監督:シェカール・カプール
出演:ケイト・ブランシェット、ジョセフ・ファインズ、ジェフリー・ラッシュ、リチャード・アッテンボロー、
クリストファー・エクルストン、ファニー・アルダン、ヴァンサン・カッセル
16世紀イギリス。ヘンリー8世が亡くなり、旧教派の長女メアリーが女王の座に就
く。そして、ダドリー卿との恋愛に夢中の妹、21歳のうら若きエリザベスは新教派と
いうことで反逆者の烙印を押され、ロンドン塔に幽閉され死の恐怖と隣り合わせとな
る。エリザベス25歳の時、メアリーが亡くなりエリザベスはイギリスの女王となる。
しかしながら、バチカンの後ろ盾を得ている旧教派は彼女の命を狙い、また近隣諸
国も不穏な動きを見せる。側近は結婚を勧めるが、エリザベスはある決意を行うの
だった。
歴史物だと思うと構えてしまうけれど、純粋に楽しめる娯楽映画である。さすがイン
ド人の監督だけあって、マサラムービー的な要素がふんだんに見られる。ロンド ン
塔や生首、火あぶりなどおどろおどろしいところは徹底的におどろおどろしく、荒涼と
した雰囲気。 踊りのシーン(時代物にしては踊りが多いのはいかにもインド映画的)
は華やかだしラブシーンは色っぽいしメリハリがついていてわかりやす い。いい人
はいかにもいい人そうだし、悪い人はみんな悪役顔。バチカンはヒロインの邪魔をす
る邪悪な存在である。華麗な恋愛、セックスとスキャンダル、陰謀、死と隣合わせの
世界はスリリングで見る者からするとたまらない魅力がある。毒入りのドレスまで登
場するのだから、面白すぎる!難を言えば何しろマサラムービーなのに3時間の上
映時間ではなかったので細かいところまでは描けていないということぐらいか(笑)
でも、その辺は、必ずしも史実にこだわらず、物語の展開をギュッと濃縮して大胆に
単純化していることで解決している。
演技陣も素晴らしい。なんといっても、ケイト・ブランシェットの変化はすごい。キャピ
キャピの小娘が、白塗りの化け物じみた神にまでなってしまうのだから。彼女の目
線の強さは半端ではない。エリザベスという世間知らずの乙女が、殺されそうになっ
たり、恋によろめきながらものし上がって行き、政敵を始末し、イギリスを世界でも最
も強い国に育てていくという立身出世の物語。この物語に強烈な説得力を持たせて
いるのが、ケイト・ブランシェットの演技と存在感だ。強い意志を感じさせながらもイノ
セント、色気もあるけど清らかだ。うら若く可愛らしい少女が、いつの間にか表情を失
い、鉄の意思を持つ「ヴァージン・クイーン」となっていく、権力の持つ恐ろしい力をも
見せつけてくれる素晴らしい演技だ。
ジェフリー・ラッシュの嫌らしい顔は、いかにも腹黒くていやなヤツにうってつけ。メア
リー・オブ・ギース役のファニー・アルダンもさすがにおフランスの女王様という感じの
存在感がある。女装癖のあるアンジュー公のヴァンサン・カッセ ルの濃い演技には
大笑い。女王の失脚を狙うノーウォーク公を演じるクリストファー・エクルストンも、悪の
魅力を存分に発揮している。キャラクターも、みんなそれぞれ単純化されているけど、
強烈な個性が与えられているのだ。
時代劇でありながら、なんだかとってもモダンでスリリングでわかりやすく、楽しい映
画に仕上がっている。暗そうだからって敬遠しないで見て欲しい。
監督:ツァイ・ミンリャン
出演:ヤン・クイメイ、リー・カンション、ミャオ・テイエン
2000年まであと7日。人々があたり構わずゴミを捨てることから、「ゴキブリ病」と
いうウィルス性の病気が蔓延している。この病気に感染すると、明かりを極端に恐れ、
ゴキブリのように暗がりを求めて下水溝やベッドの下などに隠れたりするようになる。
政府は汚染された地域の住民に立ち退きを要求し、2000年1月1日には水道の
供給も止めることを宣言した。バケツをひっくり返したような雨が毎日降っている。
この地域の古い集合住宅に住む男の部屋に水道工事屋がやってくるが、結局男の
部屋の床に穴を空けただけで帰っていった。この男の部屋の下の階に住む女の部
屋は、水漏れがひどくて水浸し。壁紙も剥がれてしまっている。女は大量のティッシ
ュペーパーを買い置きしている。不安感にむしばまれる世紀末の風景だ。
やがて、この穴(Hole)を通して、上の階と下の階の男女の生活の気配が流れてくる。
前作の「河」もそうだが、ツァイ・ミンリャンの映画に出てくる登場人物は孤独だ。この
映画でも、男の友達は、客のほとんど来ない彼の店にいる猫だけ。女も、時々電話
で人と話すくらいで、他人の気配は希薄だ。その上、極端に台詞は少なく、カメラも
多くの場合固定されていて、延々回り続けるだけ。都会に住む人間の、ひりひりする
ような孤独感が伝わってくる。女の部屋はまるで池のように水浸しになり、しまいに
彼女はゴキブリ病にかかってしまう。病気になっても誰も頼る人間もなく、どうしようも
なくなってひとり泣き叫ぶ姿は見ていても激しく胸をかきむしられるようだ。
しかし、この映画は暗い映画ではない。「希望」を描いているのだ。閉塞感の感じら
れる、湿り気のある孤独感のあふれる画面の後には、唐突に画面が一変する。華や
かでセクシーな衣裳をまとい、女が身をくねらせながら往年のスター、ゲレース・チャ
ンの歌に合わせて踊る夢のシーンだ。それもこの古びた集合住宅のエレベーターの
中や廊下といった、およそミュージカルにはふさわしくないところで。50年代の古め
かしい流行歌と派手な衣裳やメイクはどこかキッチュでファッショナブルとはほど遠い
けど、とても素敵な場面である。最初は女は一人で歌い踊るが、そのうちダンサーも
登場し、やがて男も一緒に踊り出す。
ツァイ・ミンリャンの映画は、カメラが動かず、台詞が少なく淡々とした描写のため、
人によっては眠気を催してしまう物だった。しかしながら、今回はちょうど退屈してき
た時を見計らったかのようにミュージカルのシーンが挿入される。このタイミングが、
実に巧みだ。モノトーンの暗い日常の閉塞感を際だたせる、この意味のない明るさ、
楽しさ。
この映画では、踊りのシーン以外では、男と女が同じ画面に収まる場面は一つしか
ない。会話にしても、水漏れについて以外の会話はない。お互いが相手をどう思って
いるのかなんて描写もない。でも、このミュージカルの場面と、最後のシーンで二人
の気持ちが通じ合っていることが巧みに描かれている。
男の部屋と女の部屋の間にある穴は、ふたりのつながりの象徴である。
最初、男はこの穴に嘔吐し、吐瀉物が女の部屋に落ちてくる。穴から出てきたゴキブ
リを見て、女は穴に向かい殺虫剤を噴射し、男は穴に蓋をする。女も穴にガムテープ
を張って塞ごうとするが、男が水を上から流して穴は再び開通する。最初は、穴は「汚
れ」の象徴であった。しかしながら、男はやがて穴のまわりを掃除し、穴を大きくして穴
から男は足を差し込んでみたりする。少しずつ、少しずつ男は階下の女に関心を持ち
始め、女は自分の夢に男を登場させて一緒に踊る。
ラスト、ゴキブリ病にかかって泣き叫ぶ女に向かってさしのべられた、コップを持つ手。
そして穴から出てきた手に女は引き上げられ、上の階で男と踊るのだった。奇跡のよ
うな、素敵なハッピーエンディング。これまで、物が穴から下の階に落下し、水は上の
階から漏れてきたという、上から下の動きばかりだったのが、最後に穴から上に女が
引き上げられるというのは、上昇するという意味が込められているのだろうか。
床に開いた穴を通じて、孤独な都会人が癒されていき、恋をして花開くという、希望を
感じさせる不思議で面白い作品だ。
監督・脚本:デビッド・リーランド
出演:キャサリン・マコーマック、レイチェル・ワイズ、アンナ・フリエル、スティーブン・マッキントッシュ
第2次世界大戦。戦場に行ってしまった男性の働き手の代わりに、若い女性たちが
農場でボランティアとして働きに出ることを奨励された。農業促進婦人会、「ランド・ガ
ールズ」として。
海軍士官の婚約者がいるステラ、ケンブリッジ卒のインテリだけど奥手で26歳の今
も処女というアグ、そして美容師で奔放なブルー。この3人の女性たちは、ローレンス
家の農場に配属された。空軍に配属される予定という一人息子ジョーの代わりの働き
手として。時代が違えば出会うことのなかった3人は、慣れない農作業を通じて、友情
の絆を深めていく。そして、ジョーは、この農場を飛び出して、パイロットになることを
夢見ていた。
映画の最初のほうは、3人の娘たちのうち誰がヒロインなのかがわかりにくい。この
3人の中では、レイチェル・ワイズが一番なじみ深いので、彼女かと思ったけれども
様子が違う。農場にドイツ軍機が墜落する顛末で、ようやくステラがヒロインである
ということに気がついた。もう少し早い段階でそれがわかるようにしたほうが良かった
ような気がする。
戦争の時代を背景にしている物語だが、戦争そのものは直接的には描かれない。
ローレンス家の主人は、彼女たちに作業を手伝ってもらうことは戦争を思い起こさせる
といって抵抗を示す。農場と、それを取り巻く自然は果てしなく美しい。この美しい草
原を、食料のために耕すように役所に言われ、彼は同意できない。この美しさゆえ、
彼はここに暮らすことを選んだのだったから。しかし、ステラは野原を耕してしまう。そ
の彼女にローレンス氏が言った一言が印象深い。「この野原の春を見せたかった」。
この映画でも、美しい野原の春を見せて欲しかった。
3人の娘たちは、この時代にあっても、恋のことばかり考えている。いち早くジョーを
誘惑してベッドインするプルー。軍のパーティで知り合った将校が戻ってくるまで独身
を誓ったアグは、ジョーと「予行演習」する。ジョーはジョーで、婚約者がいながら軍の
パーティでナンパして殴られステラにたしなめられたり、娘たちとの情事を楽しむ。しか
し、この暗い時代、恋にうつつをぬかしたりしなければ、やってられなかったというのは
良くわかる。暗い時代を生き抜くため、精一杯輝いた女性たちの物語なのだ。
恋に彩られながらも、残酷な時代である。プルーは軍人と結婚するが、その翌日、彼
の戦死の知らせを受ける。風呂でプルーの背中をだまって流すことでしか、ステラや
アグは彼女を慰めることができない。ジョーは心臓の疾患のため、空軍への入隊を
拒否され、パイロットへの夢を断たれる。夜の静けさを破って聞こえる空襲の音。農場
に墜落するドイツ空軍機。空軍機からステラを守らなければ、とジョーは駈けだして、
二人はお互いを愛していることを知る。ステラの婚約者が戦争で負傷したという知らせ
を受け、彼女は病院に向かう。婚約を解消する話をして、必ず戻ってくるとジョーに約束
して。ジョーは来る日も来る日も駅で待ち続ける。でも、彼女は帰ってこなかった。戦い
での負傷で両脚を失ってしまった婚約者を見捨てることができなかったのだ。戦争が、
市井の人々の小さな幸せを無惨に壊していく。
戦争という時代を背景にしながらも、暗い描写はなるべく控え、若い女性たちのみずみ
ずしさを前面に出しているけれども、戦争が彼らに落とした影も巧みに織り込まれてい
る。ふだんの生活が生き生きしているからこそ、何か悲劇が起こったときの悲しみがよ
り深く伝わってくるのだ。こんなに美しい自然があって、戦争があったとしてもこの自然
は変わることがない。食糧のために美しい野原を耕さなくてはならないけれども、戦争
が終わって何年か経てば、きっと元通りの深い緑に覆われることだろう。でも、戦争で
受けた心の傷だけは癒えることがないのだ。
反面、恋愛面の描写の浅さと、ラストの甘さはちょっと気になる。前述したように、最初
のうちヒロインが誰なのかわからないのと、ジョーとステラがどうして愛し合うようになっ
たのかが十分描かれていない。ジョーは女性がほうっておかないタイプの男性なのは
よくわかるけど。そんな彼が、戦争が終わり婚約者と幸せな家庭を築いた後でも、「今
でも僕はあの駅で待っているよ」と言ったのに、ステラは泣きそうになりながらもただ微
笑むだけなんて。