるようなものであれば、何でも取り混ぜたらいいでしょう。
第5ステップ:ワーキング・グループを形成しよう
EDAPを作成する過程では、その地域の人たちの中に眠る「集団的な叡智」を活用することも大切です。それにはこの過程の特定のテーマに専念する少人数のワーキング・グループをいくつかつくることが有効です。各グループはいずれ独自の運営方法や活動形態をつくり上げるでしょうが、あくまでトランジション・イニシアチブの一部として存在することには変わりありません。
理想をいえば、これらのワーキング・グループが扱うテーマはその地域の持続と発展に欠かせない生活の諸側面を網羅していることが望ましいでしょう。例えば、食、廃棄物、エネルギー、教育、青少年、経済、運輸、水、そして地方行政などです。
各ワーキング・グループは担当するテーマに取り組みながら、どうしたらもっとも効果的にその地域のレジリエンスを高め、カーボン・フットプリントを減らすことができるかを判断します。ここで生み出される解決策こそがEDAPの骨格となるのです。
第6ステップ:オープン・スペースを活用しよう
トランジション・イニシアチブで集会を開く時、オープン・スペース・テクノロジーという手法が大変有効であることを実感しています。
理屈からすれば、この手法はうまくいくはずがないのです。議事日程や時間割もなく、中心となる進行役や書記さえも決めず、大人数を1か所に集めて特定のテーマや問題について話し合うのですから。
それでもこれまで食、エネルギー、住、経済、変化についての心理学など、異なるテーマでこの手法を活用してきました。すると集会の最後には、全員が言いたいことを言い、たくさんのメモが書かれ、いくつものネットワークができ、数え切れないほどのアイデアが生まれ、ビジョンが明らかになっているのです。
このオープン・スペースについて知りたい場合は、ハリソン・オーウェン著『Open Space Technology: A User’s Guide』を読んでいただくのが一番良いでしょう。また、ペギー・ホルマンとトム・デベイン著『The Change Handbook: Group Methods for Shaping the Future』も、オープン・スペース以外に集会で活用できる様々な手法が紹介されており、きっと役立つことと思います。
第7ステップ:実践的で目に見える成果を残そう
トランジション・イニシアチブを単に地域の人たちが集まっては「こうなったらいいな」といった希望を並べて話し合うだけの場にしないことが、大変重要です。そのためには、早い段階から地域に実践的で注目度の高い成果を生み出すことが必要となります。そうすればこのプロジェクトに住民の目をもっと引きつけることになり、積極的に参加する人も増えるでしょう。
ただ、初期の段階ではバランスのとり方が課題となります。目に見える形で運動を進めることも大事ですが、最終的にEDAPにあてはまらないようなプロジェクトに着手しても意味がないからです。
ちなみに、トットネスでは、食のワーキング・グループが「トットネスを英国におけるナッツ栽培の中心地に」というプロジェクトを始め、食べられるナッツが実る木をできるだけ多く町中に植えることを目的に活動しています。町長の支援を受けて最近町の中心部に何本かの木を植えたところ、大きな注目を集めました。
第8ステップ:基本的技能の再習得を促進しよう
もしも気候変動やピーク・オイルという状況に対して、エネルギー消費の削減とともに地域のリローカリゼーションを進めようとすれば、私たちの祖父母の時代には当たり前であった多くの技術が必要となります。トランジション・イニシアチブがもっとも役に立てることのひとつは、これらの技術を再び身につけられるような場や機会を提供することで、過去40年間にわたって続いてきた「技術の喪失」の流れを逆転させることです。
この際、地域に住むお年寄りに話を聞くことで大きな示唆を得ることができます。というのも、彼らは現在のような「使い捨て社会」が定着する以前の生活を知っており、エネルギー消費の低い社会がどのようなものかを理解しているからです。次のようなコースが提供できるでしょう。食料の栽培や料理、簡単な機械の修理、自然素材による住宅建設、染物、薬草の知識や処方の仕方、家庭のエネルギー効率の高め方、発酵食品の作り方など、数え上げたら切りがありません。
技能習得コースに参加してこれらの技術を身につけた人たちは、独力で問題を解決し、目に見える成果を生み出し、周りの人たちと協力する力が自分にあることに気づき、自信を深めるでしょう。また、こうして新しいことを学ぶことがいかに楽しいかということにも気づくはずです。
第9ステップ:地方行政との架け橋をつくろう
トランジション・イニシアチブがどれだけ多くの人たちを巻き込み、どれだけ多くの実践的なプロジェクトを立ち上げ、さらにどれだけすばらしいEDAPを作成したとしても、地元の行政機関と良好かつ有意義な関係を築くことができなければ、あまり多くの変化を期待することはできないでしょう。計画の承認や資金提供、有力者の紹介など、彼らに協力してもらわなければならないことはたくさんあります。彼らが意外にも協力的であることに驚くかもしれません。
トットネスでは、町が作成した現行の地域開発計画に沿った形式で、独自のエネルギー消費削減行動計画の草案を作成しようと目下検討中です。もしかしたら近い将来、開発担当者たちは今までどおりの地域開発計画書と、斬新なEDAPという2つの書類を見比べながら議論をする日が来るかもしれません。そして、このまま原油価格が天井知らずの高騰を続ければ、後者の方こそ実は彼らが直面する危機に対処し得る計画であることに気づくはずです。そうなれば、EDAPが机の真ん中に置かれ、もう1つの地域開発計画書は知らないうちにゴミ箱の中に納まっているかもしれません。
第10ステップ:お年寄りを大切にしよう
安い石油に支えられた豊かな生活が最高潮に達した1960年代以降に生まれた人たちにとって、石油消費量を削減した生活を想像するのは容易ではありません。1970年代に二度あった石油ショックの時を除けば、石油消費が右肩上がりで増えていく中で育ってきたからです。
低エネルギー消費社会というのがいったいどのような社会なのかを一からイメージするためには、特に1930年から1960年の間、つまり世の中が「安い石油の時代」に移行しつつあった時期を実際に体験した世代の人たちから話を聞くのがもっとも有効です。
もちろん、それを行う目的は時代を逆行させたいからでも、はるか昔に回帰したいからでもないことは言うまでもありません。ただ、その昔その地域で物事がどのように行われていたのか、社会を構成する様々な要素が水面下で互いにどのように結び付いていたのか、そして日常生活がどのように維持されていたのかなど、過去から学ぶべきことは大いにあります。こうしたことを知れば深く啓発されるだけでなく、トランジション・イニシアチブを展開する地域に対する愛着も大いに増すことでしょう。
第11ステップ:流れに任せよう
仮にトランジション・イニシアチブを始める時にそれがどのように展開するか明確なイメージを持っていたとしても、その通りの展開になることはまずありません。自らのビジョンにあくまでもこだわろうとすれば、かえって無駄なエネルギーを費やし、身動きが取れなくなる恐れがあります。自分たちの役割はすべてのことに対する答えを見出すことではなく、地域の人たちが自分たちの力で変化を起こすための触媒となることなのです。
地域のレジリエンスを高め、カーボン・フットプリントを減らすというこの運動の主な目的につねに照準を合わせることさえできれば、地域の人たちに内在する集団的な叡智が実践的かつ実行可能で、創意工夫に満ちた解決策を生み出すのをきっと目にすることでしょう。
第12ステップ:EDAPを作成しよう
ここまで各ワーキング・グループは、それぞれの担当するテーマに関連して、地域のレジリエンスを高め、カーボン・フットプリントを減らす上で具体的に何ができるかについて検討してきました。
そして、それらをすべて合算したものがその地域のEDAPを形づくるのです。この計画書こそ、ピーク・オイルおよび気候変動という潜在的な脅威に対し、その地域の人たちが自分たちの集団的な叡智をフルに活用して描いた未来像なのです。
EDAPを作成するプロセスは決して簡単ではありません。何がうまくいき、何がうまくいかないか、試行錯誤しながら少しずつ進化していくものだからです。
以下にトランジション・ネットワークとして提供したいことをいくつか挙げたいと思います。
1 地域資源マップの雛形
現在、そして将来にわたってその地域にどのような資源が存在し、どのような資源が必要となるかについて、ひと目で見てわかるような資料をつくることは現実的なEDAPを作成する上での鍵となります。トランジション・ネットワークでは現在、そのような地域資源マップの雛形を作成中です。
2 タイム・テーブル
気候変動を専門とする科学者や生態学者、それにエネルギー関係のアナリストやいわゆる「グリーンな」経済学者たちとともに、どのような時間軸を念頭に置いてEDAPを作成すればよいかを示す全体的なタイム・テーブルを開発中です。
3 レジリエンス指標
レジリエンス指標とは、そのシステムや地域が外部からの影響に対してどれほど持ちこたえることができるかを測るためのものです。
これまでカーボン・フットプリントの削減を測る指標としては、二酸化炭素の排出量しかありませんでした。しかしながら、炭素の排出をいくら減らしても、その間にその地域のレジリエンスを高めることができなければ、気候変動とピーク・オイルという2つの問題に同時に取り組む上では不十分と言わざるを得ません。
では、どうしたらある特定の地域においてレジリエンスが高まっていると判断することができるのでしょうか?
レジリエンス指標には、以下のようなものが考えられます。 · 地元で生産される食料の割合 · 地元で流通する通貨に占める地域通貨の割合 · 地元の人が所有するビジネスの割合 · 地元で働く人たちの通勤距離の平均 · 地元に住み、地域外で働く人たちの通勤距離の平均 · 地元で供給されるエネルギーの割合 · 地元で使用される建材のうち、再生可能な素材の割合 · 地元で消費される生活必需品のうち、地元、または一定の圏内で生産されたものの割合 · 地元から出るコンポストが可能なゴミのうち、実際にコンポスト化されている割合
これらの中にはどの地域でも使える指標もありますが、多くの地域特有の指標がEDAPを作成する過程で明らかになってくるはずです。トランジション・ネットワークでは、どこでも使える一般的なレジリエンス指標を一式まとめて提案すべく、現在知恵を絞っているところです。
EDAPについて
トランジション・イニシアチブに取り組む地域の中には、EDAPを「計画書」と呼ばずに、「道筋」と呼んだり、「ビジョン」と呼んだりしているところもあります。それぞれの地域で一番良いと思われる名前を付けてかまいません。
とどのつまり、EDAPとはとても魅力的で面白く、何が何でもそこに住みたくなってしまうような地域の未来像を描いたものであり、それを実現する過程に参加しなければそこで生活している意味がないと感じてもらえるようなものである必要があります。
EDAPの作成にあたっては、以下のようなステップが考えられます(完成形ではなく、これまでの試行錯誤から作成された暫定版であることをご了承ください)。
1 地域資源マップの作成:各ワーキング・グループが担当しているテーマに関連したその地域のデータを収集します。耕作可能な土地、交通・運輸手段の選択肢、医療サービス、再生可能なエネルギー源、繊維の生産能力、調達可能な建材などがその例です。この作業はワーキング・グループの活動初期の段階ですでに実施されている場合もあるでしょう。 * トランジション・ネットワークはデータ収集用の雛形を提供する予定です。
2 15〜20年後のビジョン作成:もしもこの先、劇的に二酸化炭素の排出量および非再生可能なエネルギーの使用量を減らし、さらに生活のあらゆる側面においてレジリエンスを順調に高めることができたとしたら、今から15〜20年後にその地域はどのような姿になっているかを考えます。 * トランジション・ネットワークはこのビジョン作成に役立つようなレジリエンス指標を提供する予定です。
3 ビジョンから「今日」までをさかのぼるタイムラインを作成:2で作成したビジョンを実現するために、そのビジョンから今日までをさかのぼって、いつまでにどんなマイルストーン(里程標)、前提条件、行動およびプロセスを達成ないし整備しておく必要があるかを時間軸に沿ってリストアップします。ここでもレジリエンス指標が役立つでしょう。 * トランジション・ネットワークは上記のプロセスをサポートするために、英国における全体的なトランジション・タイムラインを提供する予定です。
4 地方自治体から地域のコミュニティ・プランや外部機関との提携戦略などを入手:各地方自治体が作成するこれらの計画には、EDAPを作成する際に考慮しなければならない諸要素(時間軸を含む)が盛り込まれている可能性があります。
5 トランジション物語の作成:上記のことと並行して、トランジション物語の作成を担当するワーキング・グループがその地域の未来像およびそこに至るまでの方法や出来事などをイメージしやすくするための記事や物語、写真などを作成します。
6 EDAPの初稿を作成:全体計画とトランジション物語を調和のとれた形で一つにまとめ、内部・外部の人たちに配って意見やアドバイスをもらいます。
7 EDAPの最終版を作成:6でもらったフィードバックにもとづいてEDAPを修正します。現実的には、この文書(もし文書にするとしたらの話ですが)は決して完成することはなく、状況が変化したり新しいアイデアが出てきたりした時には随時更新され、増強されるべきものととらえた方がいいでしょう。
このEDAPを作成するプロセスはまさに「生き物」ですから、いくつかのトランジション・イニシアチブが実際にこのステップまで至らないと、上に挙げたことがどれくらい現実に即したものになるかはわかりません。
トランジション・ネットワークではこのプロセスをサポートするための計画をいくつか立てており、その中には一般的なレジリエンス指標一式や食・エネルギー・気候を始めとした基本的要素を網羅する全体的なタイムラインを提供することも含まれています。
トランジションの12ステップに関するビデオ映像
2007年5月に開催されたトランジション・ネットワーク会議においてロブ・ホプキンスが12ステップについて話をした時の映像がユーチューブに掲載されています。以下のリンクからアクセスすることができます。 http://www.youtube.com/results?search_query=rob+hopkins+twelve+steps
なお、上記アドレスからtwelve stepsを除いてアクセスすると、他にもルイスという町でトランジション・イニシアチブを実践しているエイドリアン・キャンベルがロブに様々な角度からインタビューした映像を見ることができます。
[1] 人間の活動から発生するCO2が環境に与える負荷 [2] 来たるショックの日にパニックを起こすことなく、また対症療法的な手法でとりあえず場をしのぐのではなく、しなやかに外界の変化に対応しながら、もともと備わっていた力を取り戻すこと [3] 地域単位で主導的な役割を果たすグループおよびその活動 [4] グローバリゼーションに対して各地域の持っている能力を有効に機能させていく動き
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