監督:マリア・リポル
出演:ダグラス・ヘンシャル、リナ・ヒーディ、ペネロペ・クルス
もしあのとき、こうしていれば、こんなことにはならなかったのに・・。誰でも一度でも
こう思ったことがあるに違いない。その「もしも」という人生のやり直しを本当にやって
見せたのが、この映画。
売れない役者のヴィクターは、別れた恋人シルヴィアのことが忘れられず、結婚式
まであと2日の彼女につきまとっては、嫌がられている。仕事もからきしうまくいかず
未練ばかり。こんなことになったのも、8ヶ月前、カーニバルの日に、シルヴィアに浮
気を告白してしまったから。そのことが悔やんでも悔やみきれない。バーで優しい女
性バーテンダーに愚痴をこぼし、酔いつぶれた彼はゴミ収集人たちに不思議なゴミ
処理場に連れていかれ、そして気がついたらあのカーニバルの日に連れ戻されてい
た。もう一度、やり直すために。
しかし、人生というのは皮肉なものだ。「あのとき、もしも・・・」と思って正しい選択を
心がけようとしても、必ずしも思惑通りに行かないもの、それが人生なのだ。
二度とあの過ちを繰り返さないようにと、ヴィクターは浮気のことはシルヴィアに隠し
通し、シルヴィアのことを気遣って優しく接する。仕事も順調で、一見ふたりはうまく
行っていたようだった。が、シルヴィアは優しく豹変したヴィクターに戸惑い、スポーツ
ジムで友人アリソンが知り合った男性デイヴィッドと接近する。実はこのデイヴィッド
こそ、もともとの人生でシルヴィアが結婚する予定だった男性だったのだ。
シルヴィアがデイヴィッドとスポーツクラブで出会うという未来を知っていたヴィクター
はこの出会いを阻止しようと、苦手なジョッギングまで付き合い、シルヴィアのピチピ
チのウェアを借りてまでがんばるが、徒労に終わってしまったのだった。そして、最
初の人生とは逆の出来事、シルヴィアが浮気を告白してふたりの関係はまたしても
終わってしまう。
ヴィクターも最初の人生で酔いつぶれたバーに行き、そこででスペイン人の美しいバ
ーテンダー、ルイーザに出会って幸せをつかむ。さらに、俳優としても順調に成功して
いく。しかし、シルヴィアも、ヴィクターも、お互い別れた相手を忘れられない。この気
持ちにどうやって決着をつけるのか。
人間とは、愚かな生き物だ。だけど、愚かなゆえ、かけがえもなくいとおしい存在で
ある。そんな人間への、優しい視線が伺える映画だ。ヴィクターはどう考えてもダメ
人間だ。ハンサムなわけでもないし、女性にだらしない。別れた彼女に未練たっぷり
でつきまとっている。酔っぱらって、こんなダメ人間の俺はゴミだ、と泣きわめきゴミ
収集人にゴミ捨て場に連れて行かれる。だけど、このゴミ処理場はただのゴミ捨て
場ではなかった。そこで、奇跡が起こったのである。このファンタスティックな味付けが
なかなか良い。連れて行かれるのが、カーニバルの喧噪というのも象徴的でうまい。
ヴィクターが酔いつぶれるバーで出会う人たちも素敵。
対するシルヴィアは美人で、心理学者というインテリ女性だが、潔癖性なのに、やっ
ぱりヴィクターのことが気になる、というかわいいところがある。ラストシーンのふたり
には、思わず身につまされて泣けてくる。そして、最後のオチが、とても洒落ている。
そのへんにいるような等身大の恋人たちの、それでもすれ違ってしまう心がリアルで、
胸がきゅんとしてしまう映画だ。リアルなのにファンタスティックなのがいい感じ。
監督:カリーヌ・アドラー
出演:サマンザ・モートン、クレア・ラシュブルック、スチュワート・タウンゼント、リタ・トゥシンハム
兄弟、姉妹で育っていくと、母親の愛情が、自分ではないもうひとりの兄弟に注がれて
いて、自分は愛されていないのではないかと思うことがある。わたしも、子供の頃は、
優等生で真面目、性格の良い弟のほうが断然母親に愛されているのではないかと
思い、深く悩んだことがあった。
19歳のアイリスは母親を深く愛しているが、同時に、母親の愛情は姉のローズにより
深く注ぎ込まれているものだと思っている。ローズはキャリアウーマンであるとともに、
幸せな結婚生活を送り、妊娠中である。それに対して、アイリスは歌手志望ではあるが
ふらふらした生活を送っていて、姉に劣等感を持っていた。そんな矢先、母はあっけなく
ガンで亡くなってしまう。母の死で、精神のバランスを崩すアイリス。母の形見である毛
皮のコートと、金髪のカツラを身につけ、夜な夜な男あさりを始める。同棲していた恋人
ゲアリーにも別れを告げ、娼婦のような格好をしてバーで知り合った男たちに体をあずけ
る。しかし、当然のことながら心は満たされず、傷つくばかり。友人にも去られるばかりか、
恋人まで奪われる。母が亡くなってから1ヶ月の間で、母、恋人、友人、お金とほとんど
全てを失ってしまったアイリス。そして、姉の指に、母親の形見である大切な指輪を発
見してしまって荒れたアイリスは、寂しさのあまり姉の夫までも誘惑してしまうのだった。
ボロボロになった彼女は、どうやって救われるのだろうか?
観ていて、本当に痛くてたまらない映画。母親の愛情を求める小さな子供のようなアイ
リスは、母の死によって、どれだけ彼女を愛していたかを思い知らされる。だけど、もう
母はもうこの世にはいないし、母は姉のほうを愛していた。それでも母を求めるアイリス
には、遺失物保管所にあった忘れ物の携帯電話からの声も母の声に聞こえるし、その
姿すら見えてしまう。求めても求めても決して得られない愛情に渇き、自分を決して愛し
てくれるはずもない、ゆきずりの男性と関係を持ち、ひどい目に遭わされ、まわりの人間
にも去られることでさらに傷つく。観ている側も、つらくなってきてしまう。私自身はこんな
行動に出たことはないけれど、でも気持ちは痛いほどわかるのだ。思春期の揺れ動く
不安定な気持ちと、愛を求めてやまないその姿はいとおしい。荒れた生活を送るように
なっても、アイリスの部屋はいつも花でいっぱい。花を愛し、花の名前を娘たちにつけた
母親を想っているからだ。
親と子、姉と妹の関係から生まれた問題は、これらの関係の修復によって解決するしか
ない。形見の指輪、そして母親の遺灰をめぐる姉妹間の確執が解決されたとき、アイリ
スの心は癒されるのだった。姉だって、本当に母に愛されていたかどうか不安を感じて
いたし、妊娠して太ってしまった体を気にしていた。アイリスと同じような悩みを抱えてい
たのだった。ラスト近く、歌手志望の割には下手くそな「アローン・アゲイン」をライブハウ
スで歌うアイリス。こんなにもさみしそうな「アローン・アゲイン」を聴くのは初めてだが、
彼女の心が少しずつ開き始めた兆しとして感じられ、うれしくなった。
ショートヘアがかわいらしいサマンサ・モートンが、自慰シーンなどハードな演技をしな
がらも、不安定に揺れ動き、さみしさに打ち震える若い女の子を見事に演じている。
監督:デビッド・ドプキン
出演:ホアキン・フェニックス、ヴィンス・ヴォーン、ジャニーヌ・ギャラファロ、ジョージナ・ケイツ
モンタナ州の田舎町。クレイは目の前にで友人に自殺されてしまう。クレイがその男の
妻と不倫関係にあるのを苦にしての自殺だった。しかも、クレイの銃を使って。殺人容
疑が自分に降りかかるのを恐れたクレイは、自殺した男の妻アマンダに証言を頼むが
断られてしまったため、死体を車もろとも炎上させて証拠を隠滅する。セクシーな性悪
女アマンダにつきまとわれたクレイは、彼女にガールフレンドを殺されるが、弱みを握
られているため警察に届けることもできず、ガールフレンドの死体を湖に沈める。そんな
ピンチのときに、クレイは流れ者のカウボーイ、レスターと知り合う。レスターは一見
ナイスガイでふたりは親しくなるが、実はレスターは連続殺人鬼だった。しかも、ただの
人殺しではなく、異常に友達思いの殺人者なのだが、レスターが犯した数々の殺人の
容疑者としてクレイは疑われてしまう。
アメリカの小さな田舎町でのっぴきならない、不条理な災難に巻き込まれるという話は
どこか、オリバー・ストーン監督の「Uターン」を思わせる。クレイが犯した間違いは不倫
だけだったはずなのに、気の弱さから彼を取り巻くシチュエーションはどんどん悪くなっ
てしまい洒落にならない状態にまで追い込まれてしまう。不倫の相手も悪かった。アマ
ンダは自分の不倫が原因で夫に自殺されても涙の一滴も流さず、派手な格好をして
バーで男をあさるし、クレイにはストーカーのようにつきまとってガールフレンドまで殺し
てしまうというとんでもない女。そして、さらに上手を行くのがレスター。声が大きくて
かなり鬱陶しい存在ではあるが、とりあえずはナイスガイに見える。友達思いではある
のだが、そもそも自分から「俺たちは友達だろ?」ってすり寄ってくるヤツというのは、
胡散臭いと相場は決まっている。そして、女ストーカーのアマンダを、「友達の」クレイ
のために惨殺したり、クレイの無実を証明するために、クレイの友人の女の子を殺そう
とまでするという異常な男だ。「友達思い」とはいっても、こんな人に友達にはなってほ
しくない。レスターにふりまわされっぱなしのクレイにはかなりイライラさせられる。
全体的にオフビートな感覚を狙った作品。田舎町であるから、殺人事件が相次いで、
みんなクレイに関係した人間ばかりであるからして、真っ先にクレイが疑われてしかる
べきなのに「彼はいいやつだから」といってFBIに乗り込まれるまで何もしない警察。
それどころか、殺人現場に野次馬となって見学しようとする市議会議員までいる。
FBIの女捜査官(ジャニーヌ・ギャラファロ)もどこかとぼけている。カントリー・ミュージ
ックで味を付けてみたりいろいろやっているのだけど、でも、基本的には陰惨な事件
が続いているので、狙いほどは笑えない。ひとりも殺していないのに、連続殺人事件
の犯人にされてしまっては、笑っている場合ではないもんな。終わり方は意外と後味
が良かったのだが、どうしてレスターはそこまで友達思いなのかは謎だ。
監督:すみません、パンフレットになぜか書いていません(・・;)
出演:チャウ・シンチー(周星施)、カレン・モク、ン・マンタ、ナム・キッイン
かの「西遊記」をベースにした伝奇ロマン風の物語。しかしながら香港のコメディ王
チャウ・シンチー主演ということで、単なる歴史ものとしては終わらない。ナンセンス
ギャグ満載の、一粒で何倍も楽しめる映画となっている。
悪さをした孫悟空の身代わりとなり、三蔵法師は命を差し出した。そして孫悟空は
もう一度チャンスを与えられるために500年後の世界に転生した。
500年後、五嶽山を根城にする盗賊団のもとにサーロンという美しい女性が現れた。
足の裏に三つの痣のある男を捜しているという。盗賊たちでは歯が立たないほど
強い彼女を盗賊団のリーダーであるチンポウはやっつけようとするが、サーロンの妹
ジンジンに一目惚れしてしまう。サーロンの正体は蜘蛛の妖怪で、三蔵法師を食べて
不老不死になろうと、法師の弟子である孫悟空を捜し求めていた。また、ジンジンは
実は白骨の精の妖怪で、結婚の約束をしながら裏切った孫悟空を捜し求めて殺そうと
していたのだった。そして、ジンジンは、チンポウこそが孫悟空だと信じてしまう。さら
に、憎んでいたはずの孫悟空の生まれ変わりと信じるチンポウと恋におちてしまうの
だった。
500年もの時を経た悲しい恋のゆくえと輪廻転生がテーマにはなっている。でも、
チャウ・シンチーの、二枚目のルックスからは想像できない下品で体当たりのギャグ
で大笑いさせられる場面が多い。妖怪と間違えられて盗賊団の仲間にパンツに火を
つけられたり、盗賊たちが妖怪から姿を消すための護符を下着のように身につけて
集まる間抜けな場面は大爆笑。ジンジンを救うために何度も同じ時を巻き戻すチンポ
ウ。オリジナリティに富んでいてアナーキーなギャグと、切ないラブロマンスが同時に
成立しているところはさすが香港映画。西遊記がベースになっているので親しみやす
く、時代劇としてもアクションも盛りだくさんでかつ美しくロマンティックな場面が満載と
楽しい。
なお、この映画に出てくるカレン・モクとン・マンタは「食神」でもチャウ・シンチーと共演
している。ここでは可憐で儚げな妖怪ジンジンを演じているカレン・モクが、「食神」で
はブスな屋台の女主人を演じているから、役柄的にギャップが激しいすぎる。すごい
女優だと思った。
これほどまでに有名な作品なのに、実は見たことがなかった。でも香港映画好き
としては、見ていないというのはちょっと情けなかったので、ようやく義務を果たし
た気分。
今回は、本編の前に、この作品を含む3作品の予告編までおまけとして上映。こ
れがまたみんな英語のナレーション付きなのだが、思わず笑ってしまうものばか
り。予告なのにとっても長いけど、飽きないで楽しめた。
それにしても、やっぱりブルース・リーのアクションはすごすぎるの一言。少林寺
での先輩武術家で、今は悪の道に走ったハンという富豪が所有する島でカンフ
ー大会が開催され、妹の敵でもあるハンに復讐するためにブルース・リーが島に
乗り込むというストーリーだ。
当然ながらたくさんカンフー使いが出てくるし、他のふたりのメーンキャラクターも
それなりにアクションができる人なのだが、なにしろブルース・リーは桁違いだ。
まっすぐに打ち込まれるキックのスピードと破壊力は他の追随を許さない。鍛え
上げられた肉体、そして敵を見るときの鋭い、なんとも言えない視線。やっぱり特
別な存在だったんだなと思ってしまう。拷問機具をコレクションしたり、義手に恐ろ
しい武器を取りつけたりする敵役ハンの異常性、変態性は遺憾無く発揮されてい
てインパクトがある。そして、クライマックスの鏡の間での戦いは、さすが映画史
上に残る名シーンだけある。静と動を見事に使い分け、鮮やかな幕切れへと運
んでいく。
クライマックスでは緊張で胃はキリキリし、しびれてしまう。公開時、世界中の子
供たちに「アチョー」という奇声やヌンチャクが大流行したというのもうなずける。
自分だって子供だったら、ブルース・リーになったつもりでヌンチャク振り回したい
もんね。
鏡の使い方や鳩の飛ばしかたは「フェイス/オフ」も参考にしていたし、師の「考
えるな、感じるんだ」という台詞は「スターウォーズ/ファントム・メナス」でもリー
アム・ニーソンがアナキンに話した言葉でもある。ブルース・リーが島に船で乗り
込むシーンは「食神」で周星馳が料理決戦に臨む場面に引用されていた。という
ことで、その後の映画に与えた影響が計り知れないということがよくわかる作品
である。