監督:アンディ・テナント
出演:ドリュー・バリモア、アンジェリカ・ヒューストン、ジャンヌ・モロー
かの有名なシンデレラの物語を下敷きにしながらも、決しておとぎ話の中だけでは
終わらない、力強い人物像を描いている作品。
ジャンヌ・モロー演じる老貴婦人のもとへ、グリム兄弟が訪れ、彼女が彼らに曾祖母
の物語を語り始めるところから、映画は始まる。
そう、物語の主人公となる女性、ダニエルは、継母と意地悪なその娘にいじめられ、
召使いとしてこき使われている。だけど、彼女は決してかわいそうな存在ではない。
父親の形見である本を愛して知性にすぐれ、使用人たちと仲が良くて思いやりがあり、
男の子と一緒に木登りをしたり、森の中を駆け回るおてんばな娘だ。泥棒と間違えて
フランスの皇太子にリンゴを投げつけて捕らえたりする。そして、継母に税金のかたに
売り飛ばされた使用人を取り戻すために貴婦人の扮装をして皇太子と堂々と渡り合い
彼のハートまでつかんでしまう。だけど、彼女は皇太子の愛を求めていたわけではな
いし決して媚びない。Noと思うことはキッパリNoと答える。生き生きとしていてとても
魅力的なキャラクターだ。ピンチになっても、彼女なら決して負けないだろうと思わせる。
演じているドリュー・バリモアがとてもいい。かわいいけど正義感が強く、おてんばだ
けど賢く、現代的だけど純粋な娘というキャラクターにはまっている。意地悪な継母の
アンジェリカ・ヒューストンも悪役を楽しそうに演じているし、キューピッド役のレオナル
ド・ダ・ビンチもいい味を出している。この二人のコミカルな演技はなかなか楽しい。
派手な長女の影に隠れ、密かにダニエルを応援する次女の復讐も気持ちよい。継母
がダニエルを売り飛ばそうとした先の不気味な男は、なんとあのリチャード・オブライ
エン(ロッキー・ホラーショー)だった。というわけで、脇役もユニークでいい味付けに
なっているのだが、肝心の王子様がいまいち。もともとモラトリアム人間という設定
なのだが、それに加え、オイオイ、そんなことくらいでダニエルを見捨てるとは何て
つまんない男だ、と思ってしまった。彼女との出会いでなんにも学んでいないんじゃ
ないかって。皇太子とはいえ、こんな男のどこがいいんだろうか。それがちょっとこの
作品の傷になっている。
フランスでロケをしたという古城や森と湖の美しい風景、豪華な仮面舞踏会や婚礼
など、なかなか目の保養にもなって楽しめる映画だった。レオナルド・ダ・ビンチが
描いたという設定のダニエルの肖像画も物憂い感じでいい。端正な中にも、ところ
どころユーモアやアイロニーのスパイスが利いている映画だ。
監督:パトリス・シュロー
出演:ジャン・ルイ・トランティニャン、シャルル・ベルリング、ヴァンサン・ペレーズ
シルヴァン・ジャック、パスカル・グレゴリー
画家の男ジャン・バチストが「愛する者よ、列車に乗れ」という遺言を残してこの世
を去った。彼が埋葬される地リモージュに向けて、彼の一族、そして彼を愛した男
たちが列車で向かう。彼の恋人の一人で、駅で見かけた美青年ブリュノに一目惚
れしたジャーナリストのルイ、その彼の恋人フランソワ、ジャン・バチストの甥ジャン
=マリと別居中の妻クレール、ジャン・バチストの最後の恋人でもあったブリュノ、
とそれぞれの人々が2日間の旅程の中でドラマを繰り広げる。そしてリモージュで
の葬儀のあと、ジャン・バチストの双子の弟である靴の工場長リュシアン、そしてジ
ャン・バチストの絵の弟子であった女装の美女ヴィヴィアンヌも加えて複雑な人間関
係の葛藤が展開する。
この物語の主役はまぎれもなくジャン・バチストだが、彼はこの世になく、彼自身が
登場するのは、ジャーナリストが録音したインタビューのテープと、時折挿入される
カットのみ。どんな人であったかも十分伺い知ることはできない。彼を愛した人々の
証言、葛藤、争いを通して人となりが表現する。フランシス・ベーコンに憧れ、暴力
的な表現を好みながらも実際にはそのような作品は残せなかった彼。しかし、死し
てなお、まわりの人間には強烈な影響を与え続ける。一種のカリスマというわけだ
った。
ブリュノはかつてはフランソワの恋人であったが、HIVに感染している。しかしながら
フランソワはいまでも彼を愛している。ブリュノをめぐる二人の恋人たちの葛藤はせ
つない。対して、ジャン=バチストの弟子であった頃はれっきとした男なのに、今や
乳房とペニスをも併せ持つ性転換者となったヴィヴィアンヌは優しくクレールを勇気
づける。
流れるようなカメラワークは美しいが、登場人物、エピソードが多いため把握に苦労
した。かなり難解な作品だ。ラストのジャン=バチストの眠る墓地を俯瞰した画面が
爽快だった。選曲のセンスはとても良いがちょっと音楽がうるさすぎる嫌いもある。
ヴァンサン・ペレーズの妙に色っぽくかわいい女装姿、そしてブリュノを演じた新人
シルヴァン・ジャックのあどけない美しさが印象的。
監督:森田芳光
出演:鈴木京香、堤 真一、杉浦直樹、吉田日出子、希木樹林、岸部一徳
刑法三十九条とは、「心神喪失者の行為はこれを罰せず、心身耗弱者の行為はその
刑を減軽する」という法律である。戦前から制定された法律であるため、原文はカタカナ
表記だ。近年の酒鬼薔薇事件や、幼女連続殺害事件では、被疑者が心神喪失を主張
して無罪に持ち込もうとした。中でも、後者は、心神喪失者であるという詐病を用いたと
して知られている。自分の愛する者が、このような者によって命を奪われ、しかも犯人は
この刑法の規定によって処罰されないとしたら、どう思うだろうか?
若い劇団員の柴田(堤真一)は、身重の女性とその夫を惨殺したとして逮捕された。
彼は強く死刑に処せられることを望んでいた。精神鑑定の結果、彼は多重人格者と判
定される。殺人を犯した人格は、彼とは違う者だとされたのだ。しかしながら、鑑定人の
助手である香深(鈴木京香、カフカとは、なんという名前だろうか)は、柴田は詐病を用い
ているのではないかと疑い、彼の心の奥底に踏み入ろうとする。そして、映し出されて
いくのは、香深、そして柴田の暗くて悲しい過去だった。
登場する人物はみなクセがあるどころか、明らかに変人のたぐいが多い。毎晩大量の
食事を作って香深を待っている母親(吉田日出子)、いつでもクチャクチャと不快な音を
立てながらガムを噛みニヤニヤしている刑事(岸部一徳)、妙なしゃべり方をし、背中を
丸めている精神鑑定の教授(杉浦直樹)。銀残しの効果を使った画面、不安定に揺れ
時には短いカットで切り替わるカメラとともに、神経を逆なでする。ずっと不安さを観る者
に持たせ、精神をいらつかせるような映画だ。
出てくる風景も、一部を除いて灰色で、殺風景で、貧しい。洋画を観たあとでこのような
映画を観ると、日本という国の貧しさをよりいっそう感じてしまう。経済的には発展してい
ても、人の心をないがしろにし、戦前から変わらぬ法律を維持し続けている日本人の心
象風景が、あの寒々とした画面に現れているような気がする。建物も、部屋の中も、が
らんとしていて、からっぽな感じだ。
本当に悲しい映画である。結末も、救いがない。いや、あの結末で、もしかしたら柴田は
救われたのかもしれない。それでも法律の矛盾へのやりきれなさが残る。そして柴田
の心の闇を探し当てることで自分の中の闇をも再び探り当ててしまった香深。それでも、
彼女は、心理分析官として働き続け、自分の心の中の声を聴こうとしている。
現代に生きる人の心の闇、恐ろしさを映し出している作品だ。
監督:イー・トンシン
出演:アニタ・ユン、ラウ・チンワン、カリーナ・ラウ
難病の少女との純愛物語という、ある意味で陳腐なモチーフの映画を観ているのに、どう
しようもなく泣けてしまうときがある。これは、そんな映画だ。
売れない作曲家のキット(ラウ・チンワン)は時代に迎合できず、鬱屈した毎日を送っている。
恋人、人気歌手のトレーシー(カリーナ・ラウ)ともうまくいかなくなり、彼女の部屋を出ていき、
ぼろアパートに引っ越す。引っ越し先の隣は、広東オペラを上演しながらも、生活のために
街角で歌を歌い演奏する一家。公園で野良犬に餌を与えている心優しい少女ミン(アニタ・
ユン)もこの家族の一員だった。やがてキットの部屋から流れるサックスの音に興味を持っ
たミンと彼は仲良くなる。暗い毎日を送っていた彼だが、明るく積極的な彼女に惹かれ、
そして少しずつそのかたくなな心も変わっていく。スターを夢見て、海賊版の歌手もしている
彼女のために彼は曲を書き始め、レコード会社にも紹介する。母親の反対も乗り越え、順調
に見えた二人の交際だった。が、一度治ったはずの彼女の病気、ガンが再発したのだった。
この映画のすばらしさは、なんといっても、アニタ・ユンの魅力につきる。かわいらしい外見は
もちろんのこと、貧しさ、病気にも負けず、明るく前向きでお茶目で健気、気は強いけれど、
実は繊細。そんな彼女が病気を宣告されたときの混乱した様子には思わず涙してしまう。
あれだけ前向きで強くても、これだけ苦しんでしまうのだ。ラウ・チンワンの濃い顔は、いかに
も世渡りが苦手で、不器用だけどそれだけ純粋な人であるかというのも示していて、この役
にはまっている。
前半は、何気ない描写ばかり続く。キットの音楽仲間と飲んだり、夜のお祭りで金魚を観たり
丘に登って香港の街を見下ろしたり、ふたりで食事に出かけて仲間にからかわれたり・・。あ
たりまえのような風景。そんなふたりのあたりまえのしあわせが奪われたときの、悲しみの
大きさ。これまでの平凡とも言える日常、ひとつひとつの風景が、突如としてかけがえのない、
何物にも代え難い宝物のように思えてくる。病に倒れてから映画が終わるまでの時間は短い。
あっというまに奈落に突き落とされてしまうのだが、その中でも、小さな希望を見せている。彼
に彼女が与えたものは、それだけ大きかったのだ。
幕切れの時の演出は絶妙だ。なんともいえない余韻を残している。