監督:ルキノ・ヴィスコンティ
出演:ジャンカルロ・ジャンニーニ、ラウラ・アントネッリ、ジェニファー・オニール
私の大好きなヴィスコンティの遺作。この映画は見逃していたのでどうしても見たかったのだ。
目も眩むばかりの豪奢な衣装や調度品。特に、部屋の内装の繊細な彫刻や食器類には感動
を覚える。19世紀末のローマの優雅な貴族社会を舞台にしたドラマは、エロティックだが辛口
である。
貴族のトゥリオは無神論者で、享楽的な生活を送っている。美しい愛人(ジェニファー・オニール)
がいて、その存在を妻ジュリアーナ(ラウラ・アントネッリ)にも隠さない。しかし、貞淑だったはず
の妻は、トゥリオの弟に紹介された有名作家ダルボリオの子を宿していたことを告白する。ジュリ
アーナは子供を産むと言い張る。なぜかトゥリオの、妻に対する情熱がよみがえる。ダルボリオ
は旅先で熱病にかかり死ぬが、クリスマスを前に、ジュリアーナは子供を産む。子供の存在に
苦しむトゥリオは赤ん坊を寒風にさらし・・。
テーマは不倫であるが、中でも、夫トゥリオの、妻の裏切りを知って高まる狂おしい情熱と苦しみ
にスポットが当てられている。無神論者でふわふわと貴族社会の中で暮らしていた男性が妻の
不倫に深く傷つき悩み、自滅する。それに対して、女は本当に強い。子供を守ろうという本能が
強く現れている。官能的な愛人にしても、毅然とした女性であり、妻のことばかり気にしている
彼を、もはや受け止めることはできない。
ずっとあとの作品になるのだが、どことなく「鳩の翼」を思わせる展開である。死んでしまった人
間に、生きている人間はかなわないのだ。トゥリオは死ぬまで、妻の中に存在するダルボリオ、
そして子供の幻影におびえて生きなければならないのだ。それに耐えられなくなった彼が選ん
だ道は、破滅だった。
監督:カーチャ・フォン・ガルニエ
出演:ヤスミン・タバタバイ、ニコレッテ・クライビッツ、カーチャ・リーマン、ユッタ・ホフマン
面白い映画に、理屈はいらないと思う。この映画は、文句無く「面白かった」「良かった」と言える
作品。欠点はたくさんある。そんな馬鹿な、ということの連続だ。だけど、映画の楽しさ、音楽の
心を揺さぶる魔力、パワーを感じさせ、それぞれのキャラクターの生き様には感動してしまう。
刑務所で知り合った4人の女囚がバンドを組む。警察のパーティに呼ばれた彼女たちは、看守の
侮辱に耐えかねて脱走する。刑務所にいる間にレコード会社に送ったデモテープがラジオにかか
り、彼女たちは契約をモノにする。いつしか、彼女たちのバンド「バンディッツ」のCDは大ヒットし、
彼女たちがライブハウスで人質を取った報道映像がプロモーションビデオのようにテレビで連日流
れる。しかし有名になればなるほど、逃亡はしづらくなり、ついに警察に追いつめられた4人。その
時、彼女たちを結ぶ絆はさらに堅いものとなる。
逃亡する囚人がメディアの力でスターになるという発想は面白いし、MTV感覚で演奏シーンを随
所に盛り込んでスタイリッシュな映像に仕上げていくセンスも素晴らしい。でも、一番大きいのは、
やはりキャラクターの魅力。リーダー格ルナ(ヤスミン・タバタバイ)のタフさ、元ジャズミュージシャ
ンであるエマ(カーチャ・リーマン)の格好良さ、結婚詐欺師エンジェル(ニコレッテ・クラビッツ)の
かわいら しさ、最年長、夫殺しのマリー(ユッタ・ホフマン)の愛情深さ。女だけのロックバンドとい
うと、それだけで ちょっとバカにされがちだが、女らしさを押しつける男どもをはねのけて自由を
求める姿は文句無しにかっこよく、気持ちいい。脱獄に成功して好きな音楽を演奏し、逃亡生活
を送る彼女たちの姿は実に生き生きとしている。もちろん、本職ミュージシャンであるヤスミン・タ
バタナイの手による音楽も、いい。港の高層ビルの屋上での演奏シーン、集まった観衆に飛び込
む所などは本当にしびれてしまう。
橋の上でのクライマックスには思わず涙ぐんでしまった。若くなく、必ずしも美しくもなくても、女は
こんなにも輝くことができるんだ、と 感動。ライブハウスで人質にとられたツーリスト役のヴェルナ
ー・シュライヤーはブラピの線を細くした感じの美形で、注目しようと思う。
監督:中原 俊
出演:小林 薫、風吹 ジュン、林 泰文、浜丘 麻矢
同窓会でめぐり会った中年男女の不倫、と言うとあまり美しいものとは思えない気がする。でも、
この映画の恋は、まるでファンタジーのように、端正に描かれている。多くの部分を、小林薫、風
吹ジュンという、芸達者でしかも誰から見てもいい男、いい女である役者を起用したところに負っ
ている。このふたり無くしては、この映画は成立しない。
地方都市で平凡ながらもそれなりに平和でしあわせな生活を送っていた浦山。真面目を絵に描
いたような彼が、中学の同窓会で、30年ぶりに直子に出会う。彼はすっかり忘れていたが、直子
はずっと彼のことを思い続けていた。今は夫と別れコキーユというスナックを営んでいる彼女。
「コキーユ」とはフランス語で「貝殻」のこと。卒業する前のプレゼント交換で偶然浦山からのプレ
ゼントである「耳に当てると、波の音がする貝殻」を大切にとっておき、店の名前もそれにちなんで
つけたのだった。
積極的な彼女に戸惑いながらも、コキーユに通い詰める浦山。ふたりは昔話を通して少しずつ
親しくなる。浦山はこの地方都市での工場勤務から、東京営業所への異動が決まった。ふたり
の恋は、ひとつの決断を迫られていた。
小林薫の真面目なサラリーマンぶりがせつないながらも、どことなくおかしくていい味を出してい
る。そんな彼のとまどい。東京の新任地を視察しに行くという口実で、直子と山登りに出かけると
きの見慣れないスーツ姿。もう少し、この不倫の恋に対するとまどいが深く描かれていたら、きっと
もっとせつない映画になっていただろう。直子は、30年前の中学時代の出来事を本当に細かく
覚えていた。一般的に、それだけ覚えているものだろうかとも思ってしまうのだが(わたしは全部
忘れた)、風吹ジュンがそれを演じると、可愛い女として映ってしまうから不思議だ。直子はどう
考えても幸せな人生を送ったとは思えないのに、そんな不幸な女性に見えないというのも、風吹
ジュンの魅力に負うところが大きいのだろう。
ジャン・コクトーの詩「私の耳は貝の殻」と卒業前のプレゼントだった貝殻、そして、店の名前。
だけど、浦山は片耳が不自由で中学の卒業式の日直子の告白を聞くことができなかった、という
具合に貝殻が、愛情のメタファーとして使われている。そして、終わり近く、直子が大切にしてい
た貝殻を見たときに、涙腺がゆるむ仕掛けとなっている。直子の少女時代、そして直子の娘役を
演じた浜丘麻矢が、芯の強い美少女ぶりを発揮している。想い出というのはどこまでも美しく見え
るようになっている。
男性にとっては、まるで夢のような話だ。日常の生活では、とても異性との出会いは望めない。
そこで、同窓会で出会った美しい女性。自分のことを愛してくれていて、でも、結局家庭のある
彼の立場を思い、身を引いてくれる。彼の家庭は壊れず、一見何事もなかったようだ。ということ
で女性の側から見ればけっこう都合のいい話ではある。同窓会で始まったこの映画は、次の
同窓会で終わる。そのときの浦山の慟哭の深さを見るにつけて、やはり恋というのは、何も痕を
残さずに過ぎ去るものではないのだ、と思った。
監督:ブライアン・ヘルゲランド
出演:メル・ギブソン、マリア・ベロ、ジェイムズ・コバーン、クリス・クリストファーソン、
デボラ・カーラ・アンガー
メル・ギブソン演じるポーターは泥棒として名を馳せた男だった。しかしながらチャイニーズ・マフ
ィアから奪った14万ドルのうちの取り分7万ドルと妻を、相棒のヴァルに横取りされ、瀕死の重
傷を負う。5ヶ月後傷から立ち直った彼は、7万ドルを取り戻すべく戻ってくる。彼の味方は組織
の一員でもある娼婦ロージー(マリア・ベロ)と彼女の飼い犬だけ。組織にとってははした金であ
る7万ドルを取り戻すため(そして自分のプライドを取り戻すため)にひとり、命がけで立ち向かう
戦いが始まった。
話の筋としてとても単純な話なのだが、出てくるキャラクターにクセがあってなかなか楽しめる。
彼をとりまく様々な敵−裏切り者のヴァル、妻、チャイニーズマフィアやその構成員でもあるSM
嬢、汚職警官やタクシー会社の社長、そして組織の大物たち。特にジェームズ・コバーン演じる
フェアファックスやクリス・クリストファーソンの大ボスは飄々としていて味がある悪役ぶりだ。一
人一人のキャラクターが丁寧に描かれているので、単純なアクション映画では終わらない。(ア
クション1本で押し通すにはメル・ギブソンも少々年をとりすぎた感じもするし)
「たったの」7万ドルに対するポーターのしつこいまでの執念とアウトローぶりにはどこかユーモ
ラスな面も感じられる。それに、犬に「ポーター」と、彼と同じ名前を付けてしまう娼婦はいじらし
いし、中国系のSM嬢はなかなか笑わせる。という具合に楽しめる要素を盛り込みつつも、彼
のすさまじい執念が生み出すタフさが魅力的に映る作品だ。
監督:F・ゲイリー・グレイ
出演:サミュエル・L・ジャクソン、ケビン・スペイシー、デビッド・モース、J・T・ウォルシュ
サミュエル・L・ジャクソン、ケビン・スペイシーといえば当代きっての実力派、個性派俳優である。
このふたりがまさに火花を散らすぶつかり合いを演じて、魅力を存分に発揮。見事な出来映え
となっている作品だ。2時間20分、息をつく暇もないほどのテンションの高さ。自信を持って人
に勧められる映画だ。
ダニー・ローマン(サミュエル・L・ジャクソン)はシカゴ警察きっての実力を誇る人質交渉人だ。
ところが、彼の相棒ネイサンが何者かに殺され、警察の障害年金基金から大金が盗まれてい
た。そして、状況証拠はダニーにとっては不利なものばかり。絶体絶命の危機に陥った彼は、
無実を晴らし真犯人を突き止めるために、警察の査問委員会室に立てこもり人質を取る。さら
に、交渉役として、隣の地区の交渉人セイビアン(ケビン・スペイシー)を指名する。ともに仕事
をしていた同僚たちから犯人扱いされ白い目で見られていたダニーは、もはや誰も信用するこ
とができず、ほとんど面識のないセイビアンを指名したのだった。もちろん、これはダニーの作
戦でもある。
大ピンチに陥ったダニーは、自分の身を守るため、一世一代のとてつもない賭けに出て大胆
きわまりない行動をとる。しかしながら、交渉人として人質の心理状況や、警察が取るであろう
行動を逐一知り尽くしているため、はらはらさせながらも鮮やかな手口を取る。どんなに命知ら
ずの行動に見えても、それは高い知能と緻密な計算に基づいているのだった。どんな犠牲を払
おうとも守らなくてはならない自分の名誉と命。死力を尽くす彼の行動にはしびれてしまう。大
胆なダニーに対し、交渉を行うセイビアンは沈着冷静な男だ。5年間死傷者ゼロを誇る我慢強
い性格の彼は、しきりに突撃をしたがる警官たちを抑え、堂々とダニーと渡り合う。面識がほと
んどなく、まったく違う性格のふたりの交渉人。ダニーはどこまでセイビアンを信用していいの
かわからない。セイビアンは本当にダニーが犯人でないかどうか、確信が持てない。あくまでも
人命第一のセイビアンに対し、しびれを切らしたFBIも介入、「現場は引っ込んでいろ」という、
まるで「踊る大捜査線」のような展開になってきそうになる。しかし、頭脳戦を繰り広げるうちに、
ふたりの交渉人には奇妙な連帯感が生まれる。そして、どんでん返しのラストへ・・・。おもわ
ず声をあげてしまう、鮮やかな幕切れが待っている。
ふたりの俳優の素晴らしさ、役のハマリ具合がこの映画の最大の魅力。ふたりとも、かっこ良
すぎる!特にクールなケビン・スペイシーは魅力的だ。このふたりのぎりぎりの攻防、そこで生
まれる男同士の連帯感、これにはしびれる。
そして交渉を邪魔するばかりの外野の存在。これがこのたぐい稀な緊張感を生み出している。
脇役も、先日亡くなってしまい、この映画が捧げられているJ.T.ウォルシュ(内務調査局員で人
質となるニーダウム役)や、LAコンフィデンシャルのエリス・ロウ役も記憶に新しいデビッド・モー
ス、ハッカーで詐欺師の男などくせ者をそろえている。
荒い点も見受けられるが、この緊張感とたたみかける展開には圧倒された。胃をキリキリさせ
られながらも、満足感いっぱいで会場を出ることができた。