ウォレスとグルミット、危機一髪! A Close Shave

このような理屈抜きに楽しい映画に論評を加えること自体、野暮なことではないかと
思いながらも書いている。これまで、このシリーズが大人気だったと言うことは知って
いたけど観る機会がなかった。でも、想像以上に楽しい作品で大満足。

クレイアニメという、想像を絶するような手間のかかる作業の作品を手作りで作ってい
るのだが、キャラクターの表情の繊細さは生身の人間をしのぐものだ。小道具なども
すべて手作りでかわいらしい。
発明家のウォレスと、彼の飼い犬でいつも新聞を読んでいる、インテリジェントなグル
ミット。グルミットは困ったような表情がとても印象的だ。この日観たのは「チーズ・
ホリデー」、「ペンギンに気をつけろ!」そして「ウォレスとグルミット、危機一髪!」だ。
チーズを食べたい一心で宇宙飛行機を発明し月に行ってしまうウォレスが自動販売機
のような生き物に追いかけられる「チーズ・ホリデー」、月の表面がチーズで覆われて
いるという突飛な発想が楽しい。下宿人のペンギンが実は悪人で、メカのズボンを使
って宝石泥棒を企てる「ペンギンに気をつけろ!」。ここでは、鉄道ミニチュアを使って
のチェイスの場面にはらはらさせられる。そして、ウォレスが始めた窓拭きの仕事先で
恋に落ちた女性と、その飼い犬が元でグルミットが刑務所に!の「危機一髪!」。
ウォレスの発明家ぶりと、羊たちを味方に付けてのチェイスが圧巻。

どの話も、30分という短い時間にぎゅっとつまった内容で、それぞれが1つの長編映
画になってもおかしくないくらいだ。ウォレスが発明する楽しい装置の数々。ちょっと
抜けているご主人様のピンチを救うグルミット。いろんなディテールが一つ一つ凝って
いて、いろんな映画にオマージュを捧げていて、おたく心をくすぐる、でも大人にも子供
にも受ける楽しさのつまった映画だ。

 恋におちたシェイクスピア Shakespeare in Love

監督:ジョン・マッデン
出演:ジョセフ・ファインズ、グウィネス・パルトロウ、ジェフリー・ラッシュ、ジェディ・デンチ、
    トム・ウィルキンソン、ベン・アフレック、ルパート・エヴェレット、コリン・ファース

シェイクスピア、エリザベス女王という実在の人物を借りながらも、全くのフィクション
で名作「ロミオとジュリエット」の誕生秘話を綴った映画。フィクションならではの遊び
心が随所で見られて楽しい作品になっている。しかも、落としどころは非常に巧みで
うならされてしまう。

劇場「ローズ座」のオーナーであるヘンズロー(ジェフリー・ラッシュ)は、借金取り(ト
ム・ウィルキンソン)に追われている。一発逆転のチャンスとして、新進の劇作家ウィ
ル・シェイクスピア(ジョセフ・ファインズ)にコメディの戯曲を依頼する。しかし、シェイク
スピアはスランプに陥っていてなかなか書けない。そんな彼の前に裕福な商人の娘
ヴァイオラ(グウィネス・パルトロウ)が現れる。女性が舞台に立つことが許されない時
代に、芝居好きの彼女は男装して現れ、この戯曲の主役ロミオの座を射止める。男
装の彼女を追いかけたシェイクスピアはヴァイオラを舞踏会で見かけ、たちまちふた
りは恋に落ちる。ヴァイオラをインスピレーションの源とし、シェイクスピアの筆も進み
戯曲「ロミオとジュリエット」は完成へと向かう。
しかしながら、ヴァイオラには、エリザベス女王(ジュディ・デンチ)も認めた婚約者ウ
ェセックス卿(コリン・ファース)がいたのだ。結ばれない運命のふたりの恋は燃え上
がる。

とても時代劇とは思えない、軽やかで若々しい、スピーディな演出の映画。恋の炎が
燃え上がっていくドキドキとする感じがよく伝わってくる。ちょっとベッドインするのは早い
気がするけど・・・。シェイクスピアとヴァイオラの恋が、「ロミオとジュリエット」の劇に
オーバーラップしていく様子には舌を巻いてしまう。わたしはかつて演劇をちょっとだけ
やっていたのだが、バックステージの緊張感漂う様子には懐かしいものを感じてしまっ
た。登場人物のキャラクターも面白い。エネルギッシュで情熱的なシェイクスピアには、
これまで持っていた先入観を覆された。「なるようになるさ」が口癖のヘンズローのとぼ
けた味わい、非情な借金取りが劇に小さな役をもらったことで演劇の楽しさに取り憑か
れていく様子は面白い。そして、出色なのはエリザベス女王のジュディ・デンチ。登場
場面はわずかながら、威厳がありかつ毒のあるユーモアのセンスと機知を持ち合わせ
ていて強烈な印象を残す。この時代に、こんなに進歩的な感覚を女王が持っていたと
は嘘なんだろうけど楽しい。
グウィネス・パルトロウは正直言って嫌いな女優なのだが、この映画では、変な顔が
あまり目立たない。特に男装姿は似合っているし自立心がありながらも可愛いキャラ
クターになっている。

しかし、私にとってちょっと不幸だったのは、この映画がオスカーをあれだけ独占して
しまっていたという事実だ。どうしても、「オスカーを取るということは?」という目で見て
しまう。で、私の見解としては「監督賞と衣装デザイン賞、助演女優賞は取って当然
(監督賞はスピルバーグが持っていったが)だけど、そのほかの賞はどうかな?」と
いうものだ。現実と虚構がオーバーラップし、楽しくて洒落ていて大変良くできた映画
として感心はするのだけど、感動できる映画ではないのだ。わたしは感動する映画の
ほうが好きなので・・・。あと、脚本賞を取っているけど、意外とこの脚本は良くできて
いるようで欠点がある。登場人物があまりにも多く、スピーディな演出もあいまって
前半は人間関係を理解するのに苦労した。登場人物の名前も覚えきれないのだ。
ちょっと物語が端折り過ぎなのだ。グウィネス・パルトロウはこの映画では、これまで
の硬さが取れていて魅力的ではあるけど、まだまだ深みが足りない。やっぱり「セン
トラル・ステーション」のフェルナンダ・モンテネグロのほうに軍配を上げたい。

というふうにけなしてしまったけど、いい映画であることは間違いない。衣装、美術は
本当に素晴らしい。また、エリザベス朝時代の庶民の暮らしや、演劇会の華やかさ
も生き生きと描かれているし、エンターテインメントとしては一級品だ。

 ファイアーライト Firelight

監督・脚本:ウィリアム・ニコルソン
出演:ソフィー・マルソー、スティーブン・ディレイン

イギリス南部の厳しくも美しい自然の中で、端正に描かれる恋愛ドラマ。主人公エリザ
ベスの家庭教師という職業からも、「ジェーン・エア」など一連のブロンテ姉妹の作品を
思わせる部分がある。

19世紀のイギリス。スイス人の家庭教師エリザベスは父親の借金を返すため、見ず
知らずの貴族と契約を結び、三夜をともにして彼の子供を身ごもる。フランス、ノルマン
ディで3日間を過ごすうちに、彼とうち解けてきた彼女だったが、二度と会うべきでない
関係として別れた。そして翌年生まれた女の子は契約通り、すぐに彼の元へ渡された。
しかし、7年後、生まれてすぐ別れた娘のことを忘れられないエリザベスはついに彼女
の居場所を突き止め、娘ルイザの家庭教師となる。

この死んだように沈んだ家では、新婚間もないときに妻が事故で植物人間となり、どう
しても世継ぎが欲しかった父親のチャールズは代理母を使うことにしたのだった。妻の
妹コニーが10年以上家を守ってきた。彼女の出現に動揺し最初は追い払おうとした父
親チャールズは、厳しくも深い愛情を持ってわがままに育った娘に接するエリザベスを
見て1ヶ月の猶予期間を与えることにする。父親に甘やかされ、手につけられないよう
なわがままな娘で、何人もの家庭教師にひどい仕打ちをしてきたルイザも、少しずつエ
リザベスに馴染んでくる。

ソフィ・マルソーという女優の魅力が存分に発揮された作品だ。男性に自由を奪われる
ことを嫌って、家庭教師という専門職に就き、貧しくても強く誇り高く生きる女性を好演
している。一瞬かたくなに見えるが、ラブシーンのときの美しい表情や、自然と接する
ときの生き生きとした様子は見事だ。普段は抑えていた感情が奔流のように噴き出る
ときの情熱。19世紀という閉鎖的な時代にあって、娘に自立して生きて欲しいという願
いをこめて教育するところは素敵だと思った。

題名の「ファイアーライト」とは、暖炉の火のこと。エリザベスがチャールズと3日間、ノル
マンディのホテルで愛し合ったときの暖炉の灯。ルイザにエリザベスは言う。「ランプを消
して暖炉の光だけになったときには、時が止まる。何でもできる。何でも言える。ランプ
がつくとすべては動きだし、言ったことも、したこともすべて忘れられる」と。暖炉の灯りを
前にエリザベスとルイザは親しくなり、またチャールズとエリザベスの愛も燃え始める。
それとは対照的に、冷たく澄んでため息が出るほど美しいのが、外の風景。イギリス
特有の曇り空が映る、湖のそばのクラシックな離れは想像を絶するほどの美。しばしば
ルイザはそこでひとりになる。暖炉の温かさと外の凛とした自然はそのまま、エリザベ
スを象徴しているかのようだ。

静かに燃え始めたふたりの愛だったが、障害は大きかった。10年間眠り続けている
チャールズの妻エイミー。10年間をチャールズに捧げてきたコニーは彼を密かに愛して
いる。身分や世間体、土地に縛られてきたチャールズが、エリザベスとの出会いで
変わっていく。そして、「願望」にここまでの力があるとは!ルイザもいつしか、母親と
同じように誇り高く賢い少女に育っていた。

いくら妻が植物人間とはいっても、不倫の関係ではある。障害がいくつもあっても意外
と簡単に乗り越えられてしまうのが少し物足りない。善良な人間として描かれる妻の
妹コニーは、実はチャールズと結ばれるためにエイミーの死を願っていたくらいで、そ
の気持ちは痛いほどわかるのだが、この辺の感情の描写も意外とあっさりとしている。
でも、地味な題材の割には退屈せず見られる美しい恋愛映画だ。

フェアリーテール Fairy Tale A True Story

監督:チャールズ・スターリッジ
出演:フロレンス・ハース、エリザベス・アール、ハーヴェイ・カイテル、ピーター・オトゥール

妖精を信じる少女たちのファンタジー、と聞くといささか少女趣味的なものをイメ
ージしてしまう。だけど、美しくファンタスティックな中にも、時代背景の悲しさや
大人の社会の皮肉な面も描かれていて、大人にこそ見て欲しい、そんな作品
に仕上がっている。
そして、この話は、実話に基づいている。

第1次世界大戦のさなかのイギリス。
9歳の少女フランシスは、フランス戦線に赴いた父が行方不明になり、アフリカ
から、兵士たちと一緒の電車に乗り、ヨークシャーの伯父アーサー・ライトの家に
身を寄せる。
伯父の家には、妻のポリーと12歳のエルシーが住んでいたが、息子ジョセフ
を亡くしたポーリーは沈んだままだった。少女たちは仲良くなり、ふたりは近くの
緑にあふれた小川で遊ぶ。妖精を信じるフランシスが、偶然妖精を見かけ、そ
してエルシーの目にも妖精が見えるようになる。ポリーを元気づけるためにふた
りはアーサーのカメラで妖精を撮影する。ポリーは妖精の写真に驚き、神智学
者ガードナーに渡すと、ガードナーは作家のコナン・ドイルに写真を見せ、ガー
ドナーの友人で人気マジシャンのフーディニと3人でヨークシャーのライト家を訪
れる。少女たちはまた撮影に成功し、コナン・ドイルは妖精の写真を雑誌に掲
載する。そして妖精の写真と記事は大反響を呼んだ。
ライト家のある小さな村や妖精を見つけた場所は突き止められてしまい、妖精を
捕まえようとする人々が大勢押し掛ける。少女たちも、妖精の存在を疑う新聞記
者に追いかけ回される。しかし、妖精たちは、ふたりに一つの奇跡をもたらした・・・。

まずは、少女たちが住むヨークシャーの村の風景の美しさに見とれてしまう。中
でも妖精たちが現れた小川の風景は、なるほど、妖精が出てもおかしくないと思
えるほどのファンタスティックな場所。エルシーの亡き兄ジョセフが作った妖精の
家に妖精たちが入る場面は神秘的で素敵だ。ふたりの少女たちも、コットンの
素朴だけどかわいい服に身を包み、愛らしいことこの上ない。特に元気の良い
フランシスの美少女ぶりは相当なものである。(ちなみに、エリザベス・アール
は「エバー・アフター」では、ドリュー・バリモアの少女時代を演じていた)

戦争中で人々の心は深く傷ついている。フランシスも父親が行方不明になり、
毎日郵便局員が郵便物を届けに来るのを待っている。戦争が直接原因ではな
いけど、エルシーも、エルシーの両親も、ジョセフの死に傷ついている。この映
画が観る者の心を動かす理由のひとつは、傷ついた者への優しい視線、という
のがあると思う。
わたしの好きなエピソードは、フランシスがヨークシャーに向かう途中の電車の
中で、顔が半分潰れてしまった伍長とあやとり遊びをし、後に新聞記者にふた
りの少女が追いかけ回されたときに、伍長が現れてふたりを助けるところだ。妖
精の話がここまで大きな反響を呼んだのも、戦争で傷つき殺伐とした人々の心
を、この話が癒してくれ夢を与えてくれたからだ。ハーヴェイ・カイテルが演じる
マジシャンのフーディニがインタビューされて答える言葉「人の悲しみを利用して
儲けようとする連中を許すわけにはいきません。でも、この子たちには愛と喜び
がある」が、この映画のすべてを語っているような気がする。マジックという「だま
し」を生業にしているフーディニだからこそ言えた言葉なのだろう。(ハーヴェイ・
カイテル、胡散くさそうで、でも温かくて好き!)
そう、本当に妖精が存在するかどうかは二の次で、妖精は信じた者には見える
わけだし、そして、信じることは、思わぬ奇跡を呼ぶのである。そして、夢は、他
にもいろんなものを人に与えてくれるのだ。わたしたちも、夢は大切にしなけれ
ばならないとしみじみ思ったのだった。

レッド・ヴァイオリン The Red Violin

監督:フランソワ・ジラール
出演:サミュエル・L・ジャクソン、ジェイソン・フレミング、グレタ・スカッキ、
   シルビア・チャン

この映画は、人間というよりは、ヴァイオリンが主役である。ヴァイオリンは心を
持ち、4世紀もの長きにわたり、多くの国を旅しては、美しい音色で人々を魅了
していく。このヴァイオリンに魅せられた者は、破滅していく。ヴァイオリンは魂、
そして美の不滅を象徴する存在である。実際、切り落とされた木は、その時点で
命を終えるのではなく永遠に生き続けるのだという。

伝説の名器「レッド・ヴァイオリン」は1681年にイタリアで生まれた。ヴァイオリ
ン職人ニコロ・ブソッティの妻アンナは臨月を迎え、家政婦チェスカにタロットで
運命を占ってもらう。しかし、実際に占われたのは、アンナやお腹の子供の運命
ではなく、ニコロが製作していたヴァイオリンの運命だった。5枚のカードは、この
ヴァイオリンが旅した5つの時代、5つの国での出来事を表現していたのだった。
アンナはお産の最中に亡くなり、子供も死産だった。ニコロは妻への想いを込め
てヴァイオリンに最後のニス塗りを施した。ヴァイオリンは血のように赤い色に仕
上がった。

ヴァイオリンはチェスカの予言したとおり、長い旅をする。オーストリアの修道院で孤
児たちの間で受け継がれ、一人の天才少年カスパーの手に渡る。音楽家ブッサン
に見出されたカスパーは練習に励むが、ヴァイオリンを抱いて寝るほど惹きつけら
れていて、ついに悲劇が起こった。カスパーと埋葬されたヴァイオリンはやがてジ
プシーたちの間で受け継がれる。19世紀のイギリス、領地に現れたジプシーの娘
が弾くヴァイオリンに音に魅せられた演奏家フレデリック・ポープはそれを譲り受け
小説家の恋人ヴィクトリアとの愛欲におぼれながら、創作意欲を燃やす。彼もヴァイ
オリンに魅せられたことで、破滅する。そしてヴァイオリンは中国に渡り、文化大革
命の時代となる。西欧文化が弾圧されたこの時代、ヴァイオリンも危機を迎えるが、
共産党幹部シャン・ペイから音楽教師ユアンに譲られ、生き延びることが出来た。

そして、現代。モントリオールにて、ユアンのコレクションはオークションにかけられる
ことになった。ヴァイオリンの鑑定家であるモリッツがニューヨークから呼ばれる。
オークションに集まったのは、オーストリアの修道院の代理人、シャン・ペイの息子
ミン、ポープ・財団の代表者、高名な音楽家など。しかし、ヴァイオリンを鑑定し、
分析していくうちに、モリッツも激しくこのヴァイオリンに魅せられていくのだった・・。

主人公であるヴァイオリンはまさに、魔物である。ニコロ・ブソッティによって吹き込
まれたアンナの命が、ヴァイオリンの中で息づいている。ニコロの、アンナへの不滅
の愛が、このヴァイオリンにもこんなにも長い旅をさせたのだった。そして、それに
惹きつけられた人々の魂をも吸い取って、さらに輝きを増すのである。

5つの時代が短いながらも丁寧に描写されていて魅惑的である。エピソードが5つ
ありながらも、ヴァイオリンの魂という一本芯が通っているのでちぐはぐな印象は受
けない。
オープニングのほの暗く、製作途中のヴァイオリンがぶら下がるブソッティの工房。
神童カスパー役のクリストフ・コンツェは実際に才能のあるヴァイオリニストで、指使
いと表情が凄まじい。
ヴァイオリンが修道院の孤児たちやジプシーたちに受け継がれていく様子は、まっ
たく同じ構図で、同じヴァイオリンを中心に、それを弾く人だけが入れ替わっていく
という絶妙の演出で描かれている。貴族でもあるヴァイオリニスト、フレデリックの美
しい屋敷の中で、ヴァイオリンを手にしながら快楽に溺れる彼のデカタントな姿には
酔いしれてしまう。まるでヴィスコンティの映画のようである。

中国の文化大革命のくだりが最も恐ろしかった。外国の文化を否定することの愚か
さはまるでナチズムだ。まだ少女のような紅衛兵が、自分の父親の年代である音
楽教師を激しく糾弾し、彼のヴァイオリンを焼き捨てさせるのだ。シャン・ペイがこっ
そりとヴァイオリンを弾いた姿を目撃した幼い息子ミンの無表情も怖かった。思想を
無批判に叩き込むことは魂の否定であり、そしてヴァイオリンを否定することは、そ
の中に息づく魂を否定することにつながるのだ。

ヴァイオリンに魅せられていくプロセスとしては、モリッツの描写が一番具体的で
わかりやすい。彼は現代の科学をもってヴァイオリンを分析し、修復していくうちに、
この魔性のヴァイオリンに秘められた秘密を知り、離れられなくなるのである。科学
でさえも、美の前ではひれ伏すのである。
オークションで、レッド・ヴァイオリンの長い旅は終わったことになるのだが、しかし、
これから先も「彼女」は終わりのない旅を続けることを予感させる。

時代は移り変わり、世界の果てまで旅を続けても、魂、美、そして愛は永遠に不滅
であることを物語る、印象深い映画だ。

もちろん、音楽も素晴らしい。カスパーやフレデリックの実演奏はジョシュア・ベルが
担当、フレデリックの指使いも、「二人羽織」状態で吹き替えたとのこと。官能的で
狂気を感じさせる美しさだ。